キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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※注意

恐らくKIBT内で最もひどい話。
途中で不快感を感じたならば、迷わず次の話に進んでください。
そのために同時更新しました。


03:黒き影の手中

           □□□

 

 

 

 レインを再び仲間に加えて攻略を再開したその日の夜、土曜日の午後六時三十分。詩乃とのデートの日を明日に控えた和人は、いつものように妹の直葉と夕食を摂っていた。

 

 普通ならば休日である土曜日であるが、和人と直葉の母である翠は現在編集中のパソコン情報誌の締切がすぐ近くまで迫ってきているため、金曜日の夜から帰って来ておらず、土曜日の朝になっても出版社に籠りきりであった。

 

 まぁ、翠が休日でも仕事に行ったまま帰ってこない、平日を休日にして家にいる事などは桐ヶ谷家の一種の当たり前であるため、翠がこの場に居なくても、和人も直葉も何一つ気にかける事など無かった。

 

 

 しかし、その当たり前の夕食の光景はSAOに和人と直葉が閉じ込められるまでの話だ。今は夕食だけではなく、昼食、朝食の時には欠かさず、スマートフォンを起動して、ユイとストレアとリランに繋げて、一緒に食事をする。

 

 前から直葉しか話し相手がいないというのを和人は少しだけ物足りなく感じていたし、何よりユイやストレアやリランも家族なのだから、一緒に食事をさせてやりたいと思っていた。

 

 なので、和人はユイとリランとストレアにちゃんとした食事の時間を決めさせて、一緒に食事をするようにしたのだった。これには直葉も翠も文句を言わず、寧ろ話し相手が、家族が増えたような気がして楽しいと言って、受け入れてくれた。

 

 

 今は食事の時は、和人、直葉、ユイ、リラン、ストレアの五人で一緒に摂るのというのが、桐ヶ谷家にとっての日常の光景となっていた。場合によってはリランとストレアが欠ける事はあるものの、基本的にこの五人で食事をするのが、休日に仮想世界にダイブしていないで家にいる時の、和人と直葉の当たり前だ。

 

 そんな当たり前がこの土曜日の夕食にも訪れていたのだが、共に夕食を食べ始めてから十数分後に、リランが突然言い出した。

 

 

《和人、頼みがある》

 

「なんだよリラン」

 

《チャンネルを変えろ。もしくはテレビ自体消せ》

 

 

 リランからの言葉に眉をしかめる和人。

 

 今、和人と直葉のいるダイニングのすぐ傍にあるテレビの電源が付いており、いつもと同じように番組が放送されている。そして、リラン達のいる仮想世界と、和人達のいる現実世界を繋げている和人のスマートフォンにはかなりの感度を持つマイクが搭載されていて、そのマイクはスマートフォンの近くの音を漏れなく拾って仮想世界に届ける力を持っていた。

 

 今、そのマイクが拾っている音の中には和人と直葉の声は勿論の事、少しだけ離れたところにある大型テレビの音や声も入っている。その音を聞いたであろうリランの抗議を耳にして、和人は眉を寄せる。

 

 

「なんだよ急に。というか、聞こえてるのかよこれ」

 

《ものすごくよく聞こえておるぞ》

 

《はいパパ、すごくよく聞こえてます》

 

《すっごくよく聞こえてるよ。キリトのスマホ、いいマイク使ってるね~》

 

 

 AI娘達全員の声に和人はスマートフォンを注視するが、直後に目の前に顔を向けることになった。直葉が和人と同じように眉を寄せて、声をかけたのだ。

 

 

「おにいちゃん、あたしも同じ事考えた。チャンネル変えよ?」

 

「……そうだな。変えようか」

 

 

 リランだけならまだしも、目の前の直葉までもが言い出したからには和人も断るわけにはいかず、頷いてテーブルの上のリモコンを手に取ると、チャンネルを変えるボタンを軽く押した。リモコンからの命令を受けた大型テレビは、その液晶に映している映像を変える。

 

 リランと直葉が変えてほしいと頼んだ番組から、少年達がアクションゲーム顔負けのアクションをして倒すべき敵と戦っているバトルアニメに切り替わったところで、和人はリモコンを置いた。

 

 

《これは……バトルアニメの音だな。変えてくれたか》

 

「あぁ。正直俺も嫌気がさしてたからな。こっちがいいな」

 

「それならもっと早く変えてよ。嫌な事いっぱい思い出しちゃったじゃない」

 

「いや、そもそも悪いのは……あんなのにチャンネルを合わせてた俺か」

 

 

 味噌汁を飲みながら文句を言ってくる直葉に、和人は溜息を吐く。

 

 つい今の今までテレビに映っていた番組は、よくあるニュース番組、夕方のワイドショーだった。だが、土曜日の夕方に放送されているワイドショーは事件や事故の話、政治の話といった如何にもニュース番組らしい話題なんかよりも、観光旅行地の紹介や、新しい便利家電グッズの紹介、ネットで配信中の便利アプリの紹介などを中心にやる形式が取られている。

 

 しかし、それはある時を境になくなり、どの番組も全く同じような事を言い出すようになり、観光旅行も家電製品の話もしなくなり、ある話だけをただひたすらに取り上げるようになった。

 

 

 しかもその頻度も月火水木金土日、全て日のワイドショーという、異常とも言えるものだ。唯一それをやってないところといえば、()()()()()()()()()()()()()()()()()て、ネットで放送されている情報番組のみだった。

 

 そしてその異常とも思えるような勢いで報道し続けている番組が、和人と直葉の近くにあるテレビにも映されていたために、直葉とリランが抗議したのだ。――その番組の事を思い出しながら、直葉が呟くように言う。

 

 

「なんか、ここのところおかしいよね。テレビはずっと、《壊り逃げ男》の事ばっかり」

 

「あぁ。彼是一ヶ月はずっと《壊り逃げ男》の話題を、国家の非常事態みたいに取り上げてるな。まぁ、そうだけど」

 

 

 ほとんどのワイドショーが取り上げ続けている話とは、《壊り逃げ男》の話だった。突然この日本社会に姿を現したサイバーテロリストの《壊り逃げ男》は、最初こそは銀行のシステムやオンラインゲームなどに不調を起こさせたりする程度しかやらなかった。

 

 しかし、次第にそれはエスカレートしていき、最終的に反社会勢力と組んでいたマスコミや政治家の不祥事、国民は知るべきでも一部の政治家達やマスコミ自身にとっては都合の悪い事を報道しなかったその姿勢ややり方などをテレビで全国放送するという暴挙に及び、報道番組を全てリセットさせ、尚且つ一部の報道機関の人間、大企業の役人や警察の上層部、内閣の人間を含めた政治家達を逮捕と総辞職に追い込み、新たな内閣を誕生させてみせたという、今や全てのマスコミと政治家と警察が恐れる存在となった。

 

 

 この《壊り逃げ男》の話を、一ヶ月ほど前から、テレビ、週刊誌、新聞、一部のネットニュースサイトといった、全てのマスコミが報じ続けている。

 

 

《《壊り逃げ男》は、もう日本社会全体の脅威って言ってもいいくらいだもんね。このくらいやっても仕方ないと思うなぁ~》

 

《だが、この頻度や内容が異常であるというのは、我でもわかるぞ。それに我らは《壊り逃げ男》に関してよい思い出などない。寧ろ嫌な事ばかり思い出す》

 

 

 ストレアの意見に答えるリランの声を聞いて、和人は頭の中で先程の《壊り逃げ男》の事を思い出しながら、直葉に言った。

 

 

「なんというかもう、支離滅裂の域に達してるな、《壊り逃げ男》の報道」

 

「うん。本当に滅茶苦茶だと思うよね。本当の事を知ってるあたし達からすれば」

 

「愛莉先生曰く、十年くらい前にもこんな事があったらしいんだけど、その時よりもひどいかもな」

 

 

 先程までの番組でも、その《壊り逃げ男》の話だったのだが、問題はその内容だった。

 

 《壊り逃げ男》の正体は日本国籍のサイバーテロリストであり、過去には海外の様々な反社会組織やテログループ、大規模過激派組織の一員であった、超過激差別主義者であり、サイバーテロリズムをいくつも実行し、その目的は日本どころか世界そのものを滅ぼす事であり、《壊り逃げ男》はまさに世界を滅ぼす事を計画している倒すべき悪魔であるという、《壊り逃げ男》の正体を知っている和人達からすれば、何かの間違いではないかとも思える、呆れてしまうような話だったのだ。

 

 合っている()()()()事といえば、《壊り逃げ男》が日本国籍のサイバーテロリストという点だけで、その他は明らかに出鱈目なのだが、それをマスコミは堂々と胸を張り、真実であるかのように言っていた。

 

 あまりにもひどいものだから、直葉もリランも、チャンネルを変えてと頼んだのだと、和人はチャンネルを変えた時に気付いた。

 

 

《《壊り逃げ男》の正体……元レクトの重鎮、須郷伸之(すごうのぶゆき)。SAOにて絶命済みで、今は別な《壊り逃げ男》が動いている。確かに日本国籍のサイバーテロリストだが、洗いざらい吐いた時には、海外サイバーテロリストグループと組んでいたなどと言っていなかったし、そのような事実は存在しない……のはずなのだが?》

 

「一体どこからそんな情報を手に入れたっていうんだ。マスコミは《壊り逃げ男》に近付けたのか?」

 

 

 そんな事はないはずだ。そもそもマスコミは毎日のように《壊り逃げ男》の事を報じてはいるものの、《壊り逃げ男》が現在どうなっているのかも知らないし、前の《壊り逃げ男》がレクトの研究者である須郷伸之だったという事さえも報道していないし、突きとめてもいない。

 

 そして何より、《壊り逃げ男》の親玉である大本の存在(ハンニバル)の名前を出した事も無い。言い出してすぐに和人は自分の言葉を心の中で否定したが、次の瞬間、スマートフォンの向こうの仮想世界から声が聞こえてきた。

 

 

《ええっ!? そ、そんな事って……!?》

 

《む、どうしたのだ、ユイ》

 

《急に大声出して、どうしたの》

 

 

 スマートフォンのスピーカーから強く聞こえてきたのは、ユイの声だった。驚きを含んだその声色に、和人も直葉も、そこへ注目する。

 

 

「お、おいユイ。どうした。何があったんだ」

 

「なんか、すごい大声出したみたいだけど」

 

《おねえさん、ストレア、ちょっとこれを……》

 

 

 ユイが小声で話してすぐに、仮想世界からの声は止まった。急な沈黙に和人と直葉も首を傾げたその時に、「なんだと!?」「そんな事って!?」というリランとストレアの声が大音量で届けられてきたものだから、驚いてびくりとした。

 

 

「お、おい何がわかったんだ、ユイ」

 

《……パパ。わたし、先程の《壊り逃げ男》に関する報道の、情報元が気になって仕方がなくて、ネットの方で探してたんです。そしたら、わかりました。先程の情報の出所が……》

 

「え? ちょっと待ってユイちゃん、さっきのはテレビ局の報道だよ? テレビ局の報道番組って、テレビ局の人達が取材で掴んだ事を報道してるんでしょ」

 

《そのはずなんですが……先程の報道番組の、《壊り逃げ男》の正体に関する話の一次ソース(じょうほうもと)は、個人が経営するブログの予想記事です》

 

 

 和人は耳を疑った。本来マスコミと呼ばれる報道機関は自らの力でありとあらゆる情報を集めるけれど、嘘で溢れている、もしくは信用に値しないネットに落ちている個人ブログの話などを拾って報道する事など無いはずだ。記者達が集めてきた信憑性のある情報を使うのが、当たり前だ。

 

 

「……待てユイ。それってどういう意味だ。今の報道の情報元が、個人ブログってどういう事だ」

 

《そのままの意味です。今の報道番組の情報についてネットで調べてみたところ、呟き型SNSの中に、「自分が運営するサイトの記事の話を、マスコミが許可なく勝手に使用している」っていう抗議文を出したユーザーがいたんです。

 そこに表示されているリンクの先に行ったら……報道番組が言っていた事と、全く同じ事が書かれている記事があったんです。その抗議文は今、万単位のリツイートをされてます》

 

 

 まるで目の前の事が信じられないかのような、驚きの混ざったユイの声で説明されてくる事柄。その内容があまりにも現実離れしているような気がして、和人はどこか違う世界で、ALO世界で起きた事なのではないかと思いそうになった。

 

 だが、何度も制作者である愛莉に言われているとおり、ユイは嘘を吐かないし、その事をSAOの時からユイとずっと一緒に過ごしている和人はわかり切っている。

 

 今、ユイの言っている事は、真実なのだろう。

 

 

「そんな……でも、投稿した日時はどうだ。今の番組よりも遅いなら、今すぐに書いたっていう可能性も……」

 

《その記事が書かれたのは三ヶ月も前です。恐らく先程の報道番組は、この情報を引用したうえで、ニュースをくみ上げたんだと思いますが……》

 

「そこに書いてある事って確か……」

 

《……はい。全部執筆者の予想です。それを報道番組は、真実のように報道して……ました……。

 しかも今の報道番組だけじゃなくて、他の局の報道番組もまた、同じような事を報道しているようです》

 

 

 和人は瞬きを繰り返しながら、目の前にいる直葉に顔を向ける。直葉も同じように、瞬きを繰り返しながら、仮想世界と繋ぐ道具をじっと見つめている。あまりに話が信じられなさ過ぎて、唖然としてしまっていた。

 

 

 《壊り逃げ男》が出現してからというものの、その正体や目的について考察した記事を書いたブログはいくつもあった。実際に検索エンジンで《壊り逃げ男》の正体と検索すれば、百を超える数のブログが引っ掛かってくる。

 

 だが、そこに書かれている《壊り逃げ男》についての話は、基本的にその記事を書いた人間の予想や推測であり、完全に《壊り逃げ男》の正体を突きとめているもの、真実を掴んでいるものはないのだ。

 

 その証拠に、《壊り逃げ男》をハンニバルが生み出しているという情報を掴んでいるものは一つもなかったし、前の《壊り逃げ男》がレクトの須郷である事も、そしてその須郷がSAOで死亡している事を書いているものも、一つもなかった。

 

 

「そんな……じゃあ、その人の抗議を、報道機関は……」

 

《こんな事を平然としているという事は、そんな事を気にしてはいないのだろう。現に先程の話を、報道番組は自分達が手に入れた情報のように言っていた。個人サイトから無断引用し(パクってき)たものだとは一言も言ってないし、触れてもいない。明らかにネットという物を見下しているな》

 

《さっきの報道、《壊り逃げ男》は絶対悪みたいな印象を付けるようなものみたいだったけれど、もう嘘を吐いて滅茶苦茶な事を言って、ネットユーザーの情報を許可なく勝手に使ってまで、《壊り逃げ男》が絶対悪だって、意地でも印象操作したいみたい。

 《壊り逃げ男》のやり方がどうかしてるっていうのはわかってるけれど……》

 

 

 真実を知って呆れたリランの声と、不安そうなストレアの声を聞いた直後に、和人の頭の中に、既に死した《壊り逃げ男》――須郷伸之の声が蘇る。

 

 

 ――このクラッキングって時点で、電子計算機損壊等業務妨害罪っていうのが課せられるけれど……残念ながら、僕を犯罪者扱いする奴はいなかった。寧ろ、国民は僕を「ありがとう《壊り逃げ男》」「《壊り逃げ男》は腐りきったマスコミと政治家に鉄槌を下した正義の神」「《壊り逃げ男》万歳」と大声を上げて称賛した。僕が何を仕出かしたところで、大多数の民衆は僕に敵意を向けないのさ。

 そう、僕はもう既に、神なんだよ――

 

 

 《壊り逃げ男》のやっている事は犯罪。だからそれを繰り返す《壊り逃げ男》は凶悪犯罪者だ。

 

 だが、そんな《壊り逃げ男》は批判されず、寧ろ宗教で祭り上げられる神のように賞賛されている。こんな事があってはならないし、《壊り逃げ男》が称賛されるこの流れは断ち切られなければならない。《壊り逃げ男》が称賛される今こそが、異常なのだ。

 

 だが、そのために嘘の報道をしていいなんて事は絶対にないし、寧ろ一番やってはいけない事だ。テロリストを倒すためだからなんて、嘘を全国放送していい言い訳にはならない。

 

 ……なのに、今報道番組がやっている事は、嘘を真実として報道して徹底的に《壊り逃げ男》を私刑(リンチ)するという、報道機関にあるまじき狂ったやり方。

 

 

 《壊り逃げ男》に攻撃を受けて、その報道姿勢を問われる事になった報道機関。

 

 その者達は、自分達の報道のやり方を直すよりも、嘘の報道をしてまで《壊り逃げ男》に報復を仕掛ける事を選んだのだ。自分達を()った奴に()り返すためなら何をしてもいい。――そう思っているのだろう。

 

 和人はこの話を、どこか違う国、もしくは違う世界の出来事だと信じたかった。茅場晶彦――リランには悪いが――のような独特なゲームデザイナーの作った、えぐみのあるシナリオのゲームでの出来事だと思いたかった。だが、どんなにそう信じようとしても、どんなに願っても、そうはならない。

 

 その事に打ちひしがれながら、和人はか細くユイに尋ねる。

 

 

「ユイ、この後、どうなりそうだ」

 

《……リツイートの数は十万単位に達して、ネット中のあちこちに拡散しています。そして報道機関側は、このユーザーの抗議を、他のネット利用者達の意見や抗議を、完全に無視するつもりでいるようです。

 これを……《壊り逃げ男》が、ハンニバルが見逃すわけがありません。明日明後日の朝、昼、夕のいずれかのワイドショーの際に、《壊り逃げ男》の報復攻撃が始まると思います》

 

《報道機関もテレビ局も、夢にも思っていないだろうな。《壊り逃げ男》の本体がハンニバルであり、いくらでも《壊り逃げ男》を作り出せる事を。大方、ハンニバルは今の状況を見て、俗にいう腹筋崩壊状態になっているに違いない》

 

 

 ユイの推測の後のリランの言葉。《壊り逃げ男》を私刑している報道機関は、《壊り逃げ男》こそが全ての元凶だと信じ込んでおり、ハンニバルの存在は知らない。そしてハンニバルもまた、こうなった事に嬉々としているはずだ。……今日も何も知らないマスコミが、掌の上で愚かに踊っていると。

 

 

 報道機関は今、影響力という名の巨大な剣を持った剣士だ。そしてその剣士は、剣士を好んで狙う、見えざる糸と手に操られた《壊り逃げ男》という名の怪獣に挑んでいる。

 

 怪獣がいくら倒しても復活する不死身である事も、自分もまた怪獣と同じ見えざる糸と手に操られている事も知らずに、巨大な大剣で民家も民衆も巻き込み、なぎ倒しながら、戦っている――どちらが怪獣かわからないような戦い方をしているせいで民衆に呆れられている事に気付かずに、不死身の怪獣を殺す事に一心不乱になっているのだ。

 

 これを茶番狂言と言わずになんと言う。

 

 

《キリト……》

 

「あぁ……よくわかったよ。皆ハンニバルに躍らされてる。早く……ハンニバルを止めなきゃいけない」

 

 

 ストレアの言葉を聞いた和人は呟くように言い、もう一度テレビに向き直った。放送されているアニメでは、まだキャラクター達が激しい戦闘を繰り広げているのだが、和人にはそれが、今の《壊り逃げ男》と報道機関の有様のように思えた。

 

 自分を大衆が信奉する神だと信じる愚かな剣士が、街に現れた不死身の怪獣に、周辺の被害も何も考えないような迷惑な戦い方で挑み続けているストーリーの、滑稽な人形劇。

 

 それが、ハンニバルの手によって踊らされている、今のテレビ局の報道番組だった。

 
















Q.ここまでひどくなるの?

A.この作品はフィクション。けれどそうなりかねないような気が個人的にする。

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