キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

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―アインクラッド 08―
01:到達、最終段階


           ◇◇◇

 

 

 アインクラッド 第93層 9月28日

 

 

 

「えぇーでは、我々攻略組の第93層到達を記念して……」

 

「乾杯!!!」

 

 俺の声に合わせて、その場に集まる100人以上のプレイヤー達が一斉に声を張り上げた。実に様々な事が起こり得た8月を経て、俺達は一ヶ月戦いを続けて、アインクラッドを登り続けて、第93層に辿り着く運びとなった。それを祝って、俺達は93層の街中にある巨大酒場を借り、記念パーティーを繰り広げていたのだ。

 

 何故こんなに早く攻略が進んだのかというと、85層を超えた辺りから階層の大きさそのものがどんどん小さくなって、フィールドから迷宮区までの道のりがそこまで長いものではなかった事が一つ、俺達自身がかなり強くなって、どんなモンスターにゆく道を阻まれても容易に突破できるようになった事が一つ、そして、まだ見ぬ勢力から逃げきるために出来る限り攻略を急いだ事の三つの要因があった。

 

 このまだ見ぬ勢力というのは、一ヶ月前にサーシャとミナを連れ去り、何かしらの行為を行って、ストレアとユピテルが苦しむ原因を作った集団だ。俺達はこの話をイリスから聞いてから、なるべくこの集団に被害を出される前に攻略を急ぐ事を決めたのだ。

 

 この集団はプレイヤーを捕える事を目的にしていると思われ、俺達すらも狙われる危険性があったが、同時にこの集団が動けるのはこの世界の中に限定されているというのもわかっていた。この世界がクリアされて俺達が現実に帰されれば、この集団は俺達に手を出す事も出来なくなるし、これ以上の被害を出す事もなくなる。

 

 ――その事実を理解した俺達は、この集団の事を攻略組全員、アインクラッド全体に情報を行き渡らせて、この集団による行為などを警戒、攻略をなるべく急ぐ事を指示した。結果、皆はそれをわかってくれて、適度に休みを取りながらも、俺達に協力してくれた。それが実ったのか、俺達は僅か一ヶ月で93層まで攻略を完了する事が出来たのだ。

 

 

「キリト君、お疲れ様」

 

 今までの事を色々と思いだしていると、すっかり聞き慣れた声が耳元に届いてきた。顔を向けてみれば、そこにあったのは栗毛色の長い髪の毛をした、俺を支えてくれる女性の一人であるアスナの姿。

 

「あぁアスナ。お疲れ様だな。君もさっきの戦いは頑張ってくれた」

 

「そう言うけど、一番頑張ってたのはキリト君とリランだよ。二人はいつも皆を守りながら戦ってくれる。こんなに上層に来たのに、85層の時から誰一人欠けていないんだから」

 

 俺は当初の目的――皆を守りながら戦うというやり方を変えずに戦い続けてきた。その結果、俺達は一人も死ぬ事なくここまで上がり続ける事が出来たのだ。

 

「そうだな。今回もリランが頑張ってくれた。いや、ずっと頑張ってくれてるもんな」

 

 戦いを終えた後のリランは、必ずと言っていいほど料理にがっついている。きっと今もボス戦を乗り越えた疲れを感じながらそこら辺の料理を喰いまくっているはずだ――そう思って近くに目を向けたその時に、俺は思わず驚いた。

 

 テーブルの上に小さくなったリランはおり、目の前には料理の乗せられた皿があったのだが……リランは全く料理に手を付けずに、ぼんやりと皿を眺めているだけだったのだ。いつもならば、俺達の事なんかほとんど無視して食べているというのに、だ。

 

「あれ、リランどうした」

 

 今まで奮戦を続けた狼竜は何も答えない。疲れ切って料理を食べる気を失っているのだろうか。心配したアスナが俺に続いてリランに声をかける。

 

「リラン、どうしたの。食べないの?」

 

 その時ようやくリランは何かに気付いたような反応を示し、俺達の方へ顔を向けた。

 

《あ、あぁ。どうかしたのか》

 

「いやいや、聞きたいのはこっちなんだよ。どうしたんだリラン。ぼんやりして」

 

《ぼん、やり? 我はそんなふうだったか》

 

「あぁそうだったぞ。もしかして、疲れたか」

 

 リランは少しうかない顔をして、頷いた。

 

《そうなのかもしれぬ。いまいち、食欲が沸いてこないのだ》

 

 俺達の攻略スピードの速さの要因の一つに、リランの協力があった。リランの力は既に通り過ぎたクォーターポイントのボスモンスター達に匹敵するほどのものであり、そこら辺のモンスターなんかは安易に蹴散らす事が出来、ボスモンスターとも互角以上の戦いを繰り広げる事が出来る。

 

 この93層に来るまで8体のボスモンスターと戦ってきた。それらはすべて最終段階の層を守る者達であるためか、非常に強い力を持ち合わせていたのだが、そんな者達と戦っても攻略組に被害がほとんど出なかったのは、リランとの人竜一体が大体の要因だった。リランが攻撃を受け止め、強力な攻撃を仕掛けて、ボスに甚大なダメージを与える。その戦術が物を言い、誰一人としてここまで欠けなかった。

 

 しかし、俺は戦い続けるリランに感謝しながらも、その身体が心配だった。リランはこの世界に生きる純粋な命であり、戦いを続けたりすれば疲弊する。

 

 明らかに疲れてるだろと言って戦うのをやめさせようとしても、自分の使命は俺達を守る事だからと言って聞いてくれなかった。その分が重なって、リランは今疲弊しているのだ。

 

「お前は疲れたんだ。そろそろ休まないといけないんだよ」

 

《休む……だと……》

 

 リランの《声》が頭に響いた次の瞬間に、聞き慣れた声がいくつか聞こえてきた。

 

「そうよリラン。さっきの戦いも、その前のボス戦も、そのまた前のボス戦も、あんたとキリトの独壇場みたいなものだったじゃないの」

 

「キリトくんはリランを働かせすぎなんだよ」

 

 声のする方に振り返ってみれば、そこにあったのは先程の戦いに参加してくれていたリズベット、シリカ、リーファ、ユウキ、フィリア、そしてシノンの姿だった。

 

 第90層以降はアインクラッドの大詰めだから、なるべく多くの人が参加した方が良いと言う事で、アスナが友達全員に招集をかけてボス戦に臨む事になったのだ。そのおかげでボスに全く苦戦しないままボス戦を終了してここに来る事が出来た。まぁ大体はいつも通りリランと人竜一体した俺が一気にボスを押し込んだのだが。

 

「というけれど、皆だって俺になるべく攻撃させて、人竜一体発動を助長してくれたじゃないか。それって、皆もリランに頼って戦ってたって事なんじゃないのか」

 

 リズベットが腕組みをする。

 

「それはそうだけど……それでもリランはちょっと戦い過ぎじゃないかしら」

 

「俺だってリランにはいろいろ言ってるよ。だけど本人が戦いたがるんだよ……」

 

 フィリアがリランに近付き、目の高さを合わせる。

 

「リラン、戦いっぱなしで辛くないの」

 

《その言葉そっくりそのまま返そう。お前達こそ戦いっぱなしで辛くないのか》

 

 俺達は適度に休みながら戦っているからどうという事はないし、かれこれ2年間もモンスターとの戦いを続けて来たから、戦う事そのものには慣れている。そんな俺と同じ事を考えたのか、ユウキがリランに答える。

 

「ボク達は戦い慣れてるから大丈夫だよ。でもさ、リランの場合は」

 

《ならば我も戦い慣れているから大丈夫だ。それに我はキリトの<使い魔>だ。<使い魔>が主人を守らなくてどうすると言うのだ》

 

「それでもお前は疲れてるのに戦おうとするじゃないか。今だって何だか具合が悪いみたいだしさ」

 

 直後、アスナが突然何かを思い出したような顔をして、俺の方に向き直った。その視線を浴びた俺の中には、軽く悪い予感が浮かび上がる。

 

「そうだわ! 最近やってなかった……だからリランは疲れちゃったのよ」

 

「えっと、それってまさか」

 

 アスナは頷いて、俺に人差し指を向けた。

 

「キリト君、明日からノー攻略ウィーク実施! キリト君もリランも明日から1週間休む事!」

 

 ついに来た。俺が血盟騎士団に入団する前から、シノンもしくはアスナの提案によって実施されている、戦い過ぎる俺に休暇を与えるノー攻略デーもしくはノー攻略ウィーク。最近そう言う事がないから、ひょっとしたらこのまま100層到達までノー攻略デー及びノー攻略ウィークはないんじゃないかと思っていたが、そんな事は全くなかった。

 

「ちょ、このタイミングでか!?」

 

「何か不満でもあるの」

 

 シノンの問いかけに頷く。今、俺達は93層に辿り着き、残す事7層になっている。あと少し頑張って進み続ければもうじき100層だと言うのに、ここで休みを入れられては攻略が遅れてしまう。

 

「だって俺達は93層まで来れたんだぞ。あと7層で100層だ、もう少しじゃないか!」

 

 直後、シリカが珍しく俺に反論してきた。

 

「だからですよ。キリトさんとリランさんはここまであたし達を導いてくれた皆の希望ですから、最後の最後まで戦って、生きて現実に帰ってもらいたいんです。キリトさんとリランさんは、自分自身を扱き使いすぎなんですよ」

 

 シリカの言葉にハッとする。確かに俺はともかく、リランに至っては自分が疲弊してきているというのに、「戦う事こそが自分の使命だから」なんて言って戦いを続けている。それこそ、シリカの言葉に出て来た、自分の事を扱き使い過ぎなのだ。

 

「皆さんの言う通りですよ、団長」

 

 シノン達とは違う声が聞こえてきて、俺達はふとその方向に目を向ける。そこにいたのはワインのような飲料の入ったグラスを片手に持っている、白い鎧を身にまとった金髪の男――ボス戦にも必ず出席してくれて、攻略組のエースとして戦果を挙げてくれたアルベリヒだった。

 

「確かにあと7層ですが、それに伴って強力なボスモンスター達が出没します。そんな相手に、疲弊した状態で戦えますか。団長は僕達の希望です。不慮の事故で団長に死んでほしくないからこそ、疲れている時はしっかりと休んでほしいのですよ」

 

「難しいかもしれない……」

 

 シノンが苦笑いする。

 

「あんな事があった後だから、攻略を急ぎたいっていう思いはわかるわ。でもね、だからこそ戦い続けるキリトが心配なのよ。この先、キリトとリランでも難しい相手が出てくるかもしれない。そうなった時、疲れたキリトとリランがやられてしまわないなんてことはないかもしれないでしょ」

 

 シノンは俺が攻略を急ぐ理由を誰よりも先にわかってくれていた。サーシャとミナが誘拐されて何かした集団、そしてイリスが警戒を促している集団《ムネーモシュネー》。

 

 サーシャとミナが行方不明になり、再度発見されてから、全くそういう事件が起きなくなってしまった事は意外だったけれど、あれが再度起こらないなんて可能性はゼロじゃないというのが最初からわかっていた。

 

 またあんな事が起きるのを防ぐには、急いで攻略を進めて100層に辿り着き、皆をそのままこの世界から脱出させるのが一番というのが、俺の考えだった。そのためならば、多少の無理が生じても戦い続けると決めて、俺はリランと一緒に戦った。

 

 でもシノンの言う通り、これまでリランにも俺自身にもかなり無理を強いて来たし、その影響が出ているのか、リランが疲弊してしまっている。今は93層……階層が狭くなっているから攻略にかかる時間は短くなっているけれど、フィールドモンスターも、ボスモンスターもかなり強いそれになってきている。

 

 恐らく、この先何度も苦戦を強いられてしまうかもしれない。このまま戦い続けるのは得策とは言い難いだろう。

 

「確かに、君の言う事は間違ってない……戦い過ぎた節はあるかも」

 

「そうでしょう。だからあなたは、休むべきよ。この先1週間、戦闘禁止」

 

 アルベリヒがシノンに続いて、言う。

 

「夫人の言う通りです。団長は休んでくださいよ。その間の攻略は副団長と我々で何とか出来ますから」

 

「だけど……さ」

 

 アルベリヒの顔が少し険しくなる。

 

「……団長、もしかしてひと月前に話してくれた、例の集団を気にしているんですか」

 

「鋭いな。あれからひと月たったのに何も起きてないから、それが何だか怪しく感じられてさ」

 

 俺はあの事件の後、リズベット達にも、アルベリヒを含めたクライン達にもあの事件の話をした。第1層のイリスのところの保母と女子が何かされた事、そしてその影響がカーディナルに及び、ストレアとユピテルが苦しんだ事、その全てを。

 

「確か団長は、《彼ら》の行動を防ぐために、このアインクラッドの攻略を急ぎ始めたんでしたっけ」

 

「あぁ。アインクラッドが攻略されて、プレイヤー達がログアウトできれば、あいつらは好き勝手出来なくなるからな」

 

 アルベリヒは顎に軽く手を添えた。

 

「確かに理にかなった考えであると思ってますし、ストレアさんや副団長のところのユピテル君を苦しませたくないという気持ちもわかります。でもだからと言って攻略を急ぎ、結果貴方がモンスターに殺されてしまったなんて、本末転倒の甚だしいですし、洒落になりませんよ」

 

 リーファが頷く。

 

「そうだよキリトくん。キリトくんだって人間なんだし、皆キリトくんには生きてて欲しいんだよ。あたしだって、キリトくんにはぜぇったい死んでほしくない」

 

「だけどさ……」

 

 その時、少し遠くの方から皆とは違う声が聞こえてきた。声色は、男性のものだった。

 

「話は聞かせてもらったぜ、キリト!」

 

 何事かと顔を向けてみれば、そこにあったのはここまで進んできた仲間である、鎧武者のような恰好をしたクライン、重装備と戦闘服が混ざったような恰好のエギル、青を基調とした西洋鎧を纏ったディアベル、俺達と同じ白と赤を基調とした騎士の格好に身を包むゴドフリーの姿。……みんな揃って料理の乗った皿を持っている。

 

「お前ら……」

 

 エギルがふふんと笑って、俺に声をかけた。

 

「お前、自分とリランの強さばっかり見てるせいで、周りが見えなくなってるな」

 

 ディアベルがエギルに続く。

 

「確かにキリトの思いはわかるし、キリトとリランの強さを皆よくわかってる。なるべく戦いに参加してほしいとは思っているけれどさ」

 

 ゴドフリーが少しだけ苦笑いする。

 

「何も団長がいなければ戦えないわけではありませんし、団長に心配されるほど、我々は弱くありませんよ。これでも団長のハイペースに追従出来て、93層まで辿り着けてるんですから」

 

 そして最後に、クラインが笑む。

 

「それに、お前ばっかり戦い過ぎってのは納得できるぜ。攻略と戦いだけが全てじゃないって信条を持ってのはお前だろが。あの組織だって一ヶ月何もしてないんだ、もう潰れたかもしれないんだぞ」

 

「組織って勝手に潰れるものなのか」

 

「まぁそれはわかんねぇけどさ。でも、皆が揃って心配するほど、お前は無理をしてるし、リランにだって無理をさせてる。だから、ここは俺達に攻略を任せてお前は休めって。大丈夫だ、俺達だってここまで上り詰めてきた猛者共なんだからよ」

 

 皆、心配と労いの混ざった光が溜めこまれた瞳で、俺の事を見つめている。最近の俺達の動きというものは、どうやら皆をここまで心配させてしまうくらいの行動だったようだと、初めて自覚した。

 

「わかったよ。アスナ副団長の要求を呑み込むとするよ。明日から1週間くらい休みを取るけれど……攻略の方は本当にどうするつもりなんだ」

 

「だから言っているだろう。攻略の方は俺達が何とかするって」

 

「了解した。だけど、お前らだけじゃどうにもならないような事があったなら、俺はリランを連れてそこに行くから、そのつもりでいろよ」

 

 皆が頷いたのを確認したその時に、俺はある事に気が付いた。そういえば、俺とリランはこれから休みに入るけれど、俺は一人で休む事になる。いつもはシノンとアスナが一緒に休んで、シノンが俺の傍にいてくれて、アスナがリランを預かってくれるのだけれど、その辺りはどうすると言うのだろう。というか、たまの休みくらいシノンと一緒に居たい気分だけど。

 

「ところで、今回の休みは俺一人だけなのか。いつもならシノンが……」

 

 シノンが溜息交じりに笑った。

 

「勿論私も一緒に休むとするわ。あなたはバトルマニアなせいで、見張っておかないと勝手に戦場に飛び出していきそうだからね。その辺りの事は心配――」

 

《待つのだ》

 

 いきなりリランが割り込んできて、俺は思わず驚いた。俺のような反応をしているのはこの場にいるシノンのみであったため、シノンと俺だけにチャンネルを合わせて《声》を発している事がわかった。

 

「どうした」

 

「あれ、リランもしかしてわたしにチャンネル合わせてない?」

 

 いつもならば漏れなくチャンネルを合されているアスナがちょっと戸惑う中、リランは《声》を続けた。

 

《シノン、待ってほしい。数日間、いや、二日ほどでいい、我はキリトと共にいたい》

 

 唐突過ぎるリランの《声》にシノンは驚きながらも戸惑う。

 

「いきなり何を言い出すのよ。あんたは普段からキリトの傍にいるじゃない」

 

《そうではない。キリトと二人でいたいのだ。二日ほどでいいから、我らだけの時間が欲しいのだ。お前がキリトの妻であるから、キリトの事が心配なのはわかる。だが、頼む》

 

「おいリラン、お前何言って……」

 

 リランは俺に振り返らず、シノンの方に向き続ける。リランの視線を浴びるシノンに、皆の注目が集まり、リーファが抗議にも似た声を上げる。

 

「シノンさんとキリトくん、何の話をしてるの。リラン、何であたし達にチャンネルを合わせてないの」

 

 やはりリーファ達には《声》が届いていない。相棒の狼竜は、俺とシノンにだけチャンネルが合わせて、シノンにだけ問をかけている。

 

 そしてシノンはというと、ほんの少しだけ黙ってから、やがて軽く溜息を吐いた。

 

「……わかったわ。今日から明後日まで、ユイを連れて家を空けてあげる。何を思っているのかは聞かないけれど、キリトをお願いね、リラン」

 

 せっかくシノンと過ごそうと考えていたというのに、突然シノンがそれをキャンセル。あまりに唐突過ぎる現状に、戸惑いの気持ちが心の中に溢れてくる。

 

「お、おいおいリラン……それにシノンまで」

 

 シノンは俺から視線を逸らし、アスナの方へ顔を向ける。

 

「アスナ、今日の夜から明後日まであんたのところに泊まろうって考えてるんだけど、大丈夫かしら。ユピテルとかユウキとか」

 

「えぇっ!? 別に構わないし、ユイちゃんとシノのんが来てくれれば、ユピテルも大喜びするだろうけれど……でも何で急に? リランと何の話をしてたの?」

 

「ちょっと言えない事」

 

 シリカが残念そうな顔をする。

 

「わぁー、知りたいですー!」

 

「ごめんなさいシリカ、やっぱり言えないわ。というか、大丈夫なのアスナ」

 

「えぇ。大丈夫だけど……」

 

 シノンはにっと笑って「ありがとう」と言った後に、俺に向き直った。

 

「ごめんなさいねキリト。リランがこう言ってるから……ちょっとの間家を空けるわね」

 

「え、えぇぇぇ……」

 

 完全に予定を崩されてしまった時のような残念感が、頭の中全体に広がっていく。まさかリランがこんな事を言い出すとは思わなかったが、一体どうしたというのだろう。ここは一つ、<ビーストテイマー>として聞いておかなければ。

 

「わ、わかったよ」

 

 シノンはリランに近付き、その頭にそっと手を置いた。

 

「キリトをお願いね、リラン」

 

《……感謝する》

 

 俺は二人のやり取りをじっと見ているだけしかなかった。しかし直後、アルベリヒが耳元で囁いてきた。

 

「団長の周りは女の子が沢山でいいですね」

 

「……あぁ」

 

 周りの男共から見れば最高の立場だと思えるのだろうが、俺としては皆を守らなきゃいけないから、正直この立場は疲れるし辛い。まぁ……楽しいのは確かだけれど。

 

 そう思いながら、俺は近くにあった呑み物の入ったコップを手に取り、中身をくっと呑んだ。

 




なんか不思議な動きのリランさん。

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