キリト・イン・ビーストテイマー   作:クジュラ・レイ

100 / 565
12:反撃の刻 ―84層主との戦い―

 次の瞬間、俺は地面を蹴り上げて《噴火の亀竜》――白い煙に包み込まれた生ける炎の城に突撃を開始した。その途中で、何度も降り注ぐ火山弾に寄って目の前が爆発したが、その爆風と炎の中に飛び込んだ。強い熱気が全身を包み込み、目の前がオレンジ一色に染まるのを耐えながら走り続け、あっという間に炎の城に接近した。

 

 周囲に目を配れば、同じように爆風の中を切り抜けてきたアスナ、アルベリヒ、クライン、エギル、シノン、ディアベル、ユウキ、そしてリズベットの姿があった。皆、俺の動きに合わせてここまで来てくれたらしい。そしてこれだけの数で一斉に攻撃を仕掛ければ、あいつにも甚大なダメージを与えられるのは確実だ。

 

「行くぞっ!!」

 

 俺が叫ぶように言えば、皆がそれに答えて、排熱口を開いている《噴火の亀竜》に突撃し、その武器に光を宿らせて、一斉に爆発させる。

 

「はあああああああッ!!」

 

「だあああああああッ!!」

 

 最初に光を爆発させたのはアスナとアルベリヒ。緑色に光る細剣による高速の10連撃ソードスキル《オーバーラジェーション》と3連撃の重攻撃ソードスキル《アクセル・スタブ》による合計13回の連続攻撃が《噴火の亀竜》の甲殻の開かれた部分に直撃する。

 

 攻撃される事のない部分であると思い込んでいたのか、《噴火の亀竜》はそれまで聞かせてくれる事のなかった大きな悲鳴を上げ、その部分からは血のように紅い光が迸った。間違いなく、《噴火の亀竜》に確実なダメージを与えている。

 

「どおらああああああああッ!!」

 

「おらあああああああああッ!!」

 

 しかしそこで攻撃は終わらない。今度はクラインとエギルが咆哮しながら突撃し、クラインの持つ刀からは大振りながらも鋭い3連撃を放つソードスキル《暁零》が、エギルの持つ両手斧からは強力かつ超高速な3連撃を放つソードスキル《エクスプロード・カタパルト》が開かれた排熱口目掛けて放たれた。

 

 刀と両手斧という全く違う性質を持つ武器による全く性質の違う6連撃は、ごっそりと《噴火の亀竜》の生命力を奪い去ってゆくが、そこでもまだ生命力の削りは止まらない。

 

「でえやあああああああッ!!」

 

「はあああああああああッ!!」

 

 クラインとエギルと交替するように、今度はディアベルとユウキが飛び出して、自らの手に握られている片手剣に光を込めて、爆発させた。

 

 ディアベルから飛び出したのは、強力な突きを放つソードスキル《ヴォーパル・ストライク》。ユウキから放たれたのは四角を描くように4連続で敵を切り裂くソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》。合計7連続の斬撃が、むき出しになった《噴火の亀竜》の皮膚と筋肉を切り裂き、多大なダメージをその身に刻み込む。

 

 そして、最後に俺、リズベット、シノンが飛び出し、シノンに至っては弓矢を補助武器の短剣に持ち替えて、光を宿らせている。シノンは普段弓矢で戦っているけれど、こうやってチャンスが見えた時などは短剣に持ち替えてソードスキルを放つのだ。

 

「これでも喰らいなさいッ!!」

 

 最初にシノンの短剣による、∞の文字を描くように斬り付ける5連続ソードスキル《インフィニット》が炸裂すると、リズベットが飛び出してスイッチし、シノンの隙を打ち消すようにその片手棍に光を宿らせて、爆発させる。

 

「これで、どうよッ!!」

 

 まるでハンマー投げをするかのように思いきり棍を振り回して、2回連続で《噴火の亀竜》の弱点にぶち当てる。ただでさえ強力な破壊力を持つ棍を力いっぱい、遠心力を纏わせて2回連続で振り回し、敵を叩き上げる2連続ソードスキル《アッパー・スイング》。

 

 弱点属性による強烈な2連撃を受けた《噴火の亀竜》は大きな悲鳴を上げて、その生命力を大きく減少させながらその場に崩れ落ちる。恐らく攻撃される事を想定していない部位を散々攻撃されて、予想外の痛みに悶えているのだろう。

 

 だけど、だからと言って攻めの手を緩めるなんて選択肢は、俺達に存在していない――攻撃を終えたリズベットとスイッチし、溶岩で俺達を苦しめてきた《噴火の亀竜》の下へ俺は飛び込み、2本の剣に光を宿らせて、最後の爆発を引き起こす。

 

「はああああああああああッ!!!」

 

 2本に纏わせた光を文字通り爆発させながら、舞い流れるように敵を切り裂く、奥義技である《スターバースト・ストリーム》ほどの威力はないが、それに匹敵するほどの攻撃回数を誇る15連撃ソードスキル《シャイン・サーキュラー》が炸裂すると、《噴火の亀竜》のHPが目に見えて減ったのが見え、同時に俺だけに表示されているゲージ、人竜一体ゲージが真っ青に染まったのが確認できた。

 

「よしっ!!」

 

 俺は咄嗟にアスナとアルベリヒの方に顔を向ける。今彼女達はソードスキルによる硬直を終わらせて自由に動けるようになっている。今俺とスイッチすれば、もう一度ソードスキルを繰り出す事が出来るし、その隙に俺が人竜一体を宣言すれば、リランを元に戻して、一気に戦況を優勢に傾けさせることが出来るだろう。

 

「アルベリヒ、スイッチだ!」

 

「了解ッ!!」

 

 俺の指示を聞いたアルベリヒが再び《噴火の亀竜》の下、俺の目の前に躍り出て、細剣に光を宿らせた。その隙を突いて俺はバックステップし、リランの名を叫ぼうとしたが、それと同時に《噴火の亀竜》が足を大きく上げて――噴火攻撃をしようとしていたのに気付いた。その姿を見て、殺されまいと力を振り絞っている命のそれであると俺は心の中で思ったが、すぐさま集まる皆に指示を下した。

 

「全員ジャンプ!! 溶岩が来るぞッ!!」

 

 俺の声が届いたと直後に《噴火の亀竜》はその足を地面に叩き付けて衝撃波をボス部屋全体に送り込んだ。その時には、俺を含めた全員がジャンプして空中にいたのだが、その中で1人だけ、ジャンプに失敗して足を掬われていたプレイヤーを見つけた。――俺と一緒に戦いたいと志願して、レイドを組んでいたリズベットだった。

 

「リズッ!!」

 

 しかもリズベットの足元は溶岩が吹き出してくる前兆であるオレンジ色に染まっていた。――すぐさま、リズベットが溶岩に撥ね上げられる瞬間が想像出来たが、その時は既に俺の足は地に着き、《噴火の亀竜》ではなく、リズベットの方へ向かっていた。

 

「リズ!!!」

 

 俺は駆けるリランの様に地面を蹴り上げながら走り続け、オレンジの光が強くなった瞬間にリズベットの身体を掻っ攫いながら、俺はオレンジ色に光る地面の中から脱出。

 

 次の瞬間に、リズベットが姿勢を崩していた場所を、溶岩の柱が轟音と共に貫いた。そのまま、俺達は地面に倒れ込んだが、俺はその一瞬でぐるりと体を回してリズベットの身体が上に来るようにして、リズベットの身体に衝撃がなるべくいかないようにしていた。

 

 勢いよく倒れ込んだ事によって発生したであろう、耳鳴りのような音が耳に響く中に混ざってリズベットの混乱したような声が聞こえてきた。

 

「キリト……キリト!」

 

「リズ、大丈夫だったか」

 

「あ、あんた……あたしを助けて……」

 

「あぁ。もうちょっとであいつのカウンターの餌食になってたからな」

 

 顔を下げれば、少し涙目になっているリズベットの顔が見えた。恐らくあの時、自分が助けられるとは思ってもみなかったのだろう。それに俺自身も、あの時リズベットがあんな事になるとは思ってなかった。

 

「もう、あいつに攻撃はさせない」

 

 そのまま、俺は息を思い切り吸い込んで腹に溜め込み、天井目掛けて吐き出した。

 

「リラン――――――――――ッ!!!」

 

 咆哮にも等しき声がボス部屋に木霊すると、大爆発が起きたような轟音が部屋全体に鳴り響いて、眩しい閃光が包み込んだ。――次の瞬間、非常に重いものが更に重いものに激突したような爆音が木霊し、大きな衝撃波が腹に伝わってきた。

 

「な、何!?」

 

 戸惑うリズベットを抱えたまま立ち上がって確認をすれば、そこにあったのは生ける火山にも等しき《噴火の亀竜》に激突している、白金色の鎧に等しき甲殻に身を包んで、背中から純白の翼を4枚生やして、周りに6本の巨大な白金色の聖剣を従えている狼竜の姿だった。そう、人竜一体ゲージを消費する事によって、元に戻ったリラン。俺達攻略組の最後の切り札、Rerun(リラン)_The()_ Empress(エンプレス) Dragon(ドラゴン)》。

 

「リランがボスと戦ってる……!?」

 

 今までボス戦でのリランを見て来なかったリズベットから声が漏れる。リズベットがリランが戦う様を見たのは、俺達と出会って氷雪地帯へ向かい、結晶の竜と戦った時だけで、リランが本格的にボスと戦う瞬間は、今日が初めてだ。

 

「ごめんリズ、離れててくれ」

 

 リズの身体を離してモンスター達の戦場へと近付くと、俺の相棒の狼竜は亀竜から距離を取り、喉を鳴らしながら身構えた。俺は地面を蹴り上げて走り、再度思い切りジャンプしてその背中に飛び乗る。視界が一気に高くなり、《噴火の亀竜》の姿がすぐ近くに見えるようになったと同時に、頭の《声》が響く。

 

《ようやくだな、キリト》

 

「あぁ。弱点はわかるよな」

 

《勿論だ。殻に包まれていたとしても弱点さえわかれば、そこくらい突き破れる。あとは我に任せろ》

 

「頼んだぜ、相棒」

 

 そう言った瞬間、目の前で身構える《噴火の亀竜》は口を開いて、ごうごうと音を立てて赤く光らせ始めた。同時に、ここまで離れているのにもかかわらず、顔に強い熱風のようなものが当たり始めたのを、俺は感じていた。

 

「ブレスだ! あいつ、ブレスを吐けるモンスターだった――」

 

 言った直後に、リランもまた大きな口を開いて、轟々と音を立て始めたのがわかった。いつもボス戦になると見せつけてくる兆候――それが十数秒続いた次の瞬間、目の前の《噴火の亀竜》は体内の熱エネルギーを収束させたであろう、灼熱の光線を身体の奥から迸らせた。

 

 轟音と光が周囲を包み込み、まるで溶岩流が迫り来ているかのような猛烈な熱風が顔に吹き付けてきて、目が開けられなくなった次の瞬間、耳元に轟音を上書きするような轟音が届いてきて、熱風の流れが若干変わったのがわかった。

 

「……ッ!?」

 

 熱風に耐えつつ顔を上げて目を開けると、そこで始まっていたのは亀竜と狼竜のビームの打ち合い――互いに灼熱の光線ブレスを発射し合い、ぶつけ合っている光景だった。

 

 ボスとの戦いでこうなった場合、大体はすぐさまリランが押し勝ってしまうのだが、意外にもあの《噴火の亀竜》はリランのビームブレスを抑え込んでいた。それを目の当たりにして、《噴火の亀竜》のビームブレスはリランのそれと同等の出力を持っているものであると、俺は理解する。

 

「あいつ、リランのブレスに耐えてるのか……!?」

 

《なかなかやるではないか……だが我の足元にも及ばぬぞ、燃え尽きろッ!!!》

 

 リランの《声》が聞こえてきた瞬間、リランはその口を再度かっと開き、ブレスをさらに太いものへと変えた。自分と同じブレスを吐いて、尚且つ同じくらいの出力を持っている事に意固地になっているのか、出力が上がったのがわかると同時に、それまでうまい具合に対抗していた《噴火の亀竜》のビームブレスがその長さを狭める。

 

「いいぞリラン、そのまま押し返せ!!」

 

 リランの《声》が聞こえる前に、リランのビームブレスは《噴火の亀竜》のビームブレスを押し返して、《噴火の亀竜》の顔のところまで到達させたところで大爆発を引き起こさせた。顔面のすぐ近くで大爆発を受けた《噴火の亀竜》は顔の甲殻をぼろぼろにしながら、血のように紅い光を散らして、苦悶の声を上げてみせる。

 

 しかし、あれだけ大きな爆発に巻き込まれても、やはり火属性に強いという設定があるのか、《噴火の亀竜》のHPはあまり大きく減ってはいなかった。寧ろ、俺達がソードスキルを連発した時の方が大きく減っていたような気がする。

 

「ブレスは効かないっていうのか……」

 

《まぁあいつ自身火に強そうな外観をしておるし、溶岩を操っておるからな。だが、それくらい想定の範囲内というものだ》

 

 リランはそんな《声》を俺に送ると、さっきの俺と同じように地面を蹴り上げて力強く走り出し、目の前に立ち塞がる炎の亀に飛びかかった。そして自慢の額の大剣に光を宿らせて、俺達がソードスキルを放つときのように、思い切り炎の亀の顔面を斬り付けた。

 

 しかし、爆発を受けても尚炎の亀の甲殻はしっかりとその肩さというものを残していたらしく、リランの自慢の剣はかーんという音と火花と共に弾かれた。

 

「リランの剣が……!」

 

 今まで斬れぬものなしと言わんばかりに、モンスターの身体や障害物を両断してきたリランの剣。全てを切り裂くその剣さえも通さないほどの堅さがあの甲殻にあった事を再確認して、俺はリランの背中から思わず目を見開く。ブレスに加えて剣までも通用する事のない《噴火の亀竜》の全身。

 

 しかし、それでもリランは攻撃をやめずに周りの聖剣で何度も斬りまくる。それらは全て、《噴火の亀竜》の甲殻に一切ダメージを与える事が無かったが、その動きはまるで何かを調べるような動きにも感じられた。

 

「おいリラン、どうしたんだ」

 

 次の瞬間、リランはバックステップをして俺を振り回しながら、《噴火の亀竜》から距離を取った。そこでようやく、今の言葉の返事が返ってきた。

 

《我の剣はどこまで通じるのか、試しに斬りまくってみたが、全然駄目だな》

 

 既に俺達があいつの身体の全てを叩きまくっており、その中で腹の弱点を見つけ出したようなものだ。だからもう、あいつは腹以外の弱点が無い事がわかり切っている。貴重な人竜一体の時間をそんな事のために消費していたのかと、リランの言葉に思わずひっくり返りそうになる。

 

「馬鹿、あいつの弱点は腹以外に存在してないんだよ。人竜一体してられる時間は延長されたとはいえ短い事に変わりはないんだから、しっかり戦えっての!」

 

《あいつの弱点は腹か。だが、よく見れば背中の火口の真下に腹があるな……》

 

 もう一度《噴火の亀竜》の身体をよく見てみると、確かにリランの言う通り、あいつの背中に位置する部分から生える火山、その火口の真下に先程攻撃した弱点――排熱口があった。多分だけど、あいつの背中と腹は繋がっているのだ。

 

「そこを攻撃してみようってか」

 

《いや。そこで止めを刺すのだ》

 

 そう宣言したリランはその翼を広げて、勢いよく羽ばたいて宙へ舞い上がり、俺を乗せたまま《噴火の亀竜》へ突撃を開始した。剣を納刀してしっかりとリランの背中に捕まっていても、荒れ狂う嵐のような熱風が吹き付けてきて手を離しそうになるが、リランが《噴火の亀竜》に激突した時の揺れで、完全にリランの背中の毛に掴まり、ぶら下がっているような状態になった。

 

 いったいどのような状況になってしまったのかと思って周りを見渡すと、そこにあったのは崖に掴まっているような状態になっている俺の身体と、同じように崖か何かにしがみ付いているかのような体勢になっているリランだった。

 

 下を見てみれば、先程よりも地面が遠く、周りの皆が細々として見えるが、それ以外の場所はリランの翼や聖剣のせいで見えなくなっている。

 

「おいリラン、お前一体!?」

 

《揺れるぞ、しっかり掴まっておれ!》

 

 リランの《声》が頭に響いた瞬間、崖に地震が来たかのように、俺の身体は左右上下に大きく揺らされ始めた。――いや違う、これは地震ではなく、まるで生き物が異物を取り除こうと身体を振り回しているような揺れ方だ。

 

「これって!」

 

 その時にようやく、俺はリランが、《噴火の亀竜》の火口にしがみ付いている事を理解する。普段の俺と同じように。

 

「なんつー無茶だこれ!」

 

 《噴火の亀竜》はしがみ付く狼竜を取り除くべく身体を振り回すが、一向に狼竜は離れようとはしない。ブレスを吐きかけてやろうとしても、首が届かない位置に狼竜はいて、ブレスは当たらない。狼竜の手から離れるには、身体をただただ振り回して引きはがすしかない――その考えに捕えられた《噴火の亀竜》は必死になって身体を振り回す。

 

 俺も同じようにしっかりとリランの身体にしがみ付いているものの、ここで手を離そうものならばリランの背中から落ちるだけではなく、リランを引き剥がすために()()()()になっている《噴火の亀竜》の足とそこからの攻撃に巻き込まれる。

 

 これだけの動きをしているから攻撃は二度ほど当たるだろう――そうなれば死は確実だ。リランの背中から手を離すのは、俺自身の死に繋がる事を自覚して、俺は腕に力を込めてリランの毛を握り締める。

 

 しかし直後に、リランが《噴火の亀竜》の小さき火山をよじ登ったのか、上に引っ張られるような感覚が全身に広がって来た。そしてそれが完全に治まる前に、更にリランの口元からごうごうという炎が揺らめくような音――ブレスが発射される前兆の音が発せられている事に気付き、俺はしっかりとリランの身体にしがみ付く。

 

「リラン!」

 

《燃え尽きろッ!!!》

 

 直後、再び強い熱風が顔に吹き付けてきて、思わず目を瞑ったが、耳元に強い轟音とどこか拙いところに攻撃を受けたであろう亀竜の悲鳴が届いてきた。普段ならばリランがどのような行為を取ったのかわかるけれど、今は全くと言っていいほどそれを確認する方法が無い。

 

 しかし、轟音が止んだと同時に俺の身体は急に浮きあげられて、続けて着地をした時のような衝撃を感じ取った。そこでようやく目を開いてみれば、リランは地面に降りており、目の前には腹の弱点から赤い光を漏らしながら横たわっている《噴火の亀竜》の姿があった。

 

「リラン、何やったんだ」

 

《あいつの火口目掛けてブレスを放ってやった。外からの熱にどれだけ強かろうと、中から焼かれるのには耐えられまい》

 

 リランは飛びかかって、あいつの溶岩噴射口目掛けてブレスを放ったのだ。外部からの衝撃や攻撃にどれだけ強くたって、その内側は筋肉があるため柔らかい上に、噴射口は弱点である排熱口の真上にある。そこからブレスを突っ込まれれば、ブレスは筋肉を貫通し、最終的に排熱口に到達。開閉可能の甲殻を無理矢理こじ開けて、更に弱点を内側から焼き上げる。

 

 リランの狙いがそれにあった事に気付いたのと同時に、俺は《噴火の亀竜》がダウンしているうえに、あの全く減る気配のなかった《噴火の亀竜》のHPが残りわずかになっている事を確認した。しかも《噴火の亀竜》は甲殻を内側から破壊されて、弱点がむき出しになっている。これをチャンスと言わないでなんと言う。

 

「そういう事だったのか。そしてあいつはもう瀕死体……ッ!!」

 

 俺はリランの背中で立ち上がり、再度両手に剣を抜き、叫んだ。

 

「今だ!! 全員突撃、あいつの弱点を突き、止めを刺せ!!!」

 

 高らかな号令が響いた直後、リランの攻撃に巻き込まれないように後方へ退避していたプレイヤー達――俺の頼れる仲間達は一気に咆哮を上げて、地面へ横たわる《噴火の亀竜》に突撃を開始した。

 

 このボス戦を乗り越えて、世界を脱する一歩を踏み出すため。皆が共通して抱いている意志はそれぞれの武器に光となって宿り、赤、黄色、緑、青、白色、金色といった様々な色が混ざり合った大爆発を《噴火の亀竜》の弱点で起こした。

 

 プレイヤー達の意志による虹色の攻撃。それを弱点に受けた《噴火の亀竜》は大きな悲鳴を上げてとうとう地面に完全に倒れ、水色のシルエットにその姿を変え、やがて無数のポリゴン片となって大爆散した。

 

 《噴火の亀竜》の絶命によって齎された静寂。それを、ボス戦を無事に乗り越えた証である言葉の出現によるSE(効果音)と、プレイヤー達の歓喜極まる声が切り裂いた事により、84層のボス戦は終了を迎えた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。