龍星座の龍峰と双子座のパラドクスの戦いに乱入したのは……?

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聖闘士星矢Ω第33話のif展開的な何かです。懐古厨的過去の美化要素がふんだんに盛り込まれてますので苦手な方は遠慮して頂くのが吉です。


激突!二人の双子座の聖闘士!

「世界は愛に満ちているべきだ。誰もが愛し愛される、そんな幸せな場所であるべきなのだ。……だが、愚かにもこの地上には愛を拒む者がいる。愛することも愛されることも出来ぬ、生きる価値のないゴミ虫どもッ!!」

憎しみのパラドクスの顔が怒りでさらに歪む。

「私の役目はそのような愛の害虫どもを憎み、殺し、世界を愛のみで満たすことだ!」

カッと見開かれた瞳が 龍星座(ドラゴン)龍峰(りゅうほう)を見据える。

パラドクスの拳が振り上げられる。その拳が龍峰を捉えようとしたその寸前で止まる。

「……?」

急に止まった拳に驚きを隠せない。もしや“もう一人のパラドクス”が止めてくれたのか……?

「シンニュウシャ!シンニュウシャ!……」

鳥のけたたましい警告が響き渡る。

誰だ……?ユナか、蒼摩(そうま)か、それとも栄斗(はると)か?

しかし、近づいてくる 小宇宙(コスモ)の感覚がそのどれもを否定する。違う、彼らではない。もっと強大で、圧倒的な小宇宙(コスモ)

「誰だ!この双児宮に無断で立ち入る愚か者は!」

「ここが双児宮だと? フッ……こんなところが双児宮であるものか」

謎の侵入者は鼻で笑う。

よく見れば、その謎の乱入者は満身創痍、服も血に塗れその長い金髪も乱れに乱れている。が、その負傷のダメージを微塵も感じさせぬ力強い足取りで近づいてくる。

「仮にこの紛い物が双児宮だと言うお前の言葉を信じるならば、お前は双児宮を守護する黄金聖闘士(ゴールドセイント)で、身に纏っている聖衣(クロス)双子座(ジェミニ)黄金聖衣(ゴールドクロス)だとでもいうのか?」

「その通りだ!そして貴様が何者かは知らぬが、この双児宮をそのような汚らわしい姿の者に踏み荒らさせる道理はないわ!」

「どうやらまた死に損なったようだ…………いや、女神(アテナ)によって生かされたと言うべきか」

乱入者が女神(アテナ)の名を口にしたことで空気が一変する。

「貴様もあの愚かな女の聖闘士(セイント)だというのか!?」

「フッ、俺は聖闘士(セイント)としては落ちこぼれだ。しかし少なくとも貴様などよりはずっと聖闘士(セイント)らしいがな」

「舐めた口をきくかッ!!」

パラドクスの拳が謎の男に襲いかかる。小宇宙(コスモ)の込められた高速の拳が男に突き刺さる……瞬間、その拳は虚空を切った。

「何ッ! 黄金聖闘士(ゴールドセイント)の攻撃を避ける!?」

予想外の展開に驚くパラドクスの背後から男の声がかかる。

「遅い。その程度の拳で黄金聖闘士(ゴールドセイント)を名乗るとは、黄金聖闘士(ゴールドセイント)の威光も地に落ちたものだ」

振り返れば、いつの間にか男は龍峰を肩に担いでいた。

気が付かなかった。黄金聖闘士(ゴールドセイント)の攻撃を躱すばかりか、気が付かれぬうちにこの手に掴んでいたはずの龍峰を奪い取ったのだ。

「貴様……何者……ッ」

男はパラドクスの問いかけに答えず、龍峰を地面に下す。

「その聖衣(クロス)龍星座(ドラゴン)青銅聖衣(ブロンズクロス)のようだが、……お前は紫龍(しりゅう)ではないな」

「あなたは父を知っているのですか!?」

「そうか紫龍の息子か。よく見れば少し面差しが似ている気もする」

「父を知っていて、黄金聖闘士(ゴールドセイント)の攻撃を避けるあなたは一体……?」

男は龍峰に背を向けて立つとパラドクスを見据える。

「我が名はカノン。双子座(ジェミニ)のカノン!……どうやら未だに女神(アテナ)の愛を踏みにじる恥知らずな聖闘士(セイント)が蔓延っているようだな」

「ジ……双子座(ジェミニ)のカノン……!?」

双子座(ジェミニ)だと!? ふざけるなッ! この世に双子座(ジェミニ)聖闘士(セイント)は、このパラドクスただ一人だけだッ!!」

再び、パラドクスの攻撃がカノンを襲う。しかし今度は避けることをせず、パラドクスの拳を涼しい顔で受け止めて見せた。

「この程度の拳、聖衣(クロス)が無くともこのカノンには通用せぬわッ!」

という言葉と共に、今度はカノンの攻撃が繰り出される。

目にも止まらぬ……いや、目にも()()()高速の拳がパラドクスを捉え、はるか後方へと吹き飛ばした。

「は……速い! 光牙(こうが)のペガサス流星拳よりもずっと……そして、恐ろしく強い……!!」

カノンの繰り出す拳の凄まじき速さと威力に驚愕する。

「当然だ。お前たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)の攻撃など良くて音速超え止まりだが、黄金聖闘士(ゴールドセイント)ともなればその攻撃は光速の域に達する」

光速拳をその身に受け、大きく後退したパラドクスが体勢を立て直す。

「馬鹿な……聖衣(クロス)も身に着けない裸同然の男などにこれほどの力があるなど……。双子座(ジェミニ)を騙るだけの事はあるか……」

「ほう……。多少手加減したとはいえ、我が拳を食らって尚立ち上がるとは。女だてらに黄金(ゴールド)を名乗るのは伊達ではないという訳か」

お互いに相手の実力を侮っていた両者が、相手を相応の敵であると認識する。

双子座(ジェミニ)の名を騙る不届き者め……この愛と運命を司る双子座(ジェミニ)のパラドクスが引導を渡してくれるわ」

「愛だと? フッ、笑わせるな。女神(アテナ)の大いなる愛も感じることのできぬ未熟者が愛を語るとは笑止千万」

「だったら貴様が真の女神(アテナ)の愛とでも教えてくれるというのか? 虫ケラ風情の分際で生意気を! 双子座(ジェミニ)の秘技を食らうがいい……! クロスロードミラージュ!」

パラドクスの必殺技・クロスロードミラージュによってカノンは亜空間へと飛ばされた。

そこではいくつもの星が浮かび、その一つ一つが異なる輝きを放っている。

「見えるかしら? 双子座(ジェミニ)の名を騙る偽物さん。ここはあらゆる分岐点の外側よ。星のように見えるのは無数の分岐点から枝分かれした可能性の世界よ」

いつの間にかパラドクスの髪が濃い黒髪から明るい水色に変わっており、表情も幾分柔和なものになっていた。

「私の能力は運命を司る力。無限の分岐と無限の運命を覗き見るのが私、双子座(ジェミニ)聖闘士(セイント)の力。見なさい」

カノンの傍に一際大きな星が二つ現れる。それは起こり得る未来の姿。相反する二つの結末。

一つは荒廃した大地が映し出され、もう一つに映し出されるのは幸せに満ちた笑顔に包まれた世界。

その内の片方を指し示す。

「あなたにも見えるかしら? あの荒涼とした世界はあなた達がマルス様に反逆して、でも遂には敗れる極めて可能性の高い世界。小宇宙(コスモ)を全て吸い取られた地球に残された人間たちは……。そして……」

パラドクスが指を鳴らすともう一方の世界が映し出される。

「これが愚かな反逆者が居ない、マルス様の理想が完全に実現された世界。火星への移住がスムーズに進んで皆が幸福に暮らせる理想郷。何の不自由もなく、何の不満もない正にこの世の楽園……」

「この程度の幻術(イリュージョン)が通用するとでも思っているのか?」

「イリュージョン? とんでもない、これは確実に訪れる未来よ。破滅か服従か。まぁ選択の余地など存在しないでしょうけど。ちなみに抵抗は無駄よ。運命の分岐に逆らえば、精神と肉体を真っ二つに分断されることになるわよ」

相反する二つの未来がカノンを挟んで正反対の位置までやってくる。

「さぁ、選びなさい。あなたが私に服従するというのなら、マルス様に進言して新世界での生活も立場も保証してあげましょう」

と選択を迫る。が、対するカノンは全く動じた様子もない涼しげな顔のままだ。

「フッ、愚かな。マルスとやらがどのような輩かは知らぬが、そのような戯言に心が僅かでも動くと思ったか? 女神(アテナ)に仕え護る聖闘士(セイント)でありながら女神(アテナ)に背く人間の言葉のどこに真実があるというのだ」

「何っ!?」

「残念だがこのちゃちな幻術(イリュージョン)によって作り出されたまやかしの未来など、訪れることなど決してありはしない」

体が真っ二つに引き裂かれるどころか、逆にカノンが指を鳴らすと二つの未来は粉々に砕け散っていった。

「なかなかやるようね……でも、それではクロスロードミラージュを完全に破った事にはならないわ。なぜなら、この亜空間に出入りできるのはこの私一人。このままここに置き去りにすれば簡単にあなたを簡単に無力化できるのよ」

「…………」

「あら、恐怖で声も出ないのかしら? まぁ、私の愛しの龍星座(ドラゴン)の子との愛の語らいを邪魔した事をここで死ぬまで後悔するがいいわ」

そう言い残してパラドクスは亜空間から姿を消した。後に残されたのはカノンと静寂の亜空間だけ。

カノンを亜空間に取り残して一人戻ったパラドクスは再び龍峰に迫る。

「さぁ、あなたにもう一度選択のチャンスを与えましょう。反逆して惨めに死ぬか、それとも……」

彼女の言葉を遮るようにまたしても双児宮内に龍峰の物でも、ましてやパラドクスの物でもない小宇宙(コスモ)が充満する。とても攻撃的で、とても尊大で、そして恐ろしく強大な小宇宙(コスモ)

「まさか、あの男が……馬鹿な、あの程度の男に亜空間を自力で脱出する力があるはずがない!」

そんなパラドクスの自信を打ち砕くように再びカノンが双児宮に現れた。

「お前、どうやってあの亜空間から抜け出したというのだ」

「あの程度の亜空間を抜ける事など造作もない。最も、このカノンを封じたければ神の力でも使わなければ無理だがな」

まるで服についた誇りでも払うかのような余裕の仕草を見せるカノン。その姿を見るうちに、パラドクスの脳裏によぎるものがあった。

「カノン……そうか、あなた()()カノンか。聞いたことがあるわ」

「ほう、俺を知っているというのか」

「ええ、カノン……先代の双子座(ジェミニ)黄金聖闘士(ゴールドセイント)サガの弟にして海皇(ポセイドン)に寝返った裏切り者。女神(アテナ)の怒りを買い死んだ筈……。そんな男が女神(アテナ)の愛を語るなど、それこそ笑止千万じゃあないの!」

己に関する記録の不確かさにカノンは思わず笑う。

「フッ……。確かにこのカノン、生まれながら悪の心しか持たず、兄のサガに悪を吹き込み聖域(サンクチュアリ)を乱す原因を作り、海皇(ポセイドン)を操り地上の支配を企みもした」

「ほら見た事か。そのような人間が一端の聖闘士(セイント)を名乗ろうなど自惚れが過ぎるわよ」

「しかし、女神(アテナ)はこんな愚かな自分ですら許し、愛してくれていたのだ。今、ここにこうして立っていられるのは女神(アテナ)の愛の加護があってこそ」

カノンは拳に力を込めて言う。

「だからこそ、残りの命全てをかけて女神(アテナ)の愛に報いるため、女神(アテナ)の正義を貫くための剣として戦い抜くだけだ!」

「そんなことであなたの罪が帳消しになるとでも思って?」

「罪は罪だ、決して消えはせぬ。必ず裁きを受ける事になるだろう。だがそれも全ての悪を地上から消してからだ。その後喜んで裁きを受けよう!」

カノンが構える。それに呼応するようにパラドクスも構えに入る。

「先程のクロスロードミラージュとかいう技、なかなか楽しませてもらったぞ。今度は礼に伝説の魔拳をお見舞いしてやろう」

「伝説だと? 見え透いたハッタリだこと。今度は本気のクロスロードミラージュで完全にとどめを刺してあげるわ! もっとも、あなたの攻撃はすべて予測済み。どんな選択をしたところで私には通じないわ」

「良かろう。ならば見るがいい……伝説の魔拳を!!」

二人の双子座(ジェミニ)聖闘士(セイント)が同時に技を繰り出す。そしてまたもや二人はパラドクスの作り出す亜空間へと戦いの場を移した。

「何が伝説の魔拳なのやら。やっぱり私の技の方が威力が上だったようね」

「それはどうかな……?」

「何!?」

亜空間の中でパラドクスと同等以上に自由に動くカノンの姿に驚く。

「お前、どうやってこの空間で動けるというのだ」

「ここはあらゆる分岐の外側とか言っていたな。ならあれがお前の分岐点か」

カノンはパラドクスの言葉に耳を貸さず、勝手に亜空間に散らばる星々を眺めている。

「お前は全ての分岐点を覗き見ることが出来ると言ったな。ならばお前は自分にとって最良の選択をしてきたのか? 聖闘士(セイント)として、いや人として恥じる点の無い人生を選択してきたのか?」

「ぐっ……」

亜空間を漂うカノンから投げかけられる言葉と眼光の鋭さにパラドクスはたじろく。

「貴様にわかるものか! 特異な力を持ったために疎まれてきた私の痛みが、そしてどんな力を持とうとも決して選ばれることの無い人間の苦しみが!!」

見る間にパラドクスの髪の色が変わり、それまでの明るい色からドス黒い色へと変貌する。

「わかるさ。俺も優秀すぎる兄を持ったために、どんなに己の力を高めようとも日陰の道を歩む事を運命づけられたのだからな」

「なんだと……!」

「しかしお前の人生、見事なまでに事無かれ主義だな。自分が傷つくのを恐れ、自分の心を守る選択ばかりしている。そしてそれが最善の選択であったと自分に言い聞かせ慰めてばかりだな」

「う、うるさい! 黙れ黙れ黙れ!!」

「お前は全ての攻撃を予測済みと言ったな。ならばお前にこの技が避けられるかな?」

カノンがパチンと指を鳴らすと、パラドクスの周りに二つの大きな星が現れた。

「これは……まさか……ッ!!」

「お前に待っている未来は二つ。俺と戦い敗れ去るか、それとも降伏するか、二つに一つ。そうら、自分の技を食らうがいい」

「ふ……ふざけるな! どちらを選ぼうともお前に負ける選択しかないではないか!」

「当然だ、黄金聖闘士(ゴールドセイント)を敵にした者の末路は一つしかない。自ら負けを認め降参するか、それとも戦って死ぬか。いずれにせよお前には敗北以外の未来は存在しない」

「そんな……そんな未来など認められるものか!」

「お前が認める認めないは関係ない。……そうら、運命に逆らえばお前はこの場で真っ二つだぞ」

必死に抵抗するパラドクスの体を分断するように縦にまっすぐ光の亀裂が走る。

「馬鹿な……この私が……馬鹿なぁぁぁぁっっっ!!!」

壮絶な断末魔が亜空間に木霊する。体が分断どろか四散して粉々に砕け散った肉片が亜空間中にばらまかれた。

「……はッ!? い……今のは一体?」

体が千々に砕かれて死んだと思った瞬間、気が付けばそこは双児宮であった。パラドクスは慌てて自分の体を触る。四肢に異常はない。

手も足もきちんと繋がっている。それどころか髪の毛一本たりとも傷ついていない。

「い、一体何が起こったんだ? 二人が技を出したと思ったら、次の瞬間にはパラドクスが膝をついた……? 何が起こったのか全く見えなかった……」

「何……? 今のが全て幻覚だとでもいうのか……?」

「そうだ、これこそが伝説の魔拳・幻朧魔皇拳。もっとも今、貴様に食らわせたのは幻覚を見せる幻朧拳、しかも精神を傷つけぬように手加減をしてやったがな」

「手加減だと? 黄金聖闘士(ゴールドセイント)相手に随分と余裕なものだな。だが……」

パラドクスが構える。

「その思い上がりが命取りだ。所詮は相手に幻覚を見せるだけの拳、しかも手加減などせずに止めを刺せば良いものをみすみす勝機を逃すとはな!」

「思い上がり? フッ、お前程度など、いつでも倒せる」

「ほざけ! もう容赦はしない、貴様を私の最大最強の拳で完全に葬り去ってくれるわ!!」

決着をつけるべく必殺の構えに移るパラドクス。対するカノンはまるで柳に風と言った様子で静かに佇んでいた。

「次代の龍星座(ドラゴン)聖闘士(セイント)よ、よく見ておくがいい。お前が真に女神(アテナ)の為に戦い抜くというのならば、必ず越えなければならない壁がある」

「そ、それは一体……」

「人間の五感──視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚、そしてそれを超えた勘や直感と言った第六感、そして更にそれを超えた所にある超感覚、それこそが第七感(セブンセンシズ)!」

「セ、第七感(セブンセンシズ)……?」

「そうだ。五感そして第六感を極限まで研ぎ澄まし、己の限界を超えて小宇宙(コスモ)を燃焼させた聖闘士(セイント)のみが辿り着ける境地。そしてこの先、女神(アテナ)の盾となり剣となり、全ての邪悪を打ち滅ぼす為には必ず会得しなければならない奥義だ」

ゆっくりと、龍峰に見せつけるようにカノンが構えをとる。

「そ、それを会得すれば、この先に待ち受ける黄金聖闘士(ゴールドセイント)にも勝てるようになるんですか!?」

「勘違いするな。第七感(セブンセンシズ)は単なる入口にしか過ぎない。なぜなら第七感(セブンセンシズ)に目覚めるのは黄金聖闘士(ゴールドセイント)への第一条件でしかないからな」

「そ……それじゃ……」

「だが案ずるな。お前が真に女神(アテナ)の為にのみ戦う聖闘士(セイント)であるならば、女神(アテナ)の正義がお前を勝利に導くだろう」

「ゴチャゴチャとうるさい奴め、説教ならあの世で存分にやるがいい! ファイナルデスティネーション!!」

パラドクスの左右に双子座(ジェミニ)の善と悪の面が現れ、その両方から強烈な小宇宙(コスモ)がカノンめがけて放たれる。

その小宇宙(コスモ)はまるで網のようにカノンの体を捕え、強烈な衝撃を与える。

「私が司るのは愛の終わりと運命の終わり、即ち憎しみと……死だ! 貴様の言う女神(アテナ)の愛の終焉と供に貴様の運命も失うのだ! 木端微塵に砕けて消えるがいい!!」

止めとばかりにパラドクスが力を込める。しかしファイナルデスティネーションをその身に食らいながらもカノンは一歩も引きさがりなしない。

「俺はまだ死なぬ! そして女神(アテナ)の愛も……決して消えはせぬ!!」

カノンの体から小宇宙(コスモ)が立ち上る。今まで龍峰が、いやパラドクスですら感じたことの無い位の、恐ろしいまでに強大で底知れぬ量を持った小宇宙(コスモ)

そしてその小宇宙(コスモ)には双子座がハッキリと浮かび上がる。

「よく見るがいい、新世代の龍星座(ドラゴン)よ、そして双子座(ジェミニ)よ。これが第七感(セブンセンシズ)を……小宇宙(コスモ)の奥義を極めし黄金聖闘士(ゴールドセイント)の拳だ!」

膨大な量の小宇宙(コスモ)にパラドクスの必殺拳ファイナルデスティネーションは破られ霧散する。それでも尚カノンの小宇宙(コスモ)は更に強さを増していく。

「これは……空気が、いや、この双児宮が震えている! カノンの小宇宙(コスモ)の余りの強大さに、宮全体が震えている!!」

「馬鹿な……! これほどの小宇宙(コスモ)を燃焼させられる聖闘士(セイント)が居るなど……!!」

ゆっくりと、とてもゆっくりとカノンが構えをとる。いや、実際にはもっと早いのかもしれない。

しかし、その小宇宙(コスモ)の強大さに完全に飲み込まれてしまった龍峰とパラドクスにとっては、それが非常にゆっくりとした動作に感じられた。

「見るがいい……星々の砕け散る様を!」

カノンの背後に立ち上る小宇宙(コスモ)……いや、それは最早小宇宙(コスモ)ではなく銀河そのものと言えるほどの大きさにまで膨れ上がったモノが、一気に押し寄せてくる。

 

「ギャラクシアンエクスプロージョン────ッ!!」

 

今や完全に双児宮を覆い尽くしたカノンの小宇宙(コスモ)──いや、銀河が一斉に崩壊を始める。星々は砕け、空間がねじ曲がる。

星を砕くエネルギー、それどころか銀河が消し飛ぶほどのエネルギーの奔流がパラドクスに襲い掛かった。

パラドクスも必死に小宇宙(コスモ)を燃焼させて防ごうとするがまるで焼け石に水、全く歯が立たずにその膨大過ぎる破壊のエネルギーの渦に飲み込まれてしまった。

銀河を砕くが如き攻撃、まさしく“ギャラクシアンエクスプロージョン”の名に恥じぬ威力の拳をその身に受けたパラドクスは抗う術なく天空高く吹き飛ばされ、そして地面に激突した。

「こ……これが双子座(ジェミニ)の……、黄金聖闘士(ゴールドセイント)の拳……」

地に倒れたパラドクスの元にカノンが近づく。

「我が最大の拳を受けながらも、お前がまだ生きている理由がわかるか?」

「…………」

「その双子座(ジェミニ)黄金聖衣(ゴールドクロス)が、……そして女神(アテナ)の愛がお前を守ってくれたのだ」

女神(アテナ)の……愛……」

「そうだ。女神(アテナ)の愛は無限だ。例え背こうとも牙を剥こうとも、お前が女神(アテナ)聖闘士(セイント)である限り、決して女神(アテナ)の愛は失われはしない。常にお前の傍にあり、お前を護っているのだ。今ならばお前にも感じることが出来るだろう、お前に寄り添い包み込む女神(アテナ)小宇宙(コスモ)を」

「ああ……、これが、この神々しい小宇宙(コスモ)女神(アテナ)小宇宙(コスモ)女神(アテナ)の愛……!」

つーっと、パラドクスの頬を一筋の涙が伝う。

「これが……この暖かさが真の愛……」

自然とパラドクスは笑い出す。それは嘲るでもなく邪悪を孕むでもない、とても穏やかな笑い。やがてパラドクスは上体を起こすと、今までとは打って変って憑き物が落ちたような穏やかな表情でカノンを見つめる。

「……参ったわ、降参よ。私の負け。どうやら私は黄金聖闘士(ゴールドセイント)とは名ばかりの、女神(アテナ)の事を何もわかって居ないヒヨッコだったみたいね」

「パラドクス……」

「私はマルス様の……いえ、マルスの恐怖に負けたわ。私では絶対に勝てないと諦めてしまった。女神(アテナ)の力を信じることが出来なかった。でもあなた達ならきっと……、愚直なまでに真っ直ぐに、ただ女神(アテナ)を信じる事の出来るあなた達ならばきっとマルスを……」

「当然だ。そのマルスとやらが女神(アテナ)の敵であるならば、ただ滅ぼすのみ!」

踵を返し、次なる宮へと向かおうとするカノンをパラドクスは呼び止める。

「待って! 確かにあなたは強い、それも底知れぬ程に。でも今のままではきっとマルスには負けてしまうわ。だってあなたには決定的に足りていないものがあるのだから」

「それは何だ?」

「それはこの聖衣(クロス)双子座(ジェミニ)黄金聖衣(ゴールドクロス)よ」

パラドクスは傷ついた体を何とか立ち上がらせると、カノンに寄り添うようにもたれかかる。

双子座(ジェミニ)黄金聖衣(ゴールドクロス)よ……、元の主に、本当の女神(アテナ)聖闘士(セイント)に力を貸して頂戴」

その言葉とともに彼女の体から聖衣(クロス)が弾けるように脱げていく。

そして一度、空中で二人の人間が背中合わせになったような双子座を模したオブジェの形態をとると、再び弾けるように各パーツに分かれてカノンの体に装着された。

パラドクスが身に着けていた時とはデザインの異なる姿でカノンの体を包み込んだ双子座(ジェミニ)聖衣(クロス)は、更に輝き増していく。

「行くぞ龍星座(ドラゴン)よ。女神(アテナ)を護るために、(マルス)を打ち滅ぼす為に!」

「はい!」

駆けていく二人の後姿を見つめながらパラドクスはつぶやく。

「私は今まで、辛い運命から逃げ続けていたわ。でも、それも間違いじゃないかった。だって、こうして(カノン)に出会えたんだもの。私に本当の愛を教えてくれた人、そして私の人生で一番大切な人……」

 

─完─




聖闘士星矢のキャラの中で一番好きなキャラと、そのキャラの星座を受け継いだ次世代の聖闘士の夢の対戦を主題に書きました。
欲を言えばパラドクスがもっと強キャラだったら良かったのですが、まぁ劇中であんまり強そうではなかったのでこのSS内でも結構弱く描写される事となりました。それを不快に思う方もいるでしょうが一ファンの駄文なので笑ってスルーしてください。
あと、ネタを勢いに任せて書いたので各所で設定の食い違いや記憶違い、不自然で強引な展開が頻発してると思いますがそれも笑ってスルーしてください。
それでは最後に、こんな私の拙い二次創作を読んでくれた総ての方に心からの感謝を込めて後書きの締めとさせていただきます。
どうも有難うございました。
それではまたいつの日か、違うSSで皆様の目に触れる機会が訪れることを願って。


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