極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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七喰目

「あー……あぁぁぁ……あー……あー……愉しみすぎて早く殺しちゃった……。まぁ……いいよな……どうせヒバりんがデータ取ってるんだし。報告書とか焚火の材料にしかしねぇし。まぁ、文句があるならあるからこれでいいや。はぁ、アラガミ殺した後は軽く賢者タイム入るな―――とか言ってるから何時まで経ってもヤバイ奴扱いなんだろうけど」

 

 頭を掻いてから視線を周りへと向ける。文化遺産として存在していた清水寺はもう完全に破壊されており、その姿はただの廃墟でしかなかった。もはやここに文明があった、と言われても信じる事が全くできない程に破壊がここで発生されていた。ただ、それはもういい。文化の形が一つ消えてしまったが、これもまた生きるという事だ。まだ別の形で文化が残っているのだからセーフ、という話だ。

 

『―――此方フェンリル極東支部オペレーターヒバリです。ホムラ少尉、聞こえますか? 其方のバイタル値からして戦闘は終了しているのだと思いますが―――』

 

「あ、ごめんヒバりん? 終わった終わった。予想外に強かったわ。だけどやっぱカスい。生存本能しかなくて殺意が足りないわ。もっと、こう……いや、いいわ。ヒバりんに言ってもどうせ理解は出来ないだろうし。まぁいいや。とりあえずコアは無傷で確保、素材に関してもバクバク捕食してお腹がいっぱいだぜ」

 

『把握しました。ヘリコプターが数分以内に到着するはずなのでそれに搭乗してください。あと追加の任務が発生したのでアナグラへと帰還せず、そのまま次の任地へと向かう事になります。ここで了承して貰いますが宜しいでしょうか』

 

「任務拝承、拝承。んで、何処へ向かえばいいのん?」

 

 ヘリコプターのプロペラ音が響いてくるのが聞こえる。視線を上空へと向ければそこにはヘリコプターの姿が見える。上空五十メートル程の高さでホバリングしているヘリコプターへと視線を向け、強く大地を砕く様に蹴り、飛び上る。失速する体を空を蹴る事によって再び加速し、そのまま開きっぱなしになっているヘリコプターの扉を掴む。

 

 体を片手で持ち上げて支え、ヘリコプターの中へと入るのと同時に、ヒバリからの声が来る。

 

『―――第二接触禁忌種ヘラのコアをフェンリル本部直轄研究機関フライアへと送り届けてください』

 

 

                           ◆

 

 

 移動する要塞が存在する。様々な地域をその環境を無視し、尚且つアラガミに対する攻撃力と防御力を持った移動型拠点。それは”とある”計画の為にフェンリル本部直轄の下に作成された支部であり、移動を行う事によって場所を特定されず、任務を遂行する事ができる様になっている。即ちフライアとはフェンリルの中でも”最も酷い”研究を行う場所だと言っても良い。だが同時に最高の技術者と、最高の設備が揃ってる楽園だとも表現できる。

 

 海を越え、荒野を止まることなくは走り続けるフライアの巨体をヘリコプターの内部から目撃する。巨大で平坦な列車の上に都市が一つ乗っている。外から見たフライアの姿はそういうものになる。かなりの巨体を誇るフライアにはそれなりの数のゴッドイーターと、そしてそこに住んでいるサポート職員が存在する。

 

 ―――少なくとも数千人は軽く収容している。

 

 そんなフライアの姿を見る。何時の間に人類はこれだけの技術を、そして作成するだけの力を得たのだろうか。アラガミに邪魔されずにこれだけのものを作成するのにどれだけの犠牲があったのだろうか。

 

「少尉、もうそろそろフライアに到着しますが傷の方は大丈夫ですかね?」

 

「ん? あぁ、気にすんなよ。回復剤ゴリゴリ食ったからもう傷はふさがってるし、この鎧もアラガミ鋼で作ってあるからな、時間さえありゃあ勝手に修復する様に出来ているよ。再生能力を取ったおかげで強度は普通の金属程度しかないんだけどな……まあ、問題ないさ」

 

「了解です。では誘導に従ってヘリポートに下ろしますぜ!」

 

 ヘリコプターがゆっくりとその速度を落としながらフライアの上空へと接近する。旋回しつつ慣れた様子でパイロットがヘリコプターをヘリポートの上へと着陸させる。完全にヘリコプターが止まったところで、扉が外から開かれ、フェンリルの職員用正式制服を着た人員によって迎えられる。敬礼をしながら此方を迎える姿に、片手で手を振る事によって敬礼が必要ないと示す。

 

 そのままヘリコプターから降りる。

 

「ようこそフライアへ! 歓迎します暁ホムラ少尉!」

 

「御託は良い。それよりも」

 

「はい、此方です」

 

 そう一人が答えながらケースを取り出す。開かれたケースの中には”何か”を保管する為のスペースが存在している。それがなんであるかはよく理解している。そのまま左手をケースの中へと入れ、捕喰して取り込んでおいたヘラのコアを神機に吐きださせ、ケースの中へと落とす。コアはアラガミの心臓に当たる部位だ―――これ単体でも生存している様な状態だ。その為、神器からコアを吐きだすのと同時に手をひっこめ、そしてケースが閉められる。そのまま封印処理が施される。

 

 新型のアラガミのコアは大君の技術の発展に使われる。このコアもフェンリルに利益を与えてくれるだろう。

 

「任務ご苦労!」

 

「ありがとうございます! つきましてはグレゴリー局長閣下が極東のエースとぜひお会いしたい、と言っています」

 

「……解った、案内を頼む」

 

「ありがとうございます。此方へどうぞ」

 

「少尉ー! 俺は燃料補給して何時でも動かせるようにしておきますぜー!」

 

 ヘリパイロットに振り返って手を振ってからヘリポートの隅にあるエレベーターへと職員に案内される様について行く。会いたい、とは言っているが事実上の命令だ。少尉程度では支部長や局長クラスの権限に逆らう事は出来ない。だからもし頼み事、或いは希望でもあった場合はそれを断る事は出来ない。流石に理不尽な命令であった場合はヨハネスの威光で断る事もできよう。しかしこれぐらいは特に問題ない。実害はないのだから。

 

 そんな事もあり、エレベーターに乗って数秒が経過すると、軽い振動と共にエレベーターが停止し、扉が開く。その向こう側に見えるのは赤いカーペットの敷かれた整った、綺麗な通路だった。アナグラの支部長室があるフロアであってもこれほどの豪華さはない。まっすぐ正面にある大扉がおそらく、局長室なのだろう。……その横にある扉の存在には少々気が向くも、それを無視して前へと進む。

 

 そして局長室の前で足を止められる。扉の前に立つ護衛の姿がそこにはあるからだ。

 

「―――武装の解除をお願いします」

 

「局長に危害を―――」

 

「武装の解除をお願いします」

 

 そう言っている間に神機保管箱を台車に乗せて運んでくる別の者の姿がある。装備を外さない限りは会えない、という事なのだろう。しかし呼び出しておいてこの態度は面倒だ。いっそこのまま帰ろうかと思ったが、それでは相手の面子を潰すだけだ。その場合極東支部そのものが敵対認定されてしまいそう……というよりヨハネスへと迷惑がかかる。故に諦める。

 

 ―――訳がない。

 

「ん? じゃあ俺はここから動くの止めるわ。いやぁ、残念だわ。局長って俺に会いたかったんでしょ? いやぁ、超残念だわぁー。あー! 局長! 中にいますかー? 聞こえますかー? ちょっとこの人が通してくれないんですよー! いやぁ、味方に裏切者がいるかもしれないなんて事を疑うなんて恥知らずな野郎もいたものだ! お兄さんおこになっちゃうぞ!」

 

 なお裏切者を疑うのは当然のことである。

 

「え、いや、あの、これは規則でして……」

 

『何やってるんだ! 呼び出したんだからさっさと中に通さんか!!』

 

 扉の向こう側、おそらくはグレゴリー・ド・グレムスロワ局長がそう叫んだのだろう。護衛は顔を見合わせると困ったような表情を浮かべ、そしてそこから諦める様な表情を浮かべる。さり気なく銃を握り、何時でも発砲できる様に構えているのは最低限の警戒、といった所だろう。そのまま此方へと恨む様な視線を向けて扉を開く。

 

 その向こう側にあるのはヨハネスの支部長室よりも遥かに広く、そして綺麗に整頓された部屋だった。今では珍しい木のデスクの向こう側にはフェンリルの高官用の制服姿の太った中年の姿がある。グレゴリー・ド・グレムスロワ、このフライアのトップである人物。その話は度々ヨハネスの口から、そしてサカキからも聞いている。このフライアのパトロンである富豪だ。

 

 部屋の中ほどまで進み入ると背後で扉が閉まる音がする。しかし人の気配が減らないのは護衛が一緒に入室したからなのだろう。ともあれ、それを気にする事無くグレゴリーへと視線を向ける。椅子に座り腕を組むグレゴリーは値踏みする様な視線を此方へと遠慮なく向けてくる―――少々不快ではある。

 

「ほう、貴様が極東の怪物の片割れか。初めて実物を見るが評判通りの様だな?」

 

「これはこれは局長閣下、辺境でアラガミを殴るしか能のない少尉如きを気にかけてくれるとは嬉しいですねぇ。まぁ、きっとそんな事が出来る局長閣下にはそれだけの時間があるのでしょう。羨ましいですねぇ、調べ物をする程度の時間があるのは」

 

「噂通り初対面の人間であろうと皮肉や煽りを叩きつける問題児であるのは理解したぞ。……が、許そう。私は無能や戦うだけしか出来ない屑に興味はない。が、貴様は私の利益を生み出す事の出来る者だ。ならば寛大な心を持って受け入れてやろうではないか? ん?」

 

「引き抜きですか」

 

「そうだ。極東フェンリル支部の戦闘データは見せてもらった。その中でも雨宮リンドウ、暁ホムラ、そしてソーマ・シックザールの戦績はとびぬけていると言っても良い。おそらく貴様ら一人が死んだところで極東は揺らぐことはない。二人消えたところで情勢は変わらない。貴様ら三人はそれほどに極悪と評価できる成績を残している。故に欲しい。私個人の護衛だけではなく、ここ、フライアの研究に使える人員の一人としても欲しい。それだけの腕前があれば百人近いゴッドイーターを首にした上で経費削減できる。―――詰まる所、貴様に対して少々媚びた方が全体の利益としては旨いという事だ」

 

 成程、リアリストであり利益主義者だと判断する。

 

 この男の前評判は利己主義―――自分の利益につながる事であればそれを優先するとの事だが、それ以上に周りがちゃんと見えているのかもしれない。少なくとも他人を正しく評価できる、という事は決して無能ではない。パトロンという立場を考えるのであれば戦況、経済、そして評価を最低で正しく出来なくてはならない。

 

 まぁ、

 

「お断りします。極東の中でも地獄と評価できるような場所でアラガミを皆殺しにして、そしてそれが終わったら自分の部屋でディープ・パープルを聞きながら酒を飲む毎日を愛しているんですよ。自分よりも遥かに強い筈の超越種を上から見下ろす感覚、何度やっても気持ちが良いんですけど、これが更に数で固まって来たのを殺し尽したときはまた別格ですよ」

 

「貴様ら戦狂いと違って金勘定しか出来ない私には理解が出来ないし、知りたくもない事だ。しかしそれとは別に此方にも貴様を必要とする理由があるのだ。此方でもある程度の待遇を用意する。此方へと所属を変える事は無理でも三ヶ月……いや、二ヶ月はどうにもならんのか?」

 

 口に出す事もなく、意外と粘る、と評価する。前評判通りであれば最初に言葉を飛ばした時に逆上して追い出されるかと思っていたのだが、この男、意外と”やる”かもしれない。いや、ただの無能がフライアなんて機密の塊で局長をするわけがないだろう。となるとある程度の悪評を流しているのかもしれない。

 

 まぁ、興味のない話だ。

 

「極東でアラガミを殺す事を生きがいにしているんだ。フライアなんて退屈な場所へ呼ばれても正直困る。頼むならリンドウかソーマを頼んでほしい。あちらも所属の変更は無理でも数か月ぐらいなら了承する筈―――」

 

 と、言葉を続けようとしたところで優しくコンコン、と扉を叩く音がする。

 

 そして、

 

「―――失礼します」

 

 響いて来たのは女の声だった。

 

 ―――知っている気配だ。

 

 そんな思考に振り替える事無く言葉を閉ざすと扉が開き、そしてきこきこ、と車輪の回る音が聞こえる。何かが、誰かが横まで迫ってくる。その気配に決して視線を向ける事も、振り返る事もなく黙っていると、横から女の声が聞こえる。

 

「グレム局長、ここはどうか私に説得をお願いさせて貰えないでしょうか」

 

 その声にグレゴリーはそうだな、と言葉を置く。

 

「願いを出したのも貴様だし、確か旧知の仲だったな」

 

 そこで横へ視線を向け、見る。

 

「―――ラケル・クラウディウス博士」




 グレゴリー・ド・グレムスロウ(45歳)
  脂の乗ったおっさん。これでパパネスと同い年だというのだから驚き。そして娘のいるパパでもある。パパネスとグレム、人気の差。えぇ、悔しいでしょうねぇ、同じ属性もちなのにこの差は。

 アナグラ所属のパイロット君(24歳児)
  尊敬する人はルーデル閣下。見習って毎朝牛乳を飲んでいる。ヘリパイロットにとって飛行中のザイゴートやサリエル接触は死を意味するが、ヘリのプロペラに巻き込んで応戦するという革新的過ぎる戦術を生み出す事によって克服した24歳児。やはり極東はおかしかった。鍵はヘリの無断改造にあったらしい。

 リンドウくんとソーマくんとホムラくんは大体同格。極東三天王。なおアラガミスレイヤー合流予定。

 次回、愛と憎しみと愛と殺意と殺意と殺意の再開の殺意。喪服か鎧、先に捕喰されるのはどちらだ。

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