極東は今日も地獄です   作:てんぞー

6 / 27
六喰目

「旧京都エリア上空に到着しました。目標である第二接触禁忌種”ヘラ”はかつては清水寺と呼ばれた寺院を拠点にしている様です」

 

「了解、了解。……ヒッバりーん、聞こえるー? ホムラくん出撃するぜぇ」

 

『どうぞ、此方でも追っていますが……』

 

「何時も通り交戦エリアに予定外の侵入があった時だけ伝えればいいよん」

 

『了解しました。それでは武運を祈っています』

 

 ヒバリからの通信が切れる。これで交戦エリアに想定外の大型アラガミの接近がない限りは連絡を入れないだろう。その方が個人的には集中できる。ヒバリの声に癒されるのは戦闘後とか、そんな時で良い。

 

 ヘリコプター内の椅子から立ち上がる。

 

 アナグラからヘリコプターで移動して数時間、空を回遊しているアラガミを避ける様に移動したために少々時間はかかったが、それでも京都上空へと移動する事を完了した。そこから眼下に広がる廃都を眺め、そして自分の装備を確認する。挑発フェロモンは何時でも使える様に腰に、他の摂取型の道具は神機に直接組み込んである。戦闘中、神機と繋がっている為、神機へと捕喰させる―――そうやって一体化している体へとその効能を直接流し込む。

 

 手を使う事無く消費出来る為、一手開く。便利なシステムだ。こういう便利な機能をあっさりと作れる辺り、サカキ博士もまあ違いなく有能、というよりは現場の意見を聞いて直ぐに反映してくれるのが感謝できる。

 

 ともあれ、消耗品も神機も全て準備が整った。なら遠慮する必要はない。清水寺にいるヘラの姿も双眼鏡を通して確認する事が出来た。ならばあとはアラガミを討つのみとなる。だからヘリコプターが高度を下げる前に、その扉を開き、

 

 そして飛び降りた。

 

 重量と高度で一気に体は地上へと向かって落下を始める。その間に神機に組み込んだ強制解放剤を投与し、神機解放状態へと覚醒させる。数百メートルの落下が終わる直前、足元の空間を蹴り、空中ジャンプを行う事で速度と衝撃を殺し、半径二十メートル程のクレーターを生み出す程度の衝撃で清水寺の入り口近くに着地する。その衝撃で既に半壊だった鳥居や足場が完全に粉砕されてしまったが、これも全部アラガミってやつが悪いのだ。

 

 俺は悪くない。

 

 視線を周りへと向け、そして上へと向ける。そこには此方の出現に対し反応し、噛みつこうと飛びつくオウガテイルの姿があった。その姿に拳を突き出し、肩までを飲み込まさせてから握った拳を広げ、良く把握しているオウガテイルのコア、その位置を内部から握りつぶして拳を引き抜く。そのまま一旦オウガテイルを床に落とし、その尻尾を握りつぶす程強く握る。

 

 食い込んだ神機がオウガテイルの中身と接続し、コアのなくなったオウガテイルの肉体を支配する。その表面は神機の様に黒く変色し、そして硬質な金属質な色へと変化する。それを軽く振り回し、フレイルの様な使い心地を確認した。肩に担ぐようにオウガテイル=フレイルを担ぎ、そのまま歩いて清見寺、その奥の清水の舞台へと向かう。既に到着してから感覚にアラガミの反応が引っかかり続けている。

 

 待ち構える様に清水の舞台にいるアラガミ、それは間違いなくヘラの存在だろう。

 

 何をするのでもなく、待ち構えるという行動に少々興味が湧く。

 

 故に歩いて、向かう。かつては美しさと歴史から多くの人々でにぎわったこの寺も、もはや崩壊した文明の欠片しか見せてくれない。いたるところに瓦礫や土砂が、そして染みついたような血の跡が存在している。アラガミが人類を襲った日、ここもまたその被害を直撃されたところなのだろう。

 

 そんな事を思いつつ境内を歩き、そして清水の舞台へと続く道を上がって行く。そこへと近づいて行くたびに少しずつ気分が高揚し始める。歩く度にガシャン、カシャン、と音を立てていた鎧からは音が消え去る。歩き、近づいて行く体からは気配が消え去り、超重量の鎧を身に纏っているのに一切の気配も音もしない、という異常な状態へと突入する。長年の経験と鍛錬は環境や才能、そして生物としての素質をあっさりと凌駕する。

 

 生まれた時から最強の生物として生み出されたアラガミでさえ、寄せ付けない程に。

 

 そのまま坂を、階段を、そして道を行き、崩壊した清水の舞台に到着する。見当違いの方向へと視線を向けているシユウに近い姿を持った黒い、女型のアラガミ―――ヘラの姿がそこにあった。報告が正しければ炎を使うアラガミであり、炎とシユウ種特有の格闘能力を合わせて攻めてくる。安易な接近戦を挑めば即死できる―――それが交戦し、生き残ったゴッドイーターからの報告だった。

 

 個人的にそれに関しては、

 

「―――ハロー、ハロォ―――!! 待たせたかなぁ!」

 

 どうでもいい。

 

 だから気配の遮断を解除し、ヘラが此方を認識できるその瞬間に、オウガテイル=フレイルを頭の横へと全力で叩き込む。舞台であった物の瓦礫を粉砕しながらワンバウンドし、ヘラの姿は吹き飛ぶ。それと同時に鈍器に使用したオウガテイルの頭がザクロの様に粉砕しており、もはや使い物にならなかった。それを投げ捨て、自然に分解される事に任せながら、殴り飛ばしたヘラから散った小さな頭の破片を右手で掴み、

 

 捕喰する。

 

 再び神機解放状態に突入し、起き上がるヘラを見る。アラガミに感情があるかどうかは知らない。少々興味のある事だが、少なくとも見た感じヘラには怒りのような気配を感じる。そしてそれを抱くのと同時に、ヘラが正面に一メートルを超えるサイズの火球を生み出し、それを此方へとはなって来る。正面から放たれる火球を左手の裏拳で殴り飛ばしつつ、そのまま一気に前へと踏み込む。足場である木材が既に腐っているのか踏み抜いた足場が盛大に崩壊する。だがそれを気にする事無く接近し、

 

 ヘラをアッパーで殴り飛ばす。

 

「新種なんだって? 討伐部隊に勝ったんだって? 調子に乗った? 調子に乗れたか? いや、どうでもいいよな! さあ、苛烈にデートをしょうぜぇ!」

 

 殴り飛ばされたヘラが赤く発光し、その周囲に炎のバリアの様なものを張る。それに気にする事なく飛び上り、ヘラの体に追いつく。その熱は鎧越しに肌を焼いてくる。また火傷が増えそうだと思いつつも躊躇する事無くヘラの頭を掴み、そのまま大地へと向けて投げ飛ばす。

 

 それをヘラが途中で回転しつつ受け身を取る事で回避する。その行動を狩る為に踵落としを繰り出す。それをヘラは両手を交差させ、踵を掴む。そのままヘラの手に炎が灯るのが見える。それから逃れる為に体全体を捻り、開いている左足でヘラの頭に向けて蹴りを繰り出す。轟音と共に蹴りがヘラの頭に命中する。

 

 しかし、ヘラは足を手放さず、そのまま足を燃やし、そして解放した。

 

 解放された勢いを利用し、胸を蹴って後方へ宙返りを決めつつ着地する。そうやって十歩ほどの距離をヘラと作り、ヘラを睨む。同じようにヘラも此方を睨んでいる。しかし、蹴りによって大きく陥没した頭は回復しつつあり、此方を警戒する様に拳を構えている。

 

「―――なるほどな」

 

 言葉を零しながらヘラの横へと飛び込む。それを予想したかのようにヘラは拳で迎撃して来る。その流れが形成されるのは見えていたため、ダッキングからスウェーを混ぜた拳を横へと叩き込む、が、それを阻む様に腕の下の翼が広がり、拳が防がれる。横へステップを取る体にヘラが追いつく。その速さは此方以上であり、横へとステップを踏む姿に追いつき、そして追い越していた。普通のアラガミの動きではない。

 

 戦闘経験を得た人間―――ゴッドイーターの動きだった。

 

 ゴッドイーターから転じたアラガミがゴッドイーターを食い、そして学習した。

 

 経験を、そして技術を。それがたび重なるゴッドイーターとの戦闘によってヘラを覚醒させ、格闘技を理解するアラガミとしてここに脅威を生み出していた。

 

 故に横のステップから格闘戦に入る動きにヘラは追いついてくる。拳をスウェーで回避し、カウンターを体をバネにしつつ繰り出してくる。それを最低限の動きで回避行動に入れば、ヘラの体から炎が舞い上がり、鎧越しに肌を焼き焦がしてくる。それを無視しつつ裏拳で攻撃を叩き込み、ヘラの体を吹き飛ばす。体に走る痛みを回復錠を即時投与する事で無視し、そのまま戦闘を続行する。

 

 即ち吹き飛んだヘラへと向かって高速の踏み込みを行う事。しかしヘラは吹き飛ばされながらも既に火球を頭上に十個以上浮かべていた。それは踏み込む此方へと目がけて勢いよく放たれてくる。ダッキング、スウェー、ステップ、最小限の回避行動を行いながら更にヘラへと踏み込み、そして拳を構えた瞬間、

 

 背後から爆炎を感じる。

 

 そのショックに体は動きを止めない。少なくともその程度で身を崩す程愚かでも未熟でもない。しかしそれは予想外から出現した攻撃であるため、刹那、意識が奪われる。

 

 そして、その瞬間にはヘラが上回っていた。

 

 そもそもアラガミという生物はその基礎能力で人類を上回っている。瞬発力、筋力、持久力。その全てにおいて人類を、ゴッドイーターよりも遥かに高い数値を誇っている。そもそもからして体の構造が違っているのだ。人類を駆逐する新たな生命として生み出されたアラガミが人類を捻りつぶすだけの能力を持っているのは常識だ。たとえゴッドイーターが体を鍛え続けたとしても、人という括りに収まっている以上は、絶対にアラガミを超える身体能力を得る事が出来ない。

 

 その為の技術であり、武装であり、そして経験である。

 

 その一部をこのヘラは獲得している。

 

 ―――故に、速度で上回ってからは経験に基づいた判断で攻撃をいれてくる。

 

 適格に急所を狙う様に心臓へと向けて一打。体をズラすことで回避しようとする体に腕に翼を引っ掛け、刃の様に鋭いそれで鎧と体を切り裂き、鎧を破壊しながら致命傷を叩き込もうとして来る。故に体の動きを止め、右手で食い込むヘラの翼を弾き、踏み込みながら自分からヘラの拳にぶつかる。衝撃が鎧を歪めながら体を貫通する。

 

 吐血し、出血し、骨が折れながら笑みを浮かべる。

 

「ゴッドイーターを殺す為のその進化は素晴らしいのかもな! だけど! まるで全然! この俺を! 殺すには! 程遠いんだよぉ! ヒャッハッハッハッハ―――!」

 

 ―――自身へのダメージを無視し、ぼろぼろの状態のまま手を前にだし、ヘラの頭を握りつぶす。

 

 その行動にヘラが動きを止める。

 

 そうだ。それもそうだろう。そんな風にダメージを喰らいながら頭を握りつぶそうとするキチガイ、そんな経験ある訳がない。

 

 だから駄目だ。

 

 他のゴッドイーターの猿真似程度では、

 

 修羅道を折る事は出来ない。

 

「俺が狩って! 貴様が狩られる! 怯えろ怯えろ! そして学習しろ! これが絶望だ! ハッハ―――!」

 

 頭がなくてもヘラが動く。しかし経験からこの手の相手がどう動くかなんて目を閉じていても把握できる。故に多くのゴッドイーターが危機的状況で取ろうとする行動―――距離を開けるというのを理解し、足を踏み壊しながらヘラを追いつめる。

 

 炎を纏う痛みを無視さえすれば話は簡単だ。

 

 踏み込んだ状態から腕を根元から引きちぎり、引きちぎった腕の方へと回り込む。片足を失っているヘラは逃げたくても逃げられない。その体は高速で再生しながらもその前に殴る。殴った方が砕け、そして同時に放った蹴りが逆側の膝を吹き飛ばす。残った腕を回転する様に向けてくる。それを掻い潜るように回避し、そのまま腕を掴んで大地へと叩きつける。拳だけを引きちぎって体を上空へと蹴り上げる。そのうちあげられた体が落ちてくる前に自分も上へと、捕喰を何度も何度も繰り返しながら接近する。

 

 頭が生えてくるから頭を蹴り飛ばす。

 

 膝の再生が始まったから膝を握りつぶした。

 

 拳が再生を始める。その開始を察知し、先に手首を粉砕する。

 

 それが体が下へと落ちる前に、何度も何度も繰り返す。どこを最初に再生しようかなんてゴッドイーター、そしてアラガミ双方を何度も殺している人間からすれば解りやすすぎて欠伸が出る。だからもう無理だ。

 

 永遠にヘラの勝機は来ない。

 

 落ちてくるヘラの体を抉って、喰って、殴って、削って、砕いて、切断して、排除して、そして捕食した。シユウの形をしていた接触禁忌種はドンドンその形をシユウの女性版、と言える姿から形を失い、丸い球体へと拳と足で彫刻の様に抉られて行く。

 

 そして下に落下し終わる頃には、

 

 残っているのは第二接触禁忌種ヘラ―――そのコアだけだった。

 

 それを左手で掴み、そして眼前に持ち上げる。

 

「俺の演出は気に入ったかよ。ん? いいもんだっただろう? 最初は狩ってた筈なのに意味不明な理論で一気に盛り返されるお前の姿、すっげぇ憐れで気持ちよかったぜぇ。んじゃあな」

 

 そしてコアを神機に捕喰させた。

 

 コアが捕喰行動を通して保管された事によって任務が完了した。

 

 ―――この世界にまた一種類、アラガミが増えるという結果を残して。




 ホムラさん発動スキル
  ・コンボマスター ・全力攻撃 ・ユーバーセンス ・生存本能全開

 主人公というよりはもっと邪悪なナニカというこれ。時代と環境がマッチングしちゃった馬鹿。アラガミに対するファンサービス精神を忘れない上に満足するまで努力する邪悪なナニカ。

 車椅子さん同様先にコイツ殺したほうがいいと思う。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。