極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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五喰目

「さて、率直な話―――何時から使えるようになると思う?」

 

「ツバキさんが基礎を叩き込んで半月、そこからリンドウに預けて心構えや実戦を経験させて一ヶ月。それぐらいにはソロでもコンゴウを狩れるぐらいにはなると思います」

 

「なるほど。まさしく怪物だな」

 

「潜在能力だけで言えば間違いなく自分を超える逸材だって断言しておきますね」

 

 適性検査を終え、そして新人であるユウとコウタの挨拶回りが終了した。それに別段かかわる訳ではないが、ヨハネスと新人二人のあいさつが終わったら早速その新人について話し合っていた。ここで会話に出てくるのは勿論コウタの方ではなく、神薙ユウの方だ。正直な話、コウタに関しては興味がそこまではない。別段無関心であるという訳ではない。これからは先輩として、そして同僚としてきっちり助け、育てるつもりだ。だが一世代型神機であるコウタと、そして第二世代型であるユウの話となると、やはりユウの話になる。

 

 第二世代型の適合者というだけならまだ良かった。しかし神機入手直後からユウは適応した姿を見せ、軽いジャンプでその上昇された身体能力を確かめていた。まさしく異才。誰もが戸惑い、そして苦しんできた道をあっさりとあの少年は適応してしまった。たったそれだけだが、それでその才能が見えてしまった。歴戦の経験から判断できる。アレは百年に一度の天才であると。

 

 ”アラガミを殺す才能”というピンポイントな才能の持ち主であると。

 

「……だが駄目だな。本部は彼を使い潰すつもりでデータを要求して来るだろうな」

 

 執務机に寄り掛かる様にヨハネスはそう言って来る。

 

「本部の意向ですか。まぁ、あの連中現場の意見や環境無視して自分の取れる利益や権益を優先している所が超ありますからな。その結果真綿で自分の首を絞めているって事に気付いていないし。なんだか第二世代型の初の適合者はデータ取りの為に使い潰されているって話ですし」

 

「あぁ、本部の方で作成された第二世代型ゴッドイーターは全部で五人ほどいたらしいが、今では全員死んでいる。ユウも本部からすればモルモット扱いだろう。……リンドウの部隊に捻じ込んでおけばある程度の無茶をしても生きて帰れるだろう。私とて配備されたばかりの将来有望なゴッドイーターを失いたくないからな」

 

「貴重な人材を失う度に戦局悪化してるんだよなぁー……」

 

 まあ、そこらへんは言っててもしょうがない事だ。現場の人間は無茶ブリを何とかこなしつつ状況を良い方へと持って行ける様に頑張るしかないのだから。今回に限っては自分がお手本となる様に生き残れば良い。それだけの話だ。しかしそれだけで今回の話が終わる訳でもない。とりあえずヨハネスを含め、互いに愚痴を吐きあうのは終わった。

 

「して、一体何をすれば良いんですかね、支部長」

 

「しばらくリンドウ君を部下の育成に動かせないからね。その分君に働いてもらうよ」

 

 そう言ってヨハネスは一旦言葉を止め、そして視線を此方へと向けてくる。

 

「―――他の大陸でアラガミ化したゴッドイーターの討伐失敗報告があった。はじめはシユウの姿をしていたこのアラガミだが、討伐の為の接触時にゴッドイーターを喰らい、そのまま新たな姿へと変質した。その結果新たなアラガミを”ヘラ”と命名し、第二接触禁忌種としての認定が決まった。本部はその速やかな始末を希望している。どうやら元京都エリアに海を渡ってやってきているようだ……行けるな?」

 

「暁ホムラ少尉、特務拝承。準備が整い次第第二種接触禁忌シユウ種、固体名ヘラの抹殺を行います」

 

「宜しい。今度の特務に限ってはヘリを使える他にサポート用の人員が動かせる。喜べ、本部を通してある正式な任務だから記録が残るぞ……まぁ、特務に正式も何もないがな」

 

「わぁい、と今更喜んでもなぁ……」

 

 成績が残らない事に関しては特務をやり始めたころから諦めている。それに成績を自慢する様な子供はもう卒業している。アラガミに関しては純粋に殺意しか抱いていない。私怨は―――あるにはある。しかしそれを拳に乗せる程未熟ではない。純粋な殺意だけを乗せる様になってこその修羅というものだ。

 

「というかそもそも個人的には―――えっ、新種のアラガミ独占して殺せるんですか? ヤッター! アラガミとデートカッコ意味深カッコトジだー! ……な感じなので」

 

「割と楽しんでいるよね、君は」

 

 まぁ、特務の報酬はいいし、見た事のないアラガミや強いアラガミを殴り殺すのも愉悦感が満たされるので非常に楽しい。詰まる所、死ぬ気が皆無なのでちょっと疲れるという事実さえ忘れれば特務を遂行する事によるデメリットなんて全く存在しないのだ。なので特務で新種のアラガミと聞くと寧ろ興奮して来る。

 

 こんな変態だからリンドウとは違って嫁がいないんだろうけど。まぁ、そこは良い。正直に言えば性欲なんてほとんど死んでいるようなもので感じないし、番の必要性も感じない。だから今は、自分の人生に満足できる様に生きれるのであればそれでいいのだから。ついでに極東最強生物のタイトルをゲットできればそれはそれでいい。というか最強生物のタイトルが人類以外の生物に与えられている所が非常に気に入らない。それだけだ。

 

「ともあれ、任務拝承したんで、適当に準備済ませてソッコで始末してきます」

 

「あぁ、可能性としてそのまま別の任務を与えることになるかもしれない。討伐を終えたら連絡を入れろ。それでは戦果を期待している」

 

 頭を下げてから支部長室を出る。そのままエレベーターへと乗り込み、そしてアナグラの正面ホールへと向かう。エレベーターから降りた正面の階段にはミニラウンジにたくさんの端末、オペレーターであるヒバリの姿や他のゴッドイーターの姿が見える。このまますぐに出発しても良いのだが、先に回収できる支給品の類は一応持っておきたい。勿論、それを使うわけではないし、必要はないだろう。

 

 しかし必要がないのと持っていないのとでは全然違う。必要がないからと言って持たなく、それが原因で死ぬ時がある。そんな馬鹿な慢心はいらない。故にエレベーターから降り、ホール内で行商を行っている男の下へ行こうとすると、そこで知っている姿を見る。赤いベストにサングラス、そして赤髪の青年の姿だ。此方を目撃すると片手を上げて近づいてくる。

 

「ホムラさん、任務ですか」

 

「まぁ、そんな所だ」

 

 曖昧にボカして答えると、察したかのように青年は―――エリック・デア=フォーゲルヴァイデは笑った。企業の御曹司という立場でありながら二年前に狙撃兵としてゴッドイーターになったエリックは非常に優秀な青年だ。将来が有望視されている若手の一人でもある。その性格は簡単に言ってしまえば―――ツンデレ。自分よりも下、後輩や実力で劣る相手には憎まれるような態度を向けているが、ひとたび実力や精神性を認めればそういう態度は抜け、戦友として認める。

 

 なんともめんどくさい話だが、後輩にあたるこの青年は此方の事を敬うべき先輩として接してくれている為、別段それでいいんじゃないかと思う―――死なない限りは。

 

 しかしこのエリック、御曹司という立場である為、企業やフェンリルの後ろ暗い部分をある程度は把握している。損耗率やら暗殺やら特務、リンドウやソーマ、そしてほかにも数名存在する第七特務部隊の人員を除けば裏の部分を知る数少ない人物でもある。

 

「あ、そうでした。実はうちの社の方でクラシック系のレコードを幾つか発掘したんですけど、先輩確かレコード集めていましたよね?」

 

「え、マジで」

 

 これこれ、とエリックがポケットから取り出したメモを確認すると、そこにはレコードのタイトルが書かれている。そしてやはり、その横には値段がフェンリルクレジットで書かれていた。エリックのその姿を見て実に商魂逞しい、と少しだけ呆れるも小さく笑い声を零す。

 

「んじゃ全部貰うわ」

 

「毎度あり! 部屋に届けておきますね。任務から戻ってきたら請求しますんで、帰ってきてくださいよ」

 

「おう、こう見えて死亡フラグだけには敏感だからな。さりげなく会話に混ぜようとするの止めような」

 

 ははは、とお互いいい笑顔で笑いながら去って行くエリックを眺めてから階段を降り、ヒバリに手を振ってから露天商の男へと向く。その顔にはいい笑顔が浮かんでいる。

 

「いらっしゃい。いやぁ、懐いている後輩がいると先輩は大変だね? エリックもエリックで企業とゴッドイーターと、そして兄としての立場に挟まれているのにそれに一切文句を言わずに頑張っているから大したものだよ。おじさんもちょっとはあの精神力を分けてもらいたい所だよ」

 

「その心は」

 

「おじさんの懐が暖かくなればおじさんの心も豊かになる」

 

「はっはっはっは―――戯言はそこまでにしよっかおっさん? 回復錠改にOアンプル、挑発フェロモンと最後は強制解放剤」

 

「何時ものセットだね。あと何時も通り忠告しておくけど挑発フェロモンはアラガミが多い地域で使うと冗談じゃなく死ねるからね、あと―――」

 

「―――強制解放剤は特別に売ってくれているんであって、使う時は体への負担は酷い……だろ? 何年間俺に同じことを言い続ける気だよ」

 

「お前が死んで帰ってこなくなるまでだよ。お前をマグマの中へと叩き込んでも泳いで帰ってきそうだけどな、そういうやつに限って妙なタイミングで死んじまうんだよ。だから死なない様にしっかり買い物しろよ? しっかり俺の忠告を聞いていけよ?」

 

「初心、そして基礎忘れるべからず」

 

「おう。んじゃ頑張れよ」

 

 注文した道具をキットとして収納した状態で受け取る。それを一旦、鎧の腰部分のアタッチメントに装着する。この状態のままでは使いにくい。その為ヘリで移動中の間に神機を通して、自動的に注射、或いは散布ができる様に装着し直す必要がある。そうする事で足を止めずに回復やドーピングが行える。

 

 なお、挑発フェロモンに関しては完全に趣味だ。

 

 必要な道具を買い揃えたところでもう一回ヒバリに対して視線を向け、そして鎧の下で笑顔を向けておく―――フルフェイスヘルムなので笑顔なんて見える訳もないのだが、きっと敏腕オペレーターであるヒバリの事なのだ、オーラでそこらへんを察してくれるに違いない。

 

「良し、出発するか」

 

「いや、そこまでアプローチしておいて話しかけないのはなしですよ!」

 

「えー」

 

 歩き出そうとしていた足を止め、カウンターから若干乗り出す様に声を投げはなったヒバリへと視線を向ける。紅茶色の髪を二つ結びにしている彼女、竹田ヒバリはこのアナグラにおける唯一のオペレーターだったりする。このドが付く程のブラックな環境でオペレーターが一人、というのは少々無理があるのではないか? と思われてしまうが、

 

 それを何とかしてしまうのがこのヒバリだったりする。極東は前線で戦う人員だけじゃなくてバックアップまで人材が狂っているから恐ろしい。

 

「というかホムラさん、支部長から命令書がこっちに回っているんですけど」

 

「あぁ、うん。これからちょっと殴りに行って来る」

 

「貴方がそう言うとホント軽く感じるのが嫌ですね。いや、それぐらいのノリで帰還してくれると私的にも嬉しいんですけど」

 

「ま、お兄さん殴るか蹴るしか出来ない代わりにそれでならアラガミにでさえ負けないって思ってるからね」

 

「アラガミがレーザーやらミサイル等の高度な技術の武装を生成して戦っているのに何でウチのエースは原始時代に戻ったかのような戦いをするんでしょうね……」

 

 あえて言うなら趣味なんじゃないだろうか。別にチェーンソウをぶん回して戦っても良いのだが、やはり男の武器と言ったら拳に限る。誰もが一番最初に握り、そして使う事を覚える究極の武装。それが拳なのだ。個人的にはこれに勝るものはないと思ている。

 

「―――まあ、気にするなヒバリちゃん。俺が強い事に理由ないから。ただただ純粋に強いだけだから負けることはないよ? というわけでリンドウくんと新人二人によろしく頼むね」

 

「あ、はい。遅くなり過ぎないうちに帰ってくるんですよー」

 

「俺は遠足に向かう子供か」

 

 溜息を吐くとそれを察されたのか笑われる。まぁ、そんなもんだろうと思う。

 

 世の中腐った事や悪いニュースが多すぎる。くだらない事で笑えるならそれでいいんではなかろうか。ちょっと馬鹿な方が世の中、救いも増えるだろう。

 

 そんな事を考えつつ背を向けてヘリポートへ向けて、歩き始める。

 

 アナグラの中からでは空が見えない。が、もう既に夜になっているだろう。

 

 こんな時間に出て、アラガミを狩りに行くのも悪くはない。きっと、悪くはないだろう。




 エリック・デア=フォーゲルヴァイデ(17歳)
  イケメン。シスコン。赤髪で御曹司。そしてトイレを詰まらせる。解りにくいツンデレだけど実は優秀。原作の出番25秒の記録を破るか、マスク・ド・オウガにジョブチェンジするか。

 竹田ヒバリ(17歳)
  極東の恐ろしきオペレーター。終末捕喰目前でも何時も通りオペをしている鋼の精神な子。実は初恋は鎧の人だったらしいがコクーンメイデンで餅つきをしている姿を見て現実に戻った経歴がある。

 次回、ヘラとデート(隠語)

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