極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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四喰目

 ―――何時になってもこの仕事ばかりは嫌になる時がある。

 

 広大な四角形の空間の壁のほぼすべてがアラガミに対する防壁と同じ素材の鉄板で封鎖されている。唯一そうではないのは高い位置に設置されている展望室であり、そして入口だけだ。それを除けば部屋の中央に巨大なプレス機が設置されており、そこには改修された第一世代型神機が安置されている。それこそが神機適合検査を行う装置であり、多くの人間を葬ってきた装置でもある。

 

 なんと言っても適性をコンピューターで計算できない、方法が確立されていない時代はこの検査だけで三桁の人間が死ぬ日だってあった。現在は計算する事によって死亡率を大きく引き下げる事ができる様になった。しかし、それでも普通に死ぬのがこの神機適合検査となる。今日、十人がゴッドイーターとしての適性検査を受けにここへとやってくる。用意されている神機は二機、一つは第一世代型を改修したものであり、もう一つはこの極東アナグラでも初となる新型神機となる。

 

 基本的に、この十人の内八人は確実に死ぬ、と予想されている。誰とは言わないが、確立的にそうなると考えられている。神機に一番適合する人間を計算して選び、そして意思を聞いて呼び出した。しかし、それでも神機の”好み”でただの肉片にされてしまう場合が存在するのだ。そしてそんな理不尽な兵器を使わなきゃ戦えない憐れな存在がゴッドイーター。その兵器がまたアラガミの親戚の様なものだから酷い。世の中実に詰んでいる。

 

『―――さて、ホムラ少尉。これより神機適合検査を始める。其方の準備は良いかね?』

 

「此方は何時でも準備完了してますよシックザール支部長」

 

 視線をプレス機の向こう側、上方へと向ければ横長のガラス窓が見える。その後ろ側には白いスーツ姿のヨハネス、そしてその横に白い教官服姿の雨宮ツバキの姿が見える。本日の適合検査に利用されるのはまずはツバキの神機を改修したものになる―――ツバキもその行く先は興味があるだろう。それにそれが終われば新型神機の適合検査に即座に入る予定だ。ツバキの神機で八人、そして新型神機で二人。それが本日のスケジュールとなっている。

 

 最低限で八人は死ぬと、本日は予想されている。上手く行かなかったら十人全員死んで翌日に新しい募集をかけてまたやるだけだ。

 

『それでは一人目、入るが良い』

 

「は、はい!」

 

 扉が開き、そんな声が聞こえてくる。視線を入口の方へと向ければ黒髪の長髪、十八程の少女がオドオドとした様子を見せながら検査室の中へと入ってくる。基本的に適合率が一番高い順から検査を行う為、この少女が雨宮ツバキの神機に一番適合する人物なのだろう。ともなれば期待値は高いのだが―――まぁ、あまり期待しない方が精神的にいいのだろう。腕を組み、侵入した少女から見てプレスの左側に陣取り、入って足を止めた少女を何かするわけでもなく、眺める。

 

『サクラ・ウェスタイン……ようこそフェンリル極東支部へ。神機の適合検査を行う前に最終確認を行う。この適合検査の事前調査で君は一番高い適合率を出しているとはいえ、十分に死ぬ可能性のあるものだ。そしてそれだけではなく、適合した後でも命は危険にさらされ続ける。これから君は地獄の最前線を走り続ける権利を得るのだ―――後悔はないかね?』

 

「何時死んでも良い様に遺書を書いてきました。たとえ検査に失敗したとしても全ては自己責任であると覚悟しています」

 

『宜しい、ならば前へと進み装置に右手をいれると良い』

 

「……はい!」

 

 まだ少々恐れている部分はあるものの、確かに言葉の端にはしっかりとした覚悟を感じるものがあった。やはりフェンリルに、ゴッドイーターに自分からなろうとする者はそれなりに覚悟が出来ている人間なのだろう。生きるも死ぬも全ては自己責任。戦場に向かうその前の段階で死ぬかもしれないのだからほんと、この環境はブラック極まりない。

 

 そんな事を思いながら視線をサクラという少女へと向ける。彼女は確かな足取りで装置へと接近すると、此方へと視線を向けてくる。迷うような視線を見せるのは一瞬だけで、意を決したかのようにその手を装置にいれる。

 

 プレス機の様な形をした装置は素早く閉まる。サクラの腕を呑み込んで。少女の口から出る激痛の悲鳴を無視して肉体と融合する様にゴッドイーターの生命線である”腕輪”を植え付ける。そして適合する筈である神機と、そのまま接続作業を開始する。プレス機が開き、そして安置されていた神機から黒いケーブルの様な肉の様な物体が伸び、腕輪と、ゴッドイーターと繋がる。

 

 次の瞬間、ぼこぉ、という音を立ててサクラの胸が抉れた。

 

 ―――失敗、サクラが神機に捕食されていた。

 

「カヒュ―――」

 

 喉が抉れ、サクラの口から空気が漏れだす。その瞬間には接近し、そして神機を装着してある右手を手刀の形で整え、

 

 そのままサクラの首を撥ね飛ばす。オラクル細胞に侵食されたばかりの肉体はアラガミと違って容易く切断できる。そうやって切り離した肉は捕喰の対象外になる。もはや最初に捕食された時点で死ぬ事は避けられない。故に跡形も残らず肉片になるより、最低限人の形が残るこの方法が、最低限の慈悲であったりする。

 

 死ぬ事が怖いのではない。

 

 この地獄では人であった事が消える事、忘れられる事が怖いのだ。

 

 死は常にそこにある日常なのにどう恐れろと言うんだ。

 

 故に、斬りおとされたサクラの顔は笑っていた。それだけだが。体から血は流れない。悲鳴はもうない。服も一緒に神機が全てを捕喰している。残った首は部屋に入ってきたスタッフに渡し、後日家族の下へ送られて葬儀に使用されるだろう。

 

 そうやってサクラ・ウェスタインという少女が失敗したという結果だけを残し、

 

『失敗か……まぁ、予測されていたことだ。次は成功する事を祈ろう……次だ』

 

 ヨハネスの声に導かれる様に次のゴッドイーター志望が部屋に入ってきた。

 

 

                           ◆

 

 

 ―――二人目は十八程の青年だった。良く鍛えられた肉体を持っており、この日を待っていたと豪語していた。検査の結果は珍しいアラガミ化現象だった。たまに神機の捕喰を跳ねのけるが、その結果オラクル細胞の侵食と肉体の変質を受けてしまう者が存在してしまう。これはいわゆる”成功の一歩手前”という状態になる。しかし失敗は失敗。アラガミ化は放置してしまえば脳が変質し、体内にコアを生成させてしまう。だからその前に肉体と頭を分離させて隔離させるのが重要。だからアラガミ化の兆候が見えた瞬間に首を引きちぎった。

 

 三人目も男だった。此方はどうやらあまり乗り気ではなく、検査の前から十字架を握って何度も何度も祈っていた。検査を遂行する時激痛で泣き、そしてそれが終わって検査が終わった時に神機が接続され数秒、何も無かった事に笑みを浮かべて泣きながら喜んでいた。しかしその次の瞬間には頭が捕食され、消失していた。最低限何かを残す為に腕を千切るも、それ以外は完全に神機に捕食された。

 

 四人目は女だった。此方は二十代に入った女性であり、娘の名前を呟き、勇気と成功を祈っていた。しかしその結果は残酷なものであり、捕喰という結果で終わってしまった。今回は頭から捕喰されることがなかったため、何とか綺麗な首を残す事が出来た。娘、そして夫へと彼女の勇気と共に送られる事となるだろう。

 

 ―――相変わらず業の深い事だ。

 

 しかし、人体実験を―――非人道的と呼ばれるそれらの行動を行わずに人類は戦い続ける事が出来ない。正しい、正しくないなんて関係なく人類はそれだけ追いつめられているのだ。極東が一番の激戦区でありながら一番平和だなんて矛盾した状態になっているのは、極東が非人道的な研究に躊躇せず、その結果を即座に最前線に送り込んで反映させてきたからだ。

 

 そしておそらく、そのスタイルはアラガミが絶滅するその瞬間まで変わらないだろう。

 

 ―――そうやって、人を殺す事にも慣れてきた時、次のゴッドイーター志望が入ってくる。

 

 五人目。

 

 今度は全体的に黄色の服装で身を包んだニットキャップの少年だった。見た感じ、今までの中で一番若い。その姿を見て自分やリンドウの十年前の姿を思い出し、気付かれない様に鎧の中で息を吐く。若い奴が死んだときは少々嫌になる。まぁ、結局は自己責任の話だ。

 

 だから適当にヨハネスの話を聞き流しながら視線をプレス機へと近づく少年へと向ける。腕を組んで立っているだけとはいえ、何時でも動き、そして殺せる準備は出来ている。もうずいぶんと自分の神機にアラガミ以外にも人の血を吸わせている気がする。何故アラガミを殺す筈の武器なのに人の方ばかりを殺しているのだろうか。

 

 そんな事を考えているうちに、

 

 少年の腕に腕輪が装着された。

 

 神機が接続された。

 

 ―――そして、捕喰もアラガミ化も発生しない完全な適合が完了した。まるで最初からそれが正しかったかのように少年の腕には腕輪が融合し、神機が繋げられていた。それを上からヨハネスが拍手と共に祝福する。

 

『おめでとう、藤木コウタ。これで今日から君はフェンリル極東支部で戦うゴッドイーター、その資格を得た。君の戦果を、活躍を期待している』

 

 ヨハネスが祝福しているが、長年の付き合いから理解している事はある。

 

 ―――ヨハネスの興味はこの少年にはない。

 

 なぜならこの次が本命なのだから。

 

 

                           ◆

 

 

 神機には現状三種類存在している。一つ目が第零世代型神機。これは昆虫等の小型のアラガミのコアを使用されて作成された最も古く、そして最初に生み出された試作型の神機になる。それまでアラガミに有効だったのは巨大な鉄骨を突き刺して行動不能にするか、或いはメタルストームの様な連続的な衝撃を叩き込み続けて動きを封じる事だった。最初期に作成されたピストル型の神機はついにオウガテイルを殺す力を人類に与えた。

 

 そうやってオウガテイルやザイゴート、コクーンメイデン等のもう少し大きなアラガミのコアが採取可能になり、コンゴウ等の中型・大型のコアも手に入る様になる。そうなると作成されたのが第一世代型神機。ブラスト、スナイパー、ロングブレード等と種類に富んでいる大型の武装を開発する事に成功した。しかも軽度の変形機構を有しており、ブレードから盾へ、と変形する事ができる様になっている。

 

 自分が装着している両手両足の格闘型神機”ルベル”と命名されたこれもまた第一世代型神機になる。その中でも変形機構を排除する事で性能、そして強度を限界まで強化してあるエンドタイプのものになる。第一世代型神機は第零世代型とは異なり、ある程度であれば改造やチューニングを施す事が出来る。とはいえ、武器種の変化みたいな事は行えないのが弱点となる。

 

 ―――そして今回極東でも初となる第二世代型神機。これは既存の神機とは全く違い、三種の変形を行える。近接武装、射撃武装、そして盾と変形を使い分ける事が出来る。それだけではなく、パーツも簡単に交換する事が出来る。その為相手によってロングブレードだったりショートブレードだったり、ブラストだったりスナイパー、と有効な武装を選んで戦う事が出来る様になっている。

 

 今までは苦手な相手にもゴリ押ししかできなかったが、メタを張って戦えるようになるのだ。生存率と討伐効率が段違いになる。

 

 その神機の適合者を発見したのだから、ヨハネスのみならず事情を知っている各国の関係者全員が注目している。

 

 そして、全世界の期待を乗せる第二世代型神機の適合検査が始まる。

 

『入りたまえ』

 

 ヨハネスの声に僅かな期待、そして緊張感を感じる。その声に促される様に部屋の入口の方へと視線を向ける。そこから入ってくるのは青年の姿だった。フェンリル極東支部の制服である黒い上下を着ている、茶髪の青年だった。その姿は少し線が細い、と思う以外にはどこにでもいそうな程、見た目は普通の青年だった。

 

『君は―――神薙ユウだったね。ようこそフェンリル極東支部へ。前へ進みたまえ、君がその運命を掴みとれるかどうか、それは言葉で語るにはあまりにも勿体ないだろう。全てを結果で語ろうではないか』

 

「……はい」

 

 少年、神薙ユウはヨハネスの言葉に対してハッキリと声を出して答え、そして前へと踏み出した。何かを恐れることはなく、最初から成功するというのを心から信じている様な、そんな表情を浮かべ、

 

 そして手をプレス機の中へと入れた。

 

 機械が動き、少年の腕に腕輪を融合させ、そして神機が接続された。

 

『おめでとう―――』

 

 装置から解放され、ユウが神機を握った手を掲げる。部屋を照らすライトを受けて神機は鈍く輝く。

 

『―――君が極東初の第二世代型神機のゴッドイーターだ。ようこそ地獄へ』




 雨宮ツバキ様(29歳)
  フェンリル極東支部の女帝とはこのお方の事を言う。オウガテイルを丸太と鉄骨で追いつめる剛の者。その秘密はツバキファイナルにあるとリンドウは語る。なお翌日、全裸で簀巻にされたリンドウがエレベーター内で発見される。

 適合失敗モブさん達
  極東の日常

 藤木コウタくん(15歳)
  シスコンでありオレンジ髪であり天性のフラグブレイカー。死亡フラグを見つけたら笑いながら踏み潰すのは思考を超えて本能になっているらしい。なお原作で絶対死ぬと皆に予想されていた人。

 神薙ユウくん(15歳児)
  極東が生み出した史上最強のバグキャラがフェンリルにエントリーされてしまった……。本能で黒幕を追いつめてNKTをする怪物。アラガミスレイヤーとは彼の事である。

 歳児という時点でお察し。やっぱり捏造設定って言葉は楽しい。

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