極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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十九喰目

 サバイバル中、あるいは壁外活動中にキャンプをする場合、ゴッドイーターが安全を取る方法が存在する。コストはそれなりにかかるが、ゴッドイーター用に特殊装備が用意されている。その一つにアラガミが嫌う匂いの香水というものがある。これを事前に振り撒いておくことでアラガミを寄せ付けないようにする事が出来る。ただこれは万能ではない。コンゴウの嫌がる匂い、シユウの嫌がる匂い、という風にどの匂いがどのアラガミを寄せ付けないのかは決まっている。それぞれのアラガミに対して用意しなくてはならない上に、面倒な素材を必要としている。その為、どうしてもコストが高い。

 

 それとは全く関係なく極東はアラガミをジェノサイドしてエキサイティンしているので、サバイバルやキャンプする事が全くない。一週間期限があるのに到着して三時間でエンジョイしたらそのまま帰還という事がざらにある。その為本部から送られてくる対アラガミ用の香水が腐るほどある。しかも死蔵されている。

 

 これ使うぐらいだったら一帯のアラガミ殲滅して安全確保した方が早いという意味で。

 

 しかし、こういう風に全く戦闘力のない関係の存在と一緒にいる場合は非常に便利になる。護衛を残して殺しに行くよりは全員で固まって護衛した方が遥かに安全である。故に過度に戦闘は行わない様に、香水を使ってアラガミを寄せ付けない方が落ち着いて話し合える時がある。たとえば今の様な時とか。

 

 白いアラガミらしき少女をベンチに座らせて、アラガミからの襲撃を察知する為に集団から十歩離れた距離で立ち、片目の視線を少女へと向ける。愚者の空母内、人間サイズでしか通る事のできない部屋の中にいるが、何時アラガミが壁を突き破って出てくるかわからない。故に気配には敏感に、一人だけ少し離れた距離で警戒しつつ話に耳を傾ける。他の四人は全員揃ってアラガミ少女から一歩の距離にいる。漸く落ち着く事の出来る環境を得たところで、今までの情報をまとめる様にアリサが話し始める。

 

「―――えーと、つまりこの子をソーマさんが見つけました。しかも全裸で歩いていたのでこれはやべぇ、と思ったらこれどう見てもアラガミじゃないですかやだぁー! じゃあとりあえずスレイしなきゃ……! という使命感の下必殺ソーマスペシャルを決めようとしたところ、拙いながら人語で話しかけたのでどっからどう見ても世紀末モヒカンと襲われる少女の図、と冷静になって服を調達してからなんだかんだでズルズルと面倒を見ていると―――あ、隊長、副隊長。ソーマさんこれ、女囲ってます」

 

「この恥の概念を知らない下乳女を殴っていいか?」

 

「アリサちゃん馴染んでるなぁ」

 

 ビシ、っと指差すアリサに対してソーマが青筋を浮かべながら神機を持ち上げる。その姿を見て仲裁に入るのがユウだ。二人の間に入ってまぁまぁ、と肩を叩いて諌めている。なんだかんだであの少年はコミュ能力が高い。少々とっつきにくいソーマ、そして最初はデレの存在しないツンオンリーだったアリサとも仲良くやれている。仲良きことは良い事だが―――さて、そろそろ本題に移るべきなのだろう。同じことを考えていたのかリンドウが咳払いで視線を集める。

 

「そんじゃ単刀直入に聞くけどソーマ―――お前、どうするべきか判断つけられてないな?」

 

 リンドウのその言葉にソーマは頷いて答え、

 

「発見して囲ってるのはいいんだが、ぶっちゃけそこから判断がつかねぇ。見た目……いや、こいつは完全にアラガミだ。食料で唯一興味を示しているのがアラガミのコアだ。それとなく人間の死体とか鉱物とか見せてるけど、反応してるのはアラガミのコアだからアラガミのコアにのみ反応する偏食化タイプかとも思ったが……どうやらそれだけじゃなくて俺の行動や言葉を覚えて学習してやがる。だから判断がつかない。ただの新種なのか、それとも”特別”な一体なのか。そこらへん見極める為に一人だけで様子を見たりしてたんだが……」

 

「見つかった、って訳か。確かに不確定な事で混乱させるよりは一旦自分だけで経過観察した方がある意味安全だもんなぁ。まぁ、個人的には信用して報告してもらった方が嬉しかったけどな。別に問答無用でアラガミ殺している訳じゃないし。俺らはプロだぞ? そこらへんちゃんと判断してやってる」

 

「悪い、今度からちゃんと報告する」

 

 ソーマが謝ったところで一段落。ツンデレではあるが、素直でもあるのだ。自分の反省すべきところはちゃんと認め、そして反省する。失敗を恐れてはいけない。しっかりと失敗を認める事が次の成功へ、そして自分の成長へと繋がるのだから。何が悪かったのか、それをしっかりと認識して次に生かす能力が大事なのだ。という事で、

 

「大先生はそれで、この嬢ちゃんの事は解らないのか?」

 

 リンドウの声に意識は半分周囲へと警戒の為に向けたまま、そのままアラガミの少女へともう半分の意識を向ける。

 

「……まぁ、気配は完全にアラガミのものだよ。少なくとも気配はな。ただ白髪に金眼はアラガミにとっちゃあ、ちっと特殊な事情がある。人からアラガミに成る時、アラガミに近づけば近づく程色は白く、そして眼の色は金色になる。ソーマや俺を見れば解るだろ? まだ眼が金じゃない分人間に近いって事だ。だけどそいつは完全にアラガミへと成った人間の姿をしている。人の形のままな」

 

「じゃあ、元人間って事か?」

 

「いや、それはありえない。人間のアラガミ化の研究施設は俺が全部把握しているし、それ全部、俺が滅ぼしたからもう施設が残ってるとは思えないし、ちゃんと関係者も全員消した。それにその嬢ちゃんからは人間としての面影は感じないけど人間を理解して行く気配がある。つまり逆のプロセスだ。アラガミから人間へと成って行く様なものを感じる」

 

「すごい……煽りと暴力とネタの化身が真面目に説明してる」

 

「ちょっと感動です」

 

 この新人二人は何時か先輩への尊敬の精神を叩き込まなくては駄目だなぁ、と思いつつ、話を短く纏める。長々と話を続けてしまったが総評としては実にシンプルに纏める事が出来る。それは、

 

「保護して観察するべき。新種以上の何かがある様に感じる」

 

「成程ねぇ、参考にするわ……んで、よぅ、嬢ちゃん」

 

 リンドウが瓦礫に座っている少女人視線を合わせる様にしゃがむ。本当に子供らしい精神をしているようで、アラガミ少女は視線を合わせるリンドウに対してにっこりと笑みを浮かべ、片手でバンバン、と頭を叩く。力はそれほど無い様で、そのはしゃぐ姿にリンドウは苦笑を浮かべながらその手を両手で握る。さり気なくその手が少女の脈を確認する様に握っているのがリンドウの抜け目のない所だろう。

 

「嬢ちゃん、俺の名前はリンドウってんだ。宜しくな」

 

「こん、にちわ!」

 

「おぅ、こんにちわ。んで嬢ちゃんはなんていうんだ?」

 

「シオ! シオ! ソーマ、くれた!」

 

 はしゃぐアラガミ少女―――シオから視線を外してソーマへと視線を向けると、ソーマが頬を掻きながら答える。

 

「名前がなかったから俺が名付けたんだよ」

 

「まるで子犬の様だな……まぁいいや。んじゃシオちゃん、お兄さん達はゴッドイーターつって極東の平和を守っているヒーローなんだ。いや、やってる事はジェノサイドだからアラガミ側からしたらヴィランなんだけどな。まぁ、それはそれとして……んで、俺達はゴッドイーターだから悪い奴とは全力で戦わなきゃいけねぇんだわ。オーケイ?」

 

「オーケイ!」

 

 元気よく答えるシオの姿、それは完全に白痴の少女のリアクションだった。言葉は覚え、学習していると言った。しかしどうやらまだ知識が足りないらしいのだろう。リンドウもそれに気づき、溜息を吐きながら合わせていた視線を外して腕を組み、悩み始める。ぶっちゃければ、これはかなりデリケートな問題だ。もし、この少女が新種のカテゴリーに入る場合―――この先この少女の様に、人型アラガミが現れる可能性がある。その場合は、人類の代わりにこのタイプのアラガミが君臨する世の中があるかもしれない。

 

 もう一つの可能性―――この少女が特殊な一体だとした場合、人類とアラガミの関係に変化が現れるかもしれない。

 

 どっちにしろ、ゴッドイーターだけで判断するには難しすぎる話だ。それはリンドウも理解している事だろう。だからリンドウは頷き、顔を上げる。

 

「俺だけじゃどう足掻いても判断つかねぇなこりゃ。榊のオッサン、或いは支部長に話を通さなきゃ駄目だわ。ここで置いておくよりも一旦支部へと俺達で連れ帰って、そこで支部長達に判断任せるのが一番賢い……と思う。うーん、そうだなぁ……現場の俺達じゃこれ以上はどうしようもねぇな。うし、そうと決まったら早速連れ帰る準備を始めるぞ。ユウ、アリサ、ホムラの三人は安全確保。俺は護衛に回る。ソーマは戦わず一緒にいてやれ、一番心を開いているようだしな」

 

 了解、と声を出しあいながらそのまま活動を開始する。リンドウとソーマは動かず、ユウとアリサを背後に連れて扉を通り、そのまま愚者の空母の中央大穴のある場所へと出る。近辺にアラガミの気配はない。だからと言ってそれで油断や手抜きをするわけではない。崩れた壁などを足場に跳躍し、愚者の空母の表層へと再び戻り、沈みゆく夕日を鎧で浴びる。表層に出たところで何もいないのと気配がないのを確認し、握った拳を緩めながら背後で同じように警戒レベルを下げるユウとアリサを確認する。

 

「ところでリンドウさんは支部長の判断を仰ぐべきだって言ってるけど、鎧パイセンの意見はそこらへんどうなんです?」

 

 ユウのその言葉にそうだなぁ、と一旦言葉を置く。

 

「リンドウの判断が隊長として一番正しいかねぇ。ソーマの隠すって判断はぶっちゃけゴッドイーターとしてではなくソーマ個人の感情込みでの判断だろうな。リンドウは隊員の命を預かっている以上、リスクのある行動はなるべくとりたがらない。だからフェンリル所属の隊長さんとしてはリンドウの選択肢が一番正しいぞ。ぶっちゃけ俺が隊長だったら全く同じことをすると思うし。ここにアレを置いてまた来るとかゾっとしねぇ。放置している間にほかのアラガミに襲われるかもしれないし、他のゴッドイーターが先に見つけて殺したとかあんまり考えたくない」

 

 そう考えると隊員という立場はある程度楽だ。そこまで縛られる存在ではないからだ。だからこそソーマはある程度感情や個人の判断を優先した形で行動してたのだろうが。

 

「じゃあ」

 

 と、アリサが口を開く。

 

「フルアーマー少尉ならどうするんです? 隊長としてではなく、個人としてですけど」

 

「まるで人が決戦兵器のような言い方はやめてくれないか? 暴力本能が目覚める」

 

「もう目覚めてるでしょ」

 

 そうだなぁ、と言葉を置いて、考え、

 

「―――んー、考えるのめんどくさいからとりあえず同化捕喰して情報を読み取る、とか? ぶっちゃけ女の姿をしてようがアラガミはアラガミだしなぁ。ソーマみたいに人の形してるから躊躇するって事もないし。だからちゃっちゃと情報読み取ってやばかったらそのままごちそうさま、そうじゃなけりゃあぺっして持ち帰る」

 

「ドン引きですわ」

 

 まぁ、流石に今回は仕方がないよなぁ、と呟く。ぶっちゃけ半分近くがアラガミ近いという事は隠すつもりはない。ラケルの様に社会に潜伏し、目的を達成するという気持ちがないからだ。自分が不要となって殺しに来るのであればその時はその時、ノリと気分で動けばいい。だけどその時までは自分を一切偽る事なく生きて行くつもりだ。

 

 化け物かもしれないからと言って、それを隠して生きるなんて息が詰まる。

 

 そんなつまらない事に恐れるほど極東は暇な場所ではないのだ。

 

 昔に言われたことだが、”味方ならどうでもいい、敵なら殺す”という話に落ち着くだけだ。

 

「うし、ドン引きし終わったら任務を進めるぞー。リンドウくんがヒバりんに通信いれて通達してるだろうから、それまで安全確保すっぞー」

 

「了解ー」

 

「お仕事の時間ですねー」

 

 敵なら殺し、味方ならどうでもいい。

 

 世の中、それぐらいシンプルなのが一番かもしれない。




 シオ(?歳)
  先にソーマくんに見つかる事で生きながらえたアラガミガール。ホムラくんに先に見つかっていれば比喩でも何でもなくもぐもぐされてるかグチャァされていた。世紀末DQN達に見つかる事なくソーマくんと最初に出会えた辺り、運極振りステータスなのかもしれない。

 黒さを一切感じさせない支部長なんだから情報を隠す理由が一切ないという。やっぱ有能で明るい上司がいるとなると頼りにするもんなぁ。息子に関してだけは全くダメなオッサンだけど。

 ニトロブーストされているシナリオさん。

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