極東は今日も地獄です   作:てんぞー

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一喰目

 ―――夕日が世界をオレンジ色に染め上げる中でカシャン、カシャン、と音を立てながら歩いていた足を止め、そして視線をまっすぐ前、その奥の空間へと向ける。

 

 かつては火事場泥棒を行っていた無法者集団の拠点―――アラガミと呼ばれる人を超えた種族を相手にしていたその拠点、今では愚者の空母と呼ばれるそれは完全に荒廃しきっている。座礁した空母をつなぐ橋は通れなくもないが、半分崩壊しており、歩くには段差を飛び越えながら進む必要がある。それだけではなく崩壊の影響で瓦礫が多く、そして空母の中央には巨大な穴が存在している。足場が悪い事を除けば非常に見通しの良い場所であり、アラガミが巣食う場所の一つとなっている。

 

 人の想念に惹かれる様にアラガミは一定の”狩場”へと集まってくる習性を持っているのかもしれない。

 

 それをフルフェイスヘルムの下から確認する。本能が直感的にこの空母に存在しているであろうアラガミの存在を察知している。経験を交えて判断した結果、目標となるアラガミはこの空母の最奥。おそらく大型の瓦礫の裏側で休息を取っているのだろうと判断する。それを判断した所で口を漸く開く。

 

「一番奥……見えない位置にいるな。接近すればこっちを感知して間違いなく寄ってくるだろうな」

 

「っつーことは奇襲は無理か。かぁー、めんどくせぇな。奇襲して一発でコアがぶち抜ければそれでいいんだけどな……ま、少し苦労するハメになりそうだ。悪いな」

 

「好きで付き合ってるんだから気にするな」

 

 横、黒一色の服装の男が煙草を吸いながらそう言うので、言葉を返した。もう既に何度目となる出撃。回数を数える事すら億劫となってやめた。そもそも出撃してアラガミを狩る、という行動に一切の変化はないのだ。敵が強いか弱いか、後は自己責任というやつだ。所詮は何時もの延長線上の事だ。狩り、そして喰らう。それがゴッドイーターという存在のやる事だ。

 

「ふー……そろそろやっか。えーと、なんだっけ? 確かクアドリガの変異種? で名前はテスカトリポカだっけか。ホント極東のアラガミ動物園っぷりには頭が下がるわ。もうちょっと海外の方に流れてくれたら俺達が楽になるんだけどなぁ」

 

「極東以外ではコンゴウとの接触はゴッドイーターであっても死を意味するらしいぞリンドウ君」

 

「という事は俺達は道中で五回は死んでいるらしいぜホムラ君」

 

 二人で視線を向けあい、軽く苦笑してから手を叩きあう。それで準備は完了した。リンドウは右半身にアラガミに対抗する為の唯一の武器―――神機を構える。加えていた煙草は吐き捨てる様に捨て、そして踏み潰して火を消す。それを横目で確認しつつ、自身の両手、そして体を確認する。リンドウの様な軽装とは変わり、両手は鬼や悪魔の様に尖っている金属のガントレットにおおわれており、それに繋がる様に全身を鎧が、そして足をレギンスが覆っている。本来は鈍い銀色であった筈のそれは長い年月をかけて様々な返り血を拭きながらも微量ずつ吸い続けた結果、更に鈍い黒に近い灰色に輝いている。

 

 リンドウが神機を軽く振るって刃と盾への変形を軽く行って調子を確かめ、それに合わせる様に両手足の神機を振るい、その重量と調子を確かめる。

 

 時間で言えば三秒ほどの確認作業。しかし恒例のそれはもはや意識する前に始まっており、そして終わるのと同時に体が前に飛び出す。開始地点である大橋の入り口から全力で前へと向かって跳躍する。数百メートルあるその大橋の三分の一を一度の跳躍で駆け抜け、そして一歩目を橋の上で踏む。その衝撃にひときわ大きな金属音が響く。原因は全身を覆っているアーマー、そして威力も速度も隠す気のない自分とリンドウの踏み込み。それに耐えた橋の上の瓦礫が反応し、震えている。

 

 その音は響く、愚者の空母に。そしてその奥に住まう荒ぶる神を目覚めさせる。

 

 その巨体が出現するのと同時に跳躍へ入る。体を全力で前へと飛ばしつつ、アラガミにしか通れない獣道と呼ばれる道を通り、クアドリガに似た戦車の様な、兵器群を凝縮した巨体が出現するのが見える。その色は通常のクアドリガと違い緑に近い青に、そして黄色と赤で装飾されている。その姿を見て決して綺麗だと思ってはいけない。それはアラガミが人を食ったことで覚えた色、”死と宗教の色”でしかないからだ。

 

 その名が冠する神が出現する神話、その宗教の信者、それを大量に喰らったことによりクアドリガは進化し、死と想念と宗教をその身に描いた。そうやって生まれたのがこのテスカトリポカというアラガミ―――であると予測されている。事実は解らない。しかしそれがどうであれ、狩り殺し、蹂躙し、そしてその情報を持ち帰るのがゴッドイーター。

 

 故に殺す。

 

「狩るのが俺で―――」

 

「―――狩られるのがお前だ」

 

 二回目の跳躍で三分の二を飛び越える。そのころにはターゲットであるテスカトリポカの姿が良く見えてくる。その背中にはミサイルポッドが存在している様に見える。いや、そうなのだろう。もはや機械と生物の差なんて存在しない世の中なのだ。故にクアドリガ同様の機構をこの変異種が持っていたとしてもおかしくはない。

 

 そしてそれは次の瞬間に肯定される。テスカトリポカの背部からミサイルが十数と一気に射出され、跳躍中の此方の体へと向けて放たれる。真っ直ぐ進めば絶対衝突してしまうようなその軌道に一切焦ることはなく、そのまま呼吸を整え、

 

 そのまま大地に着地し、前方で爆風を感じつつそれを突っ切る様に前へと踏み込む。

 

「何時も通り、お前が突っ込んで俺も突っ込む!」

 

「シンプル・イズ・ザ・ベストって奴だな!」

 

 話を聞いている誰かがいれば頭を抱える話であろうが、そもそもリンドウと自分には古参のゴッドイーターとしての戦闘経験が存在している。だから合図する必要なんてなく、リンドウは勝手に神機とは別に所持している手榴弾や閃光弾を使ってサポートするし、此方も同じことをする。今のミサイルの撃墜も射撃型神機を持たないリンドウが移動を行いつつ手榴弾をぶつけ、爆破によって一掃しただけの事だ。

 

 そしてリンドウならそれぐらいはやってくれると解っている。だから戸惑う事無く、最初からこうなるであろうと理解していた爆風を突き抜ける。

 

 そしてその向こう側にいるテスカトリポカの人面を右手で殴り抉る。

 

 接触と同時に手首を捻り、殴った拳が沈むのと同時にその表面を削り、肉を削ぐように抉る。相手が金属であっても通じる。それは相手がまるで粘土の様に流動する事の出来るアラガミだからこそ出来る事。そしてそうやって抉った体の一部はそのままアラガミの体から解放された新鮮な餌として、

 

 触れている右手に食われ、捕食を完了する。

 

 神機を通して全身に力が漲る。そのまま動きを止める事なく突出している人面に左拳を加えた三連撃を繰り出し、体を捻りながら回転蹴りをくらわし、自分の体を後ろへと蹴り飛ばす。その瞬間テスカトリポカを黒いガスが覆い、

 

 そして発光。

 

 空中で回転しながら着地するのと同時に、紫炎と共に発光するテスカトリポカの姿を目撃する。衝撃や打撃ならともかく今のはまともに喰らえば即死するだろう、と判断し、正面のテスカトリポカから見て左側へと回り込む様に体を飛ばす。視界の端でリンドウが反対側に回り込むのが見える。その動きと共にテスカトリポカの発光、紫炎が収まって行くのが見える。

 

「そんじゃ、一気に終わらすぞ」

 

「あいよ」

 

 テスカトリポカの姿が見えるのと同時にリンドウが神機を構え、その姿から黒い獣を―――神機の捕喰形態へと移行する。それで一気にテスカトリポカを横から捕食し、光を纏う。神機解放状態に自分もリンドウも突入する。それにて完全な準備は完了した。身体能力、オラクル、体力、全てが普段以上へと高まったこの状態が切れる前に、

 

 相手がその必殺性を発揮できる前に完膚無きまでに破壊し、蹂躙し、そして狩り殺す。

 

 神機解放に突入するのと同時に頭上からミサイルが降り注いでくるのを認識する。それを理解するのと同時に前方へ、テスカトリポカへと接近する。背後に爆破を感じる時には既に体は地を蹴り、そして空を一度蹴り、テスカトリポカの人面へと一瞬で到達していた。神機解放状態により強化された拳を握り、全力のそれを顔へと叩き込む。

 

 そのまま内部で手を開き、食われる前に顔面を引きちぎる。

 

 金属と生体の混じったブチ、と嫌な音を響かせながらテスカトリポカの顔に当たるパーツが消失した。それを握りつぶす様に神機に捕食させつつ、もう片手を左側の装飾にひっかけ、それを力任せに引きちぎる。顔も、口も存在しない為に悲鳴の音は聞こえない。その代りその痛みが、苦しみが振動としてテスカトリポカの全身から伝わってくる。だがそれを気にする事無く引きちぎった装飾を投げ捨て、両手で正面の装甲を抉る様に突っ込んでから引き裂き、その内部を盛大に噴出させた。

 

「よっと」

 

 大きく開いた傷口に拳を叩き込みつつバク転を決めて正面へと降り、そのままテスカトリポカの前足として活躍しているキャタピラを神機解放で強化された両腕で引きちぎる。

 

 そうなればテスカトリポカはその体を支えきれず、倒れる。

 

 ―――そしてそこからは完全な蹂躙となって来る。

 

 此方が肩の装飾を引きちぎれば、その間にリンドウが背部のミサイルポッドを破壊し、前足を捻じり切ればリンドウが後ろ脚を切り落とす。

 

 結合崩壊なんて知った事ではない。戦闘とは効率ばかりではなく、生存競争なのだ。重要なのはどうやって生き残るのか。であるならば、どうやって相手を破壊するか、それを追求するに限る。特にアラガミ相手となると人間相手には決してできない残虐な戦い方が解禁される。ともなれば、取れる戦術は簡単になる。

 

 痛みを感じる所に痛みを与え、拷問に近い殺し方で速やかに蹂躙する。

 

 一撃必殺が通じる相手であればなるべく早く殺せば良い。しかしアラガミは常識を打ち破る存在。

 

「お、見っけた。これでおしまいだな」

 

 そう言って地面に転がるだけだったテスカトリポカから捕喰形態の神機でリンドウがテスカトリポカのコアを回収する。

 

 ―――アラガミにはコアが存在し、それを破壊、もしくは回収しない限りは半永久的に動き続ける。

 

 故に大型のアラガミは手足をなるべく再生し難い方法で引きちぎる。そしてその間にパートナーにコアを特定させ、そしてそれを破壊させるのが一番効率的になる。勿論、一般的な戦闘方法ではない。大前提として常にアラガミのキルゾーンに踏み込み続ける必要があり、残虐な手段を取るだけの容赦のなさが必要とされる。故に一般的にはアラガミを斬り、結合崩壊を迎えさせ、その再生能力がコアから失われるまで攻撃を与え続けるという方法になっている。

 

 しかし、そんなまどろっこしい方法は必要ない。

 

 少なくとも自分とリンドウが二人の時は。

 

「これで任務完了だなぁ」

 

「これきっと後で怒られるんだって俺知ってるぜ。こんな戦い方をしても絶対データにならねぇから」

 

 そう言いながら引きちぎったばかりのテスカトリポカの前足を投げ捨て、もはや活動する事のないその死骸の上に座る。

 

「ま、コアは入手したんだし後はあっちで解析やらなにやらしてくれるだろ。俺達の仕事はちょっと新しいアラガミとデートするだけの簡単な仕事さ」

 

「まぁ、実際アラガミを思いっきり蹂躙してそれを見下すのは超楽しいから俺は何でもいいんだけどな」

 

「お前、時々ものすっごく屑くなるよな……えーと、趣味はなんだっけ」

 

「煽る事と自分が優れている、凄いって思っているヤツの思惑を打ち砕いて見下す事」

 

「やっぱお前屑だわ」

 

「物凄い今更だな」

 

 リンドウにそう言い返し、二人で暮れて行く夕日を眺める。また返り血が酷いことになってしまった。これは支部に戻ったら鎧を洗う必要があるな、何てことを思いつつ、帰還をするためにも立ち上がり、リンドウと横に並んでここまで来るために乗ってきたテクニカルを隠したポイントへと向かって歩き始める。

 

 

                           ◆

 

 

 ―――この世の地獄としか表現の出来ない極東。世界の各地で生まれた新種のアラガミや変異種、堕天種の全てが確認される対アラガミの最前線にして”最も安全な土地”と呼ばれる場所。そこでも人間は戦っている。戦い続けている。死んでも次に意思を組み、そして地獄の修羅道を進む者がいる。そうやって終わりのない屍山血河を生み出し続けている。

 

 そこで抗い続ける己も、リンドウも、間違いなくこの極東の住人であり、そこに相応しいぐらいの修羅なのであろう。

 

 しかし、死ぬ気はない。死ぬかもしれない、だけど死ぬ気なんて一度もなかった。だからこの地獄の最前線で未だに生きている。生き続けている。

 

 絶望が絶望を生み出し、進化し続けるこの地獄で。

 

 今日も、絶望を相手にして見下していた。

 

 俺達は今日も生き残ったぞ、ザマァミロ、と。




 リンドウくん(26歳児)
  近づいて足を斬り落とすのが得意。とりあえず地面に落とせばぶっ刺し放題とか考えてる

 ホムラくん(25歳児)
  とりあえず頭引っこ抜いてから考えればいいかなぁ、とか思ってる。特技は煽る事と拷問

 GEでフルアーマーや拳とかやってみたかった。キグルミがいるんだしきっと許される。極東はホントにアラガミアップデートが頻繁で新種がバシバシでるから地獄だぜぇ!

 なおリンドウくんを見ればわかるけど一部キャラが狂化されるのは何時もの事です。

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