やはり新人類の青春ラブコメはまちがっている。   作:トーマフ・イーシャ

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蓮太郎の平塚先生への言葉使いの設定を変更しました。


葉山隼人は何も出来ない

「里見、この職場見学希望調査票はなんだ。希望する職場が天童民間探偵会社って、おまえの勤め先じゃないか!」

 

「いいだろ別に。俺は明確な意志と将来設計に基づいて調査票を書いた。俺は天童民間探偵会社以外に就職するつもりはない」

 

俺はまたしても提出物の不備?によって放課後、職員室で平塚先生の呼び出しを受けていた。最初は怒り心頭な表情で書き直しを命じられたが、それが無駄だと分かると、方向性を変えてきた。

 

「……なあ、本気であの会社しか考えていないのか?もっと、ほかに進路の選択肢は存在するだろう?今、そんな状態では将来の可能性を否定することになるぞ?」

 

「俺はあの会社しか考えていない。あそこ以外に俺の居場所はない!」

 

会話は平行線だ。どちらも譲らず、遅々として進まない。俺が適当に調査票を書いてしまってもいいのだが、なぜかそれを実行する気にはなれなかった。

 

「おやおや、ずいぶんともめているようだねぇ」

 

そういって話しかけてきたのは、室戸菫養護教諭だった。いつもは保健室の閉じこもって出てくるところをほとんど見ないのだが。

 

「先生、どうしてこんな人がいるところに?」

 

「ちょいとほかの先生に呼び出しを食らってね。全く、日の光なんてあびるもんじゃないよ。ここに来る前に日焼け止めと各種投薬をして、効果が出るまで数時間待機したうえで出てきているんだよ。全く、どうしてこれが経費で落ちないんだろうねぇ」

 

「……先生、以前は座禅を組んだりしてなかったっけ」

 

「ああ、煙が出て火事だと通報されかけたことがあってね。今度は科学的アプローチで外出に挑戦することにしたよ」

 

室戸菫先生は以前は世界で五指に入るほどの天才科学者などと言われていたが、現在では学校の養護教諭をしている。世界は今でも天才を引き入れようとあの手この手でアプローチをしているが、本人はここをやめるつもりはないらしい。逆に、学校からは、生徒からは気味悪がられており、また、一度だけ保健体育の授業を行ったことがあるそうだが、"とんでもないこと"になったらしい。それ以来、生徒やPTAからはやめさせてほしいと非難が殺到しているという、難儀な状態になっている。

 

「ああ、つまらない。最近保健室に怪我人が全く来なくてね。若い子供が傷を負って苦しむのが見れなくて何が養護教諭だ。蓮太郎くん、ちょっと飛び降りてくれないかな?例え全身の骨が折れても治してあげるよ。いや、この際肉体の怪我じゃなくてもいい、木更に告白してこい。振られたらその心の怪我を治してあげるよ」

 

「……ホントよくこの学校にいれるな」

 

「ほめても何もでないぞ」

 

「……」

 

帰りたい。

 

「ときに平塚先生、さきほどの話をちょっと聞かせてもらったが、決まっているのであれば無理強いする必要もないんじゃないのかい?それはあくまで調査票なんだ。本人は自身の希望を真面目な理由で書いているのだから、否定するのは違うんじゃないかい?」

 

「しかしですね、こうやって頭打ちで決めてしまっては、将来の可能性だって消えてしまうでしょう。確かに将来を一つに見据えてそれに向かって進むことは間違っていない。しかし、ほかにも選択肢はあるのだから、もっと広く持ってもいいと思うんです。だから、私は里見くんに違う世界も見てもらいたいのですよ」

 

「世界を広げる、というと聞こえはいいが、それは子供に医学も物理学も神学もみんな教えるようなものだよ。広いということは、浅いということだ。潜る場所を見つけたなら、一直線に潜るべきだ。浅瀬であちこちに手を出しても、必要なものは捕れないからね。もし、蓮太郎くんが潜る先が気に入らないなら、別の潜る場所の魅力を教えるべきだ。潜る場所を決めた人間がここは潜ってはダメと言われてしまったら、どこに潜ればいいか分からなくなってしまうよ。最も、私みたいなどこへでも潜れる人間が言っても説得力がないかもだがね」

 

「それは……そうですが……」

 

「蓮太郎くん、希望職場をそこにするのは間違っていないかもしれない。けど、確かそれは、一人だけで行けるものではないだろう?学校なのだから、少なくとも数名は一緒に行く必要があるはずだ。友達が虫だけの君にそんな相手がいるのかい?」

 

「う、うるさいな。虫以外にもいるよ」

 

「どうだか。しかしある意味ではいい機会だと思うがね。君はあそこしか知らない。この機会にほかの場所に行って、見聞を広めた方がいいと思うがね。もし、木更に対する後ろめたさがあるなら、産業スパイでもしてなにか持って帰ってくればいい。会社経営に役立つ営業方法だったり、あるいは名刺を渡して営業活動をするのもいいかもしれない。木更を思うのはいいかもしれないが、機会を捨てる理由にはならないぞ」

 

「……先生は、俺に天童民間探偵会社に行ってほしいのか?それとも行ってほしくないのか?」

 

「さあ、私はちょっとしたアドバイスをしただけだ。それを決めるのは君たちだろう?」

 

全く、くえない人だ。

 

 

 

 

 

放課後、奉仕部では雪ノ下は本を読み、由比ヶ浜はケータイをいじっている。俺?学校で出た課題をこなしている。自宅で勉強していると時折延珠のかまって攻撃が始まるので、ここはいい勉強場所になっている。

 

課題を片付けている横では、由比ヶ浜がケータイを見てはため息をついたりしている。

 

「どうかしたの?」

 

「あ、ゆきのん、ちょっと嫌なメールがね……」

 

「里見くん、セクハラは重罪よ。自首しなさい」

 

「おい、なんで俺がしたことになっている。名誉棄損で訴えるぞ」

 

「や、さとみんは関係ないかなって。クラスのことだから、さとみんとは関係ないよ」

 

確か俺と由比ヶ浜は同じクラスのはずなんだが。

 

と、部屋をノックする音。雪ノ下が入るように促すと、一人の男子生徒が入ってきた。見覚えがある。

 

葉山隼人。先日、テニスの練習を行っていたところにちょっかい出してきた業務妨害野郎だ。

 

入ってきて早速口が開く

 

「いやー、なかなか部活から抜けさせてもらえなくて。試験前は部活休みになっちゃ「建前もその辺にして、依頼の話をしないか?それともこうして時間を浪費させるのが目的か?だったら、出口はあちらだぞ。案内してやろうか?」いや、かまわないよ」

 

ちょっときつく言ってしまったが、笑顔で返されてしまった。

 

「ああ、奉仕部ってここでいいんだよね?平塚先生に、悩み相談するならここだって言われてきたんだけど……」

 

いちいちめんどくさいな。早く要件をいえ。うちの社長なら額に青筋走り出すぞ。

 

「結衣もごめんな、こんな遅くに」

 

「や、やー。そんな全然気を使わなくても」

 

だから早く言えよ!

 

「で、依頼だろ。なんなんだ。早く言えよ。業務妨害で突きだすぞ」

 

「ああ、そのことなんだが……」

 

携帯電話を取り出してカチカチと操作する葉山。イライラすることこの上ない。

 

ケータイでメールを表示し、みんなに見せる。そこには、誹謗中傷が書かれていた。

 

「これが出回ってから、なんかクラスの雰囲気が悪くてさ」

 

つまり、これをどうにかしてほしいということか。ここまで来るのに時間かかりすぎだろ。

 

「なら、警察にいけばいいんじゃないのか?フリーメールを使用しているということは、そのサーバの運営にログを照会すれば簡単だろ。犯人は数日でお縄だ」

 

「そこまで大事にはしたくないんだ。止めたいのだけど、犯人捜しがしたいんじゃない。丸く収めたいんだ」

 

これは名誉棄損という立派な犯罪だ。だが、見たところ特定の人物だけで俺の誹謗中傷はないし、依頼人がそういうならそういうことにするしかない。こんな日和った依頼、正直受けたくはないが。

 

「チェーンメール……ね」

 

その後雪ノ下が地雷を晒し出した。しかし雪ノ下がかつて被害者でチェーンメールを撲滅させた実績があるならこの依頼は受けても大丈夫だろう。もっとも、俺に決定権はないが。

 

話を進めると、職場見学のグループ分けで葉山のお友達集団が一人だけ余るのが原因で今回の事態が発生したのではないかとのこと。

 

「しかし、そのお友達とやらがそんな職場見学に関心があったとは意外だな。希望の場所に行くため、人員確保の情報戦を行うとは」

 

「そういうことではないのだけれど」

 

俺の独り言に雪ノ下が意見する。違うのか?"どこへ"ではなく"誰と"が重要ってこと?馬鹿丸出しだろ。一度はちゃんと考えて動いているんだなとか思ってしまった俺が恥ずかしいじゃないか。

 

「なら簡単だ。そいつらにメールアドレスを変更したといって別々のメールアドレスを教えろ。チェーンメールが次に来たらその宛先メールアドレスを渡したヤツが犯人だ」

 

「グループを決めるのが明後日だからもしかしたらもう送ってこないかもしれないじゃん……」

 

由比ヶ浜とは思えない指摘だ……。

 

「さとみんそれどういう意味だし!」

 

こいつも心を読めるのか!?

 

「なら、そいつらは職業見学、どこを希望しているんだよ。三人バラバラにしちまえばいいだろ。個別に聞いて、一緒だったら一緒に組んで、違ったら別のグループにすればいいだろ。それなら文句はないはずだ。そこがいいって本人が言ったんだからな。あとはこっちでそういうグループを見繕えばいい」

 

「いや、みんな俺と行くと言ってどこがいいかは話してなくてね」

 

……馬鹿ばっかりじゃねえか。男同士でなにを話してんだよ。もうお前のほうが俺よりホモでゲイバーのストリッパーという称号がふさわしい男だよ。俺はホモじゃないけど。

 

「……で、雪ノ下。どうすりゃチェーンメールは止められるんだ?ノウハウ知ってるなら、教えてくれよ」

 

「犯人を突き止めてやめるように言えば止まるわ。というわけで、由比ヶ浜さん、その三人を調べてもらえないかしら。一応、里見くんも」

 

「分かったよ、ゆきのん!」

 

だから一日で具体的になにを調べたらいいかそのあたりを教えてくれませんかね……?

 

 

 

 

 

生徒会室をノックする。

 

あの後、今日の奉仕部活動は解散することになった。俺はそのまま、生徒会室を訪れた。学校には、生徒用のPCが設置されている。もしかしたら、そこからメールが送信された可能性があるので、そのログの調査をするために来たのだ。

 

「里見ちゃ~ん」

 

「うぉッ、未織!」

 

戸を開けて飛び出してきたのは司馬未織。総武高校の生徒会長にして司馬重工の社長令嬢だ。

 

「最近全然会えへんから心配したわ~」

 

「悪かったよ」

 

「でもいろいろ話は聞いとるで。お料理したり、テニスしたり、今度はチェーンメール撲滅なんやってね」

 

「どうしてそれを!?」

 

「ひ・み・つ♥」

 

聞かないほうがいいのだろう。平塚先生からなにか聞いてるとかそんなことだろう。盗聴器とか仕掛けられてないことを祈る。

 

「それで、生徒会室に、どういった要件で?」

 

「学校のPCからのWebアクセスについて、ログを調べたい」

 

「ええよ。貸し一つやね」

 

意外とあっさり許可が下りた。未織もチェーンメールの件を知っていたということは学校から送信されている可能性に気付いていたのだろう。

 

生徒会室に入り、PCを起動する。この生徒会室には、未織の私物が大量に持ち込まれている。もちろん、ぬいぐるみだとかそんな可愛いものではなく、司馬重工が作った仮想ディスプレイや薄型ノートPC、更にはサーバ機まで設置されている。

 

「この学校はプロキシサーバいうて外部との通信すべてを仲介・代理で行うサーバがあんねん。普通、WebメールとかやとPCと向こうのサーバとの間で暗号化されてるからプロキシサーバでは何を通信してるか分からへん。せやけどウチが全部設定変えといたんや。暗号化通信はPCとプロキシサーバとの間と、プロキシサーバと向こうのWebサーバの間の二か所でトンネルを作るようにしてんねん。だから、あのPCで行う通信は全部丸わかりや」

 

よく分からんが、ログは問題なく見ることが出来るということなのだろう。

 

「それは、プライバシーの観点から見て大丈夫なのか?」

 

「学校側がPCの私的利用を禁止するゆうてるから見られても問題ないやろ。そのつもりで使うてもらわんと。例えネットショッピングのIDとパスワードが残っても、本人の責任やろ」

 

まあ、深くは考える必要はないだろう。

 

「……あったで。Webメールサービスへのアクセス。ログイン時に入力されたメールアドレスが里見ちゃんが言ってるメールアドレスと一致するわ。パスワードは……ぷふ、今時"password"+数字なんて!大方、passwordだけで行こうとしたら止められてもたんやね。だから、数字を……これ誕生日なんちゃうん?え、まさか、誕生日書いちゃったの?くふ……、チェーンメールの送信元アカのパスに、誕生日入れちゃったの?あははははは、もう、あかんわ、おもろいわ、くふふ、あっははははははははははは!!!」

 

なんか未織が笑い転げているが、表示されている四桁の数字をメモして由比ヶ浜にメールする。数日前に、必要になるだろうからと、メールアドレスを交換することになった。あと、なぜか平塚先生とも交換した。

 

 

 

「この日付が誰の誕生日か知ってるか……と」

 

 

 

 

 

翌日、放課後。俺は再び部室を訪れた葉山に単刀直入に言う。

 

「犯人は大和である可能性が高い。学校のPCのログを調べた。チェーンメールは、学校から送信されていた。恐らく、自宅からだと足がつくと考えたからだろう。しかし、パスワードに数字が付与されていた。大和の誕生日だ。また、グラウンドを使う運動部は交代で使用権を回しているが、メールが送信された時間は放課後で、その日、大和が所属するラグビー部はグラウンド使用権がなかった。このことから、アリバイがなかったと考えられる。しかし、犯人がそう偽造した可能性があるので、犯人を断定できないが、おそらく大和だろう」

 

「……そうか」

 

「で、どうする気だ?これだけの情報があれば、本人をゆすれると思うが?そこでボロが落ちれば確実だな。逆にここまで証拠を突き付けて出なければ犯人は大岡だ。お前と戸部は同じサッカー部だからアリバイはお前が証明できるはずだ」

 

「……そうだな」

 

「これで依頼は解決したな。それとも、俺たちが大和に言ってやったほうがいいのか?」

 

「……いや、必要ないよ」

 

葉山は見るからに落ち込んでいた。裏切られたとでも思っているのだろう。誰に、かは知らんが。

 

「ちょっと、さとみん、やり過ぎだよ」

 

「やり過ぎ?犯人を見つけるという方針を立てたのはそこの部長さまだろ。俺は俺のやり方で犯人を見つけた。由比ヶ浜、お前は犯人を見つけたのか?それともチェーンメールを止めるための代替案でも?」

 

「落ち着きなさい、里見くん。それで、由比ヶ浜さん、どうだったかしら?」

 

「ご、ごめん。一応女子に聞いたんだけど、全然分かんなかった」

 

「そう、それならいいわ。女子から情報を得られないということは、今回は男子だけの問題ということが分かったわ」

 

「ゆ、ゆきのん……」

 

「で、どうすんだ?」

 

変な空気になっているので話を戻す。

 

「犯人が分かったってことは、直接言いに行くってこと?そんな事したら……」

 

「仲間割れ・疑心暗鬼・空中分解、かもな。けど雪ノ下が犯人を見つければ終わる、その方針で動いていた以上、遅かれ早かれ犯人は特定していただろ。それでも、雪ノ下は葉山の『丸く収めたい』という依頼を受けた。つまり、雪ノ下は丸く収める案があるんだろ。そいつを聞こうじゃないか」

 

俺、由比ヶ浜、葉山の視線が雪ノ下に集中する。

 

「犯人を消すだけよ。悪性腫瘍はきれいに切断すれば、残りの細胞に影響は出ないわ」

 

……それは丸く収まるということでいいのか?

 

「で、でもゆきのんそれは……」

 

「何とかならないのかい!?大和がいなくなるなんて、そんな……!」

 

「なら葉山、全員をバラバラにする案はどうなんだ。あれなら犯人を告発しなくても丸く収まるんじゃないか?どこに行くかとか話さなかったのか?」

 

「それは……」

 

聞いてないのか。頭痛がしてこめかみに手を当てる。

 

「お前らはどこに行っても一緒なんだろ?だったら、もうなんでもいいだろ。代案が浮かばないなら、犯人を告発するか適当なグループにバラバラに入れるか、どっちか選べ」

 

ケータイが震える。画面に表示された名前は、木更さん。せっかくだ。帰らせてもらうか。

 

俺は、雪ノ下に断りを入れて、カバンを持ち、部室を去り、電話に出る。

 

 

 

『里見くん?今から事務所まで来れる?もうすぐ松崎さんが来られるわ。急いで来てちょうだい。延珠ちゃんを連れてね』

 

 

 

 

 

翌日。教室の黒板にはクラスメイトの名が書かれている。職場見学のグループ分けだ。よく見ると、葉山のお友達集団は、同じグループに所属している。葉山を除いて。

 

一組三人のグループで一人余るなら、自分がなればいいと考えたのか、それとも、バラバラになろうと言って自分が抜けたら、そのまま余った三人でばらけずに一つのグループでいくことになったのか、それは分からんが、結果として依頼達成したのか。

 

さて、俺はどうするか。俺がグループに所属出来ないで一人なら間違いなく天童民間探偵会社にいくだろう。しかし、三人グループに所属するとなるとどうだろうか。ほかの二人はそんな会社に行きたいとは思わないだろう。その時は、松崎さんの孤児院でも希望してみようか。

 

とりあえず、水原に声を掛ける。希望を伝えると快諾してもらえた。あと一人。あたりを見回すと、狸寝入りしている比企谷がいた。声を掛けようと接近する。

 

と、俺よりさきに比企谷に声を掛ける女子。青みがかった黒髪をした背の高い女子。二、三言話すと立ち去っていく。そのあと、俺は比企谷に話しかける。

 

「なあ、比企谷。良かったら、俺と職場見学のグループ、組まねえか?」

 

「おう、里見か。あと一人までなら可能だ」

 

「……もう一人って、さっきの女子か?知り合いなのか?」

 

「普通クラスメイトってだけで十分知り合いの条件を満たしてんじゃねえの?」

 

「黙ってろ水原。で、どうなんだ?」

 

「ああ、なんか以前、スカラシップに関するパンフレットを見ていたら話しかけられてな、スカラシップについてちょっと説明して、何枚かパンフレットを渡してやったらえらく喜んでな。それ以来、貸しが出来たとかなんとかでいろいろ」

 

「ふーん……」

 

よく分からんがいろいろあったようだ。

 

「今回も、気を回してくれてグループを組んでくれたわけだ。そんなわけで、里見はそこの男子と組むんだろ?他を当たってくれ」

 

「は、八幡!その、良かったら、僕と……」

 

「と、戸塚!ちょ、ちょうどよかった!もし空いていたら、俺と、一緒に、行ってくれないか!?」

 

「え、あ、職場見学?う、うん。いいよ。というか、僕もその話をしに来たんだけどね」

 

あいつ戸塚好きすぎだろ。デートの誘いをする初心な少年そのものじゃないか。

 

「ここ、いいかな?」

 

「葉山か。何の用だ」

 

「一緒に行くグループを探していてね。良かったらどうかな?」

 

「……一人か?」

 

「うん、一人だね。みんなバラバラにするつもりが、あっちで固まっちゃったよ。俺一人あぶれちまったな」

 

「おい蓮太郎、大丈夫なのかこいつ?」

 

「仕方ないだろ。あぶれ者はこっちも同じだ。選ぶほど贅沢出来る立場じゃねえだろ」

 

「ひどい言われようだね」

 

まあ、仕方ない。人員を確保できなかったのはこちらのミスだ。こいつと組むしかないか。

 

「俺たちは孤児院に行こうって話なんだが、構わんのか?」

 

「孤児院を希望しているのかい?どうして?」

 

「孤児院でいろいろと世話になったからな、俺も水原も。見学という名目で行って子供たちに会いたいだけだ」

 

「……そうか。すまない」

 

こいつ、俺らが孤児院出身とでも思っているのか?厳密には違うんだがな、延珠や火垂のことで世話になっているから、という理由なんだが。まあ、突っ込まれると面倒なので訂正はしないが。

 

葉山が黒板へと向かう。正直あいつとはかかわりたくない。あいつは、台風の目だ。あいつの周囲では、人間関係のトラブルが渦巻いている。移動すればトラブルの暴風雨がついて回るくせに、自分は直接被害が出ない。外部から干渉しようとすれば巻き込まれて、葉山自身が干渉しようとしても周囲に出来ているため一か所を触れば別の場所でひずみが発生する。

 

 

 

全く、面倒な存在だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あーし、隼人と同じとこにするわ」

 

「私も私もー」

 

「ぱねーわ」

 

わらわらと人が集まって俺らと同じとこに名前を書く。

 

「なあ、蓮太郎。俺ら、孤児院に行くんだよな?あんな大量のアホとビッチが来たらどうなるか、分かるよな?」

 

「ああ、そうだな、水原。もしなにかあれば、迷惑がかかるのは、松崎さんだよな。トラブルが起きて傷つくのは、子供たちだよな」

 

俺たちは顔を見合わせて、呟く。

 

「「……やっぱり葉山を入れるんじゃなかった」」

 

見学先は司馬重工になった。

 


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