やはり新人類の青春ラブコメはまちがっている。   作:トーマフ・イーシャ

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戸塚彩加はテニスを練習する。

ドアをノックし、扉を開ける。

 

「うっす」

 

「あら、珍しい。教室にまともに挨拶も出来ないサルが入ってきたわ。保健所に通報するべきかしら」

 

「……コンニチハ」

 

あれから、俺は結局奉仕部とかいう部活に所属することになった。明日の食費でさえ困っているのに、部活になんて入れないという理由で断るつもりでいた。しかし、平塚先生は生徒指導室に俺を連れ込み、「拒否すれば3年で卒業できるなよ」などと脅してきた。学校側にしてみれば、未成年だけで探偵会社の運営を行っているというのが遊びのつもりなのではと思われているらしい。確かに、今の収入であれば、アルバイトのほうがより効率よく稼げるのではと思う。しかし、俺が天童民間探偵会社をやめても、木更さんは続ける。そして天童に復讐すべく牙を研ぎ続けるだろう。

俺は、木更さんを放っておくことができない。いや、あの日、両親がいなくなり、天童に拾われから数年、謀反によって木更さんの親が謀殺され、いままで多くの政治家を輩出してきた天童が荒れ、俺がまた捨てられかけた、あの時。天童を捨てて生きていくことを決めた木更さんが俺を連れて行くと言ってくれた、あの瞬間。俺は彼女のために生きると、彼女を守ることを決意した。そんな俺があの会社を辞めるなんて選択肢はない。

木更さんは、学校に通う必要がないといった俺に、学校に通うように命じた。最低限の学歴は必要だというのが彼女の意見だった。それが無ければ、通わなかっただろう。

だが、その学校が原因で木更さんに迷惑をかけることは出来ない。やめろというのであればやめても構わない。俺の居場所は、木更さんのいる事務所と、延珠のいるアパート。それだけだ。

 

俺も平塚先生も譲る気はなく、平行線のまま。もう平塚先生を殴って退学になろうかななんて考えていると、生徒指導室に入ってきたのは、総武高校現生徒会長・司馬未織だった。

未織は俺に、天童民間探偵会社への依頼をしてきた。依頼内容は、里見蓮太郎を奉仕部に所属させること。報酬は、奉仕部の部費と学校の予算から支払うとのこと。

平塚先生は「無償の行為である奉仕に対し、報酬を支払うなんて出来ない。ましてや、学校の予算を生徒に支払うことなんて、許されない」と言っていた。しかし、未織は平塚先生を生徒へのパワハラを行ったとして教育委員会への訴えを出すと言うと、しぶしぶと言った表情で納得した。これ、別に俺が訴えてもいいんだよね?木更さんに言ったら、絶対慰謝料ふんだくってやるなんて言いそう。

 

放課後、木更さんに今回の依頼について報告すると、最初は「あの蛇女が……」とか「なにか裏があるはずよ!」なんて言って渋っていたが、報酬の額はそれなりにあり、しかも奉仕部に所属する間は安定して収益が入ること。そして未織には仕事でもたびたび世話になっていることから依頼として受けることにした。

未織は世界に名立たる巨大製造会社・司馬重工の社長令嬢で、たびたび依頼を持ちかけてくる。欠員の補充のための派遣や、製品のテスター、CM出演、さらには生徒会業務を手伝わせることもあった。以前、護衛任務などと言われて休日にあっちこっち連れまわされたりすることもあった。木更さんは、「それデートじゃない!」なんて言ってたが、延珠の、「お金をもらって女とデートするのか……」という発言で、自分がホストみたいなことして女に金を貢がせるクソ野郎みたいな気がして、それ以来未織からの護衛任務は受けていない。また、こちらも機材の調達や入手した資料・証拠の解析などを格安で依頼することもある。司馬重工が無ければ、すでにつぶれていると言っても過言ではないだろう。彼女はあまりないがしろには出来ない。

 

そんなことがあって、今日も奉仕部の扉を開ける。部員は、部長の雪ノ下雪乃と、俺の後に入部した由比ヶ浜結衣、そして俺の3名。由比ヶ浜はまだ来ていない。

 

「さっきから、そんな幸薄そうな顔でこちらを見ないでもらえるかしら。気が滅入ってくるわ」

 

「あぁそうかよ。そりゃ悪かったな」

 

雪ノ下の俺への風当たりは強い。最初に連れてこられたときのことを根に持っているのか、俺が金をもらって奉仕部に来ているのが不満なのか。一応、俺が報酬をもらっているということを知るのは、未織と平塚先生くらいのハズだが、こいつなら関係者ということで知っていてもおかしくない。

 

「やっはろー!」

 

「こんにちは、由比ヶ浜さん」

 

その挨拶はいいのかよ。

 

「うっす」

 

「あ……、さとみん、や、やっはろー」

 

若干気まずい。以前、材木座とかいう奴がクソつまんねぇ小説を読まされたことと、会社の仕事が連日遅くまで続いたことが原因で昼休みに襲ってきた睡魔に身をゆだねようとしていたところ、教室で由比ヶ浜と金髪ギャルが言い争いをしており、安眠妨害されてイライラが募ってきた俺は、「うるっせーんだよケンカすんなら外でしやがれ!!」なんて怒鳴ってしまった。その後雪ノ下が来て心底めんどくさいことになったので寝た。

 

いや、だって3日前に天童民間探偵会社の上のフロアに事務所を構える『光風ファイナンス』の連中が、「ほかのシマの奴らが攻め込んでくんで、用心棒としてしばらくの間雇わせてくだせぇ!」なんて言いやがって、それから3日、ほとんど寝てないんだぜ?依頼内容は、数日間天童民間探偵会社の事務所で待機しておいて、連中が攻めてきたら光風ファイナンスの事務所まで来て追い払ってほしい、とのこと。

 

延珠をアパートに放置できない、という理由で断る予定だったが、木更さんの、「事務所でお泊まりしたらどう?それなら大丈夫じゃない?」という提案、光風ファイナンスの連中の、「今回攻めてくる奴らは堅気には手を出さない連中です。それは保証します」という意見。そして延珠の、「お主ら2人なら鬼が来ても大丈夫だろ」という厚い信頼によって受けることになった。

 

そして、一日目、二日目とろくに眠れない夜が過ぎて、三日目、深夜2時。ついにヤクザが攻め込んできた。バタバタと大勢が階段を上る音。俺と木更さんも慌ててあとを追って4階へと階段を駆け上がる。扉を開けると、光風ファイナンスの連中と攻め込んできたヤクザが銃を向け合っている。と、木更さんが殺人刀・雪影を抜刀。すると置かれていたソファが3枚におろされて綿をまき散らす。木更さんがニッコリと笑って「里見君、今日のお夜食は刺身にしましょう。材料はこんなにあるんだから、おなか一杯食べさせてあげる」と刀をヤクザに向けながら一声。ヤクザが阿鼻叫喚して帰って行った。やっぱりストレス溜まってたんですね。

 

その後、「あんなにあっさり帰っちゃったら依頼終わっちゃうじゃない!もうちょっと優しくするべきだったわ!そしたらもうちょっと長く報酬を受け取れたのに!」と後悔していた。ホント怖かったです。

 

そんなことがあって、由比ヶ浜とは若干気まずい感じである。いや、俺はどうでもいいけど、由比ヶ浜がちょっと気に掛けている、といった感じか。

 

と、由比ヶ浜の後ろにびくびくしながら入ってきたジャージを着た女子がいた。俺の顔を見ると、びくってする。

 

「さ、里見君……」

 

めっちゃ怯えられてしまった。まぁ、自分の普段の学校生活からして、柄悪いヤツと思われていても仕方ないとは思う。

 

「里見君、その首吊り死体みたいな顔のせいでおびえてしまっているじゃない。いますぐ鏡の中へ消えたらどう?」

 

それはこの来客がアリスみたいだってこと?それともおれの両手がともに右手だとでも言いたいのか?

 

戸塚彩加と名乗った来客の話を聞くと、テニスを強くしてほしいとのこと。最初は奉仕部の方針と異なるから拒否するつもりだったが、由比ヶ浜の挑発ともとれる発言によって依頼を受けることになった。俺、雪ノ下じゃなくて木更さんが社長でよかったって心底思うわ。こんな簡単な挑発で何も確認しないうちに受けることを決められちゃかなわん。木更さんはそのあたり結構しっかりしてる。今回みたいな依頼だったら、期間と依頼者の現在の強さ、そして目標とする強さ、なによりも報酬の額と支払方法をしっかりと決めてから書面に残してそのうえで引き受けるかを決める。雪ノ下雪乃、こいつがこんなやり方で部活の部長してるといつか必ずトンデモないトラブルに巻き込まれそうだ。

 

俺も止めたが、雪ノ下は一度依頼を受けるといった以上、やめる気はないようで、どんどん話を進めていく。思わずこめかみに手をあててうなってしまう。すると、戸塚が不安そうな顔で袖をつまんで、「ダメ……かな?」なんて言いやがる。思わずドキッとしてしまう。

 

「……ッ!しゃーねーな!付き合ってやんよ」

 

にぱっと戸塚が笑顔になる。守りたい、この笑顔。

 

「依頼を受けるかどうかは、私が決めることよ。そこのゲイ見君に拒否権はないわ」

 

ふふっと雪ノ下が笑顔になる。殴りたい、その笑顔。

ていうか、ゲイって、え、こいつ、まさか、男――――?

 

 

 

 

 

翌日の昼休み、俺はテニスコートに向かう。時間外手当はでないとのこと。

雪ノ下は最初、死ぬまで走って死ぬまで素振りという非効率的かつスパルタなメニューを提示してきた。戸惑いながらも強くなれるならと承諾した戸塚の姿は、天使の様だった。慌ててその鬼メニューに反対し、身体能力面は、天童式戦闘術・初段で肉体の作り方も壊し方もある程度知っている俺が、テニス技術力面はテニス熟練者である雪ノ下が担当することにした。ホントは全部引き受けたかったが、俺はテニスは学校の授業でやった程度の経験しかないので、仕方がない。だからそれを伝えたときの雪ノ下のあのドヤ顔にイラっとしていない。

 

テニスコートには、奉仕部部員である雪ノ下、由比ヶ浜。依頼人の戸塚。あと、3名。

 

「材木座、どうしてここに?」

 

「ハッハッハッハッハ、我が友が過酷な修行を行うと聞いてな、応援にと我も馳せ参じたのだ!」

 

うざい。思わず睨みつけてしまうと、「ヒィ!」と縮こまってしまう。

まあ、こいつなりに心配してきてくれたんだと思う。いい奴なのかもな。その思いを無下にはしたくない。あと友って戸塚のことだよね?俺じゃないよね?

 

「で、水原。どうしてここに?」

 

俺は二人目の人間、水原鬼八に質問する。

 

「何やら面白そうなことしてんじゃねーか。お前の会社、こんなとこまで出張してんのか」

 

水原鬼八は、小学校以来の幼馴染だ。どちらも特殊な出自だったからか、友達がおらず、2人で良くつるんだものだ。

つまり、面白そうだから見学させろ、ということか。

 

「まあ、そんなとこだ。あまり大っぴらにしてくれるなよ」

 

「わかってるよ。しかし、美人さん2人と部活とは、天童木更さんに振られたか?」

 

「そんなわけねーだろ、死ね」

 

「テメーが死ね」

 

笑いあう。こうやって言い合えるのも楽しいもんだ。

 

そんなこんなで練習が始まる。まずは俺が身体能力向上のための柔軟運動と筋力トレーニング、そして天童式戦闘術で使われる特殊な呼吸法を教える。体力はかなり少なかったため、筋力トレーニングでへばっていたが、呼吸法を教えると、みるみる回復する。やはり技術力は結構高いようだ。教えたことの吸収は早い。

 

で、雪ノ下に交代。由比ヶ浜があっちこっちに投げたボールを戸塚に打ち返させる。テニスには詳しくないので体力向上以外にどういうメリットがあるかは分からんが、任せておくとしよう。

 

と、あたりを見てると、地面のアリを眺めている男がいた。そういえば、こいつも始める前にいたな。すっかり忘れていた。

 

「オイ、あんた。こんなとこでなにやってんだ」

 

男がこっちを見る。腐ったような目をしており、なんか親近感がわく。

 

「里見……だったか。俺は天使を見守りに来ただけだ」

 

天使って、戸塚のことだよな?アリじゃないよな?いや、天使っていわれて戸塚を連想した俺もどうかと思うけど。

 

「……アリ、好きなのか?」

 

「ああ、好きだね。これは社会の縮図だ。なんでも、アリの巣に住むアリの全体の2割はさぼっているそうだ。そして、さぼるアリは常に一定数存在するそうだ」

 

…………出来れば、もっとほかのところに目を向けて欲しかった。昆虫好きな俺としては、複雑なものがあるぞ。

 

と、ズサーっと地面とこすれる音。目を向けると、戸塚が練習中に転んだようだ。あの程度の傷なら、たいしたことはないだろうと思い、延珠用にいつも持っている絆創膏を取り出し、近づく。延珠は落ち着きが無く、暴れまわっては転んで擦り傷をするため、ある程度の医療品はいつも持つようにしている。

 

「と、戸塚!」

 

アリを見ていた男が駆け寄る。あんた戸塚好きすぎだろ。雪ノ下がその場から立ち去る。おい、立ち去んなよ。ちゃんと対応しないと業務上過失傷害になるぞ。

 

水道でハンカチを湿らせ、戸塚の擦り傷がある膝を拭き、絆創膏をはる。これで大丈夫だろ。

 

「あ、ありがとう」

 

横でアリの男がこっちを睨んでくる。もうこいつ何とかしろよ。

 

「もしかしたら、呆れられちゃったの、かな……」

 

あの女なにしてんだよ。何も言わないでどこに立ち去ったのかは知らんが、雪ノ下はこの場におらず、由比ヶ浜にフォローさせている。頭が痛くなる。

 

「……あー、なんだ、俺としては今のレベルがどうとかなんていいんだよ。目標は実力向上だ。納得するまで付き合うよ」

 

「はっ、相変わらず蓮太郎の口調のわりに面倒見がいいとこは変わんねーな」

 

「うっせ、口調がこうなったのはテメーのせいだクソ野郎」

 

水原と笑う。つられて戸塚も笑う。

 

「まあ、少し休め。それから、練習を再開するか」

 

筋力トレーニングくらいしか出来んが、付き合うさ。

 

「あ、テニスしてんじゃん、テニス!」

 

きゃぴきゃぴした声がするほうを見ると、いつぞやの金髪ギャルが仲間とともにやってきていた。さっさとお引き取り願うか。

 

「ね、戸塚―。あーしらもここで遊んでいい?」

 

「すまんが、ここは使用中だ。先生にも許可を取っている。遊びたかったら、よそへいきな」

 

「はぁ?あんたには聞いてな……聞いてないし!」

 

俺の顔を見て一瞬ひるんだが、意見は変えるつもりはないらしい。

 

「戸塚のテニス練習を目的に使用している。もう一度いう、使用中だ」

 

「でも部外者も混じってるじゃん。アンタもでしょ?ならあーしらが使っても問題ないし」

 

「俺らは戸塚の練習のコーチとして依頼された。部外者ではない」

 

「はぁ?何意味わかんないこと言ってんの?キモいんだけど」

 

こいつの頭の悪さに辟易してくる。こっちもこうしてお前らの相手するために練習の時間を削っているのだ。時間の無駄だ。

 

「失せろ。拒否するならば、業務妨害としてしょっ引くぞ」

 

口から冷たい声が発せられる。金髪ギャルがうろたえている。水原が口笛を吹く。練習を再開するか。

 

「まぁまぁ、あんまケンカ腰になんなって」

 

金髪イケメンがなんか言ってる。たしか葉山とかいったか。クラスの中心人物みたいなヤツ。胸糞悪い。

 

「ほら、みんなでやったほうが楽しいしさ。そういうことでいいんじゃないの?」

 

周りを見ると、ちらほらとギャラリーが出来ていた。見世物扱いかよ。イライラする。

 

「遊びじゃねえのが分かんねえのか?ほざいてんじゃねえぞクソ野郎。とっとと失せろ」

 

「な、あんた、隼人をクソ野郎呼ばわりとか、ふざけてんの!?」

 

金髪ギャルがキレる。ギャラリーから野次がとぶ。由比ヶ浜、戸塚、材木座が居心地悪そうにしている。水原とアリの男が笑っている。まったく、面倒くさいことになったものだ。

 

「じゃあ、こういうのはどうだい?部外者同士で勝負して、勝ったほうが今後のコート使用権を得る。もちろん、勝ったほうは戸塚の練習にも付き合う。これでどうだい?」

 

頭が痛い。なんなんだこいつらは。どれだけ狡賢で、浅ましくて、自己中心的なのだろう。どんな親に甘やかされればこんな我儘が通ると思い、どんな育ち方をすればこんな自信が着き、どんな生活をおくればこんなお花畑みたいな考え方になり、どんな教育を受ければこんな自分たちへのメリットしかないような取引を対等の条件だとでもいうかのように話すのだろうか?

 

一つ一つがおかしい。『部外者』?あれだけ俺が依頼として引き受けたと主張しているのに俺たちを部外者呼ばわり?『勝ったほうが今度のコート使用権を得る』?お前らが先生に許可をとればいいだけだろう?なぜ俺らが許可をとったのに譲る必要がある?『戸塚の練習にも付き合う』?そんな自己中心的なことばかりをいう人間が律儀にそんな空誓文を守ると思えるか?そんな発言のどこに信頼性がある?何より『付き合う』?遊びじゃないって言ってるだろ?戸塚の依頼は練習相手になることではない。指導してもらうことだ。お前らは指導出来るのか?一緒になって遊ぶつもりじゃないのか?付き合ってやるだなんてそんな下に見た発言で俺らが依頼を委任すると思うのか?

それに、メリットとデメリットが破綻している。俺がその勝負に乗るデメリットは、負ければコートが奪われ、戸塚が昼に練習する場所がなくなる。今回の依頼のことを考えれば、それはまずい。また、時間が奪われる。試合する間はコートを占領するため、戸塚の練習が出来ない。では、メリットは?何一つ無いじゃないか。勝っても得るものは本来俺らが持つべき正当な権利のみ。誰がこの勝負を受けようと思う?

逆に、相手は、勝とうが負けようが、今テニスで遊びたいという欲求が満たされる。なんせ、勝負になれば、試合ということでコートを使用できる。たとえ負けても、後日テニスがしたくなれば、同じ提案をすればいいだけだ。あちらにはメリットしかない。

あの会話を聞いて、まだ俺らが遊びで戸塚の指導を行っていると思っているのか。回りくどい提案までしてテニスで遊ぼうとするのか。付き合いきれん。

 

「最後通告だ。失せろ。二度とここにその面見せんな」

 

そう言い残して、俺は戸塚たちの居るほうへと戻る。戸塚を立たせ、由比ヶ浜にボールの入ったかごを渡して、ケガをする前まで行っていた練習を開始する。

 

ギャラリーが野次を飛ばしてくる。うぜぇ。事務所でこんなことされたらXD撃つだろうな。

 

「お疲れ、いいものを見せてもらったな」

 

アリの男がニヤニヤしながら近づいてきた。材木座も水原もニヤニヤしてる。

 

「見苦しいもん見せちまったな。……あー俺は里見蓮太郎だ。アンタは?」

 

「比企谷だ。比企谷八幡。一応、お前と同じクラスなんだがな」

 

「そ、それはすまん」

 

「気にすんな。慣れてる。むしろ俺と同じクラスで俺の名前を知ってる奴のほうが少ないまである」

 

「ハッハッハッハッ八幡!我もだぞ!」

 

「うるせえよ。高笑いと俺の名前をつなげんな」

 

「まあここにいる4人みんなそんな感じだろ。まあ蓮太郎の名前はロリコンとゲイの称号とともに知れ渡っているかもな」

 

「ロリコンはお前もなクソ野郎」

 

「火垂はそんなんじゃねーよ殺すぞ」

 

軽口をたたいていると雪ノ下が戻ってきた。手には救急箱。取りに行くなら取りに行くと伝えてから言ってくれませんかね?

 

「これは、なんの騒ぎかしら」

 

「ちょうどよかった。あいつらを帰してやってくれや。ボールが飛んで行ったら危ないからな」

 

先ほどの入口に立っている金髪連中を指さして言う。葉山は固まっており、金髪ギャルが喚いているのを取り巻きがなだめていた。

 

「なにかあったの?」

 

「ちょっと業務妨害してきてな」

 

「そう、分かったわ。こちらで何とかしておくわ。ご苦労様」

 

そういって金髪連中のほうへと歩いて行った。まったく、これはやっぱり超過勤務手当をもらわないとわりにあわねぇぜ。でも、練習を続ける戸塚の真剣な表情を見てると、これでよかったと思える。

 

こういうのも、悪くないのかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下さんだっけ?あーしらに勝つ自信がないの?だからこんな勝負に乗ることも出来ないの?」

 

「なんですって、いいでしょう。あなたたちのその安いプライドごと叩き潰してあげるわ。早くラケットを持ってきなさい」

 

「おいバカ何してんだよだれか早くあいつをとめろよ!」

 

俺以外全員コートから出てけ!

 


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