双蛇党日誌   作:you_ki_jin

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その日は生憎の大雨、雷こそ無いが、スコールに近い天気だった。

けれども、双蛇党の党員達は警備するという任務の都合上、傘をさして視界を減らすわけにもいかず、皆雨に濡れながら各々の仕事をしていた。

 

「もう最悪な日ね、今日が非番だったら良かったのに。」

レアはずぶ濡れになりながら、新市街の南門で門番の二人組に愚痴をこぼす。

「雷雲じゃないだけマシですよ、どうです?夜勤と交代した後に雨宿りがてら酒場で一杯」

門番の二人、片方の男性党員がくいっと手で酒を飲むジェスチャーをした。

それに合わせてもう片方の女性党員がレアの代わりに言葉を返す。

「いやいや、酒場行く時間あるなら、そのまま家に帰った方が雨に濡れないから」

確かにその通りだとレアは彼女に同意した。

酒を飲んでこの気分を少しでも何とかしたいという気持ちはあったが、早く帰ってシャワーを浴びた方が安く楽であり、酒場へ行く選択肢は当然ない。

「別の晴れた日に飲みましょ。」

レアがそう口にすると門番二人も、雨の日に無理をしてまで酒を飲む必要はないからと、その言葉に同意した。

強すぎる雨音の中で三人がそんな他愛もない会話をしていると、門から大荷物を抱えた数人のハイランダーが駆け足気味で入ってきた。

「旧市街で扱う商品だ、すまねぇが退いてくれ!」

その言葉にレアと門番二人は道の端へと素早く退いた。

市街へと入ってきたのは旧市街の店の商品を入荷しに来た配達員、恐らく門の外にはここまで荷物を運んだ馬車が止まっているのだと考えられる。

この大雨の中での荷物運び、配達員の彼等は双蛇党以上に難儀なものだった。

「俺達、双蛇党で良かったな。」

男性党員が過ぎ去る配達員達を見ながら呟いた。

仕事の苦楽で双蛇党に入った者は少ないだろうが、彼等見た者は口々に同意するだろう。

 

配達員達が荷物を運び終えて南門から出ていくのと同時に、外からまた一人男性が入ってきた。

彼はミッドランダーの男性で、傘もささず見慣れない鎧と背中に斧を背負っている、リムサロミンサの斧術士だろうか。

レアと門番達は彼に普通の人間とは全く違う、独特な暗い雰囲気があるのを感じた。

「待ってくれ、見たところ冒険者のようだな。配達員の護衛か?」

男性党員があまりのその男性の不審さに声をかけると、首を横に振って違うとだけ彼は答えた。

声をかけた段階で動揺せず、逃げ出そうともしなかった所を見るに、今の所は白。

「そうか。入ってこれた所を見るに、外の警備が許可したみたいだな。ま、面倒事だけは起こさんでくれよ?」

最後に門番が警告をすると、男性はそのまま旧市街へと歩いて行こうとした。

だが、男性は気まぐれかレアの方にほんの数秒だけ視線を向ける、レアも当然男性に視線を向けていた。

「っ!」

一瞬二人の目が合う、ただそれだけ。

しかしレアからすれば、彼が明らかに異質だと確信するだけの時間がそこにはあった。

男性の目には生気が無い、彼はまるで死体のような目をしていた。

「お名前をうかがってもよろしいでしょうか」

とっさにレアは男性を引き止める、後でこの男性ついて調べれるようにと彼女は彼に名前を聞いたのだ。

「名前は…ない……」

名前はない、男性は確かにそう言った。

その言葉に門番二人がハッとした様子で、彼の前後に立つ。

名前を言えない、それは自分の素性を証明できないことと同じだ。

「少し話があります、双蛇党まで御同行願ってもよろしいですか。」

レアは男性に問う、敵を見る目で彼を見ながら。

しかし男性は動揺しない、それが余裕の現れか、諦めの現れか、レアには読み取ることができなかった。

「そこまでだ、カトリィ。彼は問題ない。」

その場の誰でもない新たな声が聞こえる、レアには声色からそれが誰かすぐに分かった。

その場に登場したのはボルセル、彼の登場に門番の二人はすぐさま敬礼をして答える。

「ボルセルはこの不審者に何も感じないの?」

不審な男性を見過ごそうとするボルセルに、レアは怒りを覚えて反論した。

するとボルセルはクスリと苦笑する、彼の意外な反応にレアも門番二人も言葉が詰まった。

「カトリィ、お前知らないのか?エオルゼアタイムズをちゃんと読め。」

「はぁ?何の事?」

ボルセルが真面目に物事を言っているという事くらいはレアにも理解できるが、エオルゼアタイムズの読者であることと今回の件に彼女は関連性を見い出せない。

「彼の名前、いや通称はウォーリア・オブ・ライト、意味は分かるな?」

その名前を聞いてレアは理解する、男性が門を通れた理由、ボルセルと面識がある理由、その両方を。

「光の…戦士達……」

「そうだ、彼の安全性は私が保証する。エオルゼアタイムズには写真なんかも載っているはずなんだぞ。しかし、カトリィもそうだが、そこの門番二人は彼女以上にそういうのをちゃんと読め。誰が重要な人物か分からなくては困る」

光の戦士達とは、単的に言えばエオルゼアの英雄様、救世主様。

彼等が最初に活躍を見せたのは数年前の第七霊災の日、エオルゼアへ侵攻する帝国軍と激闘を繰り広げ、エオルゼアを護ることに尽力したという。

その後彼等は姿を消した、誰もが彼等の消失を嘆き、二度と帰ってこないとも考えていた。

しかし近頃、新たに彼等を継ぐものが現れたというニュースが飛び交うようになる。

複数の蛮神討伐、帝国軍残留部隊の撃退、一人の新しい光の戦士の登場にエオルゼアは希望を見いだした。

「ボルセル、失礼だけど私にはこの男がそんな希望の象徴には見えないわ。」

「そう言うな。光の戦士様は多少無口なだけで、実力は確かなものだ。事実グリダニアの蛮神問題にも一役かって貰っている。」

実力は確かなもの、やはりボルセルの中では得体が知れるかどうかよりもそれが第一だった。

彼のいつもの悪い癖に、またそれかとレアは気分を悪くした。

「すまない……」

すると光の戦士がレアに対して軽く会釈して謝罪をした。

彼は自分の不甲斐なさがこの結果を招いたと思っているのだろう。

何も悪くないはずなのにも関わらず謝る姿を見せる光の戦士に、レアは戸惑ってしまった。

「あ、いえ、こちらこそ勝手な理由で歩みを止めさせてしまったことは謝ります。」

性格、精神面での信用はどうしても持てないレアだったが、実力と実績では彼を認めざるを得ない。

レアの言葉を聞いた光の戦士は、そのまま旧市街の方へと消えていく。

雨に塗られながら過ぎ去る彼の背中は、見る者全てに死地へ行く軍人をイメージさせた。

 

「ボルセル、貴方は何故彼の存在と、この揉め事に気づけたの?」

光の戦士がいなくなったのをレアはしっかりとその目で確認すると、ボルセルへ静かに問いかける。

「なに、ただの偶然だ。彼の雰囲気は独特な物だろう?街に入るだけで彼を知る者は何となくで気づく。それで気が向いたからと此方から会いに来てみたら、これだ。」

呆れた様子で話すボルセルに、レアと門番二人は罪無き人間、しかも光の戦士を捕らえてしまいそうだった罪悪感で彼に言葉を返せなかった。

「気に病むな、初めて彼を見れば誰だろうと警戒する。それと彼の独特な雰囲気の理由は分からん、素性を話せない事と何か関係があるのだろう。」

ボルセルは最後に彼を調べることは双蛇党の仕事ではないとレア達に釘を刺し、本部へと戻っていった。

「双蛇党も楽じゃないな」

全てが終わると、そんな言葉を門番の男性党員が口にする。

仕事の苦楽で双蛇党に入った者は少ないだろうが、この状況を見た者は口々に同意するだろう。


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