新人チームLk結成日の翌日。
レアは前日に飲まなかった事もあってか、問題なく朝に起床でき、本部の定例ミーティングも当然間に合った。
定例ミーティングは各チームのリーダーと本部の者で行われる、内容は巡回地域の指示と注意すべき近頃の問題が主だ。
ミーティングにて、チームLkの巡回場所は今日も前日と同じ新市街だとレアは指示を受ける。
彼女の中ではその事実に何の疑問も覚えない、毎日巡回場所を変更されたら動く側も困る事は明白だ。
しかし新市街の狭さと平和さでレアは巡回に少し物足りなさも感じている。
平和なのは良いことなのだが、退屈な時間いわゆる無が彼女は大の苦手だった。
近頃はこれといった大きな事件もない為、ミーティングも最低限の内容で早め早めに終わることが出来た。
レアはミーティングが終わると自分のチームのメンバーを新市街のエーテライト・プラザに集めた。
天気は雲こそあれど、大部分は晴れていて、太陽も見えている。
太陽の光がエーテライトのクリスタルに反射して、まばゆく輝いていた。
皆がいることを確認すると彼女は口を開く。
「よし皆揃ってるわね、突然だけれどまずはこのエーテライト、巡回する際にとても重要になってくるわ。それは何故か分かる?」
レアはメンバーに聞いた、するとムーンキーパーのカスリが自身なさげに手を弱々しく上げて答える。
「えと、皆かがテレポしてくるから、ぶつからないように?」
「確かにそれもあるわね。冒険者達はここから見える南門から来ずに、このテレポ拠点たるエーテライトから直接街に入ってくることがあるわ。それを踏まえて通行の邪魔になら無いように巡回しなさい。50点」
50点と彼女は言ったが、一般的な会話ならその知識で充分だ。
勇気を出して答えたのに満点だと誉めて貰えなかったカスリは不満そうな表情をレアへと向ける。
しかしレアは双蛇党として、巡回警備としての意見が欲しかった。
「じゃあ、ヒントを言うわね。グリダニアにはこのエーテライトの他にいくつかのエーテライトがあって、簡易テレポで各々のエーテライト間の移動が可能よ。勿論、各門の外にも一個ずつ設置されてる。警備の観点で考えてみて」
ここまで言うとプレーンフォークのイタバシは解答に思い当たる、しかし自分が言っては面白くないと考えたのかニヤついた顔をしてあえて解答を言わない。
彼の表情からレアはそれを読み取ると言葉を続ける。
「イタバシは分かったみたいね。ジン、分かる?」
彼女はまだ発言をしていないジンへと問いかけた。
彼はチームの中で一番、私よりも双蛇党に忠義心がある。
忠義があればグリダニアの事を考えた正しい解答が出ると、レアは予想していた。
「自信は無いですが、悪意を持った者の侵入経路、犯人の逃走経路になる。ということですか?」
「ビンゴ!それを聞きたかったわ。」
ジンによる期待通りの解答にレアは親指を立てて返事をした。
彼は自分の考えが合っていたことに喜びと自信を覚える、ジンは早い段階で一人立ちできるとレアは安心感を覚えた。
カスリはカスリで、仲間の活躍を素直に喜び、自分も負けていられないと向上心をあらわにする。
解答こそレアの求めた物と違っていたが、カスリにも良い影響があったようだ。
「解答も出たし続けるわね、つまり南門と旧市街への道以外にここも移動地点になるの。しかも、どこに行くかも他人からは分からない。」
その言葉に皆は最悪の事態を想定してか、真剣な表情をレアへと向ける。
彼等の真剣な表情は彼女とって指揮が正しくできている証であり、指揮官としての自信を持てる要因となった。
「事件が起きて犯人が新市街にいる場合、または来た場合、南門は門番に任せて私達はこのエーテライトの警備を行うの。旧市街への通路は旧市街の巡回チームが抑えてくれる、これは巡回において何よりも重要な事よ。」
イタバシはその言葉を真剣にではなく興味深そうに聞いている、彼の中でこの事は初めて知る豆知識のような扱いなのだろうか。
「巡回中は時折エーテライトへ視線を向けて。その行為だけで悪意を持った者に、逃げられないぞっていう警告になるわ。これは犯罪防止にも繋がるのよ。」
レアの説明にカスリはうんうんと頷き、ジンは情報を整理するために思考を巡らせていた。
「これで今日の私の話は終わり。これを最初から完璧にしなさいとは言わないけれど、ゆっくり出来るように身に付けて。以上、解散!」
カスリとジンは各巡回場所へ歩いていく、その場に残ったのはイタバシとレア。
「カトリィさん、一ついいですか?」
イタバシは二人がその場を離れるの確認した後、レアに言葉をかける。
「レアって呼んで、何かさっきの話についての質問なら、今から二人を呼び戻してそれから聞くけど。」
「いえ、そこまでしてもらう必要はありません。ただ、確認をしたいことが一つ。」
彼は感情の読み取れない、ボルセルとはまた違ったポーカーフェイスで言葉を続ける。
「犯人が牙を向けて来た場合、どう対処すべきですかな?」
イタバシの言葉を聞いて、レアはそれについての言い忘れに気づく。
「しまった、確かに言い忘れてたわ。それに関しては各々の判断に任せるつもりだけど、戦闘するなら絶対に必要以上の暴力はしないで。相手の戦意を無力化する程度にとどめて、最悪でも気絶以上の外傷を相手に与えないで。」
まだ指揮官になってから二日目、言い忘れ程度ならあって当然だった。
しかし、彼は何故他の二人がいなくなった後にこの話題を振ったのか、そんな疑問がレアの中に浮かぶ。
二人がいる状況下で言えば二人にも伝えることが出来た、その事をレアがイタバシに伝えると彼女にとって意外な返答が返ってきた。
「それは単に今疑問に思ったからというのが一つ、レアさんが言い間違いを行う危険性があったからというのがもう一つです。気絶以上の外傷を与えるな、というのは実践経験が少なく、加減の分からないあの二人には少しプレッシャーになるでしょう、代わりの言葉を考えてあげてくださいな。」
イタバシはその事を告げると、レアにぎこちなさの無い綺麗な敬礼を見せて、その場を去っていった。
一本取られた、なんて事を思う彼女。
彼のちょっとばかりの有能さに、レアは上官としての自信を少し削られたのだった。
「それにしても彼、実践経験があるかのような口振りだったわね。……もしかして元冒険者?」