双蛇党日誌   作:you_ki_jin

18 / 22
短編:前日

グリダニア:新市街、平日の午後

カスリの視点―――

 

今日はグリダニアにいる冒険者達の皆がそわそわしてる、その理由は日刊エオルゼアタイムズという新聞で皆が知っていた。

 

「そっか明日なのね……」

 

双蛇党というグランドカンパニーのアタシの隊長ことレアさんは周りの冒険者達を見ながら、そっとアタシに呟いたんだ。

 

「そうですね…これでこの辺りは静かになっちゃうんですか?」

 

アタシはレアさんに寂しそう聞いたの、理由は明日からここにいる冒険者の数が減る可能性があったから……

 

「そうかもね。でも私達は冒険者じゃないから当然ここに残るし、乱暴な冒険者が減ることでここの治安も良くなるわよ?」

 

治安と活気は逆の関係、活気があれば治安は悪くなるし、治安を良くすれば活気が無くなる。

レアさんがアタシに言いたいことはそういうことだった。

 

「それならアタシは治安が悪くても…ここにずっと活気があって欲しかったかな。双蛇党がいれば嫌な事件が起きても解決できるから……」

 

アタシはレアさんに自分の気持ちを正直に言ったけど、それはワガママな事だって分かってる。

今回の事を否定したら、エオルゼアはそこで止まってしまう……

 

 

明日、イシュガルドへの道を閉ざしていた門がついに開く、開いてしまう。

でもそれは、半ば鎖国の様になっていたこの大陸がまた新たな一歩を踏み出していくことを意味する大事な出来事、避けちゃいけない。

 

 

 

グリダニア:双蛇党本部、夜

 

「ふぅ…お疲れさま皆」

 

レアさんは本部で巡回任務を終えた皆に言葉をかけてくれる、でも今日はグリダニアにイマイチ活気が無かったこともあって、アタシ達は皆疲れてなかった。

 

「むっ、帰ってきたかレア」

 

するとボルセル大牙佐がアタシ達の前に現れた、けれど彼もいつもと表情が違う気がする。

多分アタシのカンだけど、彼もアタシと同じように活気が減ることを悲しんでるんだと思う。

 

「「お疲れさまです!」」

 

アタシ・ヒューランのジン・ララフェルのイタバシさん、レアさんの部下なアタシ達はボルセル大牙佐にびしっと敬礼した。

 

「ボルセル、今日帰り飲まない?」

「少し時間がかかる、レアは先に行っててくれ」

「それくらい待ってるわよ」

 

レアさんはボルセル大牙左に会うと早速飲みに誘った、多分この街の活気が失われる事について愚痴りたいんだと思う。 

アタシも同じような気持ちだから大体分かる、ジンとイタバシさんを誘ってアタシも食べに行こうかな?

 

「ふむ、カスリさん、ジン君、僕達も飲みに行きませんか?」

「良いですね!俺も丁度同じ気分でした!」

「!……そうだね、アタシも行きたい!」

 

イタバシさんが私の気持ちを察してくれたのか、話題を切り出してくれた。

やっぱりイタバシさんは凄い大人だね、同じ階級とは思えないよ。

 

「カスリさん、イタバシさん早く行きましょう!」

「ジン君、焦らずに」

「あははっ、待ってよジン、イタバシさん~!」

 

明日から色々変わってしまう、それでも双蛇党のやることは変わらない。

明日も皆と一緒だから、きっと寂しくない。

そう、信じてる―――

 

 

 

グリダニア:新市街:冒険者ギルド、夜

ジンの視点―――

 

俺とカスリさんはイタバシさんの誘いで冒険者ギルドへ飲みに来た、ギルドの中に入ると俺達は直ぐに変化に気づいたんだ。

 

「わぁ…人少なくてがらがらだね~まるで閉店時間みたい」

「冒険者達はもうイシュガルドに行き始めていますからね、僕も今度の休暇に旅行くらいはするつもりです」

「こんな静かな酒場、俺達が双蛇党に入ってから初めて見た…」

 

俺は複雑な気分だった、あんなにも騒がしくてうるさく感じていた無法者な冒険者達が、いざ居なくなると寂しく感じてしまったからだ。

 

「どこ座ろうかな~♪いつもは空いた席に座ってたから選べなかったんだよね♪」

「どこでも構いませんよ、ジン君は何処か希望はありますか?」

「えっ?俺はどこでも……」

 

俺達は少し悩んであえてど真中のテーブルにした、勿論周囲を見渡しても他のお客は少数の市民だけで冒険者の姿はない。

席に座ると店員さんが直ぐに来てくれて注文を聞いてくれる。

 

「今日人少ないから来るの早いね?」

「カスリさん、それはあまり聞いていいことじゃありませんよ?」

「すいません、店員さん」

「いえ、気にしてませんよ。アレですよね、イシュガルドへの門の解放?」

 

店員さんも原因は分かっていたみたいだが、あまり触れて欲しくない話題だろう。

俺達がそれぞれ注文を言うと、店員は話題から逃げるように厨房へと移動した。

 

 

「さっきイタバシさんはイシュガルドに旅行へ行くと行ってましたが、具体的には何を?」

「あっ!それ気になる!」

「いえ、何も特別な事はしませんよ。街を見て、人と話して、お土産を買うくらいです」

 

俺達へイタバシさんは大雑把に答えてくれたが、俺は何となくその1つ1つが凄く濃いんだと予想した。

例えばお土産を買う、これは流通ルートの確保とか?

……考えすぎか、イタバシさんは商人じゃないしな。

 

「じゃあ!いいアクセサリーとかあったら買ってきてください!」

「それくらいで良ければ良いですよ、ジン君は何かありますか?」

「あー、ではそこにしかない食べ物とかをお願いします」

「お待たせしましたー」

 

俺とカスリさんがイタバシさんにお土産を頼んだ所で料理が到着する、人が少ない事もありサービスで量を多目に作って貰えた。

 

 

 

「ジン君はこの結果をどう思いますか?」

「えっ?」

 

3人で食べてる中、突然イタバシさんが俺に小さな声で聞いてきたが、何の話か分からない。

 

「何に対してですか?」

「この街の冒険者の減少についてです」

 

……正直言葉に迷うから聞いて欲しくない話題だった。

 

「俺個人的には嬉しいです、治安という点で物凄く良くなったと感じていますし……」

「ふむ、グリダニアと双蛇党を想う君らしい答えですね」

「……でも」

 

でも、なんなんだろう?

確かに俺は寂しい感じている、でもそれは一時の感情で、オーディンが出るときの事を考えると完全に元に戻って欲しい訳じゃない。

 

「でも、やっぱり寂しいです…まるでお祭りが終わったみたいに。勿論治安が悪くなるのは嫌ですが」

「……ふむ、やはり君もそう思ってましたか」

「俺も?」

 

イタバシさんはカスリさんに視線を向ける、彼の言いたいことを俺は直ぐに理解した。

カスリさんは楽しく騒がしい事が好きな性格だ、そんな彼女が今の状況を好むわけがない。

カスリさんも寂しがっている……

 

「イタバシさん、もしかして今日飲みに誘ってくれたのって……」

「えぇ、二人が寂しそうにしていたので気分転換にでも、と」

「……敵いませんね、貴方には」

 

 

 

「うわっ、がらがらね……ボルセルどこ座る?」

「どこでも構わない、レアも構わないから聞いたのだろう?」

「うっ、そうだけど……えぇ、どこ座る?」

 

どうやら俺達の隊長さんが来たようだ、こっちに呼ぼう。

ここにいる皆が色んなことを思っているんだろうけど、

皆で飲めばきっと寂しくなんてない―――

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告