双蛇党日誌   作:you_ki_jin

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短編:イタバシの通話

イタバシ…ララフェル族の彼には人一倍謎が多い。

名前のルールに当てはまらない明らかな偽名、どれだけの広さを持つのか分からない情報網、疑問点を上げ出したらきりがない。

 

 

 

とある平日の夕暮れ時、レアは双蛇党の任務でグリダニア:新市街を巡回している途中、ポツンと独り佇むイタバシの姿を目にした。

 

「……あれはイタバシ?リンクシェルで連絡をしてる、でもこっちのリンクシェルじゃないわね」

 

イタバシがリンクシェルで連絡取ろうとする姿を目にしたレアはまず自分のリンクシェルに着信が来ていないか確認する、しかし今の所彼から連絡が来ていた履歴は無くこれから来る様子はない。

疑問に思った彼女はイタバシに気づかれない範囲を意識し彼の側へと近寄った、当然近寄った事でイタバシの言葉が耳に入るようになる。

 

「……もしもし、やっと繋がりましたか。どうしたんですかな?応答に3コールもかかるなんて君らしくありませんよ?」

 

流石に彼と話す通話相手の声がレアの耳へと聞こえることはない為、イタバシの声で会話内容を予想するしかない。

まず彼女が把握出来たのは彼の通話相手が彼と短くない付き合いのある人物だということ、応答にかかる時間が普段は3コールかからないと把握している辺り、何度も連絡しているのではないかと考えられる。

 

「頼んでおいた品…手に入りましたかな?」

 

イタバシの指す『頼んでおいた品』が何かレアには分からなかったが、巡回任務中に連絡してまで確認している点から彼、または彼と相手にとっては重要な品だと認識できた。

そんな時、レアの心の中で引き返すべきではないか?という考えが生まれ出る。

それは仲間としてイタバシの立場を守る為、彼を失う結果を避ける為……彼との衝突を避ける為。

 

「それでは後日、宿屋のボクの部屋で。時刻はいつもの時間で構いません…では」

 

レアが思考を巡らせている間にもイタバシの通話は止まる筈がなく、彼女が気付いて耳を済ませた頃には彼が通話を終わらせる所だった。

惜しい事をしてしまったのか、これで良かったのか、レアはイタバシが通話を終わらせても結論が出せなかった、結論を出すこと自体にも嫌悪感が沸いていた。

善悪を置いた時この場でレアが出すべき回答は、全て忘れてこの時間には何も起こらなかったことにすること。そうすることで結論をうやむやにすることだ。

 

「……さて、仕事仕事!」

 

「カトリィさん?……ふむ、その様子からして盗み聞きでもしていましたかな?いたならいたで話かけて下さいな」

 

レアがその場を後にしようと現場に対して背を向けた時イタバシが彼女へと声をかけてきた、ビクリと体を震わせて背筋が凍るのを感じてしまうレア。

逃げられない、彼女は悟り彼へ恐る恐る通話の内容を問う、すると以外な返答がレアへと返ってきた。

 

「へ?特製プリン?」

 

「はい、予約だけで毎日完売するレベルなんですよ?凄く興味が沸きませんか?」

 

レアは全身の力が抜け、緊張が解けるのを感じる。先程の推理や思考は全て考えすぎな妄想だったのだ。

最後にイタバシは素直に任務中の個人通話に謝るとその場を後にした、レアの中でイタバシという人物が以前よりも単純な仲間に近づいた気がした―――

 

 

 

「ふぅ…カンは良いようですが、結論を導く思考がそれに追い付いていませんなカトリィさん?」

 

出来事の真実は森の中……

彼のみぞ知る。


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