才能とは運命に近い。
才能のある者はそれに気づいた時、それを主にして進もうとする。
まるでそれが最初から決まっていたかのように、まるでそれが最初から決められていたかのように。
例を出すなら光の戦士、他に出すならジョブの人達。
そこから分かるのはやっぱり才能は道を決める物で、強引に言えば未来を決める物。
世界を救う才能があれば世界を救うのは当然で、ジョブの才能があるならジョブなれて当然だ。
終わった後に振り返れば、それは正しく必然だったと感じ、それは正しく運命だった感じる。
しかし、もしそうだとするならば、双蛇党で生きるレアにとっての才能とは、双蛇党の才能だったのか?
そんなことはあり得ない、そんなことは認めない。
まだ全てが終わってないレアにはそれが才能だとは思えず、運命だとは思えない。
だから若かった頃のレアは、他の才能を探そうとした。
格闘士に触れてみた、斧術士に触れてみた。
けれどもやっぱりレアが一番やりやすいのは槍術士で、槍術士ギルドがあるのはグリダニアで、そこでの仕事は双蛇党になるわけだ。
そんな双蛇党の仕事は、国への忠義がなくても才能がなくても、少しの実力があれば上手くいく。
それは今のレアが証明してるし、今の新人達も証明している。
普通に考えれば才能があるからその道を続けられるというのに、才能の要らない職場も珍しい。
まさに来るものは拒まず、逃げるもの逃がさず、だ……ちょっと違うかもしれない。
そんな双蛇党で今日もレアはボルセルに実力があるからと、才能があるのではと、重大な仕事押し付けられる。
才能があると認めない彼女には双蛇党の仕事がやっぱりどこか面倒に感じ、実際やってみると果てしなく面倒だったりする。
「出張?」
双蛇党本部にてレアがボルセルに渡された資料を読みながら聞き返す、資料には明日からレアがウルダハの不滅隊にほんの数日だけ体験入隊する事が書かれていた。
その目で不滅隊の仕事見てきて双蛇党で参考にできそうな事を学んでくる事、それが上層部の目的だとボルセルが追加で説明する。
因みにレアの空いた分は不滅隊から補充人員が来るらしい、言ってしまえば技術の盗み合いだ。
レアは上層部の考えが相変わらずだと呆れてしまう、よく双蛇党のやってることの酷さが市民にバレないものだ。
何かの拍子に自分が双蛇党上層部になったら今の上層部全員をクビにしてやろうかとともレアは考えたが、今まで双蛇党が続いてきたという事実と実績を踏まえると上層部はやっぱり優秀で、彼らは何も間違っていない。
存続のためには多少悪に染まることも必要だ、そんな悪役みたいな事で世は成り立っている。
「まぁウルダハの街は広くて戸惑うだろうが、しっかりと学んでこい」
笑いながら叱咤するボルセル、これはまた面倒事を押しつけてくれたものだとレアはため息を出した。
しかしレア自身は以前ウルダハに仕事以外の理由、格闘士を学びに何回か行ったことがある。
仕事で行ったわけではない為、色々な場所を見たわけではなかったが、正直一度も行ったことの無いモードゥナの地に飛ばされるよりは彼女にとってマシだった。
下手したら双蛇党よりいい環境かもしれない、余裕そうにそんなことまでレアは妄想してしまう始末。
しかし、不安ではないからと言って面倒でもない、という訳ではない。
「分かった、でも期待しないでね?こういうのってやっぱりどこも似たような事しかしてないものだし。」
俺は分かってるが上はそう思っていない、とボルセルは少しプレッシャーをかけてくれる。
やらされる人間を目の前にして、そういう分かりきった事実を押し付けるのは止めて欲しいとレアは思う。
けれどもそれがボルセルらしいということであり、本音含めた率直な言い方こそが彼の優しさだ。
「では、頼んだぞ」
「うん、頼まれた」
そして体験入隊一日目、ウルダハに飛空挺で移動したレアは不滅隊の本部に来ていた。
天気は快晴だったが、砂の国ウルダハでは森の国グリダニアの快晴より幾分も気温が高くて陽射しが強い。
森に生きるエレゼンには正直キツい気候であり、長居はしたくない。
正直この時点で帰りたいレアだったが、仕事であり、給料もあり、仲間であるボルセルの頼みな以上投げ出すわけにもいかない。
彼女は本部の受け付けに挨拶をして、グリダニアから来た双蛇党の者だと話す。
すると上官を呼んでくれるかと思いきや、受付はレアにリンクシェルと呼ばれる小型の通信機を渡した。
なんでもレアの担当は現在巡回中で、こちらまで移動する手間を省くために詳しいことは通話で話すらしい。
ウルダハの街はとても広く、通信機を使わねば意思疏通がしにくい為、不滅隊では全ての隊員一人一人がリンクシェルを持っているそうだ。
双蛇党でも黒衣森の巡回警備時のみ一時的に通信機は配られるが、常に全員がリンクシェルを持っているなんてことは流石に無い。
流石富の国は贅沢なものだ、とレアは心の中で呟く。
受け付け曰く、黒渦団もリンクシェルを全員に配布しており、全員がリンクシェルを所持していない双蛇党がグランドカンパニーの中でも比較的珍しいとのこと。
双蛇党は貧乏性とでも言いたげですね?と言い返してみたくなったレアだったが、流石に双蛇党と不滅隊を険悪な関係にするわけにも行かず我慢する。
実際貧乏性で腹黒な部分があるのも事実だし、双蛇党上層部を庇うつもりは更々無い。
一応これも報告すべき都市国家ごとの違いだと、とりあえずレアはメモを一応とっておくが上層部の性格的に実装は見送りだろう。
しかし街が広いからといって、本部まで出向いたのに通信機一つポンと渡して顔を見せに来ないというのも酷くはないか?とレアは考えていた。
もしボルセルなら迎えに行くどころか、本部で到着を待ってくれていたことだろう、むしろ今交換された不滅隊の隊員を待っているだろう。
……フォンフォンフォン!
不滅隊の雑な対応に彼女がそんな不満を抱いていると、リンクシェルから早速着信音がなり響く。
いきなりの着信にレアはビクッと体を震わせ、受付は彼女のそんな姿を見てクスクスと笑った。
いきなり鳴れば誰もが驚くだろう、恥ずかしいところを見られてしまったとレアは顔を赤らめつつ一度咳をして誤魔化す。
独特の音がなったそれの使い方をレアは知識として知っていたが、最近新市街で巡回していた彼女は使ったのが久しぶりで、操作方法を思い出す手つきで操作した。
通話を開始すると、通信機から聞こえてきたのは初めて耳にする太い男性の声。
声の雰囲気から第一印象として悪い人間ではなさそうだとレアは感じた。
「よしリンクシェルは良好だな?こちらはスウィフト大闘佐だ。」
大闘佐は受付からレアが到着したと連絡を受け、連絡してきたそうだ。
一言言ってくれれば良いのに、とレアは少し受付をひと睨みしたが気づかないふりをされる。
彼の声に対してレアが自分の名前を名乗ると、ボルセルからレアの資料を受け取っていて、大体のことは知っていると答えた。
ボルセルが作ったレアの資料、彼女は何と書かれていたのか気になるが、ここで直接聞きたくはなかった。
余計なことが書かれてなければいいのだけどとレアは少し不安に思う、帰ったらボルセルに聞いてみよう。
「到着した際にこちらから顔を見せれずすまなかった、街が広い分こちらも中々手が空かなくてな。」
最初こそ不満に思っていたレアだが、しっかりと謝ってくれる大闘佐に好感を覚えた、冷静にウルダハの広さを考えれば仕方の無い事だろう。
気にしないで欲しいとレアが伝えると、時間が惜しいからと大闘佐はそのまま彼女に今回行う仕事を説明する。
他所様を体験入隊させることから今回の任務はそれほど難しいものではなく、率直に言えばいつもレアが行っている巡回任務をこちらで行うだけらしい。
つまり面倒でこそあれど、内容自体はシンプルなものだとレアは予想する、しかしこれでは不滅隊のやっている特色をあまり多く学べそうにない。
そんなレアの不満をよそに、大闘佐は受け取った資料からある程度彼女を信用しているのか、巡回地域を人通りの多い場所に指定した。
彼が指定した巡回場所はウルダハ:ザル回廊の国際市場、万引きやスリの警戒が必要な比較的巡回の大変な場所だ。
レアは新人の部下ができる前にグリダニアの商店街を巡回したこともあり、特に問題なさそうだと考えた。
「分かりました。では巡回場所に移動し次第、もう一度連絡します。」
彼女は通信を切り、受け付けに挨拶をしてその場を後にした。
ウルダハ:ナル回廊を歩くレア、彼女はチラチラと周りに視線を向ける。
数ある都市国家の中で一番栄えている事もあってか、冒険者を除いても周りに様々な人種の通行人がいた。
ヒューランのハイランダーに、ミコッテのサンシーカー、ララフェルのデューンフォークに、ルガディンのローエンガルデ。
昔に比べて各国で種族差別の概念が失われつつあるとはいえ、グリダニアではここまで色とりどりではない。
しかし数ある人種の中でも、冒険者以外のエレゼンの姿だけがあまり見られなかった。
昔からグリダニアではエレゼンが冒険者を目指す以外の理由で黒衣森を去ることは非常に珍しいことだったというのが根本の原因だろう。
ここにいる者が殆ど知り得ない双蛇党の制服を彼女が着ている事もあってか、エレゼンのレアはその場で一番浮いてしまっていた。
皆の視線が自分へと向いていることに周りを見ていた彼女は気づく、その視線は敵意でなく興味の眼差しだったが、どちらにせよあまりいい気分ではなかった。
そんなに気になるのなら話しかけてくればいいのに、なんて考えていたレアだったが、実際に話しかけれても困りそうだ。
すると通行人とすれ違う中、ナル回廊を巡回していた不滅隊の隊員ともでくわした。
どうやら隊員の殆どはレアの到着を知っていたらしく、彼女に対して貴女が噂のエレゼンか、少しの間よろしく頼む、と言ってくれた。
挨拶をくれたのはレア自身嬉しかったが、噂の双蛇党ではなく、噂のエレゼンという言い回しに彼女は少し気を重くする。
双蛇党に忠義心はないが、その時だけはグリダニアの双蛇党で良かったとレアは思うのだった。
ウルダハ:ザル回廊の国際市場に辿り着くと、当然ながらそこは多くの人が行き来していた。
その姿は正に人の波、闘気が来ればグリダニアでも人の波が起きるが、こちらは闘気と違って良い意味の活気がある。
レアは以前来たことがあったが当時と何も変わりがなく、市民も冒険者も旅商人も入り交じる国際の名に恥じない賑わい様だった。
まず到着したレアはリンクシェルでスウィフト大闘佐に連絡を取る、通話が始まるとレアは到着したことを話し、彼に何か巡回する上での助言はないか聞いた。
大闘佐は通行人と店先にいる者の手元を見ながら巡回すると良いと助言をくれる、やはりこの人だかりでは目を離しがちになってしまうのだろう。
盗んでしまえば逃げるのが簡単だという事実にレアは気持ちを入れ換え、意気揚々と人だかりの中へ入っていった。
すれ違う人は色々な人種の少年から老人まで様々だ、小さい手や大きい手が人の体に隠れながらどんどん流れていく様子にレアは途方もない難易度を感じる。
正直自分の見えないところで盗みが起きないよう祈るしかない。
ただでさえ巡回が難しいのに、ウルダハの商人は珍しいレアに声をかけてくれる。
「お、エレゼンとは珍しいね?何か買ってくかい?」
「い、いえ仕事中ですので」
人柄の良さで言えば良いことなのだが、流石に愛想よく返せる余裕は無かった。
仕事中だからと全て断る彼女だが、彼らは頑張りなと言ってくれる、レアは少し罪悪感がわいた。
皆がこの商人達の様な人だったら、なんて彼らの優しさに色々考えてしまう。
そうやってしばらく市場を右へ左へと回っていると、スウィフト大闘佐にでくわした。
「お、カトリィ大牙佐か」
他の場所を巡回していると考えていた大闘佐がどうしてここに来たのか聞くと、レアの仕事ぶりを見に来たのだと答えた。
正直手伝ってくださいと言いたいレアだったが、仕事の出来ない人間と思われるのは嫌だったので、喉から出そうだったその言葉を押し戻す。
代わりにレアは国際市場はいつもこんな人だかりなのかと聞いてみると、大体はこの量だと大闘佐は答えた。
グリダニアの商店街でもここまで人は多くはない、こんな状況でも毎日やっていけている辺り不滅隊には優秀な人材が多いのだろう。
双蛇党が仕事の出来ない人間の集まりとまでは言わないが、ここから見たら田舎者である彼らがここの風紀を守るのは恐らく無理だ。
レアが感心した様子でその事を正直に伝えると、大闘佐は苦笑しながらそれでもやっぱり盗みを完全に予防することは出来ないず、逃げられることも時おりあるのだと答えた。
「泥棒!誰か捕まえて!!」
少し遠くの方で叫び声が聞こえる、噂をすれば影、早速盗難が発生してしまった。
しかもある程度の距離がある人の波の先で起きたようだ、走り去る男の後頭部だけがこちらでも確認できる。
非常に不味い、この状況では二人は確実に窃盗犯へ追い付けない。
声を聞いた大闘佐は即座に通してくださいと声を上げて人の波を掻き分けていくが、人の多さで上手く道が空かなかった。
このままでは彼は確実に間に合わない、だがレアには間に合う手段が一つだけあった。
それは竜騎士の力を使う事、だがここでは人の目が多すぎるのが致命的な問題。
余計な者に見られるかもしれない、大闘佐が双蛇党に報告してしまうかもしれない、後ろ向きな想いが彼女の考えを一瞬揺らがせた。
それでもレアは思う、この状況で使わなかったら何のための力だ、何のための竜騎士だ。
使うことで解決できる事件を自分の意思で解決しない、彼女はそれが何よりも嫌だった。
レアは決断して持っていた石の力を使う、間に合え!彼女は心の中で叫んだ。
「スパイン――」
石がレアの想いに答えるかのように淡く光る、次の瞬間彼女は地面を強く蹴り、人々の頭上たる空へ跳び上がっていた。
突然その場から消えるようにして飛び上がったレアに、周囲の皆が注目し言葉を失う。
何も知らない者、知識はあったが初めて見る者、何度か見ていたが街中で使う輩がいるとは思てなかった者、言葉を失った理由はバラバラだ。
これで竜騎士の増加は冒険者以外でも有名になってしまうだろう、イシュガルドにも情報が行くだろう、しかし今はそんなことを気にする余裕はない。
一定の高度まで到達し一瞬制止したレアは窃盗犯の走る姿を視界に捕らえてその姿を注視する。
見えた、これなら行けると彼女は確信した。
「ダイブッ!!!」
レアは叫びと共に大闘佐と窃盗犯の進む先へと着地した、魔法の着弾音にも似た轟音が鳴り響く。
窃盗犯は突然目の前へ落ちてきた彼女に対し、化物を見たかのような驚き方をして腰を抜かす。
失礼な反応だとレアは思うが、流石に目の前でそんなことが起きればそうなっても当然だった。
レアは直ぐ様盗人を拘束し抵抗の意思がないか確認する、盗人は殺されるとでも思っているのか酷く怯えた様子で震えていた。
少し遅れて大闘佐が到着してくれた、彼もレアが突然自分を飛び越えたことに少し驚いている様子だ。
「犯人を確保しました」
レアはとりあえず大闘佐に現状を伝える、それを聞いた大闘佐は彼女に何も聞かず、後はこちらで対応すると言って犯人を本部へと連行していった。
その様子を見て周囲の通行人達がやっと状況を理解する、そして彼らが口に出したのは賞賛の言葉。
突然の拍手にレアは包まれた、普段ここまで目立つ事や誉められることが無い彼女は馴れない周囲の反応に照れ臭くなってしまう。
「ありがとうございます!」
盗難の被害者もレアに駆け寄り何度もお礼をする、被害者の言葉で彼女は行動を起こして良かったと少し救われた気分になれた。
そしてこの結果が良い方向性へと転んで欲しいものだと、しばらくレアは考えていた。
それからは正直拍子抜けだった。
数日経過し体験入隊最終日になっても、レアはスウィフト大闘佐から竜騎士について何も聞かれなかったのだ。
逆に彼女から大闘佐に聞いてみると、竜騎士の増加は噂で聞いているから別段問い詰める程の事でないと答えた、不滅隊から双蛇党への報告書にいちいち書くことでもないと大闘佐は続けて言う。
レアが口止めを願い出る前にそう言ったことから大闘佐や不滅隊の中では本当に些細な事なのだろう、双蛇党なら上が大騒ぎするであろう事実にここまで興味を示さない辺り、ウルダハにとってのジョブは特に珍しいものではないのだとレアは実感する。
恐らく市民達も珍しい技を使った程度の認識なのかもしれない、これが富の国の懐の広さ、というよりは鈍感さと言うべきか。
「さて、本日をもってカトリィ大牙佐の体験入隊を終了する」
不滅隊本部にてレアはリンクシェルをスウィフトへ返還する。
結局不滅隊の特色というものは特に無く違いは殆ど見られなかった、強いて上げるとしたらこのリンクシェルくらいだ。
スウィフトは正式にこちらへ来ないかと笑いながら冗談混じりで聞いてきたが、彼女は国際市場の巡回は流石に毎日やりたくないと笑いながら冗談混じりで答えた。
「お疲れ様でした、また次の機会があれば」
レアはそう彼に伝えて本部を後にする、ウルダハの様な活気がグリダニアでも生まれたら良いな、なんて思いながら。
「え?」
双蛇党に帰ってきたレアは早速ボルセルに報告書を突っ返されていた。
なんでも、殆ど違いはありませんでした、では上層部は満足出来ず、報告書として提出できないのだとボルセルは言う。
つまりは書き直し、レアはマトモな報告書を書き上げるのに十何時間とかかったとそうだ。
「ずっとウルダハに残ってれば良かったぁぁぁ!!!」