双蛇党日誌   作:you_ki_jin

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妖精

その日の天気は生憎の曇り、エーテライト・プラザの前のベンチにて休憩を取っていたレアは少し困ったことになっていた。

 

「ジャンプ、使ってみたい……」

「いや流石に止めておきましょうよ」

レアはそんな事を口走ってしまい、付近を巡回していたイタバシに制止される。

双蛇党に籍を置いて荒事に関わることの少ない彼女は竜騎士の力を持て余してしまっていた。

イタバシには既に事の経緯を話している、こういう興味深そうな事態に協力的な彼は『竜騎士の宣伝』においていい働きをしてくれるとレアは考えたからだ。

話した当初の彼は、こういう時に役立ちそうだからと何でもかんでも話す癖はやめた方がいいですよ、と言っていた。

口では警告していたが、目を輝けて満面の笑みだった彼を今でもレアは覚えている。

「で、イタバシは何人クルザスに送った?」

「ツテを通して15人ほどです。」

「うっそぉ、私まだ5人ほどよ」

しっかりと頼み事をこなしてくれるリアリストな辺り、ある意味でイタバシはボルセルより信用できるとレアは考えていた。

レアは曇り空を眺めながら、ふとイタバシに職業、ジョブについて話を振る。

「こう思うとジョブって、もしかしたら割りと沢山いるのかもね。」

「いますよ?ウルダハのナイトが有名どころですね」

イタバシは次々と有名どころなジョブについての自分の知識を披露してくれた。

レアが言いたかったのはそういう事ではなかったのだが、イタバシを止めてまで否定する事でもなかった。

イタバシの話を聞いてレアは改めてイシュガルドの厄介さを認識する、かの都市国家のせいでレアや彼女が誘った双蛇党の竜騎士はイタバシの言うナイトに比べて力を公に振るえず、狭い想いをしていた。

同じ騎士なのに大違いだ、自分が冒険者だったならば迫り来る相手にぴょんぴょん跳んでいたことだろう。

 

二人がそのままジョブの話をしていると、レアの目の前を小さな光の塊が通った。

彼女にはそれが何か分からず、そのまま見過ごしてしまう。

今のは何なんだろう?レアはふと目で追いかけた、彼女が巴術士のカーバンクルかと思ったそれはカーバンクルより小さく、空中を飛行している。

闘気かとも考えたが、付近にあるのはそれ一つ。

「ねぇ、イタバシ?発光する未確認飛行物体って何か分かる?」

「蛍の話ですか?」

レアは言葉は適当ながらも、真面目な気持ちでイタバシに問いかける。

しかし、彼は偶然それを目にしていなかった為か、不真面目に適当な回答を返した。

蛍、それも一つの答えたり得るが、それにしてはサイズが大きいのと、今は雲って暗くとも夜ではない。

ほらあれ、とレアが光の塊を指差してイタバシへ伝えると、彼は納得した様子で答える。

「あぁ、あれですか。あれはフェアリー、学者が召喚するパートナーの様なものです。しかしグリダニアで見られるとは…ここ最近は学者の数も増えてるのでしょうか……」

「フェアリー?!妖精!?ちょっと見てくる!」

おとぎ話に登場する様な存在であるそれにレアは少し期待感で興奮する、彼女も一応はうら若き乙女でそういったメルヘンな物にも関心はあった。

レアはフェアリーに近寄って視点をそれの高さに合わせると、こんにちわと優しめに挨拶をしてみる。

遠目では光の塊としてしか認識できなかったそれは、近寄ることによって少女に羽の生えた妖精の姿だと正しく認識できるようになった。

妖精は突然話し掛けられて多少驚くも、口の代わりに体や飛行を使ったジェスチャーで挨拶を返してくれる。

「なにこれ、すっごい可愛いんだけど!」

「そうですね~、でも僕はそこまで興奮してるカトリィさんにビックリです。」

フェアリーを見て大興奮のレアにイタバシは、僕は巡回に戻りますので程ほどに、と告げてその場を去る、妖精は彼の興味の対象にならなかったようだ。

妖精を見ていてレアは一つ疑問が浮かぶ、フェアリーが学者の召喚だというのならば学者本人がどこかにいるはずだ。

彼女は妖精に向けて、もしかして迷子なのかな?と問いかけると、その子は違うと首を横に振って答えてくれた。

妖精がレアの背後に指を指す、それと同時に彼女の背後から声がした。

 

 

 

「あの、」

「あ、はい、どうかなされましたか?」

レアが振り向くと、そこにいたのはレアと同じくらい長身の女性。

まず耳が長いことと肌の色から、その女性がエレゼンの種族の、恐らくフォレスターの部族だと分かる。

長い金髪に金色の瞳、エレゼン特有の整った顔立ちで、彼女が美人だとレアは素直な気持ちで思った。

「そのフェアリー、わたくしの子なのですけれど……」

「え!?す、すみません!私は別にこの子相手に職務質問してた訳じゃなくてですね、てっきり迷子なのかと思って!」

クスクスと女性は笑いながら、フェアリーは主人と共にいることが多いので迷子になることはあまりありませんよ、とレアに教えてくれる。

その事を聞いたレアはフェアリーの方へ目をやり、とても良い子ね、と誉めてあげた。

「ふふっ、可愛いわね?」

女性は微笑みながらレアに問いかける、しかし主語の無い言葉で意味が読み取れず、彼女は返す言葉に迷ってしまった。

しかし意味も分からないまま同意するわけにもいかず、フェアリーを見ながら、この子の事ですか?とレアは問い返す。

「……貴女も」

女性はレアへ指を指し、そっと優しくまるで風の音の様に答えた。

予想外な彼女の解答にレアはドキリとして、頬や耳が真紅に染まってしまう。

双蛇党なんていう泥臭い仕事をしている為、彼女はそういった女性を誉める際に使う言葉をあまり言われたことがなかった。

けれども出会ってからずっとレアは女性から上品な雰囲気を感じていたこともあり、今の言葉が本心ではなく社交辞令の可能性もあるとも考えられた。

それでも本心からだったら良い、なんて事を考えてしまっているレアもいる。

ともかくまずは感謝を言わないと、とレアは口を開く。

「あ、ありがとうございます……」

「よければ、名前を教えてくださらない?わたくしはアルティコレート、アルティでよろしくてよ?」

女性、アルティは先ほどの不意打ちで少し緊張気味なレアに微笑んだまま名前を聞いてくる。

まずは素敵な名前ですねと返すのが礼儀だったのかもしれないが、レアは上手く言葉を返せない。

「わ、私はレアヌ・カトリィです。えと、部下や同期にはレアと呼ばせてますが、カトリィで構いません。」

緊張からレアは余計な事まで口走ってしまう、これではレアと呼んで欲しいと言っているような物だ。

そんな余裕のないレアをよそに、アルティは余裕そうな顔で答える。

「そう、ならレアと呼びますわね?それと敬語もわたくしには必要なくてよ?」

アルティはレアに優しく聞いた、それは疑問系だったが、何故か彼女は拒否できない。

レアは少し気持ちを落ち着けてからアルティへ、どうしてここに?と問いかけると、彼女は冒険者が旅をしてはいけない?と問い返された。

部外者が立ち入っていい話では無かったようだ、普段は通行人にプライベートな話を投げ掛けないレアだったが、ついペースが乱れていた。

「軽い冗談ですわ、調理用の食材を買いにね。それではレア、今日のところはごきげんよう。」

「あ、うん。さようなら、アルティ」

アルティとフェアリーは別れの挨拶をすると、旧市街の商店街に向かってその場を去る。

そよ風の様に通りすぎた一瞬の出来事、しかしこの出来事が実は始まりで、彼女とは永い付き合いになるのかもしれないとレアは心の何処かで考えていた。

 

「あー、まだドキドキしてる……御世辞でもやめてよね、もう……」


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