アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり 作:砂岩改(やや復活)
救助に来た揚陸艦と合流したフィアはスレイプニールを甲板に座らせ機体から降りるとカームがやってきて頭を下げる。
「いや~助かったよ、ありがとうなフィアさん」
「いや…当然の事をしただけだ。それとフィアでいい」
「そうか!じゃフィアありがとな!」
「あぁ…」
礼を言って去って行ったカームを見送るとフィアは伊奈帆のスレイプニールから降ろされたアセイラムの元に駆けつける。
「姫様!」
「フィア!」
「何故あの様な無茶をなさるのです!私の寿命が何十年縮まったと思っているのです!」
「ごめんなさい…」
「全く…」
シュンとして反省するアセイラムを見て思わず許しそうになるが今回フィアはもう二度としないように心を鬼にして説教を続けようとする。
すると突然の衝撃が襲いかかり倒れそうになるアセイラムをフィアは倒れないように抱きしめる。
「姫様!ご無事で!」
「あ、はい何とか…フィアこれは…」
「隕石爆撃ですね…」
「火星人め!」
隕石によって街が丸ごと消し飛び燃え盛るのを見てカームが憎々しげに叫ぶとアセイラムは抱きしめていたフィアの腕を強く握りしめフィアもそれを感じて悲しい顔をする。
「大好物です…」
そんな二人を見て近くの眼鏡をかけた男子、祐太郎がそう呟いたのは言うまでも無いだろう。
ーーーー
恐ろしい光景を見た後、艦内に入るとエデルリッゾが二人に嬉しそうに駆け寄る。
「フィア!姫様!お二人ともご無事で!」
「ありがとうエデルリッゾ…こちらの様子は?」
「はい!変わりありません!」
「そう…良かった…」
エデルリッゾの言葉に笑顔を見せるアセイラムだがその笑顔には若干の悲しさが含まれておりフィアとエデルリッゾはあえて触れないでいた。
「だが…色々と事情があってな…少し時間が掛かりそうだ…」
フィアは疲れたように言うと赤髪の少女を見やりしばらく目が合うが艦の突然の揺れにまたよろめいてしまう。
「もう!操舵手は何やってんの…」
その揺れでユキは伊奈帆と思いっきりおでことおでこをぶつけて痛がりながら怒っているとアセイラムと目が合い黙る。
「あの…」
「あぁ…」
「先程は…どうも界塚伊奈帆さん…私は…セラムとお呼びください」
「うん…そうします…セラムさん」
見せかけの自己紹介を終えたのを見たフィアは伊奈帆に話しかける。
「我々はまだ不慣れなのでな…出来れば船を案内して貰えるとありがたい…君も…来てくれるな?」
フィアは後ろにいた赤髪の少女に言うと少女は黙って頷きフィアは目線で伊奈帆に人目のない場所を頼む。
「分かりました…案内します」
「ありがたい…」
ーーーー
そして伊奈帆に案内されてのは誰も居ない油圧室でエデルリッゾが止めるの退けてアセイラムのホログラムを解除して姿を現す。
「改めて初めまして。私はアセイラム・ヴァース・アリューシア、ヴァース皇帝の孫娘です」
「フィアの言動で何となく分かってたけど…まさか本当だったなんて…でも僕は暗殺の一部始終を見ていた…」
伊奈帆の質問にエデルリッゾが答える。
「あれは影武者です。姫様はあの日、慣れない重力でお身体の調子を崩されたのです。それを理由に懐疑派の護衛隊長が無理やり影武者を」
「なる程…それで?これからどうするの?」
「ひとまず姫様には旅行先に巻き込まれた一般人としてこのままロシアの地球連合本部に向かう。そこで月基地へ長距離レーザー通信を行い無事を知らせる予定だ。最もこの船が最後まで無事という条件は付くがな…」
伊奈帆はフィアの言葉に納得したのか頷くと更に質問をする。
「でもわざわざ隠さずに今ユキ姉たちに事情を話せば…」
「いけません!地球人の中にヴァースのスパイが紛れ込んでいます!恐らく暗殺者の仲間です!姫様はそのスパイに命を狙われたのです!」
伊奈帆の言葉にエデルリッゾが全力で反対すると後ろで話を聞いていた赤髪の少女が若干表情を変えるがフィアを含めて誰も気づいていなかった。
「出来ればこの件は内密に頼む…」
「分かった…」
「…うん」
フィアは二人の同意を得ると取りあえず安心するのだった。
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「突然押しかけて月を壊して、ヘブンズフォールで地球をメチャクチャにして!岩石帯からずっと俺たちを見下ろして、仇は討つ!オコジョや他に殺された奴らの…火星の奴らめ…」
艦内で静かに待機していたフィア達の耳を襲ったのはある意味当然の罵倒と恨みだった。
しかしそのきっかけになってしまったアセイラムやフィアにとってはとても重く、とても辛い現実だった。そんな様子を見ながら階段で伊奈帆と赤髪の少女が静かに話していた。
「さっきの話…どうするの?本当に黙ってるつもり?」
「いつ敵が来るかもしれない極限状態で人間が理性的に居られるとは限らない。もし火星人だと分かったら…あの人達がどうなるか分からない…」
「優しいのね…敵の心配をするの?」
「それだけじゃないよ、フィアはアセイラム姫に忠誠を誓っている。もしその姫が危険な状況に陥れば……この艦の全員を皆殺しにするのも躊躇わない」
伊奈帆の言葉を聞いた少女は戦慄した。確かにあれ程アセイラム姫に入れ込んでいるフィアならやりかねないからだ…黙る少女をよそ目に伊奈帆は話を続ける。
「それに敵はあの人達じゃなくてそれを殺そうとしている奴らだよ。これが本当ならフィアの言う通りセラムさんを無事に送り届ける必要がある…君は?」
「ライエ、ライエ・アリアーシュ…」
「ライエさん…君は?」
「保障はしないわ…危ないと思ったら全部話す…火星人は皆敵よ…」
そう言ってパーカーのフードをかぶり去って行くライエを見届けた伊奈帆はそのまま黙ってフィア達を見続けるのだった。
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「マリーン・クウェル…只今、月面基地から参上致しました」
「月面基地での働き…大義であるクウェル卿…しかしトリルランがネズミを一匹逃したようだ…」
マリーンはザーツバルムの話を聞くと少しばかり顔をしかめる。
「トリルラン卿がですか…ネズミもネズミで頭が回るようで…私が出ましょうか?」
「いや、その必要は無い。先程その一帯に隕石爆撃を仕掛けた…流石のネズミも逃れられまい…」
「なら大丈夫でしょう。私が一番心配なのは…フィアがまだ生きていないか…ですね」
マリーンの言葉にザーツバルムが不審な顔をする、マリーンは現実主義者で普段は自身の感やフッと思ったことは口にしない…その彼女がその様な事を口にするのは珍しいのだ。
「マリーン…どういう事だ?」
「いえ…私の経験上フィアがあの暗殺で本当に死んだとは思えないのです」
「貴様がその様な事を言うとはな…何か不安要素があるのか?」
「いえ、シナンジュのアルドノアは機付き長の証言では停止している様ですし。いえ…気になさらずに…」
マリーンはそう言うと揚陸城の司令室から去ると地球を見られるテラスで黙って地球を見下ろす。
(フィア・エルスート…貴様がテロを簡単に見逃すとは思えない…)
ただ止められなかっただけなのか…それとも”止める必要が無かった”のかマリーンは静かに地球を睨み付けるのだった。
どうも砂岩でございます!
今回はアルギュレの登場前までです!
少し補足でマリーンとフィアはお互いを認め合っていた関係で数少ない友達のようなものです。
最後まで読んで頂きありがとうございます!