アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第六十五星 決死の防衛線 -Desperate of Line of defense-

 

「くそぉ!」

 

 月面基地、カタフラクトハンガー。

 そこでは基地に侵入したアサルト部隊に対し整備兵たちが決死の防衛線を繰り広げていた。

 

「機付き長、もう駄目ですよぉ!」

 

「泣き言、言うんじゃないよ!」

 

 シナンジュ機付き長、フェイン・クラウスはサブマシンガンを撃ちながら部下たちに檄を飛ばす。 

 

「私たちが機体見捨てたら整備兵失格だよ!」

 

「でも無茶ですよぉ!」

 

 クランカインが乗ってきた輸送船からの増援もやられてしまい、整備班が大型の機材やカタフラクトの部品を楯にして根性で居座っている状態だ。

 相手は完全武装の対人部隊、こちらは機械いじってるだけの整備班。勝負など目に見えている。

 

「駄目です!シナンジュの緊急運搬装置が動きません。物理的に切断されているのかと!」

 

「くそっ!」

 

緊急運搬装置でタルシスは他のハンガーに移動させたがシナンジュ用の装置が既に壊されていて逃げられない。

 

「すぐに復旧を!」

 

「止めろ、立ち上がるなぁ!」

 

「きゃぁぁ!」

 

 慌てて制御装置に向かおうとした部下が蜂の巣にされアサルト部隊を睨みつけるフェインだが自分には血まみれの部下を見守ることしか出来ない。 

 

「くそっ!最初っからシナンジュが目的だった訳か…」

 

「持ってきましたぁ!」

 

「「おぉ!」」

 

 敵の弾幕をかいくぐり大型の銃器を持ってきた整備兵を見て整備班は歓喜の声を上げる。

 シナンジュの頭部に設置してある60ミリバルカン砲の予備を持ってきたのだ。

 

「喰らえ地球種!」

 

 60ミリバルカン砲は火を噴きアサルト部隊の隠れていたコンテナに大穴を開ける。

 

「やった!」

 

 バルカン砲を持ってきた整備士2人が歓喜する中、砲のすぐ横に何かが投げ込まれた。

 

「手榴弾!」

 

「駄目だ、逃げろ!」

 

 爆発する手榴弾はバルカン砲の台を破壊し使い物にならなくさせた。

 

「ここで踏ん張って親衛隊の到着を待つしかないね!みんな気張りな!」

 

「「「はい!」」」

 

 形勢逆転に落ち込む整備班を怒鳴り散らすフェイン、やるしかないと整備班たちも負けじと大声を出すのだった。

 

ーーーー

 

「第三班からの連絡途絶、敵は1人のもよう!」

 

「銀髪の少女だ!気をつけろ!」

 

 報告に上がった場所には急行していたアサルト部隊の死骸が多数転がり悲惨な光景を産み出していた。

 

「居たぞ!」

 

 Bー27地点付近の廊下ではフィアと増援のアサルト部隊が接敵、混戦状態に陥った。

 フィアは近くに居た兵を拘束、背中に回り込むとその兵を楯にして脇からマシンガンを乱射する。

 防弾仕様の宇宙服は良い楯になる、目につく兵を一掃すると既に絶命していた兵を投げ捨てる。

 

「ハァァ…」

 

 昂ぶった気を落ち着かせるためにゆっくりと大きく息を吐く。

 

「居たぞ…っ!」

 

「ちっ!」

 

 場所の移動途中、曲がり角で出会い頭になった兵の腹部を蹴りつけ無防備な顔面に鉛玉をプレゼントする。

 曲がり角の先には二名の敵兵、ポケットに突っ込んでいた手榴弾の安全ピンを口で外すと2秒待って投げ込む。

 

「なっ!」

 

 投げ込まれた手榴弾は爆発し残りの兵を吹き飛ばす。先程のが最期の手榴弾。

 

「流石に厳しいな」

 

 味方のことを気にせずに動けるとはいえ1人で対人部隊を10以上相手にしてきたのだ流石に疲れてくる、それに装備が乏しくなってきた。

 

「姫様は無事だろうか」

 

 残弾が少ないライフルを棄て倒したアサルト部隊のライフルいただく。自分が派手に動いている以上こちらに戦力を割いてくるはずだがいつまで持つか…。

 

「やるしかないか…」

 

 大きく息を吸い、自分に活を入れながらハンガーとは反対方向に歩を進めるのだった。

 

ーーーー

 

「隊長が時間を稼いでる間に」

 

 リア達の護衛の元、駆けるアセイラムに追随するレムリナは突然、車椅子を止めた。

 

「レムリナ姫!?」

 

「私はここに残る」

 

「速く逃げないと」

 

 アセイラムは駆け寄り彼女の手を取るがレムリナは動くつもりはないようだ。

 

「どこに逃げるの、誰の手から?」

 

「必ず救いは」

 

「私にとってはここが唯一の逃げ場なの」

 

 レムリナはそう言い放つと車椅子を後退させる。その時、彼女はケルラを横目で見た。

 

「レムリナ様は私に任せてください。アセイラムを頼みます」

 

「ケルラ…」

 

 車椅子と取っ手を持ち笑うケルラ、親衛隊で一番の新米がいつの間にか成長していた。

 その事はリア達にはほんの少しだけ笑顔にさせる。

 

「ベルガ・ギロスを貸して貰うよ」

 

「はい、隊長にはありがとうございますと伝えておいてください」

 

「あぁ、生き延びろよ」

 

 ネールは空いていた手でケルラの頭を撫でると駆ける。

 

「皆さん、お気を付けて…」

 

「本当に良いの…。仲間と別れてまで私に着いてこなくても」

 

「いえ、これは私の意志ですから」

 

「…ありがとう」

 

 駆けていく先輩方の背中を見届けながらケルラはレムリナと共に来た道を戻るのだった。

 

ーー

 

「ここは…」

 

 その時、Bー27地点からフィアが敵の迎撃に使いそうな集積場に来ていた。

 カタフラクトハンガー程ではないがある程度、広い空間であり硬質ケースやコンテナが集積されている。

 相手を攪乱して迎撃するには打ってつけの場所だろう。

 

「もう一度サーチしてくれ…。セラムさんをフィアはいったい」

 

 月面基地システムのハッキング、その膨大な処理をアナリティカルエンジンが行うためには自身の脳に大きな負担がかかる。

 鈍く響き渡る頭痛に伊奈帆は顔をしかめる。

 

ダンっ!

 

 フィアの居場所を探ろうと意識を集中させようとした瞬間、銃弾が伊奈帆に降り注いだ。

 

「っ!」

 

 アナリティカルエンジンの警告に伊奈帆は素早く反応し近くのコンテナに身を隠す。

 

「まさか貴様も潜入しているとはな界塚伊奈帆!」

 

「スレイン・トロイヤード」

 

 銃弾を放ったのはスレイン、彼は銃弾が外れたのを見ると素早くコンテナの影に身を隠す。伊奈帆は油断ならない相手だ、慎重さも必要だろう。

 

 月面の重力は地球の三分の一、低重力下での立ち回りは馴れているスレインの方が分がある。

 

「早くしないとフィアが…」

 

「随分とフィアさんを気にするじゃないか」

 

 アセイラムを助けに来たのかと思っていたが彼にとっての優先順位はフィアの方が高いようだ、だから問う。

 

「地球でも随分と親しくしていたそうだが、熱心なことだ」

 

「戦友を助けに来た、ただそれだけだ!」

 

「一体、誰から助けるというのだ」

 

「分からないか」

 

 伊奈帆の含みのある言葉に顔をしかめるスレインは身を出し発砲する。

 銃弾がコンテナ辺り火花を散らす、その合間を縫って伊奈帆がコンテナの影から飛び出し突っ込む。

 それに対抗するように飛び出してきた伊奈帆に向けて飛び出し接近する。

 

「あの時、お前が来なければこんな事にはならなかった!」

 

 蘇る記憶、爆炎に焼かれ虫の息だったフィアの姿、目の前で撃ち抜かれたアセイラムの姿。

 二度とあんな思いはしたくない…させない。

 

「あの時、姫様に会えればこんな事にはならなかったというのに!」

 

 種子島でか叶わなかった願い、敬愛していたフィアも尊敬していたアセイラムも家族のように接してくれたザーツバルム、マリーンも全て裏切ってきた。

 それまでしてここまでのし上がってきた、誰にも邪魔はさせない。

 

 交わる銃口、放たれる銃弾は互いの服に宇宙服を擦りどこかへ飛んでいった。

 

ピピピっ!

 

「っ!」

 

 アナリティカルエンジンが高熱を示す赤で配管を映した。

 

「蒸気管…」

 

 一瞬の躊躇いもなく発砲し蒸気管から高温の蒸気が溢れる。

 

「なに!?」

 

 高温の蒸気に包まれ身動きが取れなくなるスレイン、煙が晴れた頃には伊奈帆の姿はなかった。

 

「くそっ!」

 

 やり場のない怒りがこみ上げスレインは大きく吼えるのだった、

 

 

ーーーー

 

「ちっ!」

 

 拳銃を撃ちながら後退するフィアは舌打ちをしながら弾倉を交換する。

 次々と押し寄せてくる増援に補給の暇すらなく弾が尽きてきたのだ、接近戦を仕掛けようにも数がおおすぎて接近できない。

 

「なんだ、煙幕?」

 

 後退する方から流れてくる煙に彼女は疑問を持ちながらも廊下の隔壁を閉じる。

 

「これで少しは持つか…」

 

 動き回りすぎて疲れた、少し休まないと体が持たない。降りた隔壁に持たれて彼女はゆっくりと座り込んだ。

 

タン…。

 

「っ!」

 

 漂う煙の中から足音が微かに聞こえる。慌てて銃を構え引き金を絞る。

 

「フィア…」

 

「伊奈帆…」

 

 界塚伊奈帆とフィア・エルスート、2人が2年ぶりに再会を果たした瞬間だった。

 

 

 




どうも砂岩でございます!
ついに伊奈帆とフィアが再会!激化する戦場で2人のとる行動とは?

最後まで読んでいただきありがとうございました!

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