アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第五十七星 連携 ―Cooperation―

 

 

「こちらデールズ小隊、現在オルロフ小隊と共に進撃中…。クライスデール小隊は?」

 

ヴィクトリア湖の湖畔、荒廃した町並みに響くのは爆発音、それと共に暗闇の街を明るく照らす光は一見してみれば綺麗だがそれは死を生む光だ。

 

「矢尻に強力な炸薬弾が着いている。気をつけろ!」

 

「っ!このぉ!」

 

絶え間なく飛来する矢に耐えかねクライスデール小隊の隊員はマシンガンを放つが、矢が近くに着弾することによって怯んでしまう。

 

「無駄弾を撃つな。敵は姿を隠している上に動きが速い!弓を使っているようだが恐らく…」

 

鞠戸は早まる部下を叱りつけると周囲を見渡し敵の能力を模索する。

 

「えぇ、銃撃ではマズルフラッシュで位置を特定しやすい。それを避けるためでしょう」

 

「光学迷彩、透明化のテクノロジー…」

 

単純だが強力…いや、単純ゆえに強力。自身の力を理解しその扱いを極める、相手はそういった類いの騎士だ慢心はしているが…。

しかし相手は自身の保有する能力を把握し最大限に活用し生かしている。

 

「ベースは恐らく、でも非常に巧妙だ。サーモグラフィーにも映らないし、影も落とさない…。でも」

 

「間違いなく存在している」

 

普通なら絶望するに足る現状だが伊奈帆と鞠戸はまだ諦めていない。こんな修羅場は何度もくぐり抜けてきたのだ、もはや馴れている。

 

「煙幕弾、装填完了」

 

「こっちもOK…」

 

敵の対処のために選んだのは煙幕を使った敵のあぶり出しだった。

 

「ファイヤ!」

 

ユキの声と共に煙幕弾は上空へと放たれ荒廃した街に白い煙を吐き出し広げる。

 

「そう、間違いなく存在している。そして存在している限り大気の流れに影響が及ぶ…」

 

町中の小さな広場、障害物が無いというのに煙の動き方が不自然な所があった。その不審点はゆっくりと移動し煙を掻き分けている。

 

「ターゲット捕捉」

 

「よし、攻撃開始」

 

非常に手の込んだ相手だったが流石に大気の流れは誤魔化せない。伊奈帆は目の前に敵を見つけライフルを構える。

 

「大尉、三時の方向から敵が…」

 

「なに?」

 

今までに無いケースに驚きを隠せない鞠戸、それはその場に居た者全てにとっても同じだった。

それはそうだろう、領土だ利権だといがみ合っていた騎士達は互いの領土に入ろうとしない、その前提が崩れたのだから。

 

「正面からも新たな敵接近!」

 

「連携して戦おうってか!?」

 

「上からも来ます!」

 

「っ!」

 

隊員の寄越した報告に対し鞠戸は上空を見上げる、そこには大気圏を突破しこちらに落下してくる揚陸城の姿があった。

 

「揚陸城……」

 

「全機衝撃に備えろ!」

 

揚陸城の着地と共に周囲の瓦礫が一気に舞い上がる。熱によって赤く変形するコンクリート、自動車ですら着地の衝撃に絶えきれず紙くずのように吹き飛んでいく。

 

「複数の揚陸城、複数のカタフラクトが同時に…。動き出したんだ…アイツが」

 

予想だにしなかった状況に伊奈帆ですら唖然とする。伊奈帆たちは、今までで最大のピンチを迎えようとしていた。

 

ーーーー

 

夜の暗闇を絶え間なく照らし続けるマズルフラッシュ、ユキを中心とするマスタング小隊は雷を操るカタフラクトに対し正面から攻撃を加えていた。

 

「このぉ!」

 

だが銃弾は届く事無く雷に阻まれる。その上、敵の操る雷が飛来し撤退を強いられる。

 

「鞠戸大尉!」

 

雷が飛来した瞬間、ユキの言葉と共に背後に控えていたクライスデール小隊が銃撃を開始するが結果は同じ、雷に阻まれ届かない。

 

「くっ…。全機散開!」

 

後方に対しても雷撃が飛来し廃墟の物陰に隠れるクライスデール小隊。

 

「駄目か…。攻撃も雷撃で行うならその転換の時に隙が出来ると思ったんだが…」

 

「やはり、そう甘くはないようですね」

 

伊奈帆も残弾が乏しくなったマシンガンのマガジンを交換しながら雷撃のカタフラクトの様子を見る。

 

「鞠戸大尉、デューカリオンから伝達。撤退命令が司令部から出ました」

 

「撤退、全軍か?」

 

「デールズ小隊、オルロフ小隊も既に命令を受けているはずです…。ただ…」

 

「ただ、なんだ?」

 

撤退命令に希望の光が見え始めた様に思えた鞠戸だったがユキの話した言葉にその表情を驚愕の色に染める。

 

「さっき倒し損ねた透明のカタフラクトが向こうに」

 

ーー

 

「退けぇ!退けぇぇ!」

 

飛来する矢に対し敵の対処が取れないデールズ小隊は窮地に陥っていた。矢が刺さりコックピットごと吹き飛ぶアレイオン。

 

「デールズ22!敵はどこだぁ!」

 

デールズ小隊の隊長は見えない敵をあぶり出すため目に映る一帯に対し攻撃を加えるが敵に当たるどころかその気配すら捉えられない。

 

「っ!」

 

すると暗闇から突如現れた矢がデールズリーダーのアレイオンに突き刺さり爆発をおこした。

 

「隊長!」

 

ーー

 

「くそぉ…クライスデールリーダーよりオルロフリーダー、聞こえるか、撤退だ!」

 

「…こちら…オルロフリーダー、無理だ…」

 

仲間の窮地に鞠戸は歯嚙みするがそんな事をしている暇は無い。すぐさまオルロフリーダーとの通信を繋げるが向こうの声は既に息絶え絶えだった。

 

「こちらは、もう自分しか…残っていない…」

 

何かが潰れる音と共に通信が途切れる。

 

「雷撃と透明、それに…もう一機…。」

 

絶望、2年前の新芦原で味わった感情が、記憶がまざまざと思い出されるのだった。

 

ーーーー

 

「ぐわぁ!」

 

「デールズ11!」

 

飛来する矢を右腕に受け被弾するデールズ11、デールズ33は心配するが既に第2の矢が飛来してきていた。だがその矢は応援に駆けつけた鞠戸の放った銃撃によって撃ち落とされ空中で四散する。

 

「クライスデールリーダー…」

 

「界塚弟!」

 

鞠戸の言葉と共にデールズ小隊の躍り出たのはスレイプニール。伊奈帆は上空に素早く煙幕弾を撃ち煙を拡散させる。

 

「撤退してください、多少は煙幕で敵の視界が遮られているはずです!」

 

「行け!」

 

「りょ、了解…」

 

鞠戸が牽制射を加えつつ緩やかに撤退するのを見て足手まといと判断したデールズ小隊はマスタング小隊と合流するために移動を始める。

 

(そして、この煙は攻撃にも利用できる……捉えた)

 

そんな時、伊奈帆は大気の流れを計算し透明のカタフラクトを見つけ出していた。

 

「右だ、逃げろ!」

 

「っ!」

 

透明のカタフラクト《スカンディア》に気を取られていた伊奈帆は鞠戸の声で右を見やる。そこには既に飛来してきている雷撃の姿があった。

 

(間に合わない!)

 

スカンディアに気を取られすぎていた伊奈帆は対処が遅れてしまっていた。飛来する雷撃に対し回避行動が遅れたのだ。

一歩、いや半歩足りない。このままでは感電しスレイプニールのアクチュエーターが暴走、爆発して機体ごと四散してしまう。

 

(フィ…)

 

間に合わないと覚悟した伊奈帆の頭に対しスレイプニールは素早く退避し雷撃を見事に避けきった。

地面を強く蹴り、脚部のウイングを展開せずにスラスターだけで無理矢理加速したのだ。

下手すればバランスを崩してしまうギリギリの行為に見ていた鞠戸と乗っていた伊奈帆が驚愕する。

 

「あの動きは…」

 

「フィア…」

 

フィアが2年前、ヘラスとの戦闘で見せた緊急回避術。スレイプニールのOSに組み込まれていた回避動作が自身の危険を察知し作動したのだ。

現在、伊奈帆の使っているスレイプニールは元々フィアが使っていたスレイプニールだ。彼女が書き換えたOSもそのまま残っている。

 

「マスタングリーダー、どうした界塚。雷撃の足止めは任せたはずだぞ!」

 

「すいません、そちらに集中するかのように急に矛先を変えて!」

 

飛来する矢と雷撃まるで誘導するかのように追いやられついに追い詰められてしまった。

 

「囲まれた…」

 

「そのようです…」

 

まさに前門の虎、後門の狼。追い詰められた鞠戸と伊奈帆は思わず息を飲む。

雷撃のカタフラクト《エレクトロニクス》は雷撃を集束し2人に向けて放つ。

迫り来る雷撃を見て2人は目を見開く事しか出来ない、絶体絶命の危機。だがその雷撃を止めたのは上空から高速で飛来したデューカリオンだった。

 

「デューカリオン!?」

 

ーー

 

「被害は!」

 

「大丈夫です、放電できてます!」

 

急降下に次ぐ急上昇、重力制御を船体に対して全振りしているのでブリッジでは加速によるGに耐えながらニーナが操舵していた。

 

「着陸し、全カタフラクトを救出する」

 

「ここにですか!?敵のど真ん中です!」

 

「着陸する!」

 

反対する不見咲の言葉を無視してマグバレッジが指示を飛ばす、危険なのは承知している、だがこのままではカタフラクト隊が全滅してしまう。

デューカリオンと対空砲、主砲が火を噴き暗闇で目立つエレクトロニクスに対し牽制を行う。

 

「KCAS10ノット、落としすぎだ!追い風も強い!」

 

「大丈夫!アルドノア・ドライブ効いてます、反重力デバイス最大。バーティカルスピード1200フィートパーセカンド!」

 

デューカリオンはその巨体を無理矢理着地させカタフラクト隊の救出を開始する。

 

「乗り込むぞ、デールズ小隊を誘導。急げ!」

 

「下部ハッチを開け、全カタフラクトを回収する」

 

「9時の方向、敵カタフラクト接近!」

 

「主砲発射!」

 

レーダー手である裕太郎の声と共にマグバレッジが素早く指示を出すすぐさま主砲が火を噴き接近してきたカタフラクトを吹き飛ばす。

 

「全カタフラクト、回収しました」

 

「離脱する」

 

「後方に敵カタフラクト、さっき倒した奴と同じタイプっす!」

 

「増援!?」

 

祭陽の言葉に不見咲は驚愕するがそれだけではなかった。

 

「二時の方向にも、増援ではありません。これは…」

 

灰色のカタフラクトがなにもない空間から出現しどんどんその数を増やしていく、その異様な光景に伊奈帆たちは息を飲む。

 

「敵影。12、16、24…。どんどん増えています」

 

「分身能力!?」

 

「両舷一杯!」

 

予備動力も使い無理矢理発進するデューカリオンだが灰色のカタフラクトは数を増やしながら追撃をやめない。

 

「このぉ!」

 

下部ハッチからカタフラクト隊が迎撃を開始するが敵の勢いは変わらない。

その上、スカンディアから放たれた矢がデューカリオンに着弾すると共に強力な雷撃が襲いかかった。

 

「ウェザーレーダー、ドップラーレーダー…機能停止」

 

「くそっ!透明の矢の攻撃で放電柵にダメージが」

 

「無線も駄目っす!」

 

「GPS消失、二次レーダーもアウトだ!」

 

「そんな!」

 

雷撃の影響で艦内システムとレーダーに甚大な被害を及ぼした。艦内の非常灯が点灯し各コンソールからは火花が飛び散る。

 

「落ち着きなさい、上昇を続けて…」

 

「はい!」

 

各所から黒煙を出しつつもデューカリオンは上昇を止めず辛くも脱出するのだった。

 

 





どうも砂岩でございます。
今回は取り敢えずここまでと言う事で。予想以上に分量が行ってしまったため2、3話ぐらいに分割することになりそうです。
そしてやっと生かせた、元フィアのスレイプニール設定。中々使えなくて悩んでましたから少しスッキリです。
この話はかなり興奮しましたね、伊奈帆の冷や汗なんて中々見られませんから、伊奈帆が2期で一番焦ったんじゃないでしょうか。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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