アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり 作:砂岩改(やや復活)
「本当によろしかったのですか?決闘など…」
「向こうが吹っかけたんだ。仕方ないだろうが、なぁ」
「そうだな…」
月面基地のフィアの部屋には紅茶を入れるエデルリッゾとそれを楽しむマリーンとフィアの姿があった。
戦いを挑まれた割には随分と落ち着いている2人に対しエデルリッゾは疑問を持たざるを得なかった。
「味方同士で…。」
「奴は味方などではない。姫様の作るヴァース帝国の膿の様な存在だ、早めに処理しておくにかぎる」
「恐いなぁ」
フィアの言葉に対し真底楽しそうに笑うマリーン。
こんな様子を見ていると本当に安心してしまう、この二人がなぜここまで強いのか本気で知りたくなってきたエデルリッゾだった。
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月面基地トレーニングルーム。
「雌犬呼ばわりだとぉ!殺してやるぅ!」
「おい、止めろよバカ」
「バカとはなんだ!」
決闘へと至る経緯をハークライトに聞いたリアは当然の如く荒れ持参したサンドバックを殴っていた。
昔はよく物に当たっていたのだが結果的にフィアに迷惑がかかると気づいた彼女はこうして壊れない物に当たっているのだ。
「たく、ああなったらほっとくしかねえか。なぁ」
「……」
「あわわ、シルエさんがご機嫌斜めです」
「あの場に居たからな、私だったら間違いなく殴りかかってたし」
我慢強いシルエだからこそ出来たことだ。隊長に関して親衛隊は沸点が低いのは変えようのない事実なのだから。
「たくよ、ジュリがいねぇと諌める奴が居ねえからな」
「ジュリさん…。」
ネールの言葉にケルラはシュンとするとシルエが頭を撫でる。
「ジュリは生きてるさ、私がくたばらねぇうちはアイツが死ぬ訳ねぇ」
ネールの自信溢れる言葉にケルラは思わず頷く、それ程の自信が彼女から溢れていたのだ。
「しっかし、アイツ本当にどこに居るんだ?」
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地球の砂漠
砂漠が熱された真昼の時間帯にジュリとマズゥールカの姿があった。
2人は手頃な洞窟で休み用意されたテントで日陰を増やして休んでいた、砂漠の移動は基本夜に行っている。
「灼熱の大地とはまさにこの事だな」
「灼熱ですか、ピッタリですね」
地球のことを調べていたマズゥールカは目の前に広がる砂漠を見て感慨深げに言葉を漏らすとジュリも反応を返す。
2人は現在、寝袋に入り睡眠を行っていたのだがあまりの暑さに目が覚めてしまったのだ。
「そう言えば君はなぜ親衛隊に?」
「私ですか?隊長直々にスカウトされたんです」
当時訓練生の中で3番目だったジュリはいつも虐められていた。その原因は彼女の堅い性格にあった。
それを知ったジュリはその堅い性格に対しコンプレックスを抱くようになったのだが自身はこれ以外の生き方を知らない、変えようがなかった。
「その時に、隊長が現れて来てくれたんです」
《お前のその腕と性格を私の元で振るってみる気はないか?》
「天の助けだと思いました」
「なるほど、エルスート卿は人を見る確かな目を持っていたんですね」
「私が勝手に感謝してるだけなんですけど、恩返しがしたくて」
「本当にエルスート卿は素晴らしい方ですね」
誇らしげに話すジュリを見てマズゥールカもフィアに対して興味を持ち始める。これ程まで人を惹きつける彼女は一体どんな人物なのだろうと。
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アメリカ合衆国、ニューオリンズ。
そこには軌道騎士37家門の1人であるセルナキス伯爵が統治する土地だ。二年前まで栄華を誇っていた都市は荒廃し瓦礫ばかりの風景を作り出していた。
そこに飛来するミサイルを橋の上を陣取っていたセルナキスのカタフラクト《ソリス》は赤いレーザーを放ち撃ち落としていた。
「巡航ミサイル、全弾迎撃されました」
「セルナキス伯爵のカタフラクト《灼熱のソリス》に搭載された光学兵器の射程はサテライトベルトまで届く。そのため航空支援も不可能。とんだ化け物だ」
機体だけでも恐ろしいが特筆すべきはセルナキス伯爵の技量だろう。飛来する戦闘機やミサイルを当然の如く破壊するそのエイム力は文字通り化け物と言える。
何よりもこの2年間、この土地を確保し続けている時点で優秀なのは分かりきった事だが。
「結局、懐に飛び込んでやるしかないってか。全機搭乗」
巡航ミサイルが撃墜された閃光を見ていた鞠戸は強襲艇に乗り込んでいた部隊全員に対し命令を発する。
「みんな、出撃準備よ」
マスタング小隊の隊長として復帰したゆきは韻子たちを見やり命令を発する。全員が己のカタフラクトを乗り込む中、彼女は伊奈帆を心配そうに見つめるのだった。
「……」
そして韻子も今、伊奈帆たちに対し大きな疑念を抱いていた。先日の捕虜脱走の件、目撃してしまったことが頭を過ぎる。
(やっぱり私じゃ頼りないって言うの…。フィアの方がよかったの…)
「韻子、韻子!」
「はい!?」
よぎる疑念に対し頭を一杯にしていると無線越しにライエの声が響き思わず大声を上げる。
「どうしたの?」
「う、ううん…。ねぇライエ、この間捜索かかったじゃない?ま、ま…ま…」
「マズゥールカ伯爵」
「そうそれ!どうやって逃げたんだろ?」
「さぁ…」
「伊奈帆なら分かるかな?」
「どうして?」
「尋問にも行ってたし何か聞いてない?」
「なにも…」
韻子の質問に対しライエは淡々とした口調で答える。それに韻子は落胆の声を露わにすると通信を切る。
「韻子…ごめん」
通信が切れた後、ライエは静かに呟くしか出来なかったのだった。
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「各小隊、報告」
「デルジアン小隊、配置良し」
「マレンマード小隊、配置良し」
「ポトックス小隊、配置良し」
「ロカイ小隊、配置良し」
「マスタング小隊、配置良し」
鞠戸の声に対しそれぞれ小隊の隊長が応答し顔を引き締める。
「奴の光学兵器は避けようがない。見つかったら終わりだと思え…。作戦開始!」
鞠戸の声と共に各小隊の機体が次々と煙幕を上空に展開させ自身の機体達を包ませる。
煙幕が展開されると同時にレーダー等のセンサー系にノイズが走る。
「赤外線からレーダー波まで撹乱する煙幕か…。猿知恵だな」
冷静に分析したセルナキスは眼鏡を直すと同時に操縦桿を改めて握り直す。
「なん、だと!?」
進行するカタフラクト隊の機先を遮るように放たれたレーザーに対しパイロットたちは驚きを隠せない。
「愚か者め!」
その直後に放たれたレーザーは煙幕が張られた一帯に広く着弾し、進行していたカタフラクト隊に襲いかかる。
「くそっ!」
悪態をつきながら煙幕を打ち上げるアレイオンにレーザーが飛来し一瞬にして鉄塊に変わり果てる。
「クライスリーダーより小隊各機。南側に散開、煙幕を張れ!」
「無駄なことを…」
「撃て撃て撃て!こちら注意を引きつけろ、当たるなよ!」
「引きつけて当たらないようにってどうすれば良いのよ!」
「なおくんは!?」
ゆきが懸念する中、伊奈帆はライエの駆るアレイオンの手のひらに乗せられ運ばれていた。ライエは目的の場所に辿りつくとゆっくり階段に手を動かす。
「上げるわよ、気をつけて…」
ーー
「ライエさん」
「OK、中継する」
高層ビルの屋上に辿り着いた伊奈帆は駆けてきたというのに息を一切乱さずソリスの位置を特定、情報開示する。
「音響解析、敵座標確定。目標29.951103
-90.085579」
「了解、照準合わせ…。発射」
「発射、了解」
無線越しに聞こえるマグバレッジの声と共にカウントダウンを開始する。
「カウントダウン5、4、3、2、1…」
カウントダウンが終わりを告げると同時に上空から飛来した砲弾がソリスの周囲を吹き飛ばした。
「なんだ!?」
何が起きたか分からずに周囲を見やるが確認できない。レーダーは何かが海から飛来したと告げている。
「着弾、修正037.025」
「海から…」
セルナキスは再び飛来する砲弾を避けるためにソリスを高く飛び上がらせると状況の把握に努める。周囲に穿たれた地表からして導き出される答は一つ。
「艦砲射撃か!」
ソリスの頭部から放たれたレーザーは数分違わず砲撃元であるデューカリオンに進み、その直上ギリギリを
「はずれぇ…」
艦砲射撃に対し即座に反撃する事に加え、数分違わず狙い撃てるその技量。それに対し呆けていたニーナの言葉は聞き方によれば煽りにも聞こえる。
「光学兵器は直線でしか攻撃できません。地球の丸みに隠れれば届かない」
「しかしこちらの砲弾は地球の引力で放物線を描くので水平線の影にも届くと」
光学兵器が重力に左右されないことはトライデント基地でフィアと交戦した際にも実証されている。
シナンジュの主武装がビームライフルなのがある意味幸運だったと言っても良いだろう。
「照準さえ可能なら…」
デューカリオンにいたマグバレッジの言葉は水平線の向こうにいる伊奈帆たちに向けられるのだった。
「修正283.-472」
「超高速弾、撃て!」
伊奈帆の義眼《アナリティカル・エンジン》が割り出した正確な情報をデューカリオンに送り続ける。
「おのれ、観測衛星もなしにどうやって正確に座標を」
正確な位置を割り出されている事実に対しセルナキスは動揺を隠せないでいた。まさかこれほど技術が進んだ世界で身をさらした観測手が居るとは思わないだろう。
「これか?」
空中に浮遊する観測機器らしき物体を見つけたセルナキスはその射程に納めていた浮遊機器を全て撃ち落とす。
「レーザー通信を中継していた無人機が落とされました!界塚少尉と連絡がとれません!」
揚陸城からの強力なジャミングをかいくぐるための無人機がなくなった以上、通信を繋げる方法はあまり残っていない。
「ライエさん、曳光弾だ。僕の言う通りに撃って…」
通信がダメなら光で伝えるしかない、古典的な方法だが確実な方法だろう。
伊奈帆の言葉通りライエは上空に曳光弾を二発、間を置いて三発を上空に放つ。
「そこか…」
だがこの行動は敵に位置を知らせるのと同義、セルナキスはそれを見過ごすわけはなくレーザーで高層ビルを狙撃する。
「なおくん!このぉ!」
弟が命の危険に陥った時、ゆきは思わず隠れていた物陰からアレイオンを出しマシンガンをソリスに向けて撃ち放つ。
これ以上大切な人を失いたくない、護れなかったことで泣きたくない。あの子のように後悔しないように生き抜きたい、そんな覚悟が彼女を突き動かしていた。
だがソリスの装甲はマシンガンを受け付けずに弾かれる。
「その距離からこのソリスを仕留められるとでも?」
「ゆき姉、逃げて!」
撃ち放たれたソリスのレーザーはアレイオンの左腕を吹き飛ばし爆発の閃光が闇夜を照らす。
「界塚准尉!」
「来ちゃだめぇ!」
「くそっ!」
それを見ていた鞠戸がアレイオンで飛び出し注意を引きつけるためにマシンガンを撃ちながら前進する。
「二発、続いて三発!」
曳光弾を確認した祭陽は口早に伝えるとマグバレッジはその意味を即座に導き出した。
「修正002、003…撃て!」
敵が動いてはもう遅い時間はなく装填が終わった主砲が高速弾を撃ち放つ。
「界塚ぁ!」
「そうよ、そうやってそこで偉そうにしてなさい」
レーザーの着弾により擱座したアレイオンでもゆきは怯むことなく片手銃を撃ち放つ。
「灼熱の輝きにて、灰になるがいい!」
「撃ってきなさいよこのカエル頭ぁぁ!」
ソリスのレーザーが撃ち放たれる直前、デューカリオンから放たれた砲弾がソリスを貫き凝縮していたエネルギーと共に爆炎に包まれる。
セルナキスはそれを知覚することなく光に包まれ文字通り灰になったのだった。
「ゆき姉!」
「大丈夫、片腕やられただけ。そっちは?」
「平気、界塚少尉も無事です」
「良かった…」
弟の無事にゆきは安堵の声を漏らすがそれに対し伊奈帆は納得していないようだった。
「良くないよ。逃げてって言ったのに、命令違反だよ界塚准尉」
「なによ、階級が上だからって偉そうにしない」
「いや、偉いから」
「姉に命令できる弟はいません」
相変わらずのゆき姉の姿に伊奈帆の顔にも笑みが浮かぶ。そんな二人の様子を見ていた周りの隊員たちも微笑ましい光景に笑みが浮かぶのは仕方のないことだろう。
「クライスリーダーより各機、作戦終了これより帰投する」
どうも砂岩でございます!
悩んだ結果、本編と変わらずソリスの戦闘を行いました。カットしてても良かったんですけど個人的に大好きな戦闘だったので書きました。
ウォークマンに入れてある《keep on keeping on》を聞きながら書いていたのでかなりテンション高めで書きました。
これを見ていた当時ギクシャクしていた姉弟関係が回復するのを見て何故かホッとしていた記憶があります。
そしてセルナキス伯爵は格好いい、セリフがいいですよね。
戦闘の最後辺り《keep on keeping on》が盛り上がってきたとで《灼熱の輝きにて灰になるがいい!》って格好良すぎだろって思ってました。まぁ、自分が灰になったんですけどね。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!