アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第四十九星 集結 ―Assemble―

 

 

「皇帝陛下…」

 

ヴァース帝国本星、そこには明らかに前より悪化していたレイレガリアの姿があった。

 

「エルスート卿か…久しいな……」

 

「ハッ!」

 

場内にてクランカインはフィアの耳元にささやいたのはレイレガリア皇帝の体調悪化を知らせる物だった。場内でもそれを知っているのはほとんどいない。

 

「ザーツバルム卿の死は実に痛手だ…その後任のトロイヤードは私の知る子だが今は分からぬ…」

 

「つまり、我々親衛隊にトロイヤード卿の監視をせよと」

 

「うむ…」

 

突然のしかも一人だけという異例な条件による謁見の理由にフィアは納得すると同時にレイレガリアの洞察力の高さに驚嘆する。

まさかこれ程早く手を回してくるとは思わなかったからだ。

 

「クルーテオ伯爵には既に出立をするように言ってある…直に地球へ向かうだろう……」

 

「それまではお前たちの仕事だ…くれぐれも用心せよ、この戦いはこれ以上長引かせてはならん」

 

「ハッ!お任せ下さい!!」

 

凛とした声で答えるフィア、それと同時にフィアの体は光る粒子に包まれ姿を消した。それを見届けたレイレガリアは真底疲れたように息を漏らすのだった。

 

ーーーー

 

サウジアラビアに着陸したマズゥールカ卿、揚陸城。

その司令室にいたマズゥールカはモニター越しにマリルシャン卿とバルークルス卿と話していた。

 

「どこの馬の骨とも分からぬ者に跡目を継がせた挙げ句、非業の死を遂げるとは…ザーツバルム卿も運が悪い」

 

「酔狂のむくいかもしれませぬな、存外寝首を掻かれたのかも…」

 

「裏切られたとでも言うのですか?ザーツバルム卿が…」

 

ザーツバルムは人徳においては優れた人物だ。他の騎士達も信頼していた節がある。まさかそんなザーツバルムが寝首を掻かれたなど誰が考えようか。

 

「よせ!確たる証左がなければただの流言としか聞こえん」

 

「とにかく、騎士の品格にも関わる問題…これ以上ヤツをのさばらせておくわけにはいきません」

 

マリルシャンの軽率な物言いに流石のバルークルスも声を上げる。それによって自身の失言を感じたマリルシャンは本題へと話題を戻す。

 

「マズゥールカ卿、貴公が地球資源の確保を優先とするが為に破壊的な侵略を極力避けていることは重々承知している…いや、その事を責めようと言うのではない」

 

「だが今は地球侵攻を強引にも推し進める時、37家門と謳われし騎士団の威光も今は翳りを増すばかり…勢力争いは脇に置いてこれからは協力し合う派閥も必要かと」

 

「マズゥールカ卿、どう思われる?」

 

だいぶ含みのあるバルークルスの言い方にマズゥールカは顔を険しくするのだった。

 

ーーーー

 

鞠戸大尉所属艦、医務室。そこには共に赴任してきた耶賀頼 蒼真はいつも通り鞠戸のメンタルケアをしていた。

 

「良好、特に気になる点はないですね」

 

「そう言ってるだろう、そろそろ楽にして欲しいもんだな」

 

「ところでどうです?戦況は?もっと一気呵成に来るんじゃないかと思っていました…和睦の可能性は限りなく低くなった訳ですし」

 

「火星だって一枚岩じゃない、単純に地球憎しで攻撃してくるヤツもいるだろうが…資源としての確保を優先したい者もいる」

 

耶賀頼の言葉に鞠戸は一応反論してまみるもその考えはあながち間違っていない。

 

「あえて抑制していると言う事ですか?でも…」

 

一息間を置く耶賀頼に若干、疑問を抱きながらも鞠戸は言葉の続きを待つ。

 

「まさか…彼らも主力のカタフラクトがああも簡単に倒されるとは夢にも思っていなかったんじゃないですか?思惑が外れて警戒モードに入っている」

 

「かもな…だがそのきっかけを作ったのは一般の男子高校生と火星の騎士…」

 

そう呟いた鞠戸はフィアのことを思い出す。同じ艦にいたとはいえ、話す機会など余りなかったしまともに話したのは揚陸城降下間際のほんの一瞬だけ。

だが姫様を護るために同胞に引き金を引いた彼女はどれほど辛かったか、想像できない。

 

「伊奈帆くんにフィアちゃん…ユキさんもそうですがあの子たちも気が気じゃないでしょうね」

 

耶賀頼は韻子たちの心象を考えその顔をほんの少しだけ悲しみに染める。端からだが彼女たちが仲良くしていたのは見て取れた。だからこそ、思う…あの年でこの様な経験、下手すれば一生もののトラウマになり得る物だと。

 

「界塚准尉はアイツを軍から外したくて再三、上に頼んでいたようだが…」

 

「それ、ただの噂じゃないんですか?あまりしつこいから疎んじられてここに配属されたって…」

 

鞠戸、ユキは言ってみれば高い実力を持っている。それは二年前の怒濤の戦いをくぐり抜けた事で実証されている。鞠戸に関しては初戦のニロケラスのみだがそれ相手にライエを助けるための時間稼ぎを行った点を見れば明らかだ。

 

ビー!ビー!

 

そんな時、艦内に敵接近を告げる警告音が鳴り響いた、二年ぶりの警告音に鞠戸は目を見開くのだった。

 

ーーーー

 

スカイキャリアから降り立ったマズゥールカ卿のカタフラクト、シレーンはモノアイの様な物を動かし周囲を確認する。

 

「東6キロに市街地がある、そちらに向かわせないように足止めをする…各機、射程距離で待機、命令と共に攻撃開始」

 

「「「了解!」」」

 

地球の砂漠化により砂に埋まってしまった街に辿り着いた。鞠戸率いるクライスデール小隊はシレーンの姿を捉えた。

 

「攻撃開始!」

 

建物を盾にしつつ4機のアレイオンはマシンガンで攻撃を開始する。弾丸は吸収される訳でもなく装甲に着弾し火花を散らす。

 

「敵、カタフラクト進行中!」

 

「攻撃は効いている!」

 

シレーンの背部ユニットが稼働し装備された球体が浮遊を開始、ゆっくりと速度を上げて機体周囲を回転する。

砂塵が舞い周囲にあった建物の瓦礫を呑み込み遥か上空へと上げていく。

 

「銃弾が!?」

 

「竜巻?」

 

「いえ…風速、風量、気圧にも大きな変化は…」

 

一見すると風の壁に銃弾が阻まれ弾かれる。それと同時に機体がきしむ音が鳴り響きその場に居た全員に激しい頭痛が襲いかかる。

 

「あ、頭が…締め付けられる!」

 

「バルークルス卿、軌道騎士の名と爵位に恥じぬ我が戦いぶり、とくとご覧あれ!」

 

「クライスデール22!?」

 

襲いかかる頭痛に耐えきれなくなったアレイオンは早々に倒そうと距離を詰めて強攻策にである。だがアレイオンの右腕が簡単に引きちぎられ舞い上げられる。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「ど…どうにか」

 

たまらず後退したクライスデール22はなんとか無事だったが損傷が酷い。

 

「大尉、加速度計を見てください…」

 

「ん?」

 

ユキの言葉にアレイオンの計器を操作する鞠戸は異常な数値を示す計器を発見した。

 

「重力、ヤツは重力を操っていると言うのか…」

 

「加速度計が異常な振幅を示しています、重力帯と重積帯が一対となってあの機体の周囲を高速で回転し…それ……によっ…て」

 

襲いかかる頭痛に意識を刈り取られそうになりながらもこの現象を突き止めたユキ、その相手の能力に鞠戸は驚きを隠せない。

 

「重力波、近づけば重積帯の振動で物体はちぎられ攻撃は逸らされるって訳か…」

 

「じゃあ、頭に直接響くこの音も…」

 

「恐らくな…」

 

「この星の民に恨みはないが、これもヴァースの未来のため!」

 

マズゥールカは心を鬼にして機体を前進させアレイオン隊に襲いかかる。

グレネードを放つが重力波によって砕かれて途中で爆散する。

 

「む、無理です…届く前に砕けて……」

 

「ダメージは与えられなくてもヤツを引きつける効果はある」

 

「市街地から更に10キロ、確実に誘導は出来ています」

 

「あと南へ2キロ、そこまでヤツを誘導するんだ…」

 

先程、ユキに調べて貰った奥の手を使うためにはもう少し誘導する必要がある。そんな時、アレイオン2機が突然、動きを止めてしまう。

 

「どうした!?動きを止めるな!クライスデール22、クライスデール33!!」

 

「…くそ……界塚、ヤツをひきつける二人を回収してくれ」

 

「大尉?」

 

一人囮を買って出た鞠戸に対してユキはその名を口にするしかできなかった。

 

「来やがれツイスター野郎!」

 

「無意味だ、なぜそんな事をする?その行為になんの価値がある?」

 

グレネードを乱射する鞠戸の姿にマズゥールカは思わず疑問を口にする。自ら囮に出てがむしゃらに泥臭く戦う姿は理解できないなかった。

 

「やべーな、近すぎる…距離をとって」

 

一歩、一歩…その間がとても長く感じる。

 

「もう少し、もう少し来るんだ…もっと……」

 

意識が遠退くのを感じていると目の前に広がった光景は馴染みのある戦場だった。親友を失った戦場、そびえ立つ赤いカタフラクト。

 

「くそぉ…どうあがいても逃げられないのか!この記憶からぁ!!」

 

魂の叫びが鞠戸の意識を覚醒させがむしゃらに引き金を引く。それと同時に上空から高速に飛来した砲弾が竜巻の中にいたシレーンの片腕を吹き飛ばした。

 

「誘導ありがとうございます、鞠戸大尉」

 

「レーザー通信?」

 

「ユキ姉、しばらく」

 

「ナオ君?」

 

聞き慣れた淡々とした口調、その声は自身の弟である。界塚伊奈帆のものだった。

 

「ヤツの重力波は水平方向に変動する波動、垂直方向の重力波は積分されていて影響がなくなる、誤差修正…コンマ二度パーセコンド、ロックオン」

 

「撃て!」

 

スレイプニールをセンサー代わりにデューカリオンの主砲が火を噴いた。

大気圏外からの砲弾は正確にシレーンの腕を吹き飛ばし機能を停止させる。

 

「狙える空域を外れました…お手伝いできるのはここまでのようです」

 

「いや、充分だ界塚弟」

 

倒れたシレーンに銃口を向け立ちあがれないように足を乗せる。

 

(デューカリオンと連絡が取れたのが幸いだった…いや、アイツがいたからか?)

 

鞠戸はそんな思いを今は押し込め足下にいるシレーンに警戒するのだった。

 

ーーーー

 

地球軌道、デブリ帯には先程大きな戦いを終えた地球軍の衛星基地、トライデント基地がひっそりと存在していた。

 

「なかなか捗りませんね、ゴミ掃除…シャトルの出入りが一苦労ですよ」

 

「TK-67・68、誘導軌道に入ります…」

 

「あれだけの戦いだったからなぁ、散らばったデブリの数も半端じゃない」

 

戦いを生き残り、その余韻に浸るのは生者の特権だ。ゆっくりと作業を進めていた各員の耳に届いたのは敵機の接近警報だ。

 

「レーダーに感あり、敵味方識別信号応答無し!申し訳ありません、デブリに紛れていたため補足が遅れました!」

 

「っ!1機だけだと?」

 

基地に残っているミサイルハッチ、機銃が一斉に火を噴き不明機を狙うが白亜の機体は速度を落とさずに接近する。

 

「たかが1機に…まさか!マリネロスの悪夢か!」

 

ついに来た、来てしまった。死神が死そのものが我々を睨んでいるようだ。

 

「総員!基地を放棄せ……」

 

司令の言葉は最後まで紡がれずに襲いかかる爆炎に包まれたのだった。

 

ーーーー

 

サウジアラビア、アデン基地。そこに寄港したデューカリオンを迎えたのはかつてのデューカリオンメンバーであるユキだった。

 

「ユキさん!お久し振りです!」

 

嬉しそうに駆け寄ってきた韻子とハイタッチを交わすユキは笑いながらそれを迎えた。

 

「もー、いきなりいなくなっちゃうんですもん」

 

「ごめんね、大人の事情ってヤツでね」

 

「また一緒に戦えるんですよね!」

 

頼もしいユキと供に戦える。その事に嬉しさ全開で喜ぶ韻子を見てユキも嬉しくなってくる。

 

「みんな頑張っているようね」

 

「ユキさんもお変わりなく」

 

ユキはニーナ、カームに韻子と仲良く談笑しているとつなぎ姿のライエを見つけた。

 

「ライエちゃん、どう…居心地は?」

 

「悪くない…」

 

「…よかった」

 

ライエの笑顔を見れてユキは安堵の表情を見せる。その姿は母親のような優しさを持っていた。

 

「伊奈帆も元気ですよ!」

 

「そうみたいね…」

 

「もう会ったんですか?」

 

「声で挨拶しただけ…向こうはそれで十分だと思っているのかもしれないけど…」

 

小さく呟かれたその声と共にユキの表情に一瞬だけかげりが見えたのだった。

 

ーーーー

 

「そうですか…またあの記憶が」

 

「どうにも逃れられないようになっているらしい」

 

その話を聞いていた耶賀頼は少し思案すると一つの答えを導き出す。

 

「あえて甦ったものとは思いませんか?薄れそうな意識の中、自らが選んだショック療法…」

 

「バカな…」

 

耶賀頼の言葉に笑い飛ばす鞠戸だが今思えばそんな気がしなくもない。

 

「あの悲劇を大尉は…もしかしたら自分が戦う理由にしているのかもしれません」

 

「克服したということなのか?」

 

「少なくとも貴方は戦いに勝利した…その事実だけは受け入れて構わないでしょう」

 

医療用の薬品の棚の奥から取り出したの一本のビン。それは鞠戸が愛用していた酒だった。

 

「俺のだ!そんなとこに隠していたのか?」

 

「過去に向き合いつつあるなら酒を飲む意味だってきっと変わってくる…」

 

「消毒してるんだろうなぁ、それ…」

 

注がれた酒を見やり口にする。二年前は現実から逃れるために飲んでいた酒。あの頃の酒はいくら飲んでも味なんてなんにも感じなかった。

だがこの酒は本当に美味いと感じた、久しぶりの酒だからか、それとも心が軽くなったからなのか…それは鞠戸本人すらよく分かっていないだろう。

 

「大尉!大変です!トライデント基地が!!」

 

そんな時に届いたのはまさかの事態だった。

 

ーーーー

 

デューカリオン、ブリーフィングルーム。そこにはデューカリオンメンバーの主要人物が集まり先程届いた悲報を確認していた。

 

「襲撃時の録画っす、シャトルがドッキングベイに入った直後を狙われて搭載した爆薬弾薬が一気に…」

 

「最悪のタイミング…」

 

「いえ、狙ってきたのだと思います」

 

「狙って?」

 

裕太郎言葉を返すように発せられた伊奈帆の言葉にその場に居た全員が注目する。

 

「派手に交えたばかりだしシャトルが来ることは十分に予測できた…僕ら援軍が離れた事も多分確認済みでしょう、勝算があるから1機で攻めてきたんです」

 

「でも、弾薬補給の運行状況はトップシークレットのはず」

 

「認識番号を変えたり、補給経路を変えたりやってくことはそれぐらいです…暗号解析とデータの洗い出しを入念に行えば割り出せる…多分それが出来る相手です」

 

伊奈帆の言葉に全員が言葉を失い黙り込んでしまうのだった。

 

ーー

 

全員がブリーフィングルームから出て行く中、マグバレッジは自身を見据える伊奈帆の姿を見てその場に留まった。

 

「すいません」

 

「構いません、それで用件は?」

 

「先ほどの録画映像を貰いたいのですが…」

 

「これですね」

 

マグバレッジが片手で掲げたのはデータ端末、だが中々渡さないマグバレッジに対して伊奈帆は思わず首をかしげる。

 

「犯人が彼女か調べたいのですね?」

 

「はい…」

 

「それがどのような意味を貴方にもたらすか分かっているのですか?」

 

マグバレッジの言葉に伊奈帆ほんの少しだけ目を細めるのだった。

 

 

 





今回は基本的にあまり原作と変わっておりません。次回はフィアちゃんもしっかりと登場します。
捕まったマズゥールカとジュリはどう影響していくのか?最後に放ったマグバレッジの言葉の意味とは?
では最後まで読んで頂きありがとうございました!


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