アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第四十六星 分岐点 後編 -turning point-

 

 

「予備電力の全てを主砲とレーダーに?」

 

「はい!予備電力で機関が動かない以上、主砲で浮いてる奴を倒さないといけないと思うんです」

 

このまま行けば確実に殺されてしまう…この案に乗っかるしかないだろう。

 

「軍曹…」

 

「分かりました…予備電力を主砲とレーダーに絞ります」

 

機関士の筧が操作するとデューカリオンのブリッジが更に暗くなる。

 

「弾はキャニスター弾を装填…命令があるまで一切動かさずに…悟られてはいけません」

 

「はい!」

 

デューカリオンの主砲は実弾式の三連装砲と旧式のものだが弾の装填はオート化されている。通常の三式弾から広範囲を攻撃できるキャニスター弾に入れ替え作業が行われる。

 

「主砲の装填完了!」

 

「敵は?」

 

「取り囲むように展開していますが正面に3機います!」

 

「一番砲塔照準!完了次第撃て!」

 

マグバレッジの命令と共に動き始めた一番砲塔はローゼン・ズールとジュリのベルガ・ギロスを照準に収め放たれた。途中で無数の片となった砲弾は2機を損傷させ周囲を張っていたアルドノアジャマーを2個も破壊した。

 

「アルドノアドライブ再起動しました!」

 

「反重力デバイス異状なし!いけます!」

 

ニーナと筧の言葉に全員が歓喜の声を上げる。だが状況が不利であることは変わらないマグバレッジは号令を絶やさない。

 

「デブリに気をつけつつ両舷、前進、強速!」

 

「右舷より機体が急速に接近!」

 

「主砲放て!!」

 

目の前に迫っていたシナンジュを見てマグバレッジは心臓が跳ね回るのを知覚したがすぐに指示を出す。二番と四番砲塔の砲撃をシナンジュはシールドで防いだようだが装備は粉々に吹き飛んだ。

 

お返しとばかりにシナンジュの放ったビームは二番砲塔を破壊しデューカリオンに大きな振動が襲いかかる。

更に近づこうとするシナンジュだが流石にデューカリオンの濃い弾幕と背後から襲いかかるカタフラクトの攻撃に手を焼いたのか退いていくのだった。

 

ーーーー

 

「隊長!敵が多すぎますよ!!」

 

「こりゃジリ貧だぜ!」

 

コックピットをベルガ・ギロスのランスに潰され、盾と化しているグラニで敵弾を防ぐネールとケルラはゆっくりと後退する。

 

「リアはどうだ?」

 

「すいません…モノアイが右側に動きません」

 

高速で飛来した破片のせいで右側のモノアイレールが破損したらしく上手く稼働していなかった。

シナンジュもデューカリオンの主砲直撃時に左のマニピュレータが損傷し鈍くなっている。

 

「状況をこうまでひっくり返されるとは、流石だな」

 

「隊長?」

 

納得し嬉しそうに笑うフィアの姿に対し疑問を抱きつつリアはその言葉をすぐに飲み込む。隊長が我々に伝えないという事は我々に必要ないからだ。余計な詮索は無用。

 

「撤退する!ジュリとて無能ではない…この状況では信じるしかあるまい」

 

フィア単機ならまだしも手負いの部下たちが背中にいる状況ではジュリを助けることは難しい。逆に被害を増やすことになるかもしれない。

自分たちがフィアの足かせになっているのを実感したリアたちは唇を噛み締めながらも帰投コースに入るのだった。

 

「逃がすな!追え追えぇぇ!」

 

「たいちょ…」

 

「なっ!?」

 

勢いついた部隊がフィアたちを追撃しようと追いかけるがその部隊の先方3機が一発のビームに貫かれ爆散する。目の前で三枚抜きを見せ付けられた隊長はすぐに部隊を退かせるのだった。

 

「良い判断だ…」

 

素早い撤退指示にフィアは素直に褒めると親衛隊とは別ルートを移動する。その先にはスレインと伊奈帆がいる戦闘区域があった。

 

ーーーー

 

「クソッ!」

 

スレインは珍しく焦りを現していた。"仕込み"が来るのが間もなくだというのに追い込み切れていない。その原因は伊奈帆に追随しているアレイオンが原因だった。

 

未来予知のお陰で攻撃は当たらないが絶妙のタイミングで攻撃を寄越してくるせいで上手くスレイプニールに近づけなかった。

 

「このままでは…これは」

 

スレインの背後から接近する機影、それはザーツバルムのディオスクリアⅡだった。

 

「行け!我が眷属よ!」

 

ザーツバルムの声と共にディオスクリアⅡから射出されるロケットパンチはその色も相まって非常に見にくい。スレインとの戦闘に集中している2人にとってこれは致命的だった。

 

「伊奈帆!左に!!」

 

「え…」

 

真っ先に見つけたのは韻子、彼女はすぐに見つけると警告を発するが伊奈帆の回避行動が少し遅れた。しかし絶妙なバランス調整でそれを回避すると当たりを見渡す。

 

「ザーツバルム卿!」

 

「無事かスレイン?」

 

「ここは自分が!」

 

「無理をするな…オレンジ色、奴には借りがある」

 

高い技量を持つパイロット2人と戦っていたせいでタルシスは傷だらけだ。大きな傷こそないがそれでは先が思いやられる。

ロケットパンチを回収したザーツバルムは機体を前進させ伊奈帆たちに迫る。

 

「韻子、ここから離れて」

 

「なんで?私だって…」

 

突然の言葉に不満をあらわにする韻子だがモニターに映る伊奈帆の顔を見て黙り込み戦闘区域を離脱する軌道を取った。

 

「逃げたか…だが私の目的は貴様だけだ地球人!!」

 

二年前の借りを返さんと憤るザーツバルムだがそれに似た感情を伊奈帆も感じていた。

彼女の血まみれの姿が思い出される。後悔、悲嘆、自身に対する怒りに大きな喪失感。真っ暗な部屋に置いて行かれたような寂しさ…。

 

「もうあんな思いはたくさんだ…」

 

静かにだが溢れる思いを抱きながら伊奈帆はスレイプニールを加速させた。

 

ーーーー

 

「エネルギージョイント接続、ブレードフィールド展開…抜刀!」

 

「ッ!」

 

「覚悟しろ!地球人!!」

 

ディオスクリアⅡの手から展開された巨大なビームサーベルを振るい伊奈帆を狙う。振るわれたサーベルは巨大なデブリを真っ二つに両断する。

振るわれた間にも伊奈帆は的確にディオスクリアⅡの部位に弾丸を命中させるが全て掻き消された。

 

「バリアの隙間か?位置は変えさせて貰った」

 

前回の弱点である脇辺りの部位に当てても何も反応がない。見たところ隙間が確認できずに伊奈帆は周囲を見渡す。するとディオスクリアⅡの後ろに当たる部分に韻子のアレイオンがスタンバっていた。

 

(流石は韻子だ…)

 

「韻子、合わせて…」

 

「え、あ…うん」

 

何を合わせるかは分からないが取りあえず伊奈帆の行動をしっかり見る韻子。すると伊奈帆はスレイプニールの脚部ロケットエンジンを切り離した。

 

「右キックスラスター投棄よし、ファイヤー!」

 

上手くディオスクリアⅡの脇をすり抜け背後で爆発したロケットエンジンは巨大な爆発を起こし機体に襲いかかる。掻き消される爆発だがその一部だけ違う箇所があった。

 

「炎が吸い込まれない、バリアの隙間!」

 

バリアの隙間に向けて弾丸を数発叩き込むとディオスクリアⅡの巨体は大きく傾く。

その隙に伊奈帆はワイヤーを韻子のところまで伸ばすとそれを掴み離脱してくれる。

お互いの信頼と高い技量を合わせてしか出来ない神業に等しい所業だ。

 

「ッ!逃がすか、スレイン!」

 

伊奈帆を逃がさんとばかりにスレインと共に追撃に出ようとするザーツバルムの頭上から降り注いだのは高速に飛来する銃弾だった。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

「なに!?」

 

「高速デブリの群れだ…三次元ドップラーレーダーに急速に接近する雲の反応があった…ありがとう韻子、あと少し遅れていたら僕も危なかった」

 

改めて中々、紙一重だと痛感した伊奈帆は心の底から礼を言うのだった。

 

ーーーー

 

「バカな、たかがデブリごときにこのディオスクリアが!」

 

「デブリではありません…銃弾です、開戦前に銃撃しておいたんです、地球の周回軌道を回ってちょうど今その辺りに着弾するように…元々は界塚伊奈帆を倒すための罠だったんです」

 

そう、元々は伊奈帆のための罠、ザーツバルムを殺すつもりなど全くなかった。しかし状況は大きく動いてしまった。ザーツバルムの息子となり権力への足掛かりを掴んでしまったこと。罠に掛ける機会に巡り会ってしまったこと。

 

―もう後には退けない

 

「スレイン!」

 

「黙れ!!」

 

少し悲しげに聞こえる声を遮るようにスレインは声を荒げた。

 

「僕が貴方に忠誠を誓っていると本当に思ったのですか、アセイラム姫殿下に引き金を引いた貴方を、僕が許すとでも本当に思ったのですか?」

 

「………」

 

「もうすぐ第二波が来ます…さようなら」

 

スレインの言葉には歓喜も冷酷さも含まれていなかった。ただ悲しんでいた…それだけだった。

 

「お父さん」

 

スレインのその言葉にザーツバルムは密かに笑った。意志を継ぐものはいる…マリーンを残していくのは心残りだがアイツはしっかりとしていけるだろう。

 

―まぁこう言う最後も中々…

 

「悪くない…」

 

その言葉と共に第二波の銃弾がディオスクリアⅡに降り注ぐ。

その瞬間、少しでも困りながらも穏やかに微笑むオルレインの姿がザーツバルムの目に映った。

 

―まだ少し早いであろう

 

―………

 

―そうだな、これからゆっくり話そう、生憎時間はあるようだしな

 

―………

 

―あぁ、分かっておる

 

穏やかな表情のザーツバルムはディオスクリアⅡの爆炎に包まれ炎の熱さを体感する前にその身を焼かれたのだった。

 

ーーーー

 

「ザーツバルム卿…」

 

「フィアさん…」

 

ディオスクリアⅡの爆発を見届けたスレインは背後にいたフィアの姿に気が付くと振り返り話しかける。

 

「やりましたよ、ついに姫様の仇を取りましたよ…」

 

「スレイン…お前……」

 

「どうしたんですか?フィアさん…顔色が悪いですよ?」

 

フィアは目の前に映る人物がスレインだと思えなかった。大きな何かを捨て去ったスレインの顔はとても悲しく狂気的なものだった。

 

ーーーー

 

「おのれ地球人め…」

 

トライデント基地攻防戦で前線に出向いたのはステイギス隊や親衛隊だけではない。多くのデブリを使った戦術により追い込まれた男爵もいた。

 

「これは、お痛ましい姿に…」

 

「親衛隊か?助かった…俺を助けろ」

 

「…」

 

「おい!聞いているのか!!」

 

損傷した機体での帰投が難しくリアに助けを求めたのはマリルシャンと共にフィアを馬鹿にしていた取り巻きの一人だった。

 

「はい…お連れしましょう…」

 

「ッ!」

 

コックピットを貫いたのはローゼン・ズールの右腕、確実に殺せるようにコックピット辺りを丁寧に潰し破壊する。

 

「地獄へね…」

 

潰し終えたカタフラクトを見て満足そうにするリアは生ゴミを見るような目で一瞥すると帰投コースに戻る。

 

「穢れたシミが私に口をきくな…」

 

隊長こそが至高、隊長こそが正義、隊長こそが全て…隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長隊長…。

 

「あぁ…もう何もいらない」

 

恍惚としたリアの表情は実に嬉しそうだった。

 

 

 





かなり迷いましたがザーツバルム卿は残念ながらご退場ということになりました。個人的にはスレイン、殺す気ゼロだったと思うんですよ。たまたま機会が巡ってきただけで。
二期においてここは大きなターニングポイントだったので書けてよかったです。

では最後まで読んで頂きありがとうございました!!


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