アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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第四十三星 悪夢対悪魔 -Nightmare vs devil-

 

 

会敵した赤とオレンジ、初手は伊奈帆がとった。無反動砲を構えて撃つ、伊奈帆の義眼…アナリティカルエンジンとスレイプニールのシステムの導き出した道筋は正しく偏向重力(かぜ)の影響を受けながらシナンジュへと突き進む。

 

(やるな…)

 

それを紙一重で避けるフィアだが体勢を変えたせいでほんの少し失速してしまった。

 

「んぐ…」

 

フィアは頭痛を無視しながらシナンジュを操作、シールド裏に装備されたビームアックスを展開しスレイプニールめがけて振るった。それ程までに二人の距離は縮まっていたのだ。

避けようがない容赦がない一振り、だが伊奈帆は難なく避けた…あらかじめデブリに刺していたアンカーを巻き戻し無理やり進路を変更したのだ。

 

「動きに無駄がない…かなりの手練れだ…」

 

ワイヤーを巻き取りつつ無反動砲で牽制する伊奈帆は静かに呟きながらフッとした違和感を感じていたがそれが何か彼には分からなかった。

 

「隊長!」

 

そんな時、リアのローゼン・ズールが追いつき腕部のクローと一体化したビーム砲をスレイプニールに向ける。

 

「よくも隊長の邪魔を!」

 

『させるかぁぁぁ!』

 

「なに!?」

 

するとリアの横合いから無反動砲による攻撃の雨が襲いかかる。高速で接近しているのは新型のグラニ4機だった。

 

「分隊長!敵が2機います!」

 

「構うな!紫だけ集中しろ!!」

 

グラニ部隊の指揮を執っている分隊長は一年半前に唯一生き残ったグラニパイロット…フォルドだった。

弾幕を絶やさない攻撃に流石のリアも苦戦する。解決しようとすればシールドのビーム拡散砲で一掃できるが味方であるステイギスがどこにいるか分からない上に拡散範囲にシナンジュがいる。

 

「隊長すいません、すぐに戻ります!」

 

『あぁ!無理はするなよ!』

 

「了解!」

 

場所を移すためにローゼンはこの場から離れる。実際にこの二人が離れようと戦況は変わらない。それだけの実力を持っているのだから。

 

「伊奈帆!援護する…私は右、ライエは左から挟んで!」

 

『分かったわ…』

 

ーーーー

フィアside

 

「ええぃ!」

 

フィアはライフルを3発撃ち放つが見事に避けられてしまう。かなりの手練れらしい…特にあのオレンジ色は厄介だ、他の2機のアレイオンも連携が取れてやりにくい。

 

「くそ…」

 

それに先程から頭痛が酷くなる一方だ…一時デブリに身を隠し医者から渡された薬を飲み込む。あわよくばこのまま基地に接近したかったが仕方がない。

 

「あのパイロットは間違いなく脅威になる…ここで潰しておかないと…」

 

呼吸を整えたフィアはシナンジュを加速させ敵のもとへと突っ込ませるのだった。

 

ーーーー

韻子side

 

『ねぇ…韻子も感じてる?』

 

「えぇ…なんか違和感を感じる…」

 

デブリに身を隠しながら韻子とライエは話す。そんな間にも無反動砲のカートリッジを交換し弾を満タンにする。

 

『僕も感じてる…何かは分からないけど…』

 

その考えは伊奈帆も同じだったようで話に参加てきた。だがそのモニターを見る眼は止まらず全方位に注意をしている。

知らないのに知っている感覚…本来のこれは起こりえないものだ。

 

「でも…あの動き……」

 

ライフルを構える動作、発射までのタイミング、アックスの振るい方…多少のズレはあるが全てが"分かってしまう"。

 

『韻子……』

 

「ライエ…」

 

ライエは韻子に話しかける、その表情は強張っておりいつもの冷静な顔じゃない…恐らく気づいたのだろう。

この二人は二年間の間、死ぬ気でシミュレーションをやってきた…覚えようとしなくても相手のクセや構え方などは頭に入ってくる。

 

「重なっちゃったんだ…シミュレーションに……」

 

『私もよ…残念ながらね……』

 

『どう言う事?』

 

伊奈帆の問いに二人は答えない…いや、答えられないのだ。シナンジュの動きが…"フィアの乗るスレイプニール"と姿が重なったことを。

なら答えは一つだ…彼女たちは…フィア・エルスートと戦っている。

 

『来た…韻子たちは援護を…』

 

そして鳴り響く警告音、フィアが来たのだ…。

 

「どうしよう、どうしようどうしようどうしよう…」

 

頭がパンクしそうになる。突然すぎて彼女の頭は真っ白にはなりかけていた。

すると思い出すのは二年前の記憶…伊奈帆もフィアもとても楽しそうだった…ずっといた私が入り込めないほどに…。

 

「駄目だ…」

 

『韻子?』

 

韻子の呟きにライエは嫌な予感を感じながら彼女に問いかける。

 

「あの二人を…戦わしちゃいけない…」

 

『韻子…ダメよ…』

 

「戦わしちゃいけない!」

 

『韻子!!』

 

ライエは急いで韻子のアレイオンを捕まえようと腕を伸ばすが遅かった。韻子はアレイオンを急加速させて伊奈帆のもとに向かうのだった。

 

ーーーー

 

「韻子?」

 

猛スピードで来る韻子に疑問を持った伊奈帆は後ろを振り向く…するとアレイオンは自分を無視してシナンジュに突っ込んでいくではないか。

 

「韻子!?なにやってるの!」

 

伊奈帆にしては珍しい動揺が乗った声であったが韻子は気にしない、無反動砲も捨てて両手を広げながらシナンジュに突っ込んでいく。

 

「コイツ正気か!?」

 

装備を捨てて突っ込んで来るアレイオンにフィアは動揺を隠せないでいた。なんの策もなく突っ込んでくるアレイオン…そのせいでフィアの反応が少し遅れた。

 

「クソッ!」

 

全身に激しい衝撃が走った。機体同士が猛スピードで正面衝突したのだ。カタフラクトの耐衝撃装置が優秀だからこそ良かったものの普通なら人間がミンチになってもおかしくない衝撃である。

シナンジュはともかくアレイオンは衝撃に耐えきれなかったようで機体の破片を飛び散らせるのだった。

 

ーーーー

フィアside

 

「一体…なんなんだ…」

 

『……フィ………な…………しょ…!』

 

突然、ノイズ混じりの通信が割り込んできた。これは接触回線による通信だ…ということは相手はこのアレイオンのパイロットだろう。

 

「この声は…なんだ?」

 

『フィアなんでしょ!!』

 

「ッ!」

 

「なぜ、私の名を……」

 

フィアは動揺する、突然話しかけられたからではない…その声にとてつもない"懐かしさ"を感じたからだ。

 

「ウッ!」

 

するとフィアの頭に衝撃が走る、脳内に映ったイメージと共に暖かい気持ちが流れてくるのを彼女は感じたのだ。

 

「誰だキサマ…」

 

『え……』

 

「私は姫様の騎士…地球に知り合いなどいない…」

 

なぜだろう…なぜこんなに心が痛むのだろう…。まるで親友を裏切るような虚無感を彼女は感じていた。

なぜだろう…相手の声を聞く度に襲いかかる後悔の念は…。

 

『隊長!』

 

グラニを撃墜こそ出来なかったものの追撃を振り切ったリアは様子が急変したフィアに向けて大声で話しかける。

 

『どうされたのですか、隊長!』

 

『私だよ韻子、網文韻子だよ!』

 

『隊長!』

 

『フィア!』

 

二人の声がグルグルと頭の中を周りとてつもない吐き気が彼女を襲う。そんな彼女の耳に入ってきた声は一定のトーンで話す特徴的な話し方をした彼の声だった。

 

『フィア?』

 

「ッ!ああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

『隊長!?』

 

頭がついにパンクしたフィアは狂ったように叫ぶと韻子のアレイオンを振り払い、急加速し輸送艦に帰投する。その様子を見たリアは驚きながら追いかける。

 

「本当に…フィア……」

 

シナンジュの撤退を確認した敵軍の残存戦力はそれに続き引き上げていく。

そんな光景を見ながら伊奈帆は静かに呟く…たったその一言でライエと韻子は黙り込む。その一言は二人にとってとても寂しく、悲しそうに呟いたように聞こえたからだ。

 

ーーーー

 

「うぐっ…ああああぁ……」

 

輸送艦に取り付いたが良いもののコックピット内で悶え苦しむ彼女の姿を別ルートを進行していたスレインが心配そうに様子を見ていた。

 

「どうすんだよ」

 

「取りあえず、マリネロスまでこのままではないでしょうか?」

 

「そうだな……」

 

ネール、ケルラ、ジュリも同じく心配そうに相談するが解決策が見当たらない、肝心のリアも機体をウロウロさせて心配そうに見やる。

 

「ザーツバルム卿!」

 

「分かっておる…シナンジュを収容後、マリネロスまで全速で向かう…」

 

スレインの叫びに全てを理解していたザーツバルムは指示を出す。その後も各員に言い渡す指示は適切で非の打ち所がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





どうも砂岩でございます!!
取り敢えず今回はこんな感じの短めでついに再会しました。この四人が…これが原因でフィアがどうなるのか、そして次回は親衛隊がどう思われてるかがよく分かる回になりそうです。

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