アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

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今回は地球sideがメインです。


第三十一星 残された者達 ーIt has been leftー

 

 

 

ヴァースside

 

「はぁ……」

 

月面基地であてられた私室に備え付けられたシャワールームでシャワーを浴びたマリーンは長い髪を拭きながらため息をついた。

 

(そう言えば…あれがすべての始まりか……)

 

ーーーーーーーー

 

フィアとアセイラムが襲われしばらくした後、当時、同室だったマリーンは驚いていた。

 

「ハァ!騎士になる!?」

 

「あぁ……」

 

「なんで急に!!」

 

マリーンはフィアの突然の言葉に驚きを隠せなかった、それもその筈、ついこの前まで皇族を毛嫌いしてた人物が皇族を護る騎士になると言うのだから。

 

「当然、私はこの腐ったヴァースを変えるという目的は変わらない」

 

「フィア…どういう事だ?」

 

「少しな…判断しただけだ…外からこの体制を変えるのではなく、中から変える…」

 

「そんな…」

 

マリーンが少し残念そうにするとフィアは顔を向け真剣な表情で話す。

 

「マリーン…私とお前の思いは同じだ…道は違えど必ず共に歩める日が来る……」

 

「あぁ…私もその日が来ることを願ってるよ……」

 

マリーンはフィアの言葉に頷くとフィアも嬉しそうにするのだった。

 

ーーーー

 

その後、アセイラムの推薦もありすぐにフィアは騎士として徴用された…騎士になるために色々と訓練を繰り返したらしいが。

そしてマリーンも無事に教練所を卒業すると志願していたザーツバルムの元に行き、そこで計画されていた壮大な計画に参加、友であるフィアと敵対する事になったのだ。

 

それは結果的に誰も死なずに済んだ訳だがアセイラムの意識不明の原因がマリーン自身にもあるのだから突然本人は行きにくい。

 

「…でも……ウジウジするのは私の性に合わんな」

 

マリーンはヨシッと気合いを入れると取りあえず今日は寝る事にしたのだった。

 

ーーーー

 

ヴァース帝国、月面基地カタフラクト格納庫。

 

「あぁ~やっとだせたね~」

 

「かなり頑丈に拘束してましたから」

 

妙に間延びしている声が格納庫に響く、その声の主はフィアのカタフラクトであるシナンジュの機付き長のフェイン・クラウスである。

彼女は一息つきながら部下と共に封印を解いたシナンジュを見つめた。

 

「もうすぐ親衛隊も来るし、忙しくなるね~」

 

フェインは持っていた飲み物を飲みながら呟く。

母星である火星を連想させる深紅の色、他のカタフラクトには見られない単眼型の顔はどこか禍々しさを感じるが各部に施された金の装飾がその中に優雅さを付け加える。

 

「美しく、強く、まさにフィアにピッタリの代物だな…」

 

フェインはそう呟いた自分に嫌気を感じると、普段緩い感じになっている顔を若干だが歪めて呟く。

 

「子供に戦争の片棒を担がせてる時点で私も末期だろうな…」

 

フェインはフィアのまっすぐな瞳を思い出すとその顔により一層の陰りを見せるが、すぐにいつもの緩い表情に戻り整備に取り掛かるのだった。

 

(私に出来るのは少しでも良い状態に機体を仕上げるだけか……)

 

ーーーーーーーー

 

地球side

ロシア・ノヴォスタリスク地球連合本部

 

半年前、ザーツバルム卿が攻撃を加え大きな被害を被った本部だ、今は修復され通常に運用されているがこうなってしまった以上、本部を秘密裏に移動させる計画もあるようだ。

そこのカタフラクト専用の射撃場では120ミリライフルと75ミリマシンガンで訓練をしている2機のアレイオンがいた。

 

「まだ訓練ですか…熱心ですね……」

 

「いえ……あれは訓練ではありません」

 

「はい?」

 

その様子を見ていたのは本部の防衛戦でほぼ大破し現在修復中の戦艦、デューカリオンの艦長ダルザナ・マグバレッジとその副長の不見咲カオルだった。

不見咲はマグバレッジの言葉に疑問の声を上げるとマグバレッジは静かにこう答えた。

 

「あれはただの憂さ晴らしですよ…」

 

「はぁ……」

 

「不見咲君、貴女方モテない理由を教えてあげましょうか?」

 

マグバレッジの言葉に要領を得ないという感じで不見咲は答えるとマグバレッジは少し笑いながら言うのだった。

 

ーーーー

韻子side

 

「次!次!次!まだまだ!!」

 

次々と出てくる標的を韻子は120ミリライフルで全て当てると何処か焦っているように標的が出てくる間に叫ぶ。

 

(私には何も出来なかった…)

 

韻子の頭に浮かぶのは半年経ってもハッキリと覚えている。

揚陸城の降下作戦、スリット状のカメラに睨まれた時、死に直面した自分は何も出来なかった、ただ恐怖に塗りつぶされ手足が金縛りを受けたように動かずに。

 

《韻子!無事か!!》

 

その時に現れたのはフィアだった、体中に銃弾を受けながらもアレイオンに乗って駆けつけてくれた。

 

《来るな!韻子は姫様を頼む!》

 

しかし彼女も限界だった、血を吐きながら発する言葉に私は従ってしまった…この選択が正しかったのかなんて分からない。

現実はとても残酷だった…フィアに頼まれていたお姫様を守り切れず、フィアすらどこにいるのか分からない、私が見たのはフィアが使っていたアレイオンの残骸とフィアのものと思われる血溜まり。

 

(私がもっと強かったら…もっとやれていれば!)

 

後悔などなんの役に立たない、フィア達を守るなんて傲慢な考えなどしない、もしあの時に手助けが出来たら微力でも何でもいい…上手くなりたい。

 

(フィアに!少しでも追いつけるように!)

 

ーーーー

ライエside

 

「ッ!…まだ……」

 

そのとなりでアレイオンを駆り、75ミリマシンガンを撃っているライエも険しい表情で訓練に没頭していく。

 

 

《甘ったれるなぁ!!生きたくても生きられない奴が大勢居るんだ!!》

 

あの時、暗殺未遂の時に言われた言葉は今でも覚えてる、何故かフィアがその時どんな表情かもちゃんと覚えていた。

あの時の自分は、今思えばだだをこねていたのだけかもしれない、憎むべき対象はこんなに優しく、慈悲深い人だったのかを知って自分が分からなくなったのだ。

 

(借りを借りっぱなしじゃない……)

 

フィアも姫も帰って来なかった…帰ってきたのは瀕死の伊奈帆とボロボロのデューカリオンメンバー達。

 

あの気高く、誇り高い騎士は帰って来なかったのだ、皆があの背中に頼っていた…伊奈帆とフィア…この二人は私たちの希望だったのだから。

 

(必ず借りは返す!)

 

少しでもあの背中に追いつけるように、マシンガンの射撃ボタンを押すのだった。

 

ーーーー

 

「あ~あ、またやってんのかあの二人は…」

 

「韻子もライエちゃんも最近恐くてさ…」

 

「追いかけてんだろう、フィアの影をさ…」

 

その二人の訓練を見つめるもう一つの影の正体はカームとニーナだった。

ニーナはカームの言葉を聞くと静かに頷き呟く。

 

「フィアちゃんは強烈だったからね…色々と……」

 

同性なのに強く頼りがいがあり、同い年なのに立派で優しかった…そんな彼女はニーナ達にとってもいつの間にか大きな存在になっていた。

 

「まぁ…ちょっと俺に考えがあるんだ」

 

「考え?」

 

「まぁ…ちょっとな……ニーナも手伝ってくれ」

 

何か考えているカームの様子にニーナは疑問符を頭につけながらカームの話を聞くのだった。

 

ーーーー

次の日

 

「韻子~」

 

「わ!ニーナ!どうしたの?」

 

韻子はいつものように訓練を受けるために廊下を歩いていると後ろからニーナに抱きつかれ驚く。

 

「ちょっと来て!」

 

「え?ちょっと!なに!?」

 

韻子は訳も分からずにニーナに半ば強引に連れてこられたのはシミュレーター室だった。

 

「よう!韻子」

 

「カーム!ライエまで!どうしたの?」

 

「私も強引に…」

 

ニーナに連れられるとそこに居たのはカームとライエの二人だったが、ライエの方は韻子と同じで何故ここに居るのか分からないらしい。

 

「プレゼントだよ~」

 

「あぁ!!チマチマ的を撃ってるよりよっぽど有意義なものをな!」

 

「え?」

 

「へぇ…面白そうじゃない……」

 

ニーナとカームの言葉に韻子とライエは反応を示し、二人に言われるがままシミュレーション用のコックピットに乗り込んだ。

 

『二人はタッグを組んでもう一組のタッグと戦って貰う…相手はデータだけど強いはずだ』

 

「なるほど…これが有意義なもの?確かに的よりかは有意義だと思うけど……」

 

「それだったら一対一でも……」

 

通信から聞こえてきたカームの声に二人は疑問をもらす。

二人は本部防衛戦で数少ない生き残りである、さらにその日から毎日欠かさず通常の訓練規定の倍はこなしていた…そんな彼女たちは一般的な兵士のレベルなど既に追い抜いてしまっていたので二人の疑問はもっともと言える。

 

「まぁ…まぁ…やってみりゃ分かるって」

 

そう言ってカームは通信を切ると同時にシミュレーションが始まる、廃墟が建ち並ぶ街の中、韻子とライエのアレイオンのレーダーに反応が現れた。

 

「二時の方向に機影2!IFF反応無し!敵と判断!」

 

「レーダーが…ECMが撒かれたわ……」

 

韻子とライエが迎撃の準備を整えるとレーダーが乱れ、敵影2機の姿が消えてしまった。ライエも対抗してECCMを展開するが敵影を捉えられない。

 

「どこに…」

 

「本当に手際が良いわ…何者?」

 

二人はお互いに背中を預けながら周囲を見渡す、恐らく敵は既にこちらを捉えている…迂闊に動けなかった。

 

「ッ!」

 

緊迫した空気の中の突然の銃撃、二人は何とか避けると銃口を向けるがもう居ない。

 

「本当に強い…」

 

そうしているうちにアレイオンは先程攻撃してきた機体と、もう一機の機体の反応を基に機体を照合して答えに辿り着くと、操縦者に機体とパイロットを伝える。

 

「え…うそ……」

 

「なるほど…そう言う訳ね……」

 

その画面に現れていたデータは……

 

機体

《KGー6スレイプニール》二機

 

搭乗者

 

《界塚伊奈帆》

 

《フィア・エルスート》

 

それを見た瞬間、二人の表情は大きく変わり二人は襲ってくるシミュレーションデータ《フィアと伊奈帆》に向かって行くのだった。

 

 





どうも砂岩でございます。
今回は韻子とライエの二人をちょっと書いてみました。
個人的な意見なのですが韻子やライエ、ニーナも同い年で同性なのに自分より遙かに大人で、先を見ていて、信念があり、強かったフィアはとても眩しかったのではないかと言う事でこんな感じにしました。
次回はこの続きを書いていきたいと思ってます、地球sideが多めになると思います。
では最後まで読んで頂きありがとうございました!!

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