アルドノア・ゼロ 忠義は主君と共にあり   作:砂岩改(やや復活)

26 / 92
第二十五星 逃れられない運命ーUnavoidable of destinyー

 

揚陸城、格納庫。

そこにはマリーンがクルーテオの揚陸城から持ち帰ったタルシスの姿があった、そこには地球軍の兵士二名がタルシスに乗り込もうとしているスレインに対し発砲するが彼はタルシスに乗り込んでしまった。

 

「チッ…乗り込まれた…」

 

「起動するぞ!城内のカタフラクト隊と連絡を取れ!」

 

これ以上は無理だと判断した兵士が通信機で近くに居るカタフラクト隊と連絡を取っている間、スレインはタルシスのコックピットで起動作業をしていた。

 

「補助動力スタート…行けるか…」

 

スレインは補助動力を起ち上げるも肝心のアルドノアドライブが起動せずに落胆の声を上げる。

 

「駄目か…アルドノアドライブは停止してる。起動権を与えられた者しか起動する事は出来ない。どうすれば…」

 

アルドノアドライブが停止しているのを確認してスレインはどうすれば良いか思案していると突然アルドノアドライブが起動しコックピットに光が入る。

 

「これは!?アルドノアドライブが起動した…どうして?」

 

スレインはこの事に驚くが格納庫の上部からアレイオンがマシンガンを撃ってくるのを見てスレインはタルシスを操作し格納庫を脱出するのだった。

 

ーーーー

 

ユキside

 

揚陸城、物資搬入用通路。

アセイラムを連れたユキはアルドノアドライブに向かう為の通路に伏せていた歩兵に阻まれ止まってしまっていた。

 

「もう、こういう所に来るのは勘弁して欲しいんだけどな…」

 

『ユキさん!』

 

進路を阻む歩兵を見てユキが呟くと通信から韻子の声が聞こえる。その声に対しユキは周囲を見渡すと片腕を失ったアレイオンがやって来るのを見てユキは喜ぶ。

 

「韻子ちゃん!無事だったのね!?あのカタフラクトは?」

 

『……今フィアが相手をしている筈です』

 

「フィアがですか!?フィアは怪我をしている筈では!」

 

韻子の言葉に後ろに居たアセイラムが叫ぶと韻子は静かに話す。

 

『フィアが…お姫様を頼むって…』

 

「そう…フィアちゃんが…」

 

韻子の話を聞いてユキは静かに後ろに居たアセイラムを見ると少し驚く。彼女は悲しむだけでは無くその瞳には必ず目標を成し遂げると言う覚悟があったからだ。

 

「ユキさん…管理用通路があります。迂回路です、アルドノアジャンパーに向かえます。機材搬入路ではないので、ここから先は…機体を捨てねばなりませんが…」

 

「……マスタング11」

 

『了解!』

 

韻子はユキに呼ばれるとその意図を理解して歩兵が伏せていた通路の隔壁の基部を銃撃し通路を閉ざす。

迂回路を使うために入り口を向かおうとすると上から天井を壊し落ちてくるスレイプニールの姿があったのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

『アセイラム姫殿下…お命頂戴いたします…』

 

『ザーツバルム伯爵…』

 

『このぉ!』

 

通信からザーツバルムの声が聞こえて伊奈帆は頭から血を流しながら改めて状況を確認する。

ディオスクリアに押されて揚陸城の中まで追いつめられた。だがそれは違う…次元バリアの性質上、視界は上からのカメラに頼るしか無い…つまり上から見通せるのは突き破ってきた穴から見える物ただ一つ。

つまりディオスクリアは次元バリアを発動させている限りその場から動けない。

 

『あ!あいつもバリアを!』

 

「韻子…逃げて…」

 

『バカ言わないで!』

 

迎撃に出たユキと韻子のアレイオンの弾丸は吸い込まれるように消されていく。

それを見た韻子は驚愕の声を上げその声を聞いた伊奈帆は韻子に警告を発する、次の攻撃の予測はついている…視界を確保するために次元バリアを解除しながらのロケットパンチだ…。

 

(この機体…確かに脅威だ…でもこの予想が正しければ勝機はある…)

 

伊奈帆の警告を自分を見捨てて逃げろと解釈してしまった韻子は反対しているとディオスクリアは腕を構えロケットパンチを飛ばす。

 

「避けて…」

 

『うわぁ!』

 

『マスタング11!』

 

ロケットパンチを何とか避けたが残った腕を持って行かれてその衝撃で尻もちをつく。

ユキは韻子を心配しながらも帰ってくるロケットパンチを迎撃するがそれを横目で見ていた伊奈帆はハンドガンを構えてディオスクリアのロケットパンチと本体の接続部分を撃つ。

すると伊奈帆の予想通り爆発を起こしザーツバルムの驚愕の声が聞こえてきた。

 

「やっぱり、腕を飛ばす時バリアを解除する必要があるんだ…腕のスラスターがバリアと干渉するから…」

 

『なに!?私囮?』

 

『そう言う事か!』

 

伊奈帆の言葉に韻子は怒り、ユキはマシンガンの銃口をロケットパンチからディオスクリア本体に向けて発砲する…多数の銃弾を受けたディオスクリアは爆発を起こしザーツバルムは急いで次元バリアを展開するが伊奈帆は待っていましたと言わんばかりにバリアの隙間を攻撃する。

 

『オワッ!』

 

「バリアには隙間が必要だ…エネルギーフィールドを展開する所を見逃さなければ…それは容易に発見できる…」

 

『飛ばした腕を遠隔操作するアンテナ!』

 

アンテナを集中して攻撃された事により飛んでいたロケットパンチが力なく床に落ちる。

それでも尚、ザーツバルムは次元バリアを纏った手を振り上げ伊奈帆に向けて振り下ろそうとする。

 

『こざかしいマネを!』

 

『なお君、逃げて!』

 

「いや…むしろ近づいてくるのを待っていた」

 

それを見た伊奈帆はあらかじめパージしてあったミサイルコンテナを退避しながらハンドガンで破壊する。

足元から起きた衝撃は片腕になりバランスが悪くなったディオスクリアには耐えきれずに倒れ次元バリアがオートで解除されてしまう。

 

「そして…接地面にはバリアが張れない…」

 

『うあぁぁぁぁぁ!』

 

それを伊奈帆が見逃す筈も無く上に乗ると容赦なく近距離でマシンガンの弾丸を浴びせる。ダメージの蓄積によりディオスクリアは合体を解除し素体が姿を現す。

 

「お姫様、早く…伊奈帆も!」

 

「いや、先に行って…すぐに追いつく……?」

 

アルドノアジャンパーに向かおうと機体を捨てて管理用通路の入り口にいる韻子たちを先に行かせようとした時、揚陸城全体が揺れ始めた。

 

「この振動は…爆発…」

 

「お姫様!早く!」

 

着々と振動が近づいているのを感じた韻子はアセイラムを中に入れてドアを閉める。すると伊奈帆とザーツバルムが居た上の天井が爆炎と爆風と共に崩れ落ち二人を襲う。

 

「なに?…ッ!」

 

『う…なんだ…ッ!』

 

爆炎と爆風が収まり伊奈帆が見たのは大破し完全に機能を停止したゼダスと原型を留めていないアレイオンの残骸に埋もれた何か…それを見た伊奈帆は心臓が止まった様な感覚に陥った。

残骸の下から血か付着し所々焼けて変色している奇麗な銀髪…伊奈帆はディオスクリアの事を忘れて急いで残骸を退ける。

 

「フィア!」

 

一方ザーツバルムの方もディオスクリアをゼダスに近づけ頭のコックピットハッチを無理やり開けてマリーンの無事を確認していた。

 

「マリーン!」

 

ーーーーーーーー

 

マリーンside

 

爆発の後、体がコックピットの中を舞いボロボロになったマリーンを優しく抱きしめ呼びかける声にマリーンは重いまぶたを開けるとザーツバルムが居た。

 

「ザーツ…バル…ム…きょ…う…」

 

「マリーン!無事か?」

 

ザーツバルムはマリーンを回収しディオスクリアのコックピットに入れていた。マリーンが目を覚ましザーツバルムは抱きしめながら呼び掛けるとマリーンは話しかける。

 

「ザーツ…バルム…きょ…う…夢を…叶え…て…」

 

「マリーン…」

 

力を振り絞り声を出すマリーンを見てザーツバルムは悲しむ。それを見たマリーンは困った様に笑い、話を続ける。

 

「わた…しは…娘として…貴方を支えた…かっ…た……」

 

「マリーン!」

 

マリーンはそう言うと意識を失い静かになる…その顔には笑顔を浮かべておりそれを見たザーツバルムは決意を新たにし顔を上げるのだった。

 

ーーーー

 

フィアside

 

「フィア!」

 

「いな…ほ…か…」

 

「喋っちゃ駄目だ…」

 

「ウッ!」

 

スレイプニールの手の上で伊奈帆はフィアが目覚めた事に安堵するが止血の手は止めない。

伊奈帆はスレイプニールにある全ての応急用具を使って止血を試みるが数が足りずに特に大きな傷を塞ぐ…ディオスクリアの方も今はザーツバルムがマリーンの方に行っているので安心だ。

 

「無茶しないでって言ったのに…」

 

「フフッ…ウッ!」

 

フィア自身、意識がもうハッキリしていない。それでも精一杯の虚勢を張っていつも通りにしようとするがそんな余裕はもう無かった。

意識を手放そうとした直前、全身が暖かい物に包まれる。もう殆ど目が見えないフィアにも分かる、この安心感は人の体温だ。

 

「いな…ほ…」

 

「………」

 

"抱きしめられている"こんな状況でもそれを理解したフィアは何故かとてつもない安心感に包まれる。フィアは静かに微笑みその安心感の中、フィアは意識を失うのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

「いな…ほ…」

 

そう言って意識を失うフィア、伊奈帆は自分の腕の中で眠るフィアを見て抱き上げて韻子が閉めた扉を開きゆっくりと降ろす。ここも安全とは言いにくいが物資搬入路よりかはマシだ。

 

(フィア…必ず…倒すから…)

 

無残な姿になってしまったフィアを見て誓うとスレイプニールを再度起動させる。するとザーツバルムもディオスクリアを立ち上がらせるのが見えた。

 

『マリーンの為にも…我は成さねばならぬ…うおぉぉぉぉ!』

 

「………」

 

もはや素手しか武器が無いディオスクリアはスレイプニールに突っ込む。伊奈帆もスレイプニールのマシンガンを捨ててザーツバルムの一撃を避けると腕のアンカーを発射しバランスを崩させ倒す。

 

『わかるまい…貴様らにはぁぁ!』

 

ザーツバルムはコンフォーマル・パワーアシストを装備し直したスレイプニールに向かっていく。

 

『植えつけられた地球人への羨望と憎しみが、いつまでも我等の魂を濁らせ続け…人としての生き方を奪い、豊かな地で漫然と生きる貴様らなどに我らの想いはわかりはすまい。憎しみを植えつけられた恨み、それに気づいた時の虚しさ、愛する者を守れなかった無念、想いに気づけなかった後悔…わかりはすまい!』

 

ザーツバルムの声は全周波で流れておりこちらに向かっているスレインはもちろん、相手をしていた伊奈帆にも聞こえてくる。しかし伊奈帆は右腕で殴りつけると同時にザーツバルムの悲鳴が響き、ディオスクリアは倒れる。

 

「オプティカルシーカーダウン…補助センサーの信号をメインモニターへ…ライトアーム動力カット…レフトアーム…」

 

『我は…憎む全てを倒し…憎しみの連鎖を…断つ…』

 

「アセイラム・ヴァース・アリューシアの名において…」

 

『伯爵!』

 

「眠れ!」

 

ザーツバルムの言葉に場に急行したスレインが反応して止めを刺そうとするスレイプニールに突っ込む。タルシスはスレイプニールと共に壁を突き破りアルドノアジャンパーに倒れるのだった。

 

ーーーーーーーー

 

先程の激戦とは打って変わって静寂がこの場には漂っていた…そこに動く二人の影…アセイラムとスレインだ…アセイラムは大破したスレイプニールに駆け寄る。

 

「伊奈帆さん!大丈夫ですか!?伊奈帆さん!」

 

「アセイラム姫…」

 

会いたかったアセイラムを見てスレインは喜ぶがアセイラムはスレインに気づかずにそのまま呼び掛ける。

 

「セラム…さん」

 

「伊奈帆さん…良かった…揚陸城のアルドノアドライブは停止しました…作戦は成功です!私たちも脱出しましょう」

 

「フィアが…入り口の近くに…眠ってる…」

 

「フィアが!分かりました…すぐに」

 

アセイラムがフィアの居る筈の所に向かおうとすると銃声が鳴り響く。それはアセイラムを貫き彼女は苦しそうにしながらもその銃声の方に体を向けると…そこには瀕死の状態になったザーツバルムの姿があった。

 

「クッ…」

 

アセイラムは力を振り絞り、伊奈帆に銃弾が当たらないように移動すると再び銃弾が鳴り響く…彼女は死を確信して目をつむるが衝撃が来ない、不思議に思った彼女が目を開けると驚く。

 

「フィア…」

 

アセイラムを守るように立っていたのは他でもない。フィアだった…全身傷だらけの彼女は僅かに顔を動かしてアセイラムを見て笑うと呟く。

 

「あぁ…守れて…良かった…」

 

そう言ってフィアは倒れるとアセイラムが絶叫する。そして憎しみの籠もった目でザーツバルムを睨み付けるとザーツバルムは再び拳銃を発砲…アセイラムの体は宙を舞い血を流しながら倒れるのだった。

 

「ザーツバルム…伯爵…」

 

「フッ…我を助けたな…スレイン……よくやった…」

 

「う…うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ザーツバルム卿!」

 

ザーツバルムの最大の皮肉にスレインの頭に血が上りザーツバルムに向けて我を忘れ撃ちまくる。その間に割って入る影…マリーンだ…マリーンはザーツバルム卿に覆い被さり自身の体を盾にしてザーツバルムを守る。

 

「マリーン…」

 

「……ザーツバルム…卿………」

 

死んではいないが意識を失いグッタリするマリーン…ザーツバルムはスレインを見て静かに笑う。憎しみの連鎖を断つ…その言葉の通り、自身もその対象だ…ザーツバルムはマリーンを横に寝かせると自身の額を指さす…それを見てスレインは泣きながら拳銃を構えるのだった。

 

ーーーー

 

伊奈帆side

 

そんな事を横目に伊奈帆は血が目に入り、体から力が抜けている状況でも何とかスレイプニールから這い出てフィアとアセイラムの元に向かう。

 

「う…」

 

重い体を引き摺りながら伊奈帆は着実に二人に近づく…。

 

(界塚、ありがとう…私はフィア・エルスートだ)

 

最初に出会った時…その時も気絶してたっけ?今考えるとフィアってよく気絶する…それに意外と天然な所もある…特に港でニーナにちゃん付けされて変な顔してたな…。

 

(さっきも言ったが姫様に関わった以上死ぬのは許さん…姫様の悲しい顔は見たくない)

 

今考えても身勝手な言い分だ…でもその言葉に勇気づけられた自分はどうなのだろうか?

 

(………)

 

ニロケラスと戦う前に…泣いてた……フィア…君はとても優しい…だから守ってあげたい…自ら傷ついていく君を守りたい…。

 

「フッ…ウゥ…」

 

何とか辿り着いた伊奈帆…しかしすぐ後ろから拳銃をスライドする音が聞こえ…続いて声も聞こえる。

 

「よせ…それまでだ…二人に触るな…オレンジ色……」

 

「……コウモリ」

 

種子島で聞いた声に顔を向けると向けられる銃口を見て伊奈帆は笑う。圧倒的に不利な状況……しかし伊奈帆は振り向いた顔を戻しフィアから託された銀の拳銃を向ける。二人を助ける……そんなシンプルな思いが伊奈帆を動かした結果だ……しかしその思いは叶わずそこで意識を刈り取られるのだった。

 

ー2014年12月。地球連合本部に強襲をかけたザーツバルム伯爵の揚陸城は陥落。戦いは地球連合の勝利に終わった。敵味方双方に死傷者多数、ヴァース第一皇女アセイラム・ヴァース・アリューシア姫とその騎士のの消息は…今だ知れないー

 

 




どうも砂岩でございます。
あぁ…最後なのになんかグダってしまった感……クソ……。
フィアがなんで生きてるの?と疑問に思った方は多く居ましょうがフィアだからって事で……。
そして一期分完結しました…次回からは空白期間も挟んで二期に突入していきます!ご指摘通り二期分の設定集は作るつもりです……オリキャラの数が増えますので!
では最後まで読んで頂きありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。