東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

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 長らくお待たせしております。

 ハイスクールDHの25話前後の参護視点です。

 中々上手に書けなくて申し訳ないです。

 あと、ハイスクールDHよりも饅頭の登場人物の方が書きやすいのは、たぶん意識飛ばしながら書いてた名残なんだろうなぁ。

 ではどうぞ!


外伝 海原参護の里帰り

 雲一つ無い快晴。

 

 今日も朝一の訓練を我が家の庭先でやっている。

 

 全身に銀色の闘気を纏わせて、仮想の敵を夢想し、杖で闘う。

 仮想の敵は兄貴。

 

 昨日は萃香、その前は幽香さん。

 

 朝の訓練が終わったら、次は魔理沙・パチュリー・アリスの三人による魔法の訓練だ。

 座学から実習、実践までたくさんの勉強をする。

 

 最近は結界魔法とそれに付加できる様々な効果を文字通り叩き込まれた。

 

 想像できるだろうか?

 

 結界で閉じ込められて、内部に炎の効果を付与されたときだ。

 あの時は銀色の闘気を爆発させて内部から結界を吹き飛ばしたが、死ぬかと思った。

 

 その後に、魔理沙から。

「じっくりとお肉をローストする時に便利なんだぜ」

 という言葉をいただいた。

 

 そんなものを人間に使うなと言いたい。

 

 ただ、組み合わせる魔法次第で便利な術式だから、これは覚えておいて損はないのだ。

 

「さて、朝の訓練が終了したので、そろそろ出てきてもいいですよ?」

 

 そう虚空に語り掛けると、空間が裂けて、中から長い金髪と紫色の服が印象的な女性が出てくる。

 口元を扇子で隠しているが、目に若干驚愕の色をのぞかせていた。

 

「驚いたわね。この世界に連れてきたときは気づかなかったのに……」

 

 その言葉に、誰であるかが容易に想像できた。

 霊夢さんや魔理沙がよく話してくれたし、幽香さんや萃香も性格悪い的なことをよく言っていた。

 

「八雲紫さんですか?」

 

「あら、霊夢たちから聞いたのかしら? それとも風見幽香かしら? 伊吹萃香の可能性も高いわねぇ」

 

 その全員です。

 たぶん、知ってて言っているタイプかな?

 

 親父っぽいタイプだ。

 言動で煙に巻くというか、普段色々とコミュニケーションを取ってても、肝心な情報を隠しているような、そしてあえてそれを分かるように行動しているところというか。

 

「まぁいいわ。今日はあなたに頼みがあって来たのよ」

 

「頼みですか?」

 

「ええ、里帰りって興味無いかしら?」

 

 

********************

 

 

 紫さんが言うには、幻想郷の龍神様が、外の世界の龍神から頼まれ事をしたらしい。

 

『海原曹護の弟と曹護を会わせたい』

 

 兄貴の事なのはわかるが、外の世界での龍神と言えば、兄貴自身がよく話してくれた『無限の龍神オーフィス』だろう。

 

 なんともまぁ、規格外の生活を送っているんだろうなぁっと、諦めにも似た感情を持てあましている。

 

「ゆ~?」

 

 縁側でボーっとしていると、Yパチュリーが心配そうに声をかけてきた。

 目が潤んでいるところを見ると、さっきの紫さんとの会話を聞いていたのかもしれない。

 

「大丈夫だよ。俺の家はここだし、必ず帰ってくるから、悲しい顔しないで?」

 

 ヒョイっと抱き上げると、安心させるように長い髪を手櫛で()いていく。

 心地よさそうに、されるがままになっているYパチュリー。

 

 安心してくれたかな?

 

 傍から見れば、縁側で猫を撫でながら日向ぼっこしている老人のようだが、これはこれでいい時間の過ごし方だ。

 

 日がな一日中、こうしてゆっくり達を愛でる一日。

 

 幻想郷こそ、俺が帰る世界であり、大切な人たちが居る世界だ。

 

 考えてみれば、Yパチュリーと出会ってから、たくさんの人たちと出会って、たくさんのゆっくり達にも出会った。

 阿求様の厚意で住む家を得られ、口添えで何でも屋の仕事を得られた。

 

 本人は俺を人里の門番的な事に利用したとずっと気に病んでいたけど、それらを全部ひっくるめて阿求様に感謝と尊敬の念を持っている。

 

 別れの言葉も言えずにこっちに来てしまったのが心残りだったけど、きちんと家族に別れを告げられる。

 そう考えれば、八雲紫さんが持ってきた里帰りの話はいい話ではあるのだ。

 

 魔理沙曰く、八雲紫個人の信用度は低いが龍神様が絡んだ時の彼女の信用度は高い、らしい。

 

 外の世界の龍神は、幻想郷の龍神様と浅からぬ因縁があるらしい。

 それでも、頼みごとをできる間柄であることを考えると険悪な方向の仲ではなさそうだ。

 

 なら、俺はこの幻想郷が大好きで、その管理者と守護神がせっかく持ってきてくれた話だ。

 受けることにしよう。

 

 そして、絶対に帰って来よう。

 

「ちょっと、みんなに話さないといけないことができたから、呼んで来てくれないか?」

 

 そう言うと、Yパチュリーはすべてを理解したように頷き、皆を呼びに行った。

 

「なんかお土産持って行かないとなぁ」

 

 人里の菓子折りでも探しに行こう。

 

 

********************

 

 

「里帰り……ですか?」

 

 家族で食卓を囲んでいる際に出した話題。

 ちょっとコンビニ行ってくるみたいな感覚で切り出したのだけど。

 

「そう。八雲紫さんから今朝話をもらった。兄貴の連れ合いが龍神様と知り合いらしくてな。兄貴と会わせたいと要請があったらしい」

 

 今日の献立は俺の担当。

 山菜と川魚の天ぷらは本日のメインどころ。

 

 幻想郷に手軽な天ぷら粉なんて無いから、色々と手間がかかっている。

 衣は薄め、かき混ぜる際は温度を低めにする。

 油へ投入する時は、放り込むのではなく、具の先端を油に漬け、波紋を立てないイメージで入れていく。

 

 これは、放り込むと薄い衣はすぐに具から分離してしまうからだ。

 

 たくさんの天ぷらにも衣に一工夫を加えて、様々な揚げ物に仕上げている。

 

 シソを細かく切ったものを混ぜてひすい揚げ。

 落花生を砕いたものを混ぜて落花生揚げ。

 生栗を削ったものを衣に付けて丹波揚げ。

 色々なゴマを混ぜて利久揚げ。

 

 どれも天ぷらさえできれば、材料をそろえて混ぜるだけの簡単な工程でできる。

 

 ひすい揚げは竹輪なんかを揚げるときに使うし、落花生揚げや丹波揚げなんかは白身魚を揚げるときに重宝する。利久揚げなんかはゴマの香りが強いのでシイタケでもゴボウでも色々な食材と相性がいい。

 

「紫かぁ。アイツが龍神の名前を出す時は基本的に信用していいよ。長い付き合いだけど、龍神の名前を出した紫は幻想郷の管理者としての顔だからねぇ」

 

 萃香はひすい揚げの竹輪を肴に、上機嫌で瓢箪の酒を飲んでいる。

 彼女の前には、醤油の皿と塩の皿が並んでいて、好みで味を変えているようだ。

 

「ちゃんと帰ってくるんでしょう?」

 

 阿求様が心配そうに聞いてくる。

 その横でYパチュリーも心配そうにこっちを見ていた。

 

 他のゆっくり達も本当に心配そうにこっちを見ていた。

 

「ああ、俺の家はここだからな」

 

 そう答えると、嬉しそうな表情になる。

 紫さんが言うには、きちんと帰ってこれるとのことだったから、萃香の言葉も併せて信用できるとするなら、何も言わずに来てしまったことに関して、家族にしっかりと説明する機会ができるのは嬉しい。

 

「ならいいんじゃないかしら? 私たちは信じて待つだけよ」

 

 パチュリーが何気に男前な気がする。

 

 言葉を紡ぎながらも、Y小悪魔へしっかりと餌付けをしているあたり、Yパチュリーとの同期効果は高そうだ。

 

「そうなると、ゆっくり達が心配ですね」

 

 阿求様が心配そうに、Yパチュリーを撫でていた。

 Yパチュリーは心地よさそうにウトウトしている。

 

 阿求様が撫でているゆっくり達はなぜかみんな心地よさそうに寝てしまう。

 

「紫は何日ぐらいって言ってた?」

 

「紫さんは、四日と言ってたな。四日目の夜に迎えに来るそうだ」

 

 それだけあれば、家族に別れを告げて、最後の時間を過ごせるだろうという配慮なのだろう。

 結構長い期間、幻想郷で暮らしているけど、八雲紫さんと接触したのは今日が初めてだったりする。

 魔理沙や萃香は俺を連れてきたのは紫さんだと予想していた。

 

 あ、会った時に聞いておけばよかったかな。

 

「四日……ですか。それなら、ゆっくり達も大丈夫でしょうね」

 

「だけど、留守にするんだから、しっかりと遊んであげなさいね?」

 

 比較的大人なゆっくり達は大丈夫としても、YレミリアやYフラン、Y小悪魔なんかはさみしい思いをさせてしまうかもしれない。

 

 幼いゆっくり達はよく遊んであげているからか、一日留守にするだけで帰って来た時に、並んで涙目で見つめられるのだ。

 プルプルと震えて、涙目でジッとこちらを見つめてくるものだから、罪悪感がとんでもないことになる。

 

 これでも、仕事は二日以上家を空けないようにしていたからな。

 

「そうだな。ちょっと、長く家を空ける」

 

「私たちは、全員待っています」

 

「だからさ、きちんと帰ってきて、私とまた戦おう!」

 

「魔法の授業だってまだまだ残っているわ。そうね、帰ってきたら魔理沙とアリスとで合同授業と行きましょう」

 

 あれ?

 俺帰って来てから軽く地獄見る気がする。

 

「ああ、必ず帰ってくる。最悪、兄貴の連れ合いに頼んででも帰ってくるからさ」

 

 だから、現世にサヨナラしてくるよ。

 

 

********************

 

 

「いいですか? 四日後の夜にお迎えに上がります」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 里帰りの日、家の庭から現世へ向けて旅立つ日だ。

 紫さんはどこか真剣な表情をしていて、口元は扇子で隠されている。

 

「あらあら、どうやらあちらは取り込み中ですわね。戦闘準備をしていかれた方がいいかと」

 

「なに?」

 

 その言葉に、開けられた隙間を見ると、どこかの戦場で兄貴と色々な種族が闘っていた。

 見た感じ、兄貴の方が劣勢か?

 あの兄貴が?

 

「やばそうだ。手助けしないと!」

 

「ええ、行ってらっしゃいまし、そして必ず帰っていらしてくださいな。あなたは幻想郷に必要な人ですから」

 

 紫さんの言葉を背に受けて、銀色の闘気を纏いながら未知の戦場へ身を投じたのだった。

 




 長らく待たせてすいませんでした。

 そろそろ、新作に取り掛からないと友人に怒られそうな今日この頃。

 ギャグを書くって初めてなので緊張気味ですが、よろしくお願いします。

 質問などありましたら、遠慮なくどうぞ!


追記

磯部揚げの青ノリが海産物だったので、シソのひすい揚げに表記を変更しました。

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