東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

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 慧音の日記です。

 視点的には里の側から参護を見ているという感じです。

 書いては消し、書いては消しで気づけば深夜二時。

 別に同じ月の別視点日記は、全員はやりません。
 たぶん、その月にかかわりの深い人物二、三人って感じだと思います。


上白沢慧音の日記 △月

 

△月×日

 

 先日、阿求殿から珍しい妖怪の生態調査を里の外れに住んでいる海原殿に頼んでいるという話を聞いたが、この妖怪は非常に安全な部類であると阿求殿は言っている。

 

 里の有力者で、幻想郷縁起の編纂者である彼女の言葉を信用してはいるが、生態調査を依頼するほど調査がされていない妖怪は思わぬ凶暴性を持っている可能性があると思う。

 

 そのことを指摘したが、阿求殿は

「あれが人間を襲う妖怪なら、幻想郷縁起の妖怪評価を一から見直す必要があると思うわ」

 そう言って笑っていた。

 

 海原殿は里の外れ、里と外の丁度境界付近に住んでいる。

 里の会合結果を教えに行く時は、里の外れだから多少危険があるので、私が直接行くことにしている。

 危険ということもあるが、外来人ということで監視の意味合いもあったのだ。

 

 この一年間、様子を見ての評価は好印象といった所だと思う。

 

 不慮の事故で幻想郷に来たとのことだったが、現状把握と行動の優先順位を決めるなど、迅速な対応。

 この里で暮らす上で自身の力を全力で使う行動力など、高評価に値する。

 

 阿求殿が外から妖怪が襲ってくる時のために彼をあの外れの家に住まわせたのだろうが、それに文句も言わず、ずっと暮らしている。

 

 明日にでも海原殿の所にいる妖怪をこの目で確かめ、危険が無いか判断するとしよう。

 

 今後、里の防衛力の一人として期待できる立場だ。

 少しだけ、談笑しながら彼の人となりを再確認したい。

 

 

 

△月○日

 

 今日は、海原殿の所に行って件のゆっくり妖怪を見てきた。

 

 彼は、私が来たことに少々驚いていたが、すぐにもてなしてくれた。

 玄関で少し会話をしてから、居間の方で雑談を続けた。

 

 例の妖怪は、私が来たことを察知して玄関先に出てきたのだが、勢い余って土間に顔面? から落ちていた。

 見た目は、紅魔館の魔女のものだろう。

 性格はあまり似ていないようだ。本人は他人にあまり興味が無く、ずっと閉じこもって本を読み漁るのが生活習慣だと聞く。

 

 海原殿の話だと、性格よりは趣味趣向が似ている部分だと言っていた。

 パチュリー殿を知っているのかという疑問はあったが、考えてみれば阿求殿も生態観察をしているのだから、彼女から特徴を聞いていても不思議ではない。

 

 パチュリー殿は、顔面から土間に突っ込んで、涙を目に溜めながら、プルプルと震えつつ、「むきゅー」っと鳴く、などということはないと思う。

 あの様子はかなり保護欲をかきたてられた。

 

 海原殿が個人的に予測していたが、幻想郷の実力者たちのゆっくり妖怪がいてもおかしくないと考えているようだった。

 なぜ、パチュリー殿だけがゆっくり妖怪に模倣されているのか? ここを考えれば、この考えに辿り着くものだと言っていた。

 

 確かに、現在発見されているゆっくり妖怪はパチュリー殿の模倣をしているこの子だけだ。

 

 彼は、仕事の傍らに同族を探してみているそうなのだが、今の所見つけていないとのことだ。

 

 実力的に、私のゆっくり妖怪もいるかもしれないと、彼が笑いながら言っていた。

 少々複雑な気分になる。

 

 実力者という事なら、妹紅とかもいる可能性があるのかな?

 彼女のゆっくり妖怪がもしいるのなら、ぜひ引き取りたい。そう思ってしまった。

 

 

 

△月□日

 

 最近、下級妖怪から中級妖怪になりそうなぐらい大暴れしている妖怪がいる。

 知性の方は下級であることは間違いないのだが、力は確実に中級である妖怪が人里周辺を荒らしまわっている。

 

 里の外に出る人間達には注意するように、不必要には出ないように通達をしておいた。

 

 もちろん、まったく出ないということは不可能なので、出る際は周囲にきちんと知らせることと、対抗策や護衛をつけるように里の会合で決定した。

 

 会合に出ない人間もいたので、私が直接伝えた。

 道中に出会った海原殿にも、危険であることを伝えたが、彼の仕事の中に里の外へ出る人間への護衛も含まれていたはずだ。

 彼も、仕事以外では自重します、と答えていた。

 

 仕事ならば仕方がない。

 最近はゆっくり妖怪のためにいろいろと入用なのか、買い物を良くしている姿を見る。

 

 今日は数冊の本と、なぜか紅茶用のティーセット。

 

 紅茶が好きなのだろうか?

 

 

 

△月×日

 

 集団には良くも悪くも他者を出し抜こうとする輩がいる。

 

 今日の騒動もそういう輩が起こしたものだった。

 

 件の妖怪を退治するまでの簡易的な里の外への外出自粛。

 つまり、他者が取るはずだった取り分すら自分の取り分にできるということだ。

 

 里の中でも評判の良くない商人が、護衛を雇って無縁塚に出かけたそうだ。

 

 その護衛は、この里に来て一年目の新人だ。実力があっても里の人間関係は未だに手さぐりだろう。

 特に件の商人は擬態がうまい。

 何でも屋という仕事と、自分の評判をあまり知らないであろう彼を護衛に雇うのは商人にとっては当然の選択と言える。

 

 しかし、今回は時期が悪かった。

 

 当然の如く、帰り道に妖怪に襲われたのだそうだ。

 

 しかも、彼を置いて逃げようとして、なんども妖怪に先回りされて、その度に彼に助けられる。

 それを繰り返して、最終的に彼が妖怪を撃退して、無事戻ってきた。

 

 これが今回の概要なのだそうだ。

 

 海原殿が戦闘で使うのは杖術と呼ばれる技、確か四尺前後の棒を使う技だったはずだ。

 それ以外が棒術と呼ばれている。

 

 件の商人を呼び出し、状況確認と下手をしたら里そのものを危険にさらす可能性のあった行動に対して制裁を加えた。

 その時に聞いた状況が、かなり海原殿の戦闘能力を上方修正する必要がある情報だった。

 

 金属の杖を自在に操り、不思議な力を身体に纏い、木々や土手を利用して縦横無尽に立ち回って撃退したそうだ。

 

 その際に妖怪の片腕を折るまでの活躍を見せたそうだ。

 

 話に出ていた不思議な力。

 これは詳しいことを明日にでも聞きに行かなくてはならないだろう。

 

 阿求殿も訪ねてきて、明日海原殿に事情を聞きに行こうと息巻いていた。

 

 確かに、戦闘で相当危ない目に遭っているという話だし、常人ならしばらく立つことも難しい状態になっているはずだ。

 

 見舞いも兼ねて明日尋ねに行こう。

 

 

 

 

△月∀日

 

 朝一で阿求殿と一緒に海原殿の家を訪ねた。

 

 早朝だというのに上半身をはだけ、ゆっくりとした動作で杖術を、何かをなぞる様に型を反復し、何度か繰り返した後、今までの動きが嘘のように高速で縦横無尽に動き回っていた。

 

 彼が纏っているのは、気でも霊力でもない。気に似ているが、それとも違う力だ。

 

 海原殿の使うのは、波紋の呼吸という技術らしい。

 特殊な呼吸法から生まれる力を戦いに応用しているのだそうだ。

 

 特殊な力はわかったが、もう一つの無茶な戦いをして、我々に心配をかけたことに対する説教は手加減なく、しっかりと二人で行った。

 

 ゆっくり妖怪が、しきりに怒られて当然だというように頷いていたのが印象的だった。

 

 彼女? も海原殿が心配なのだろう。

 

 実に人間らしい感情を持っている。そう思えた。

 

 

 

△月☆日

 

 海原殿を強制療養させ、私は寺子屋の講義をした。

 

 昨日の厄介な妖怪を撃退、その上片腕を折るという大金星を挙げた彼のおかげで里はある程度平穏を取り戻しつつある。

 

 博麗の巫女も腕を折ったのなら、再び活動すれば処分対象、活動しないなら人間にも強者がいると理解し、過度な活動はしないはずだと言っていた。

 

 鈴仙殿に里への行帰りに海原殿の様子を見てくれるように頼んだし、もし無茶をしているようなら能力を使ってでも寝かせてくれと頼んである。

 

 なにしろ、常人なら重傷となるであろう攻撃を数発受けているのに、次の日に普通に朝稽古をするような神経の持ち主だ。

 

 少々強引にいかないと休まないだろう。

 

 彼は、里の防衛においても重要な役割を持っている。

 しっかりと休んで、身体を治してほしいものだ。

 




 本当はチラシ裏予定だったんですが、設定間違えて今の状況です。

 感想も頂いてますし、このままでいいかとww

 チラシ裏には別小説もあります。
 気が向いたら読んでみてください。

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