咲夜さんの日記の前に外伝です。
といっても、模擬戦風景ですね。
あと、ゆっくり成分も日記成分もありません。
それでもいいよという方はゆっくり読んでいってね!
それではどうぞ!
最初に彼を見たのは、美鈴と稽古をしている最中の姿だった。
彼女は見た目こそ人間の少女と大差のない容姿をしているが、その実千年単位で生きている妖怪だ。
気功を操り、おおよそ接近戦における技術は他の追従を許さない実力者。
彼女自身は優しく、気遣いのできる人格なので人里の人間達にも好かれている。
その上、その腕前でごく稀に人間の実力者から勝負を挑まれている姿を見ることがあるが、その人間達も屋敷に無理に入ろうとしなければ見逃している。
最初に見た時は、いつものように美鈴が挑戦を受けているのだろうと思っていた。
だが、日が経つにつれて美鈴の方も何かを教わっているようだった。
そして、組手の内容が今までの挑戦者と全く違い、美鈴自身もこの組手に積極的で内容もかなり高いレベルであることが窺えた。
何より、彼女の表情が輝いて見えたのだ。
後から話を聞いた時に理解したが、あれは更なる強さへの展望が見えた事、無手の基礎と気功の基礎を鍛えてくれた三国志時代の恩師を彷彿とさせる実力、鍛えれば鍛えるだけ応えてくれる弟子、と様々な理由で楽しくて、うれしくてたまらなかったのだと話していた。
三国志時代。
大図書館にもその手の書物があり、妹様への暇つぶしになればと本を選んでいる最中に見つけた書物で概要は知っている。
大昔の大陸で起きた戦の記録だ。
魏・呉・蜀の三国で大陸の覇権を争った記録で、最後はどの国も勝者になれなかった話。
彼女の師匠が生きていた時代。
当然、その頃の武将と言えば、多くの戦を潜り抜けてきた本物の戦闘者だ。
あらゆる事態を経験して、潜り抜けて、命を自分の武力に預けて、そうして生き残ってきた人間達だ。
美鈴の言っていた、三国時代の武将に名を連ねても不思議ではないという評価。
それは、彼がそれだけの経験をしてきているという事だ。
見た目は若い。
しかし、それだけの実力があるということは、私はお嬢様の為にこの男を警戒しなくてはならない。
ヴァンパイアハンターは幼い頃から戦闘機械のように育てられる場合も少なくない。
彼がそうであるならば、相応に対処しなくてはならない。
まずは、人柄や実力を確かめるのが大事だ。
美鈴から両方を聞かされているが、自分の目で確かめた方が確実だ。
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実際に会って戦ってみて理解できた。
彼は、本当に単純に幻想入りして生きているだけの人間だと。
そして、その経験は年齢不相応なものがあった。
私の能力は『時間を操る程度の能力』といい、読んで字のごとく、時間を操ることができる。
時間を止めている間に移動して、時間を動かせば相手からは突然消えたように見える。
実際、時間軸上ではその場所から別の場所まで瞬間移動していることになるから間違ってはいない。
当然、そんなことをされては相手は混乱してポテンシャルが低下し、動きが一気に悪くなる。
だけど、彼はまるで頭の中ですでに対処方法が出来上がっていたかのように、きちんと凌ぎきった。
時を止めてから背後に回り込んで、再び動かした。
たったそれだけだった。
ちょっとうろたえる姿を見てやろうかという悪戯心。
それが一瞬で吹き飛ばされるような感覚を味わった。
時を動かした途端、私が居ないことに気づいた瞬間の彼の行動は、杖を横に薙ぎながら回転したのだ。
危なく当てられるところだったが、その一回の攻撃で私の位置を正確に把握して向かってきた。
その行動自体は正解だ。
時を止めて移動された際の対処としては、至近距離に近づかれるのを防ぐことと、位置を素早く把握することだ。
横に薙いで距離を離して、その回転中に私を探す。
理に
この男は時間を操る相手、もしくは異常に速い相手と戦ったことがある。
それも一度や二度ではない。
対処方法を確立できる位に何度も闘っている。
少々大人気無いが、時間を止めた間にナイフを配置して終わらせようとしたが、それも回避された。
ナイフを確認した途端に致命傷になりえるナイフを優先的に叩き落としていた。
肩や頬にナイフが掠っても少し顔をしかめるぐらいで、太ももに刺さったナイフは無造作に抜いて捨てる。
ここまでで私はようやく認識を改めた。
この男は強い……と。
最初に会話した時とは別人のように、戦いの時の彼は冷静で必死だった。
最終的にはナイフを遠近無視の三百六十度全方位配置で勝つことができた。
最初に悪戯心を出さなければもう少し楽に戦えたかもしれないが、そのあたりも含めて隙を逃さない戦い方だった。
彼と話してみると、異様なほどに速い人間と毎日稽古をしてもらっていたそうだ。
だから、私の能力でも冷静に対処して見せたという事らしい。
彼の言葉の端々から、自分のことを過小評価していることがうかがえた。
確かに、美鈴の様な戦いに特化した妖怪や幻想郷でも実力者と言われる人たちには手も足も出ないでしょうけど、それこそ中級妖怪と戦って勝てるという時点で十分以上に強いのだ。
どうも彼のコンプレックスは、その異常に速い稽古相手がバケモノ染みて強かった事が原因で、無意識に自分のその相手とを比べている。
どんなに強くなろうと、どんなに経験を積もうと、届かないと考えているのだ。
どんな人間なのかと、ゾッとした。
彼は自分を過小評価しても、相手を過小評価したり過大評価したりしない。
正しく、その時の情報で的確に評価している。
その人間が、苦笑いしながら
「多分、人間としての限界を置き忘れてる」
と言われてしまっては、その相手の強さが恐ろしくなってしまう。
全身に浅く刺さったナイフを生やしているような状態では、十分彼もバケモノっぽいのだが……。
早々に彼の治療を済ませて、お嬢様に報告することにする。
いかがだったでしょうか?
ちょっとずつ参護さんも強くなって行っています。
気功を完全にものにしたとき、戦闘力は跳ね上がります。
でも、なかなか覚えられないのです。
ゆっくり成分が無くて申し訳ないです。