D・CⅡなのはstriker's漆黒と桜花の剣士   作:京勇樹

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ドキドキの同居生活その2 残酷な……

義之と麻耶の関係が明らかになった日の夜

 

「ねぇ、義之……」

 

「んー?」

 

麻耶が問い掛けると、義之はコタツでだらけながら顔を向けた

 

「なんで、私はココに居るのかしら……」

 

「難しい質問だねぇ……」

 

麻耶が義之にこんな問い掛けをしたのも、ワケがあった

 

「確か、天枷さんと二人きりになるのが危ないって理由で泊まってるのよね……」

 

「だな」

 

麻耶の問い掛けに義之が頷くと、麻耶は困惑そうな顔をして

 

「なのに、その天枷さんが居ないんじゃ……意味ないんじゃないかしら……」

 

「ごもっとも」

 

そう

 

今現在、この芳野家には美夏は居ないのである

 

それは、今から約一時間程前である

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ごちそうさまでした。それでは、兄さん。また明日」

 

と、由夢が夕食を食べ終わり帰宅しようとしたら

 

「ああ、待て由夢」

 

美夏が由夢を呼び止めた

 

「どうしました、天枷さん?」

 

「美夏も一緒に行くぞ」

 

美夏のその言葉を聞いて、由夢は首を傾げながら

 

「え? それって、どういう……」

 

「なにな、たまには友達の家に泊まりたいと思ってな……ダメか?」

 

美夏のその言葉を聞いて、由夢はキョトンとしたが

 

「ええ、まあ……そのくらいなら……って! それじゃあ、兄さんと沢井先輩が二人きりになってしまうじゃないですか!?」

 

美夏の言葉を理解して、由夢は驚愕した

 

すると、美夏はにっこりと笑い

 

「そうだ! 今回に関しては、美夏はキューピッドになるぞ!」

 

と高らかに宣言した

 

すると、義之が

 

(待て、勝手な真似をすんなよ! 水越先生から頼まれてんだぞ!)

 

と、念話で抗議した

 

(大丈夫! ゼンマイも巻いたし、バナナも食べた! 今の美夏にスキは無い!)

 

義之の抗議を聞いて、美夏はそう返した

 

(何時の間に……)

 

義之が内心で頭を抱えていると、美夏は由夢の背中を押しながら

 

「ではな、桜内! 沢井とよろしくやれよ!」

 

と言うと、芳野家から出ていった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

という訳である

 

「じゃあ、麻耶はどうする?」

 

義之が問い掛けると、麻耶は顔を赤らめて

 

「義之は……どうしてほしい?」

 

と義之に返した

 

すると、義之は麻耶の手を握って

 

「一緒に居たい……かな」

 

「フフっ……そう言ってくれると思った」

 

義之の言葉を聞いて、麻耶は嬉しそうに微笑んだ

 

そんな麻耶を義之は、愛おしい思いで抱きしめた

 

そんな義之だが、懸念事項が一つあった

 

それは、姉のように育った朝倉音姫である

 

音姫はここ数日、芳野家に来ていない

 

その事をそれとなく、由夢に聞いたら、なんでも自室に閉じこもっているか、どこかに行っているらしい

 

それを聞いた義之は心配しながらも、音姫ならばムチャな事はしないだろう。と思っていた

 

「ねぇ……義之」

 

「なんだ?」

 

義之が考え事をしていると、腕の中の麻耶が義之を呼んだ

 

そして、義之が視線を向けると、麻耶は顔を赤くしながら

 

「布団に入ったら……キス……してよね」

 

と、恥ずかしそうに言ってきた

 

それを聞いた義之は、強く抱きしめながら

 

「ああ……わかった」

 

と、頷いたのだった

 

場所は変わって、桜公園の枯れない桜

 

そこでは、音姫が暗い表情で立っていた

 

「私は……私はどうすればいいの……さくらさん……どこに行ったんですか……?」

 

音姫はそう言いながら、両手と額を枯れない桜の幹につけた

 

その時、音姫の脳裏にさくらの姿が映った

 

「え!? まさか、さくらさん……」

 

信じたくないのか、音姫は愕然とした様子で桜を見上げた

 

すると、そのタイミングで

 

「さくらさんは……枯れない桜と融合しました」

 

という声が聞こえて、音姫は声のした方向に振り向いた

 

そこには、裕也が立っていた

 

「どうして……さくらさんが?」

 

音姫がそう問い掛けると、裕也は桜を見上げて

 

「さくらさんは……初音島と……義之を守るために、桜と融合したんです」

 

と言った

 

「弟くんを……守るため?」

 

音姫が首を傾げると、裕也はさくらから聞いたことを全て話した

 

「そんな……」

 

裕也の話を聞いて、音姫はガックリと両膝を突いた

 

「申し訳ありませんが……我々守護者部隊には、この桜に関しての権限は一切ありません。この桜に関しては……残酷かもしれませんが……音姫さんにしか、決める権限はありません」

 

申し訳なさそうに裕也がそう言うと、音姫は泣きそうな顔で裕也を見て

 

「どうして……私なの?」

 

と問い掛けた

 

すると裕也は、一瞬言いづらそうにしたが

 

「それは……音姫さんが、この地。初音島を管理する朝倉のお役目を継いだからです」

 

と告げた

 

朝倉家

 

この家は、意外と由緒正しい家柄であり、正義の魔法使いの家系なのである

 

実を言うと、芳野家もそうなのだが、芳野家は過去に一度断絶しており、その役割を解任されている

 

そして音姫は前代の朝倉家党首、朝倉由姫《あさくらゆき》からその役割を受け継いでいた

 

今までは、音姫が学生ということがあったために、さくらがその役割を代任していたが、そのさくら本人が枯れない桜と融合してしまった為、自動的に音姫に役割が戻っているのだ

 

裕也の言葉を聞いて、音姫は涙を流しながら

 

「そんなのって……そんなのって……」

 

と言いながら、頭を地面にこすりつけた

 

義之のことが大好きな音姫には、今回の判断はとても辛いものである

 

桜を枯らせば、初音島は守られるが、変わりに義之が消える

 

桜を残せば、義之が消えない変わりに、初音島ではどんどん事件は増加するだろう

 

正義の魔法使いの正統後継者の朝倉音姫として、役割をまっとうするか

 

それとも、一人の少年を愛する少女の朝倉音姫として判断するのか

 

それは、残酷な二者択一だった

 

もちろん、裕也としても気持ちは痛いほどにわかる

 

過去に裕也は、守ると誓った妹と世界を守るのかの選択を迫られて、守護者部隊としての役割を選んだ

 

だから、裕也も本当はこんな選択を言いたくはなかった

 

だが、言わないといけなかった

 

初音島を守るとさくらに誓い、守護者部隊の一員として、朝倉家の現党首である音姫に、残酷な選択を

 

裕也も二者択一のジレンマに襲われながらも、自分の役割をまっとうした

 

そして裕也は内心で何度も、音姫に謝り、そして涙した

 

さくらの自己犠牲は、ほぼ無駄に終わってしまった

 

さくらが枯れない桜と融合した後も、原因不明の事件は起き続けた

 

枯れない桜の力は既に、さくらの予想を大きく上回っていたのだ

 

あらゆる願いを叶える桜

 

それは、願いを受信する度に少しずつ力を増していき、桜を植えてから約十数年でさくらの限界を超えてしまったのだ

 

それこそ、さくらの予想以上の速度で

 

だから、さくらは最新手段の融合を選んだのだ

 

だが、そのさくらの自己犠牲も徒労に終わった

 

世界というのは、残酷である

 

辛い選択や、要らぬ犠牲を強いて、涙を強要する

 

そして、そんな世界を動かしているのが神だと言うのならば……

 

「そんな神なんて……要らない……」

 

裕也は血が滲むほどに拳を握りしめながら、そう呟いた後、空を見上げて

 

「この世界に……神は居ない……」

 

裕也が涙を堪えながら言ったその言葉は、虚空の中に消えていった


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