D・CⅡなのはstriker's漆黒と桜花の剣士   作:京勇樹

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平和なひと時

さくらが消えた数時間後

 

場所 付属3年3組教室

 

「はい、静かにしてくださーい!」

 

そう言ったのは、教卓の位置に立っている麻耶である

 

その隣には、義之が椅子に座って待機していた

 

そして、全員が静かになると

 

「今から、卒パの出展内容を決めたいと思います!」

 

と麻耶が言うと、小恋とアリシアが驚いた様子で

 

「え、もう?」

 

「まだ2ヶ月もあるよ?」

 

と麻耶に問い掛けた

 

「気持ちはわかりますが、今回私達が見送られる立場となるので、クリパの時みたいにギリギリというのを避けたいんです」

 

麻耶がそう言うと、二人は納得した様子で頷いた

 

その後、麻耶は義之と二人で考えた草案を全員に発表した

 

「私達からの提案は以上です。他に提案がある方は、挙手してください」

 

と言うと、渉がおどけた様子で

 

「うひょう、こいつは凄いこって。委員長一人で考えたんか?」

 

と言うと、麻耶は額に人差し指を当てて

 

「板橋……最初に言ったでしょう? 桜内と一緒に考えたのよ」

 

「ひゅー、そりゃ仲が良い事で。ひょっとして、二人は付き合ってたりして」

 

と渉が口笛を吹くマネをしながら言うと、どこからか笑い声が聞こえた

 

「おりょ?」

 

笑い声が聞こえた渉は立ち上がると、教室を見回して

 

「おい、誰だよ。今笑った奴」

 

と、笑った人物を探した

 

が、自分に向けられた視線に気付くと

 

「ねぇ、待って。なんでかわいそうな目で見られてるの、俺は」

 

と言うと、再びキョロキョロと周囲を見回した

 

「うわ、やめろ! 俺を生暖かい目で見るのをやめろ! かわいそうな人を見るような目で見るのをやめろ! 知らないのはお前だけだみたいな目をやめろ!」

 

とそこまで言って、固まった

 

「……って、え? そうなの?」

 

と渉は、呆然とした様子で見回した

 

「もしかして……皆が知ってること?」

 

渉が問い掛けると、数人が頷いた

 

それを信じたくないのか、渉はゆっくりと視線を動かして

 

「蓮華?」

 

真後ろに座っていた蓮華を見た

 

すると蓮華は、親指を立てて

 

「当たり前だのクラッカー!」

 

と肯定した

 

「……アリサ」

 

そのまま渉は、蓮華の隣に座っていたアリサを見た

 

「知ってるわよ」

 

アリサがしれっと答えると、渉は続いてすずかを見て

 

「……すずか?」

 

「うん、知ってるよ」

 

すずかが頷くと、視線を前に向けて

 

「……裕也?」

 

「知っとる」

 

問い掛けられた裕也は、頬杖を突きながら、空いていた右手を振った

 

「……フェイト」

 

「うん、知ってるよ」

 

続いて問い掛けられたフェイトは、コクリと頷いた

 

「アリシア……」

 

「知ってるー!」

 

問い掛けられたアリシアは、朗らかに答えて

 

「……茜?」

 

「もっちろん♪」

 

茜は自慢の胸を揺らしながら

 

「……月島?」

 

「知ってるよ」

 

小恋は小さく頷いて

 

「杏……」

 

「私が知らないはずないでしょ?」

 

杏は不敵に笑いながら

 

「……杉並」

 

「ふふっ……板橋よ、恥じるな。無知は決して恥ずかしいことではない」

 

杉並は少し小馬鹿にした様子で、渉に答えた

 

「……他の皆も?」

 

渉が涙声で聞くと、全員が頷いた

 

それを見た義之は、肩をすくめながら

 

「悪いな、渉。全員知ってたみたいだ」

 

と言った

 

すると、渉は目尻に涙を浮かべながら

 

「うわーん! 皆のバカー!」

 

と叫びながら、教室を飛び出していった

 

しかし、きちんとドアを閉めているあたりに彼の性格が伺えた

 

「え、えっと……」

 

泣きながら飛び出していった渉を見て、麻耶が呆然としていると杏が

 

「委員長、馬鹿はほっといて、先に進めましょう」

 

と、先を促した

 

「で、でも……」

 

と、麻耶が躊躇っていると

 

「あ、そういえば……」

 

と、裕也が声を上げた

 

「どうしたの?」

 

フェイトが問い掛けると、裕也は頬をポリポリと掻きながら

 

「いや……そういえば、今日の巡回は……まゆき先輩だったなぁって」

 

と、裕也が言った直後だった

 

『こぉら! 板橋! あんたはなに、LHR中に廊下を走ってんのよ!』

 

という、まゆきの怒鳴り声が響いた

 

『げっ!? まゆき先輩!? 待ってください! これには、山より高く、海より深いワケがありまして!』

 

まゆきに気付いたらしく、渉の焦った声が聞こえてきた

 

『問答無用! 必殺! エアロ……』

 

『ちょっ! まっ!?』

 

渉の焦る声と共に、まるで強風のような音が聞こえてきて

 

『スマッシャー!』

 

『ギャアアァァァ!?』

 

ドアが一瞬、大きく揺れた直後に渉の悲鳴が轟いた

 

『ふうっ……連行するか』

 

そうまゆきが言った数秒後、ズルズルと引きずる音が徐々に遠のいていった

 

その一連の音を聞いたクラスメイト達は、予想外だったのか呆然としていた

 

「渉……南無」

 

静かな教室で、裕也は両手を合わせながら、そう呟いた

 

その後、麻耶の采配でLHRは滞りなく進み、卒パは喫茶店に決まったのだった

 

だが、この時はまだ誰も気づいてなかった

 

刻一刻と、邪悪な牙が近づいてきていることに……

 


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