D・CⅡなのはstriker's漆黒と桜花の剣士   作:京勇樹

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衝撃の事実と悲しい別れ

翌日の早朝だった

 

「行ってくるね……義之君……」

 

トレードマークとも言えた長い金髪をざっくりと切ったさくらは、悲しい笑みを浮かべながらそう言うと、芳野家に背を向けた

 

そして、一人で歩き続けて桜公園に入り、雑木林を抜けて《枯れない桜》の前に着くと、さくらは固まった

 

なにせ、そこには……

 

「裕也くん……」

 

制服姿の裕也が立っていた

 

「待ってましたよ……さくらさん」

 

「そっか……劫の眼で見たんだね……?」

 

裕也の言葉を聞いて、さくらはすぐに察して、裕也も首肯した

 

「ええ……今朝方に」

 

裕也はそう言いながら、さくらに近付くと

 

「さくらさん……正気ですか?」

 

と、さくらに問い掛けた

 

問い掛けられたさくらは、悲しい笑みを浮かべたまま頷き

 

「うん……やるよ……」

 

と、返した

 

さくらの言葉を聞いた裕也は、唇を噛むと

 

「なんでですか……なんでさくらさんが、桜と融合しなければいけないんですか!?」

 

まるで、泣き叫ぶように問い掛けた

 

「そもそも、この桜はなんなんですか!?」

 

裕也がそう聞くと、さくらは桜の幹に触れて

 

「裕也くんはさ……この桜の噂を知ってる?」

 

と問い掛けた

 

問い掛けられた裕也は、真剣な様子で

 

「ええ、知ってます……願いを叶える桜の樹と呼ばれてますよね?」

 

と、学校で聞いたのだろう噂を言った

 

すると、さくらは頷いて

 

「うん……まさしく、その通りなんだ……」

 

その答えを聞いて、裕也は眉をひそめた

 

「それは、どういう……?」

 

と聞くと、さくらは桜を見上げて

 

「この枯れない桜はね、魔法の桜なんだ」

 

「魔法の桜……?」

 

さくらの言った意味がわからないのか、裕也は首を傾げた

 

「うん……小さな願いでも、多く集まれば大きな力になれる。そして、ハッピーになれる。そういう思いを込めて、この桜を作ったんだ……」

 

「願いを叶える桜……この桜をさくらさんが……」

 

さくらの言葉を聞いた裕也がそう言うと、首肯して

 

「でもね、この桜には致命的なバグがあったんだ……」

 

と、暗い表情を浮かべた

 

「致命的な……バグ?」

 

「そう……この桜はね、願いを無差別に叶えてしまうんだ……」

 

さくらの言葉を聞いた裕也は、一瞬首を傾げたが、次の瞬間には目を見開いた

 

「つまりは、(よこしま)な願いまで叶えてしまうんですか!?」

 

裕也の驚愕の声に、さくらは頷いて

 

「そう……そして、最近の原因不明の事件、事故の原因が、この桜なんだ……」

 

さくらの言葉に、裕也は守護者として知り得た最近頻発している事件事故を思い出した

 

例えば、無人で止まっていた車が突如動き出して電柱に激突したり、口論していた男性の頭上にあった看板が落下してきたりと、そういった原因不明の事件事故があった

 

「だったら、この桜を枯らすなり、切り倒すなりすれば済む話しです! さくらさんが融合する必要はありませんよ!」

 

と裕也が言うと、さくらは首を振りながら

 

「それはダメだよ……そんなことをしたら………………義之君が消えちゃうから」

 

という、驚愕的なことを告げた

 

さくらの言ったあまりの内容に、裕也は絶句して

 

「義之が消えるって……どういう……ことですか?」

 

と問い掛けた

 

するとさくらは、視線を下げて

 

「義之君はね……僕の願いで生まれた存在なんだ……」

 

と、悲しそうに言った

 

「さくらさんの……願いで……」

 

裕也の言葉に、さくらは頷くと

 

「裕也くん……僕はね、寂しかったんだ……僕は風見学園を去った後、しばらくの間はアメリカの大学に居て、この桜のことを研究してたんだ。なんとかして、完璧な魔法の桜を作ろうと思ってね……でも、一つのバグを直したら、今度は別のバグが発生するってことが、ずっと続いたんだ……そんな中、送られてくる友人知人からの手紙には、結婚しました。子供が産まれました。ってことが綴られててね……僕が一人で居る間に、皆はどんどん新しい家族を増やしていってる……そんなある日、僕は一人に耐えきれなくなって、二十年くらい前に初音島に帰ってきて、最初の仕様に戻したこの桜を植えた……そして、十年前に願ったんだ……『僕に居たかもしれない家族をください』って……そして、産まれたのが……」

 

「義之……なんですか……?」

 

さくらの長い独白を聞いた裕也が問い掛けると、さくらは頷いた

 

「だからね、僕が直接産んだわけじゃないけど、義之君は確かに、僕の子供なんだ……」

 

さくらのその言葉を聞いた裕也は、涙をこらえながら

 

「だったら……だったら尚更、さくらさんが居ないとダメですよ! ここは、俺の劫の眼で……っ!」

 

と言うと、右手を左目の眼帯に持っていった

 

が、その手をさくらが止めた

 

「ダメだよ、裕也くん……そうしたら、今度こそ、裕也くんが死んじゃうよ……」

 

と、優しく諭した

 

さくらのその言葉に、裕也は固まり

 

「知って……たんですか?」

 

と問い掛けると、さくらは微笑みながら頷き

 

「そりゃね。かわいい生徒のことだもん……生徒は僕にとって、我が子みたいなものだよ? 全部知ってるよ……裕也くんの寿命が、後二年くらいなのも、劫の眼の因果操作を二回使ってるってこともね」

 

というさくらの言葉に、裕也は衝撃を受けた

 

それは、自分しか知らないはずの秘密だった

 

「なんで……それを……」

 

と裕也が聞くと、さくらは微笑みを浮かべたまま

 

「言ったでしょ? 僕にとって、生徒は全員、我が子みたいなものだって」

 

と言うと、裕也に背を向けて

 

「だから、裕也くんは生きないといけないよ。皆を、守るんでしょ?」

 

そう言って、背中を桜の幹に付けると

 

「それじゃあね、裕也くん……初音島を……世界を……お願いね……」

 

そう言って、さくらの体が少しずつ消えていき

 

最後に、いつもの笑顔を浮かべて、さくらは燐光を散らせながら消えた

 

それを見た裕也は、歯を食いしばると、空を見上げて

 

「あなたの願い……確かに、叶えます……」

 

と涙声で、誓った

 


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