D・CⅡなのはstriker's漆黒と桜花の剣士   作:京勇樹

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お願い事

義之side

 

俺と渉は今、学食(学園食堂の略な)に来ていた。

 

「なんつーか、大盛況だな。相変わらず」

 

「所詮、我々学生は経済ヒエラルキーの最下層に位置しているからな、安い! 早い! 美味《うま》くないの三拍子揃った学食に人が集まるのは自然の流れだよ」

 

「切ない話だな」

 

まあ、渉はああ言ったものの。ごくまれに高いメニューや、出てくるのが遅いメニューがあったりもするし、天文学的確率で超美味なメニューが出てくることもある。

 

そういう人間味あふれるところも、うちの学食が人気である理由なのかもしれない。

 

「あー、たまには職人技を遺憾なく発揮した薄切りのじゃなくて、ジューシーな肉が食いてー!」

 

「だったら、裕也みたいにバイトしたらどうだ?」

 

俺は至極まっとうなことを言うと

 

「学生の本分は学問です」

 

「お前が言っても、何の説得力もねぇな」

 

だって、こいつ昼休み直前の授業で「環境問題について」の授業だったのになぜか、大阪のたこ焼きについて熱く語ってたのだ、それで社会担当の戯矢利尊《ギャリソン》先生からCマイナスの評価を得ていた。(え? 俺はどうしたって? 聞くな・・・)

 

「うっせ。それよか、今日は何にすんだ?」

 

ふむ

 

「素うどん」

 

「うっわ。学食の中でも最もお買い得プライス商品かよ。わびしい奴だなー」

 

うっせ

 

「そういうお前は?」

 

一応聞くか

 

「スープ ウィズ ウ・ダンヌ」

 

「・・・・・」

 

英語(しかも、文法間違ってる)で言ってるが要するに・・・

 

「ってことで、素うどんふたつ買ってくるから、お前は席取っといてくれ」

 

「りょーかい」

 

俺は席を確保に、渉は券売機に向かった。

 

渉と別れて、分担作業する。

 

短い昼休み。効率よく過ごさないとな。

 

「んっと……」

 

俺は周囲を見回した。

 

きょろきょろと食堂を見回す。

 

ほんと盛況なことで。

 

ぱっと見、空いてる席なんて無さそうなくらいの込み具合だ。

 

ふたりで座れそうなところは・・・・っと、

 

「お、あそこが空いてるな」

 

俺は丁度よさそうな席を見つけたので、歩いて近づいた。

 

って

 

「あ、兄さん」

 

お前か

 

隣の席で顔を上げたのは、由夢だった。

 

「こんなところでお会いするなんて、奇遇ですね」

 

しゃんと背筋を伸ばして、軽く首をかしげる。

 

完璧《パーフェクト》な微笑み。

 

「どうかなさいました?」

 

そして、丁寧《ねこかぶり》口調。

 

家でのぐーたらな姿を知ってるから、こうきちんとした由夢を見るのはなんとも気持ち悪い。

 

まぁ、こいつの猫っかぶりは本格的だからな。

 

一体、何人が騙されてるのか・・・・

 

「?」

 

由夢は計算されつくした角度で、俺を見上げていた。

 

「相席いいか?」

 

いつまでも立ってるわけにはいかないので、聞いた。

 

「はい、どうぞ」

 

席に座ろうとして、

 

「うげっ!」

 

俺は由夢の向かいに座っていた少女と、目が合った。(てか、合ってしまった)

 

「ちっ!」

 

少女は盛大に舌打ちした。

 

これまた、盛大な舌打ちで・・・・

 

まさか、渉の言っていたふたりの転校生のもう片方って、

 

「あら、もしかして、おふたりはお知り合いでしたか?」

 

「あ、いや、知り合いってわけじゃないけど、一度会ったことがあって。名前とか知らないし」

 

「そうですか。えっと、こちらは天枷美夏《あまかせみなつ》さん。今日、わたしたちのクラスに転入してきたの」

 

やっぱり・・・・

 

「・・・・・」

 

「この人は、桜内義之。一学年上の3年生で、わたしの兄みたいなものかな」

 

「・・・・・」

 

天枷は、まったく無視を決め込んでいた。

 

「あ、あははは・・・」

 

(いったい天枷さんに何したのよ?)

 

由夢が念話で聞いてきた。

 

(いや、特になにも)

 

俺はとりあえず誤魔化した。

 

(じゃあ、なんで天枷さん、あんなに不機嫌そうなのよ?)

 

(その件に関しては、ノーコメントとさせていただきたい)

 

(・・・・・)

 

じと目で睨まれた。

 

そんな目で見られても、水越先生に口止めされてるからな。

 

たとえ口止めされてなかったとしても、説明のしようが無いし。

 

実は彼女はロボットで、洞穴の中に安置されていたのをたまたま俺が起動してしまって・・・・。

 

アホか、言えるかこんなん。

 

言ったとして、誰が信じるってんだ、こんな話。

 

ってか、もう二度と会うことはないと思ってたのに。

 

殴られかけたことを思い出して、俺は少し冷や汗をかいた。

 

ちらりと様子をうかがうと、天枷は相変わらず俺なんて目に入らない様子で食事を続けている。

 

ん~、なんとも気まずいねー・・・・。

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

あれから沈黙と共に食事は進み、かなりの気まずさが残った。

 

食事中に何度か渉が勇敢にも会話を試みたが全て無視されて、今じゃ落ち込んでる。

 

「ごちそうさま」

 

天枷が箸を置くと同時に、手を合わせてお辞儀した。

 

そこは礼儀正しいんだな。

 

そして、脇に置いてあった鞄を引き寄せると、中からバナナを取り出した。

 

って、バナナ?

 

「へぇ~、天枷ってバナナが好きなんだ?」

 

あまりにも自然な行為に、思わず言葉が出た。

 

「・・・今、なんて言った?」

 

その瞬間、空気が凍りついた。

 

怒気を含んだ声。

 

「あ、その、バナナ、好きなんだって・・・・」

 

ヤバイ、地雷踏んだかも・・・・

 

「・・・・貴様」

 

ほらね!

 

由夢と渉なんか、視線を外してあからさまに我関せずって態度を取りやがった!

 

この薄情者!!

 

「どこの誰が、バナナなんぞ好き好んで食べようかぁぁっ!」

 

天枷はテーブルを叩きつけると同時に、俺を睨んだ。

 

「・・・貴様、美夏の言葉を覚えてないようだな。」

 

覚えてって・・・・なにを?

 

もしかして、洞穴で言ってたのか?

 

だったら、覚えてない!!

 

「頭の悪い貴様に、もう一度だけ教えてやるからしっかりと覚えとけ。美夏にはな、この世界で嫌いなものがふたつだけある。たったふたつだけだ。ひとつはもちろん貴様たち人間。・・・・そしてもうひとつが、バナナだ」

 

天枷は右手に握ったバナナを睨みつけながら、搾り出すように喋った。

 

だったら食うな。

 

「できることなら、この世界上からバナナなんてものを・・・・」

 

その瞬間だった。

 

ピコン、ピコン、ピコン

 

突然、天枷の言葉を遮るように腕時計のようなものから電子音が鳴り響いた。

 

「ちぃぃ! バナナミンがっ!」

 

天枷は舌打ちすると、バナナの皮を剥いて噛り付いた。

 

そこからは、一心不乱に黙々と食べきった。

 

由夢と渉は、呆然とそれを見つめていた。

 

因みに、天枷は食べてる間ずっと不機嫌な顔だった。

 

なんなんだ、この子。

 

周りの連中は何事もなかったかのように、と言うか現実から目を背けるように日常に戻《にげて》っている。

 

まったくもって、訳が分からない。

 

(おい、由夢。天枷っていったいどんな子なんだ?)

 

(わ、わたしに聞かないでよ)

 

俺達は念話で話す。

 

(だって、お前クラスメイ・・)

 

と、その時だった。

 

ピンポンパンポン♪

 

なんだ?

 

『えー、付属2年1組の天枷美夏さん、及び付属3年3組の桜内義之くんと防人裕也くん、至急保健室まで来てください』

 

「・・・・・」

 

なぜに?

 

天井に設置されたスピーカーから、水越先生と思わしき声が聞こえた。

 

『繰り返します、付属2年1組の天枷美夏さん、及び付属3年3組の桜内義之くんと防人裕也くん、至急保健室まで来てください』

 

ピンポンパンポン♪

 

「・・・・・」

 

俺は無言で天枷を見た。

 

「ふんっ!」

 

天枷は俺を無視するように身をひるがえすと、トレーを返却して食堂からツカツカと出て行った。

 

俺は呆然と見送った。

 

「お前も呼ばれてるぞ」

 

「わかってるよ」

 

「また何かやらかしたんですか?」

 

じと目で睨まれる。

 

「だいたい、兄さんと天枷さんの間でいったい何があったんです? 天枷さん、あきらかにおかしかったし」

 

「別になにもないよ、ってか裕也は無視か!」

 

「裕也さんは兄さんとは違いますから」

 

おのれ・・・・

 

心当たりはあるけどさ。

 

ってか、天枷や裕也と一緒に水越先生に呼び出されるなんて、そこはかとなく嫌な予感がするんだが。

 

かと言って、逃げるわけにいかないしな。

 

あの時、仕事を手伝うって約束しちゃったし。

 

「はぁ~」

 

俺はトレーを返却してから、天枷を追った。

 

 

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

第3者side

 

「いらっさ~い」

 

保健室に入ると、義之は水越先生ののん気な声としかっめ面した天枷、そして壁に背中を預けた裕也に出迎えられた。

 

「ま、ちょっとそこに座って」

 

指差す先。ベッドに義之は腰掛けた。

 

「・・・・・」

 

「わざわざ来てもらって悪いわね。ちょっと裕也くんと桜内くんに頼みたいことがあってね」

 

「美夏は必要ないと言っている」

 

「まぁ、そう言わないの」

 

水越先生はなだめるように天枷に声をかけると、視線を義之に向けた。

 

「えっと、この前ちょっとだけ話したと思うけど、この子。天枷美夏はロボットなのね」

 

「・・・ふっ」

 

なぜか、天枷は自信満々に胸を張った。

 

「最新鋭・・・とは言ってもちょっと古い技術なんだけど、まぁなんて言うか少し特殊な作りになっててね、見ての通り人間となんら変わらない感情や自分の意思を持っているの、まるで人間と見分けがつかないくらいのね」

 

「・・・・・」

 

「確かに・・・」

 

天枷は感情をこめて義之を見つめた。

 

「本当にロボットなんですか?」

 

恐らく当然の疑問だろう。

 

「貴様っ! 美夏を愚弄するつもりかっ!」

 

「いや、だって、どこからどうみても人間にしか見えないし」

 

「まぁ、確かに」

 

「だったら証拠を見せてやろうじゃないか! このロケットパンチを食らえっ!」

 

と、天枷は手を突き出すが

 

「付いてないわよ」

 

「なぜ付けんっ!」

 

「必要ないでしょ」

 

「むぅ、これだから人間ってヤツは・・・」

 

「それにロケットパンチ程非合理な武装は無いぞ? 飛ばしてる間は手が無いから無防備だし、他の武装も使えないし」

 

天枷は裕也の言葉を無視して、ブツブツと文句を呟いている。

 

「まぁ、天枷がロボットだってことは間違いないわ。私が保証します。桜内くんや裕也くんが疑問に思うのもわかるけどね」

 

「はぁ」

 

「ふむ」

 

「逆に言えばね、それだけ特殊なロボットなの。だからあそこで凍結されていた、桜内くんや裕也くんも授業で習ったでしょ? ロボットにまつわる色んな事件のこと」

 

「えぇ、まぁ」

 

「はい」

 

ふたりは同時に頷いた。

 

ロボットが人間社会に普及にするに従って起こった、様々な事件をふたりは思い出す。

 

規制、弾圧、破壊、さらに最近では兵器への違法改造等。

 

言ってしまえば、人間のエゴ丸出しの事件ばかり。

 

それも、ロボットと製作者側からしたら至極傍迷惑なものだ。

 

「ぶっちゃけ、この天枷の存在が外に漏れるとやばいんだよね」

 

「・・・・・」

 

「間違いなく、スクラップ処分される」

 

「でしょうね」

 

「私たちはそれを望まないの、んで、天枷は長い間凍結されていたから社会常識に疎い。さらにシステム的にも不安定、言ってしまえばかなり奇抜な行動を取ることが予想されるのね、だから天枷がロボットだってばれないように誰かにフォローしてもらいたいのよ」

 

「で、それを俺たちに?」

 

「ご名答」

 

「だから、美夏には必要ないと言っているっ!」

 

天枷が怒鳴り声を上げた。

 

「美夏は常識人だしシステムも安定してる。奇怪な行動をとったりもしないっ!」

 

耳から煙を噴出しながら・・・・

 

「煙、煙、煙が耳から出てるから」

 

「まったく説得力ないわね。ほら、これで回路を冷やして」

 

水越先生が、ぽんっと冷却シートを天枷に投げた。

 

「・・・・むぅ」

 

渋々と、冷却シートを額に張る天枷

 

「ほらね、ロボットだったでしょ?」

 

「え、あ、はい」

 

「確かに」

 

耳から煙を出されたら疑うのは不可能だ。

 

「どのみちフォローする人間は必要なの。これは研究所の総意と受け取ってもらって構わない。」

 

「・・・・・」

 

「だったら、すでに正体のばれている桜内くんと裕也くん頼むのが手っ取り早いでしょ?」

 

「それはそうだが」

 

「天枷を起動したのは桜内くんだった。そういうめぐり合わせなんでしょう」

 

「・・・・・」

 

「不満かしら?」

 

「もちろん不満だ、・・・・が、水越博士の指示には従おう」

 

天枷はいかにも渋々といった表情で義之たちを見た。

 

「が、美夏は別にフォローが必要だとは思ってないからな。人間を信用するつもりもない、だから桜内、貴様は余計なことはするな。美夏が言いたいのはそれだけだ」

 

と、言い終わると天枷は保健室を出ようとしたが

 

「待った、天枷。今日の放課後、グラウンドに来なさい。」

 

「なぜだ?」

 

「あんたのデバイスを渡すのと、それの試験をしたいのよ、わかったわね?」

 

「・・・・わかった」

 

天枷は早い足取りで保健室を去った。

 

「はぁ~、やれやれだね」

 

水越先生は苦笑いしながら、肩をすくませた。

 

裕也と義之の顔に少し苦い表情が出る。

 

「まぁ、別に、ずっと一緒に行動してほしいってことじゃないの」

 

ふたりの顔を見て水越先生が補足する

 

「あの子もバカじゃないし、そうそうばれるようなことはしないでしょう。ただね、たまに気にかけてあげて欲しいの、あの子、基本的にひとりぼっちだからね」

 

水越先生の表情《それ》は、まるで我が子を見守る母親そのものだった。

 

「で、引き受けてくれる?」

 

「まぁ、彼女を起動してしまったのは俺の責任だし、出来る限りのことはしますけど」

 

「俺も出来る限りはフォローしましょう」

 

「うん。ありがとう」

 

水越先生は満足そうに笑う

 

「じゃあ、これ」

 

と、水越先生は机の上から分厚いファイルを義之に渡した。

 

「ん? なんですかこれ?」

 

「天枷の基本資料。一通り目を通しておいて」

 

「わかりました」

 

「基本的には人間と変わらないから。しかも年頃の女の子のね」

 

「はぁ」

 

「あっち系の機能ももちろん完備してるから頑張ればいいことあるかもよ?」

 

そう言いながら水越先生は笑う。

 

「あんたは本当に教師か!」

 

裕也が思わず、突っ込みを入れた。

 

「あ、そうそう。あとね、できることなら仲良くしてくれると嬉しいかな、ちょっと色々あってね、今は人間嫌いになっちゃってるんだけど、あの子本当は素直ないい子だから」

 

水越先生はふたりを見ながら優しい表情を見せた。

 

「で、早速お願いね、二人とも今日の放課後空けておいてね?」

 

「「わかりました」」

 

そうして、ふたりは教室に戻った。

 


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