書き溜めもしてないです。とりあえず衝動に任せて書きました○
宜しくお願い致します。
「よっとっ」
山中にザクッと草履で音を立てながら両足を地面に着け、肺一杯に現世の空気を流し込む。
「不思議と何度来てもこっちの空気の方が美味い……気がする」
違いはあれだな、じっちゃんが言ってた『海外から日本に戻ってきた時はやっぱり日本人だと思った。 だって醤油? 味噌?の匂いがする気がするんだもん』ってな感じだ。
……まあ、そんなことは空の彼方に放り投げとこう。時間もあまりないことだし。
「とりあえず家に行って義骸に着替える? とするかね」
そう独りごちると空を駆けて“自宅”に向かう。 その後ろ姿が子供のようにわくわくと待ちきれないように感じたのを青く茂る木々が見送った。
“自宅”と言っても尸魂界の時代を彷彿とさせる家屋でもなく、現世で見られる近代的なマンションでもなく……歴史のある空座町の外れにある東雲東中学校の中、正確には学校の上に設置されている時計塔の中だ。家とは呼べない場所だが彼――響樹にとっては家よりも大事な場所であり、ここを知っているのは両の手で数えられるぐらいの人だけ。 そんな響樹の“家”であり“秘密基地”であり、“忘れてはいけない場所”だ。
「ついたー」
響樹は背中に担いでいた荷物を机に降ろすと手近にあるソファーに腰を沈めた。
机に置かれた荷を解き、中から十二番隊に作ってもらった――正確には阿近に無理やりだが――折りたたみ式の義骸を取り出す。 響樹自身の身体が折り畳まれているのになんとも言えない感情が沸くが洗濯物を干す時のようにバサっと広げると右手でそれを持ちながら左手、左足、右足そして最後に右手を入れ、すっぽりと義骸に入り込めばVネックのどこにでもある様ななんちゃって英語が書かれたTシャツにカーキ色のズボン姿の響樹が出来上がった。
首を左右に動かし感触を確かめ正常に動くことを確認する。
……入るときは楽なんだけど義骸から出るのが面倒くさいというか脱ぎづらいというか。 まあしゃあないか。
そんなことを思いながら備え付けの冷蔵庫まで行き扉を開けると中にはジュースからお酒までオンパレード。
「相も変わらず用意周到なことで呆れを通り越して尊敬するね、ほんと」
その中からペットボトルの水を取り出し、改めてソファーに座りながら一気に口へ流し込み喉を潤した。
一息つくと机の上に置かれた荷物の中から丁寧に一際目立つメタリックで傷が所々付き、箒の上に帽子を被った女の子――所謂魔女、魔法使いの絵が書かれ、その下に『tool・toul・to』と巧みな刻印がなされた重厚なケースを取り出し、ついでと言わんばかりにヒゲだけ書かれた仮面を先ほどとは真逆に引きずり出し机に放り投げた。 最後はちょいっと適当に財布と携帯を取りポケットに突っ込む。
そして刻印がなされたケースに霊圧を軽く込めるとそれに呼応するかのように金属同士が擦れる音がした後、中から冷気が零れ出てくるような錯覚を感じるような雰囲気を持つ銀色の口を開けた。
二つに割れた扉の下にはパッと見れば少し歪な変わったスニーカーが一足。そして扉の上にはこれまたスニーカーとは違う意味で歪な雰囲気を放つ拳大の車輪――ホイールが二つ鎮座していた。
このケースを含めたモノが彼――天井響樹の宝であり、自分であり、友人であり、過去であり、現在であり、未来であり、命であり、死であり、頭で、身体で、両の腕で、両の足で、心臓で……要は天井響樹を形にしたものがこのケースに収まっている、いや、このケースそのものなのだ。
「……おはよう俺」
ホイールに軽く手を置き、目を閉じたまま慈愛に満ちた顔でそう自然と零す。
手を離すと二つのホイールの上を跨いでいる落下防止のパッキンを外し、、スニーカーと一緒に取り出した。
この歪なスニーカーも一見すると普通の靴に見えるかもしれないがその実、コンピューター制御で超小型のモーターに現世にある原動機付自転車と同程度の力を伝達させる機能を搭載した科学の結晶なのだ。
そして何よりこのホイールは“俺”へ作られた専用のモノ……まあ、死神が扱うことからして当たり前なのかもしれないけれどね。
このスニーカー、そしてこのホイールを併せてA・Tという。
ある隊長曰く『珍妙な草履』とのこと。
大昔に興奮して語った宝物に対してそう一蹴して返された言葉に本気で落ち込んだのは内緒だ。
――閑話休題――
手荷物の中から工具箱――といっても筆箱を少し大きくした程度のものからドライバーなど必要な物でホイールをスニーカーに慣れた手つきで取り付ける。モノの数分で取り付け終わると軽く動作確認を行い、スニーカーに足を通すと腰を上げて立ち上がり、両の足に掛かる感触を確かめながら軽く力を入れるとその力に比例するようにモーターが稼働し前へ進む。
「ふは……やっぱりアガるわ」
先ほどとは種類の違う笑みを浮かべながら机の上に置いた仮面を顔に着け、軽く顎を逸らして口から外気を大きく取り込み一気に吐き出すと同時――そこには突風で吹き飛んだペットボトルと机の足元の地面に軽く抉れた跡があるだけだった。
東雲中学校を後にして向かうは伝説のショップ『グランスラム』そして俺の現世に来た目的である『道具屋――トゥール・トゥール・トゥ――』
「とりあえずじっちゃんの顔でも見に行くかね」
何を言われるか若干の憂鬱を感じながらも俺の大事な人だから、なんだかんだ言ってもやっぱり現世に来たら会いたいのだ。
この“A・T”をはいた足で屋根の上を軽く力を込めて飛べばひと足で二つ隣の屋根の上へ、聳え立つ壁に足を付ければ、吸い付かれるように上へ駆け上がっていく様は――死神の歩法、瞬歩に劣らずであろう。
そんなこんなで夜の大空を楽しみつつ掛けること数十分。
たぶん今日は――
「やっぱり此処にいたかコロ爺よ」
時間は深夜2時半を少し越したあたり。陸橋の上の電車が無くなり夜の路線に灯りが一つ。
伝説のショップ。A・T使いは――ライダーはどこに居るのか、どこで出会えるのか分からない。神出鬼没なこの店こそが“グランスラム”だ。
「ふぅ……久しぶりじゃないか」
「お久しぶりですジャ婆ちゃん」
煙管の煙を吐き出しながら微笑む見た目イカツイこの方がグランスラムのオーナーのジャ婆。
「コロ爺もおひさー」
「なぜワシには敬語がないんじゃ坊主」
この髭長爺さんがジャ婆とよく一緒にいる昔ライダーをやっていたというコロ爺。
なぜ伝説のショップにホイホイ来れるのかというとコロ爺が俺の拠点にさせてもらってる東雲東中学校の3代目校長というデタラメな経歴を持っている。そして俺の師匠だったりもしたりするのはまたのお話し。
「……長い付き合いじゃないの」
「……まあええわい」
そう言うと車の奥へ引っ込みA・Tを弄りだした。
「相変わらず仲がいいのねぇ。 二人共」
「これでそう見えるのが凄いですよジャ婆ちゃんはさ」
嬉しそうに二人を見ながら機嫌良さそうに呟く言葉に俺が返すと喜色の色が濃くなった。
敵わないなこの人には。
「それで今日は何が入り用だい?」
俺の足元へ視線を落とすとオーナーの問いが飛んでくる。
「んー個人的には油さしが無くなりそうだからお願いします」
「ほらよ。 何時ものでいいだろ?」
お礼を一つ述べるとそれを受け取る。
さすがオーナー、わかってらっしゃる。
「他はなんだい? あそこの連中に頼まれたんだろうけど」
「ええ。 さすがですねジャ婆。パーツなんですが――」
あそこの連中に頼まれたパーツはこれでオッケーっと。
忘れるとうるさいからなあいつら……
ジャ婆から紙袋を受け取り軽く中を確認する。
忘れ物は無さそうだな。
「うっし! そんじゃまた来るよジャ婆ちゃん、ついでにコロ爺もね」
「わしゃついでかい! ……転ぶんじゃねぇぞ坊主」
「わかってるっての。 空を飛ぶ楽しみは忘れたことねぇよ」
「ならええ。 早く帰りな」
素直じゃないんだから、まったく。
「素直じゃないのよねぇ二人共……またおいで」
……俺もかい。
軽く手を上げそれに答えると陸橋から飛び出すと、そんな後ろ姿を煙管を蒸しながらジャ婆、A・Tを弄りながらも満足気な表情のコロ爺が見送った。
次に向かうは大本命、道具屋――トゥール・トゥール・トゥ。
これも違う意味で憂鬱になりながらも、空を駆ける影が一つ舞っていた。
次はトゥール・トゥール・トゥです!!
書いてて思ったのは
トゥール・トゥール・トゥってめっちゃ打ちにくい!!!!!!
そんで次はいつになるかわかりませぬ……だが少しずつ書いていきたいと思ってますので首がでろんでろんになるまでお待ちくださいませ!
それでは!