宙を舞う、自由の翼   作:茶樹

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なかなか先に進みません……


第四話

 

「それはそうと響樹、前たまには本気でやりやがれ。 手加減されて喜ぶような奴に見えるか? 俺がよ……ったく」

汗まみれの班目が木刀を肩に担ぎながら俺に寄ってくる。 そんな斑目と一緒に綾瀬川の近くに腰をかける三人。 ……プラス一名はハナ。

何が嬉しいのか笑顔で綾瀬川が俺たちに労いの言葉をかけつつ竹筒を渡してくれた。

その中の水を二人して浴びるように飲み喉を潤す。

「いや、斑目よ。 本気だぜ? 流石にお前が相手だとよ。 ただ色々と想定しないと気がすまない質だろ俺? そんである程度実力ないと――斑目ぐらいじゃないと、な……」

その続きはわかるよな、そんな視線を斑目に向けると、舌打ちと共に竹筒に再度口を付けた。

 

話しが180度変わるが、俺は怖がりだ。

最悪の事態を想定して常に身体を馴染ませないていかないと気がすまないレベルでだ。

もし仮に他隊が虚に傷つけられ、俺たちの隊が手当に駆り出された時にある程度離れた場所で行うとしても、虚が此方に来ないとは限らない。 そんな時誰かが殿とまでは言わないけれどそいつらの相手を誰かがしなきゃいけなくなる。 そこで自隊の誰かが虚に致命傷とまではいかないとしても、けが人を出されたら本末転倒だ。

だからせめても俺だけは全ての隊士を、とまではいかないが目の届く範囲のやつらは守ってやりたい。

だから最悪の事態を想定して動けるようにしている。怖がりだから。

もし、手元に斬魄刀なり、浅打が無かったら。

もし、想定以上の虚が出現したら。

もし、俺の仲間が窮地に陥っていたら。

もし、俺の力があと少しあるだけで窮地から逃れることが出来うるなら。

だからそれらの『もしかしたら』がとてつもなく、怖い。

これは俺の身体とか精神じゃなくて、もっと深い――魂の部分に根付いている根底の部分だと『わかる』

だからこそ俺は最低な状況を考える。

だって俺は、彼らの意思と想いを再び消してはいけない存在なのだから。

――俺は唯一最後の王なのだから。

 

閑話休題。

 

「なあ斑目。 お前……力強くなったな」

暖まっている身体に水分を与えながら斑目になんとなしに尋ねる。

「おい響樹……嫌味かそれは」

尋ねられた斑目はというとこめかみをヒクつかせながら答えた。

怒るなよ……ったく。

「いやいや落ち着けって……純粋に、だよ。 筋力とかそういうのもそうだけどよ霊圧がさ、上がってるだろ前に比べて」

感覚的には質が『濃くなった』が正解かなぁ。 何人か見てるから、たぶんも、有りうる。

「なんというか、流石だね響樹」

「――他の奴らには言うんじゃねぇぞ。 隊長にもだ」

存外に言ってくれるね。

認めたようなもんだろそれ……というかそうそう習得できるもんじゃねぇけどな……斑目だからってなると、まあ納得しちまうけど。

「……なるほどね。 そりゃ、まあ――さすが斑目って感じだわな。 大丈夫だって、吹聴するつもりはねぇよ」

それに二人にそう言われたらと付け足しながら苦笑交じりに両手を上げる。

班目は悪そうな笑みを。 綾瀬川はいつもの笑みをそれぞれ浮かべた。

「あ、あのぅ……」

「……あァ?」

スマン。 そういえば忘れてた。

「おいおい、威嚇すんなってば」

恐縮してるのにさらにおどおどした感じで会話に参戦してきたハナ。

それに対して何時も通りの感じで返事をする斑目。

怖がりのハナがこんな見た目イカツイやつに返事されたらさらに萎縮するよね……それじゃなくても此処に来てから萎縮しっぱなしなのに。

それにさすがに空気になりすぎるってのは嫌だよな……

「あんまり威嚇するなって斑目。 ハナが怖がってる」

「威嚇なんてしてねぇよ、たく」

「まあまあ。 そんでついでにそのまま紹介するとこいつは俺と同じトコの山田花太郎」

そう言って視線をハナに向けるとおっかなびっくりしながらも受け答える。

「ご、ご紹介に預かりました山田花太郎です!」

おう。 お前は落ち着け……

「ってことは四番隊なんだね」

綾瀬川が仕切り直してくれたのに乗っかろう。 うん、そうしよう。

「そうそう、ちなみに俺よりも階級は上だよ」

だよな? という言葉を笑顔に変えてハナに送る。

「い、一応七席やらせていただいてます……」

「ほう……まあ、ぶっちゃけ階級なんてどうでもいいぜ。 響樹と一緒に行動してるぐらいだから警戒も糞も関係ねぇよ。 ――ちなみに俺は斑目一角だ。 一応俺も言わせてもらうと三席やってる」

「一角に同意するね、それ。 僕は綾瀬川弓親、五席だよ」

「…………」

金魚かお前は。 言葉になってないって。

ギギギと音が聞こえてくるような首の動くで此方に顔を向けるハナ。

パクパク。

「……声になってないぞ、ハナ」

「ひ、響樹さん!? 響樹さんて何者ですか!? 名前はお聞きしたことありますし! 改めて考えると三席と五席ですよ!!?」

「落ち着け……わかったから落ち着け? なんだ、その色々と知り合いは多いんだよ俺」

俺は胡座の上に肘を乗せその上に頬を乗せて楽な姿勢を取る。

そうなんですね、はは……それに対してハナは汗をだらだらと顔に貼り付け此方に顔を向けたまま二人に指を向けていた。

「……人に指を向けるな」

こちらが斑目。

「響樹と仲がいいだけはあるね。 五という数字の――」

省略。

こちらが綾瀬川。

「まあ、たしかに階級もないからなー俺」

斑目と綾瀬川、それに加えてさっきの慌てようはどこへやらハナまで一緒に溜め息をつく。

言いたいことはわかってるからその目はやめて……

「さ、さあー俺の方の用事は終わったし、ハナも戻ってきたし帰ろうかね」

(((あ、話し変えた)))

「そ、そうですね! 隊長にも報告しなきゃですし!」

「優しいのなお前」

くっそー……

斑目がそんな言葉をハナにかけていた。

「……ってことで俺たちは戻るよお二人さん」

いつもの雰囲気に戻しつつ、立ち上げり袴のシワを手で払う。

「おう、二人共また来いよ」

「待ってるよ、響樹と山田七席」

そんな二人の言葉に笑みを浮かべたのはハナ。

なんでお前さんがにやけるのよ……

「そ、それでは班目さん、綾瀬川さん失礼します!」

そんな俺の視線に気づいたのか立ち上げると二人に頭を下げていた。

「うっし、そんじゃ戻りますかね」

「ま、待ってくださいよ! 響樹さん!」

草履を結び終わり、歩き出す二人の背中を眺めながら斑目が呟く。

「隊長はもちろんだけどよ、アイツ――響樹にも勝ちてぇなぁ……」

「きっと出来るよ。 なんせ一角なんだから」

斑目一角と綾瀬川弓親が笑みを浮かべ道場を後にする二人眺めていた。

 

そうしてなんやかんやあったものの『無事』に十一番の門をくぐる俺とハナ。

「さぁ! 響樹さん! 隊舎に帰りましょう!!」

……そんなに息が詰まったか。

「そうだな、隊長に事後報告しなきゃだしな」

「……僕だけなんか、すごい疲れた気がします」

それにもう夕方ですよ……響樹さん。

そんな言葉に相槌を打つ。

まあ、あんだけ緊張の連続してたらそりゃ疲れるわな。

「お疲れさん」

ハナの肩に手を添える。

まさに気休め程度だけどさ。

「あ、そういえばやちるのやつらとは大丈夫だった?」

「はい! 響樹さんのおかげで怖いくらいにすんなりと。 ……あ、最後というか別れ際に『けんちゃんだー!』って言いながらどこか行っちゃったので草鹿副隊長にご挨拶できませんでした」

……なんかその絵を想像できるのが怖い。

去る桃の花、ポツーンと取り残される花太郎と新巻隊士の絵。

「その『けんちゃん』って人誰なんでしょうねぇ……副隊長がそんな呼び方する人だから――」

なんか真剣に考え出した。 天然で真面目だね、ほんと。

苦笑混じりに隣を歩きながら親指で後ろの十一の文字がある扉を指す。

「此処の隊長だよ」

「……へぇ、そうなん、です、か」

……最後にこうしてハナの動きが止まったのを眺めて今日の一日が終わった。

 

翌朝。

昨日の任務を終えたハナを卯ノ花隊長が見て『今日はお二人共このまま終わりでいいですよ。 ありがとうございました。 早めに床に入るんですよ“山田七席”」

そのままお互いそこで別れて仕事から上がった。

それで今改めて来させて頂いてる。

「ご苦労様でした。 山田七席、昨日は“誰かさん”のせいで疲れたと思いますので今日は非番にしてゆっくりとお過ごしなさい」

ハナが感動してる……さすが卯ノ花さん。

あの人声音が優しいから心にしみるもんなぁ――でも、たまにトゲがあるんだよなぁ。

「さて、天井隊士」

「……なんでしょうか……」

「今、変な事をお考えになったからからといってとって食べたりしませんよ。 それはそうと、今日はアレがある日では?」

お見事、お見通し。

あー、切り出すタイミングなかったんだよね……助かるな本当に。

「そうでした。 お願いしても宜しいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。 これに関しては一死神としての欠かせない物ですから。 妥協してはいけません……天井隊士にはわざわざ言う事ではないかもしれませんけどね」

「とんでもないです。 こればっかりは妥協という境界線上にないので――俺たちと共に、物にも時間は流れますからね。 だから物にも妥協という『中途半端』にはしないです。 特にコレばっかりは」

それに弄ってるのが趣味になってるからなぁ……ほぼほぼ毎日。

さてと、とりあえずあれこれ準備しなきゃだわな。

「それでは山田七席、天井隊士。 本日はお二人とも非番ということでお過ごしください」

「あ、ありがとうございます!!!」

「了解致しました」

そんなに嬉しいのか、ハナ……

失礼しました。 二人でそう言いつつ退出すると廊下を眺めつつ閉口一番ハナが独りごちる。

「忙しそう……」

「どうした? ハナ」

「いえ、なんというか結構忙しそうなのに、僕は非番でいいのかなぁって……」

「卯ノ花隊長にも言われただろ? 今日は気兼ねなく休みとりなってさ。 それに本当に手が必要ならさすがに隊長自らオレ達を非番にはしないだろうよ」

「……たしかにそうですね。 さーてそれじゃあ!――――なにしよう……」

これぞワーカーホリックってやつなのかね。

たしかに、現世に比べりゃ尸魂界なんて娯楽は少ないしなぁ、急に手が空くのも若干困るか。

「そこらへんぶらぶらするのもたまにはいいんじゃないか?」

「まぁ、そうですね……やることないですし……」

趣味を作ろう。 うん、そのほうがいいと思うよハナ。

「それはそうと、響樹さんも非番になりましたねぇ」

「なんというか……俺はだいたい半年に一回、春と秋のこの日だけ公休もらってる」

「へぇ、初めて知りました。 大事な日なんですね」

ハナのあまり突っ込まない所とか好きだなやっぱ。 察してくれてるのもあるんだろうけどさ。

本当に個人的な事だし……それにあんまり人に話すことでもないし、話してもなぁって感じだからな。

おっと、時間は――これから準備とかしなきゃだからなぁ……。

「悪いなハナ、俺はちょっと準備とかしなきゃいけないから先行くなー」

「はい! それでは良い休日を!」

ハナが廊下を駆けて行くのを笑みを浮かべて見送りつつ俺も廊下を進み自宅へ足を向ける――といってもぶっちゃけ隊舎にはそれぞれ寮があるからすぐ着いちゃうんだけどね。

四番隊隊舎から歩くこと数分、自宅に到着。

「さてと、持ってくものは着替えと、義骸ともろもろ――あとはこれか」

んじゃあ、まあ、行きますかね。

現世に。

 




はてさて。次回はさっそく現世に行っちゃいます。

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