宙を舞う、自由の翼   作:茶樹

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亀のごとく以上に遅いもので申し訳ないです。
不定期更新になってしまいますな

ご指摘等ありましたらどしどしお願いします


第三話

十一番隊道場に足を踏み入れる俺の目に飛び込むのは汗に塗れた丸坊主。 息絶え絶えの黒装束がその足元や壁、地面に曲がってはいけない方向へ身体を向けている。 何人かはまだ粘ってるようだけど。

「お前ら! 寝るのはまだ早ェぞ!!」

フハハハハ!!! オラオラ! どうしたァァ!

戦闘狂かよ……

「あ、戦闘狂だった……はあ」

相も変わらずな丸坊主。

元気一杯丸坊主。

汗でテカる丸坊主。

そんな思考に耽りながら俺が入口に立って溜め息を零していた。それに気づいた様に道場の壁に寄り掛かっている綾瀬川が丸坊主――改め、斑目から視線を逸らして俺に声を掛け微笑んだ。

やめろ……その顔。 殴りたくなる……

「響樹かい。 なんか久しぶりだね、此処に来るの」

「そうだっけか? まあたしかにちょっとな。 ……それはそうと綾瀬川、良いのか? コイツ等」

死屍累々となっている彼らに目配せをしつつ、声をかける。

正直見慣れた光景ではあるが、心配せずには居られんだろう。

「あー大丈夫大丈夫。 彼ら新人でさ、自分から稽古をつけて欲しいってお願いしてたから」

「……それはほっといていい理由になるのか」

「ホントに危険だったらこうして僕と喋ってないだろう? 君なら」

だからその微笑みを俺に向けるな……ったく肩の力が抜けるっての。

溜め息を一つ吐きつつ、草鞋を脱いで床に胡座をかく。

「響樹、今日は遊んで行くんだろう?」

綾瀬川は、俺が腰を下ろしたことを確認すると視線を斑目に目を向けながら俺に聞いてくる。

「遊びってお前な……確かに身体を動かしに来たことには間違いないけどよ」

「身体を動かしに来たね、大概同じ含みがある様な気がするけどね」

僕からしてみれば。

目線を斑目に向けたまま楽しそうに微笑む綾瀬川が呟く。

そんな話しをしている内に練習相手の屍の上で高笑いを上げている斑目。

「変わらんね、アイツも……」

「そういう君こそね。 ……おーい! 一角、とっておきのお客さんだよ!」

「なんだ弓親ァ!? って響樹じゃねぇか! 丁度良かったぜ、練習相手がいなくなる所だ!」

そういう笑みもいらないって。 てか煽るなよ綾瀬川……

「遊んできて上げてね響樹。 はい木刀」

「はいはい。 わかったよ」

綾瀬川から木刀を受け取ると斑目の方へ向かう。

 

木刀は脇差。それを手に収めながら斑目の前へ歩みを進める。

「……久しぶりじゃねぇか響樹。 さあやろうぜ!」

「まてまて! その前に彼らをどうにかしろって……」

溜め息を一つ零して足元の彼らに視線を向けて斑目に合図を送る。

お前は気兼ねなく出来るかもしれんが、俺は出来ないっての。

「よーしお前ら! 隅っこ休んでろ!」

男共は低い返事をしてもぞもぞとゆっくりと移動を開始する。

あ、斑目の眉間がピクピクしてるぞ、おい……

先手を打つかね。 平隊士のこいつらが斑目と稽古をしたんだからコレぐらいにへこたれるのも仕方ないだろうし、それに綾瀬川曰く新人さんらしいしな。 プラスお怒りになったコイツがどんな稽古を付け始めるか簡単に想像つくし。

「……おーい、君たち、ちょっと早くしないと斑目三席にどつかれるぞー」

斑目に背中を向けて見えない様に足元で転がってる彼らに親指で彼を示す。

俺の顔を見てアンタ誰? みたいな顔を浮かべたあと、俺の指す方向に視線を向けると、重い足取りは何処へやら道場の隅へ駆けていく。

「アイツ等にはまた稽古が必要だな――なあ響樹」

あ、ご愁傷様。 また稽古が追加されるのは斑目の中では決定事項になってたみたいだわ。

……とりあえず、道場の中央には俺と斑目の二人になった訳だ。

「……あいつら四番隊送りにはするなよ?」

「お前が居りゃあ直ぐに戻って来れんだろ?」

「なんで俺なんだよ」

そんな軽口を叩きながら意識を前に向けたままに右手で木刀を握りなおす。

 

「さて……」

斑目が呟くと先程までの雰囲気が嘘のように静かになり、俺の死覇装が霊圧を受け靡き、右手に持つ木刀が折れそうだ。

頭は冷たく、心は熱く。闘い慣れている……闘いを知っている。 楽しいモノだと、心躍るモノだと、そして自身を写す鏡だと。 だからこその戦闘狂であり、人は快楽に忠実な下僕に成らざるを得ない性質だと。 下僕になることを受け入れ尚、強くなろうと、強くあろうとする彼らは本当に『強い』と思う。

 

「こうして対峙すると何回でも思い出させるな。 有り難いことだ」

だから俺はたまに此処へ足を運ぶ、彼らの強さを見るために。 下僕になり、自身を写した結果どう成長を遂げていくのかを見るために。

「……相変わらずだね。 斑目」

右手に持った一尺二寸の脇差を揺らしながら俺も霊圧を開放していく。 斑目からの霊圧で折れそうだった木刀も俺の霊圧を纏いチリチリと音を立て反発する。それを下に軽く振るい握り具合を確かめる。

木刀の方が手に吸い付く……いい感じだ。

「限界だァァ行くぞ響樹ッ!!!!!」

「待っててくれたのか? 頼んだ覚えはないけどなっ!」

彼の標準サイズの木刀と俺の小脇差レベルの木刀が重なり合い……俺の木刀が弾かれる。

右手が痺れてる……なんとかぶっ飛ばされないで済んだけど、さすがだね。

「俺のやり方は知ってるだろうがよ!!」

言葉に乗せて斑目の木刀が振り下ろされる、それを右手の木刀を軽く内側に捻り斜めにすることで受け流す。

体勢の重心が右にズレた斑目に、身体を左に捻りながら袈裟斬りを放つ。

斑目の死覇装をかすめるも、重心が右にあるのを利用して左足で地面を蹴ると回転しながら俺に逆袈裟がりが放たれる。 それを俺は袈裟斬りの余韻から左足を踏み込み、右手の脇差に左手を添えつつ左から迫る切先を牽制し、お互いに木刀を押し合い距離を取る。

「流石だね斑目」

「ッハ!嫌味かテメェ!! ココまで付いて来れるやつなんかが言うセリフかっての……ただ何時も解せねぇのはテメエの霊圧だ。 何故そこまで弱い!! ホントはもっと強い霊圧を出せるんじゃねぇのか……?」

「んー……黙秘権を使わせてもらうよ」

「舐めてんのかテメェ……!? 稽古だろうと闘いだ! 全力じゃなけりゃ意味がねぇだろ!」

「わかってる。 ただ今はコレが全力だぜ? 許せ斑目」

「しょうがねぇ……理解はした――納得はしてないけどな!!」

そう言うと体重を乗せて切り下ろしてくる。

頭に血が昇るのが欠点だわな……全く。

半身になり脇差を右手で上げ、膝を下ろし腰を据える。

「ッ!!舐めてんのか!!」

斑目の咆哮が形になって振り下ろされる。

 

 

「なんっ!? 誰だ斑目三席の相手は……」

俺も知らねぇよ。なんて言葉が斑目に指示を出されて道場の壁に寄りかかってる隊士達から口々に伝染されていく。 新人といえど十一番隊隊士たち戦いは見慣れている、はずだった。

なのに彼らの知っている戦いではないもっと上のレベルで試合が行われているのだ。 口から溢れるのも無理はなく、驚くのも見惚れるのもしょうがない事だった。

「彼はね、四番隊の平隊士だよ」

「ッッ!?」

綾瀬川弓親。 彼は中央で繰り広げられる二人の闘いに意識を向けながら、ぼそっと呟いた。 それ以降話し掛けるなとでも言わんばかりに完全に二人を眺め始めた。

驚きを表に出している他の隊士も自然と二人の試合に惹きつけられていた。

そんな中入口から仕事を終え新巻と共に花太郎が入ってきた。

二人は今の状況はもちろん知らないも、道場の皆が視線を中央へやってるのを見ると同じく中央へ視線を向けた。

そこに居るのは一緒に来た、天井響樹と斑目三席。

「なんで響樹さんが……?」

額から汗を流しつつも呟いた言葉が宙に舞った。

 

木刀と木刀が軋みを上げてお互いに反発し合うも純粋に長さの短い脇差を俺が『前へ』滑らせる事でその場を回避する。

予測出来なかっただろ? 斑目。顔に出てるぞ。

体勢を完全に崩した斑目の懐に入ると右手に左手を添え木刀の柄で鳩尾を突く。

前傾姿勢のまま転がる斑目に体を向ける。

斑目が仰向けから上体を起こし此方を睨むも打たれた鳩尾に手を当てているのを確認する。

彼が軽くため息を吐くのを見ると、俺も力を軽く抜く。

「ふぅ……」

「ったく……俺の負けだ負け」

「息が詰まるね。 お前ぐらいのレベルだと、さ」

「どこがだよ……自覚がねぇのは怖いもんだな、たく」

そんなに好戦的じゃないはずなんだけどな。 自分が思ってるのとはやっぱり違うのかね……相手のことを見れるということは逆も然りってことか。

まあ、でも嫌いじゃないのは確かだわな。

 

「ひ、ひひ響樹さん!?!? 何やってるんですか!?」

「何って見たまま? ってか顔が近い!」

す、すいません……っと身を引くも顔が強ばってるぞ……

あーそういや説明というか、そういうのしてなかったもんな。

「悪いな。 何時も通りの感じで来ちまった。 たまに此処来るんだよ俺」

「な、なるほど?」

「っでコイツらと練習がてら試合してるってわけだよ。 言っちゃなんだけど、四番隊だと剣を握るってことが少ないから感覚が鈍るんだよ」

「なるほど……それで試合を……」

「そういうことだ」

「……けど斑目三席と試合とか正気の沙汰じゃないですよ!?!?」

「あー……悪気があるわけじゃないから聞き流せ……」

「は? え? なんですか……?」

ハナにだけ見えるように親指で俺の背中の方を指す。

「誰が、正気の沙汰じゃない、ッて? おう、もやしっ子ォォォ!!」

「ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

今度はハナの言葉が俺たちの鼓膜をしっかりと震わせた。

 

 

 

 

 

 




ちょびちょびは書いていきたい今日この頃スイマセン

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