魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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交差

「本当に、数は多いな……明日菜さん、大丈夫ですか?」

 

「平気よ! まだまだ行けるわ!」

 

ネギが問い掛けると、明日菜は大剣を肩に担ぎながらそう返答した

今彼等が居るのは、まだ避難が完了していない市街地近くの廃棄都市区画だった

そこは激戦区で、ネギ達が展開する前に居た陸士208部隊は怪我人が多数出て、今は後退している

ネギ達の周囲には、夥しい数のガジェットやドールの残骸が転がっている

その時だった

空から、一人降りてきた

それは、六人の内の一人

 

「音……でごさるな」

 

「確か、攻防兼ね備えた敵アルね」

 

楓と古菲はそう言うと、それぞれ構えた

その直後、音は指を鳴らした

その瞬間、ネギ達の周囲のビルが倒壊

ネギ達の方に倒れてきた

 

「神鳴流奥義、斬岩剣!」

 

「爆裂螺旋剄!」

 

しかしそのビル群は、刹那と古菲が破壊した

 

「今のは……」

 

「恐らく、音でビルの基部を破壊したのでしょう」

 

「技の予備動作が少ないから、防ぎにくいなあ……」

 

「今までの中でも、戦い辛い敵でござる」

 

とネギ達が話していると、音は両手を構えた

どうやら、本気の構えのようだ

その瞬間、音の背後に楓がもう一人現れて、長い鎖を螺旋状に展開させた

その鎖には、何十枚という枚数の札が括り着けられていた

そして、楓の分身が消えた瞬間

 

「爆鎖爆炎陣!」

 

楓の技が炸裂した

鎖に括り着けられていた札

爆裂札が一斉に起爆し、凄まじい威力の爆発が起きた

その威力により、元々ヒビ割れていた道路は完全に陥没し、数M規模のクレーターが出来た

 

「これで倒せてたら、御の字でござるが……」

 

「そう甘くは、ないみたいだな」

 

そう言った楓と刹那の視線の先では、無傷の音が立っていた

 

「皆さん、一気に行きますよ!」

 

「了解!」

 

ネギの号令に従い、明日菜達は一気に音に向かって駆け出した

場所は変わり、地上本部

今そこで、シグナムは廊下を走っていた

その理由は、先に入った騎士ゼストを追っていたからだ

ゼスト・グランガイツ

シグナムが所属する部隊の先輩に当たる人物で、ベルカ式を使う騎士の称号を持つオーバーSランクの騎士である

どうやら、現在謹慎処分中のレジアス・ゲイズ中将の古くからの友人らしい

しかし、過去に最高評議会からの命令に従い、スカリエッティのアジトの1つに部隊を連れて侵入

全滅したらしい

その中には、スバルとギンガの母親

クイント・ナカジマも居たらしい

何のために地上本部に来たのかは分からなかったが、もし復讐が目的ならば止めるつもりだった

そして、レジアス・ゲイズの執務室がある階の廊下を曲がった時

 

「こっから先は、通行止めだ!」

 

とアギトが立ちはだかった

 

「旦那はただ、昔の友達と話したいだけなんだ! 復讐とかは考えてねえ!!」

 

アギトは涙を浮かべながら、そう訴えた

するとシグナムは、無言でレヴァンティンを抜いて

 

「はあっ!」

 

と一閃した

その一撃で、アギトが展開していた魔力障壁は砕け散った

 

「安心しろ……私たちはただ、過ちを起こさせたくないだけだ」

 

アギトの訴えに、シグナムがそう答えた

その直後、轟音が鳴り響いた

それを聞いて、シグナムは急いでレジアス中将の執務室に入った

そこで見たのは、机にうつ伏せになって死んでいるレジアス

本棚に力なくもたれ掛かっている、オーリス・ゲイズ

そして、レジアス・ゲイズの背後で血貯まりに倒れている戦闘機人だった

 

「これは……あなたが?」

 

とシグナムが問い掛けると、ゼストは渋面を浮かべながら

 

「そうだ……俺が弱く、遅かったから……」

 

と呟いた

その間にシグナムは、レジアスと倒れている戦闘機人

ドゥーエの死因たる傷口を見た

 

(レジアス中将の死因は、この戦闘機人の爪のようだな……逆に戦闘機人の死因は、騎士ゼストの一撃か……)

 

と死因を特定した時、ゼストが

 

「騎士シグナム……だったな?」

 

とシグナムの名を呼んだ

その呼び掛けに反応し、シグナムはゼストの方に体を向けた

するとゼストは、デバイスを構えて

 

「一騎打ちを希望したい……俺の、最後の戦いを」

 

と言った

すると、アギトが

 

「そんな! 旦那ぁ!?」

 

とゼストに近寄ろうとした

しかし、ゼストはアギトを睨んで

 

「来るな、アギト!!」

 

と制止した

アギトはその制止で止まり、シグナムは気迫に反応してレヴァンティンの柄を握った

すると、ゼストは

 

「これが、俺の最後の戦いだ……はあっ!!」

 

と、シグナムに向かって突撃した

シグナムはゼストの一撃を回避しながら、レヴァンティンを振るった

二人の一撃は互いに当たっていたらしく、シグナムは髪を纏めていたリボンが切られ、ゼストは左肩から出血した

しかしゼストはそれでも止まらず、槍を振りかぶって

 

「はあぁぁぁぁぁ!!」

 

と雄叫びを上げながら、突撃

シグナムは、空中で体を捻って壁を蹴りながら

 

「紫電……一閃」

 

と普段よりも静かに、その一撃を放った

二人の体は交差し、入れ替わった

シグナムは肩のバリアジャケットが弾け飛び、ゼストは持っていたデバイスが砕け、右肩から左腰が切り裂かれていて、倒れた

シグナムはレヴァンティンを納刀し、倒れたゼストに歩み寄った

 

「騎士ゼスト……」

 

「シグナム……感謝する……」

 

シグナムがゼストを抱き起こすと、ゼストは血を吐きながらそう告げた

そして、指輪をシグナムに渡しながら

 

「これに、俺が調べた限りのスカリエッティ達の能力が記録されている……」

 

と言った

 

「確かに、受けとりました」

 

シグナムがそう言うと、ゼストはアギトを見ながら

 

「シグナム……アギトを、頼む……」

 

と言った

 

「旦那!?」

 

「俺では、お前の能力は十全に活かせなかった……しかし、シグナムならば、活かせる筈だ……近い魔力光に、炎の使い手だ……すまんな、アギト……」

 

ゼストが謝ると、アギトは涙を流しながら

 

「旦那は、アタシのロードだった……謝るなよぉ……」

 

と言った

それを聞いて、ゼストはシグナムを見ながら

 

「心残りは、あの子のことだ……俺が助けたかったがな……」

 

と言った

どうやら、ルーテシアのことを言っているようだ

 

「ご安心ください……ルーテシアでしたら、私の部下達が、間もなく保護します」

 

「そうか……良かった……」

 

ゼストはそう言うと、窓から青空を見上げて

 

「お前達は、間違えるな……決して……俺達みたいに、なるな……」

 

と言って、その目を閉じた

こうして、一人の気高き騎士は旅立った


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