魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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ヴァイス回なり


鷹の眼の再起

聖王病院、一般病室

その一室

そこで長く眠っていた一人の男が、ようやく目覚めた

 

「こ、ここは………?」

 

機動六課ヘリパイロット、ヴァイス・グランセニックは目覚めるとゆっくり周囲を見回した

そして、自分が居るのが病室だと理解したタイミングで

 

「起きたようだな……」

 

と渋い声が聞こえて、青い毛並みの狼

ザフィーラが姿を見せた

 

「ザフィーラの旦那……俺は、何日間寝てたんですかい?」

 

「約一週間だな……今、六課の殆どのメンバーは動き出したスカリエッティとロンドの迎撃に動いている」

 

ザフィーラの話しを、起き上がりながら聞いていたヴァイスは目を見開くと

 

「ヘリ無しにですかい!? クッソ! 俺は一週間も何を……っ!」

 

と憤っていた

ヴァイスが元気なのを確認したからか、ザフィーラはドアの方に向かいながら

 

「ヘリはアルト・クラエッタが操縦している……お前のデバイスは横の机に置いてある……」

 

と説明した

ザフィーラの説明を聞いて、ヴァイスは視界の片隅でベッド横の机の上に自分のデバイス

ストームレイダーの待機形態が置いてあるのを確認すると

 

「旦那は、どこに?」

 

と問い掛けた

するとザフィーラは、止まってから振り向いて

 

「私も現場に行く」

 

と答えた

それを聞いて、ヴァイスは目を見開いて

 

「旦那、怪我は!?」

 

と問い掛けた

それに対して、ザフィーラは尻尾を振りながら

 

「近衛木乃香が治してくれた……お前も、治っているぞ」

 

と教えた

ザフィーラのその言葉を聞いて、ヴァイスはようやく感じていた違和感の正体に気付いた

大怪我を負ったはずなのに、痛みを全く感じなかったのだ

しかも、六課隊舎に残っていた人数は少なくなかった

更には、出動していたメンバーも怪我を負ったはずだ

それら全員を治したのだとすると、木乃香の治療魔法の凄まじさが分かる

そして、ヴァイスが改めて体の調子を確かめている間に、ザフィーラは出ていった

それと入れ替わりに、一人の少女が入ってきた

肩辺りまで伸ばした茶髪に、右目を覆っている眼帯が特徴の少女

ラグナ・グランセニック

ヴァイスの妹だった

 

「お兄ちゃん……」

 

「ラグナ!? お前、なんで………」

 

ラグナの姿を見て、ヴァイスは驚愕していた

ザフィーラから聞いた通りならば、今ラグナがここに居るのはおかしい

管理局は今、ミッド全域に避難勧告を発令しているはず

その証拠に、病院全体が騒がしい

だというのに、管理局員でもないラグナが残れるわけがない

すると、ヴァイスが混乱してる理由を察してか

 

「あのね、はやてさんからお兄ちゃんがここに入院してるって聞いてね、無理言って避難を後回しにしてもらったの」

 

と説明した

それを聞いて、ヴァイスは心中ではやてに悪態を吐いた

余計な事をと

 

「ねえ、お兄ちゃん………お兄ちゃんは、何をしてるの?」

 

顔を合わせづらくて逸らしていたら、ラグナはそう問い掛けてきた

 

「ラグナ……?」

 

「お兄ちゃん………六課の皆さんは、戦場に出て頑張ってるよ? それなのに、お兄ちゃんはここに居ていいの?」

 

ラグナの真剣な表情を浮かべながらの言葉に、ヴァイスは押されていた

何も、言えなかった

 

「お兄ちゃん………私、知ってるよ? 一年前に私を誤射してから、お兄ちゃんはデバイスを持たなくなったって」

 

「つっ!」

 

ラグナのその話しを聞いて、ヴァイスは息を飲んだ

ヴァイスは約一年前まで、ミッド武装隊の随一の凄腕のスナイパーだった

そう、だった

ヴァイスが愛機たるストームレイダーを持たなくなったのは、約一年前に起きた事件が原因だった

違法魔導師が起こしたデパート人質立て籠り事件

その鎮圧に出動したのがヴァイスで、その人質がラグナだったのだ

人質がラグナだと聞き、ヴァイスは驚いた

しかし、いつも通りにやれば大丈夫だと自身に言い聞かせて狙撃態勢に入った

そして、ヴァイスは引き金を引いた

いつも通りだったら、放たれた魔力弾は犯人に当たる筈だった

しかし、やはり妹のラグナが人質にされたからか

動揺していたのか

はたまた、手が震えていたのか

魔力弾はヴァイスの想定していた弾道から逸れて、犯人ではなく

ラグナの右目に当たってしまったのだ

犯人は別のスナイパーによって倒れたが、ラグナはヴァイスの魔力弾が原因で右目に傷を負い、視力を失ってしまったのだ

そしてその日を境に、ヴァイスはストームレイダーを持てなくなった

ストームレイダーを持って人に向けると、体が震えるようになってしまったのだ

また、人質(ラグナ)を撃ってしまうと恐怖して

実際、六課隊舎が襲撃された時、ヴァイスは内部にてガジェットとドールの迎撃を行っていたのだ

しかし、ヴァイスの目の前にスカリエッティ一味の召喚魔導師

ルーテシア・アルピーノが姿を見せた時、ヴァイスは狙撃出来なかった

ルーテシアにラグナの姿を重ねてしまったのだ

理性では、敵だと分かっていた

しかし、どうしても引き金が引けなかった

そうこうしている内に、ヴァイスはルーテシアの魔力弾の直撃を受けて倒れたのだ

ヴァイスが俯いていると、ラグナは右目の眼帯を外して

 

「ほら、お兄ちゃん……右目、殆ど治ってきたの。今はまだ、薄暗くしか見えないけど………後、半年もすれば、完全に治るって」

 

と説明した

そして、ヴァイスに抱きついて

 

「お兄ちゃん……私ね、昔のお兄ちゃんが好きだったよ? 狙撃手のお兄ちゃんが………百発百中、鷹の眼って呼ばれてたお兄ちゃんが好きだったよ………」

 

と涙声で語りだした

 

「ラグナ………」

 

抱きついてきたラグナを、ヴァイスは優しく抱き締めた

 

「だから、戻って………狙撃手のお兄ちゃんに………っ」

 

ラグナのその言葉を聞いて、ヴァイスは視線を机の上のストームレイダーに向けた

 

(ラグナは怖いのを我慢してここまで来て、俺を叱咤激励してくれてる…………ここで立たなかったら、男じゃねえだろ!!)

 

ヴァイスは決意すると、ラグナを優しく起こしながら

 

「なあ、ラグナ……一旦、部屋から出てくれないか?」

 

と言った

 

「お兄ちゃん……?」

 

ラグナが不思議そうに見上げると、ヴァイスはストームレイダーとビニールに包まれて置いてある武装隊戦闘服を見ながら

 

「着替えたいんだ………隊服に……そして、戦場に行く!」

 

ヴァイスのその言葉を聞いて、ラグナは嬉しそうに笑みを浮かべて

 

「うん!」

 

と頷いて、眼帯を着けてから部屋から出た

そして数分後、着替えたヴァイスは廊下に出て

 

「ラグナ………情けない兄貴で、ごめんな……」

 

と言いながら、ラグナの頭を撫でた

 

「お兄ちゃん………」

 

「行ってくるな、ラグナ! ちゃんと避難するんだぞ!」

 

ヴァイスはそう言うと、ラグナに見送られながら駆け出した

仲間達が戦う戦場に向けて

鷹の眼として


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