魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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落日

スカリエッティが戦端を開いて、早三十分が経過

 

だというのに、大半の局員達は浮き足立ち、ガジェットとドールに良いように攻め込まれていた

 

中には、指揮官の機転で態勢を整えて迎撃を始めている部隊も存在した

 

だが、全体で見たら雀の涙でしかなく、劣勢なのは火を見るより明らかだった

 

しかし、その中で機敏に動き、多大な戦果を上げている部隊が存在した

 

それが、はやて率いる機動六課であった

 

機動六課メンバーは、己が技量と装備を最大限に活かして奮戦していた

 

だが、所詮は少数人数の部隊

 

結局は数に押されて、徐々に防衛線は後退していった

 

その頃、意見陳述会の会場となった部屋では

 

「何を手間取っている! ガジェットなど、さっさと殲滅しないか!」

 

とレジアス中将が怒鳴っていた

 

ガジェットが近づいたためか、地上本部のセキュリティーは無力化されて、逆に中に閉じ込められていた

 

しかも、途中で爆発音が鳴り響いて、送電も止まった

 

それによりドアすら開かず、中に居た高官達は孤立状態になっていた

 

そんな状況に苛立ちを募らせて、レジアス中将は歯を鳴らしていた

 

「だったら、現状を打破する策を考えたらどうだ?」

 

そう言ったのは、浅黒い肌に灰色の髪をオールバックにした初老の男性

 

パウル・ラダビノット中将だった

 

ラダビノット中将の言葉を聞いて、レジアスは憎々しげな視線をラダビノット中将に向けた

 

地上本部において、ラダビノット中将はレジアス中将と人望を二分している

 

レジアス中将は武闘派で知られ、かなり過激な策も打ち出す

 

それに対して、ラダビノット中将は見事な指揮能力と冷静な判断力を有しており、いざという時は次元航行部隊や各地上部隊との橋渡しをやり、非常に高い連携力を出すのを得意としている

 

しかし、最近ではレジアス中将の行動は目に余るという意見が多くなり、ラダビノット中将に鞍替えする高官達や部隊が続出しており、今回の意見陳述会はレジアス中将にとって、起死回生の一手を打つための場であった

 

だというのに、スカリエッティが戦端を開いたことにより、レジアス中将は窮地に立たされていた

 

何故ならば、スカリエッティの戦力に戦闘機人が居て、その戦闘機人の骨子を提唱したのが、何を隠そうレジアス中将なのだ

 

そして、戦闘機人に関する研究等は時空管理局では禁止になっており、禁止案を出したのが、他ならぬラダビノット中将なのである

 

更には、人造魔導師計画もレジアス中将が発案し、これもラダビノット中将によって禁止になっていた

 

レジアス中将は戦闘機人計画や人造魔導師計画を、時空管理局の慢性的な人手不足の解消のために提唱したのだ

 

しかし、ラダビノット中将は真っ向から反対した

 

確かに、人手不足は解消出来るかもしれない

 

だが、そのために人の倫理を捨てて、人体実験を容認するのは出来ない

 

ラダビノット中将のその言葉を聞いて、当初レジアス中将の計画に賛成していた高官達は道を踏み外していることに気づいた

 

その後はとんとん拍子で否決され、更には禁止となった

 

そこからは、レジアス中将は劣勢に立たされた

 

そして、起死回生の一手として、巨大魔力砲台

 

アインヘリアルを提唱

 

試作機三台までこぎ着けた

 

しかし、このアインヘリアルにもラダビノット中将は反対した

 

それは恐怖による統治だと

 

恐怖統治は長くは続かず、必ず反発を招くと

 

更に、人手不足の根本的な解決になっていないと

 

結果、アインヘリアル計画は紛糾したものの、試験的に導入を決定

 

そして、今日を迎えた

 

だが、アインヘリアルの運用すら危うくなってきていた

 

アインヘリアルの欠点

 

それは、威力が高い故に簡単には市街地に向けては撃てないこと

 

そしてもう一つは、チャージに時間が掛かることだった

 

具体的な策が思い付かず、レジアス中将が拳を握り締めていると

 

「ドアはまだ開かんのか! 君たちは普段何をしている!」

 

とラダビノット中将が声を張り上げた

 

すると、ドアの所に集まっていた局員の一人が

 

「ドアが予想以上に堅く閉まっていて、なかなか開きません!」

 

と返答した

 

局員の言葉を聞いて、ラダビノット中将は手を振るいながら

 

「壊してでも、開けろ! 設備の破壊を許可する!」

 

と命令を下し、局員が工具を取りに走り出すと、今度は壇上で白衣を着ている技術者に顔を向けて

 

「通信機の修理はどうなっているか!」

 

と問い掛けると、技術者の一人が振り返り

 

「今現在、最終調整中です! 後少々お待ちください!」

 

と答えた

 

意見陳述会に使われたこの会議室は、緊急事態には指令室としても使えるようにと別電源の大型の通信機が仕舞われてあった

 

だが、今までそのような事態が起きなかったためにメンテナンス等はされておらず、壊れていたのだ

 

ラダビノット中将はそれを知ると、会議室の管理者を叱責しながらも、会議室内に居た技術者達に修理するように命じたのだ

 

そして、その修理ももうすぐ終わる

 

ラダビノット中将はそう判断すると、視線をはやてに向けて

 

「八神はやて二等陸佐!」

 

とはやてを呼んだ

 

「ハッ!」

 

呼ばれたはやては当麻を伴い、ラダビノット中将に駆け寄った

 

すると、ラダビノット中将ははやてを見ながら

 

「確か、機動六課は何度かガジェットやあの人型機……確か、ドールと戦っていたな?」

 

と問い掛けた

 

ラダビノット中将からの問い掛けに対して、はやては頷くと

 

「ハッ! 幾度か交戦し、全て撃破してます」

 

と答えた

 

はやての返答を聞いて、ラダビノット中将は満足そうに頷くと

 

「では、八神はやて二等陸佐に、今回の防衛戦の指揮を任せたい」

 

と告げた

 

ラダビノット中将の言葉は流石に予想外だったらしく、はやては固まった

 

その直後、レジアス中将は机を思い切り叩くと

 

「ラダビノット、貴様は正気か!!」

 

と怒声を張り上げた

 

レジアス中将の怒声に、ほとんどの局員が固まるが、ラダビノット中将は意に介さずに

 

「アレらと交戦経験がある彼女達に任せたほうが、適任と判断したのだよ……それに、彼女達は以前から何度もガジェットの危険性を説いていたのに、それを無視していたのは誰だったかな?」

 

ラダビノット中将の言葉を聞いて、レジアス中将は憎々しげに歯を鳴らした

 

そう、過去に何度もはやて達はガジェットの危険性を説いていたというのに、その全てを無視していたのは、他ならぬレジアス中将だった

 

レジアス中将ははやて達が上げた報告書を読んでも、全てバカバカしい、倒すのは容易と言って放置したのである

 

だが、現実はどうだろうか?

 

ほとんどの局員は逃げ惑い、手も足も出ないで易々と地上本部に攻め込まれている

 

そんな中で、唯一まともに戦果を上げているのははやて率いる機動六課と繋がりが強かった陸士108部隊だけ

 

精鋭と呼ばれている空戦部隊ですら、空戦型ガジェットに突破を許している

 

それらの原因は全て、地上本部の守りが鉄壁という慢心から来ていた

 

そして、その慢心の中心が何者でもなく、レジアス中将だった

 

レジアス中将は間違いなく、今回の責任を問われるだろう

 

それを予想してか、レジアス中将はギリギリと拳を強く握り締めた

 

その時、技術者の一人が振り向いて

 

「ラダビノット中将、修理完了しました!」

 

と声を張り上げた

 

技術者の言葉を聞いて、ラダビノット中将は頷くと同時に幾つもの通信画面を開いて

 

「各部隊、状況を報告せよ!」

 

と言った

 

その直後、はやての前にも複数の通信画面が開いた

 

なのは、フェイト、そして機動六課隊舎からの通信だった

 

だが、機動六課隊舎からの通信は激しいノイズが走っていた

 

「グリフィス准尉!?」

 

『どうしたの、グリフィス! 通信が!?』

 

フェイトが問い掛けると、画面向こうのグリフィスは机に片手を突きながら

 

『こちら……動六……舎……こちらは……の激しい攻撃で……保ちません!』

 

という報告をしてきた

 

「よう聞こえへん! 繰り返せ!」

 

はやてがそう言うと同時に、ラダビノット中将が

 

「通信、クリアにならんのか!?」

 

と大声を上げた

 

「待ってください……! 今……!」

 

技術者がそう言った数秒後、先ほどよりかは鮮明に通信が繋がり

 

『こちら……機動六課隊舎のグリフィス准尉……こちらは今現……敵の大軍により……もはや、保ちません!』

 

と、グリフィスは六課が陥落するという絶望的な報告をしてきた

 

これが、スカリエッティの本当の狙いだった


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