魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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少女の願い

『えっと……もう録画始まってる?』

 

『はい、始まってますよ。マイスター雪音様』

 

同じ声だったが、後者は夜叉のようだ

 

『わかった。それじゃあ、んんっ……』

 

雪音は咳払いすると、姿勢を正して

 

『ふー君、久しぶり。これを見てるってことは、私は死んでるよね?』

 

と語り出した

 

「ふー君って?」

 

「雪音が付けた俺の呼び方だ。冬也の冬からだそうだ」

 

フェイトからの問い掛けに、冬也はそう返した

 

『しかも、まだ戦場に残ってて、戦う決意も揺るがない。そして、ふー君の隣に立つ人が現れたってことだよね?』

 

語っている雪音は微笑んでおり、自分が死ぬことを恐れている様子はなかった

 

『だから、その人にお願いします。私の代わりに、ふー君を支えてあげてください。ふー君は本当は優しい子なの……ただ、少し不器用なだけ……』

 

雪音はそう言うと、胸元で両手を組んだ

 

『ふー君は……ううん、ふー君達は生まれて直ぐに誘拐されて、体を改造されて、人殺しの方法しか教えられなかったの……しかも、自分の親を殺させて、自我を壊させようとまでした……だけど、ふー君達七人はそれに耐えた……拘束具で肉体の自由を奪われてガラス一枚隔てた状態で戦わされた……』

 

話し始めた雪音は泣いていた

 

まるで、自分のことを語るように

 

『ふー君は……助けられた際に従兄に当たる人も殺しちゃって……でも、その人が命懸けでふー君の拘束具を破壊した……ふー君の名前は、その人の名前を受け継いだ名前なの……だから、ある意味ではふー君の名前じゃない……だけど、今はふー君の名前……ふー君はその人と約束したの……誰かを守る存在になるって……』

 

雪音は涙を拭うと、訥々と語り出した

 

『ふー君はその約束を守るために、保護されてすぐに自ら戦場に立ったの……けど、そんなふー君に対して掛けられたのは罵倒だけ……誰もふー君を人と認めなかったの……化け物と、兵器と罵って……』

 

雪音の話を全員は無言で聞いていた

 

まるで、我が事のように

 

『それでもふー君は諦めずに、戦場に立ち続けた……どんなに傷ついても、どんなに罵られても、約束を守るためにって立ち続けた……』

 

そこまで言うと、雪音は再び泣き始めた

 

『だからお願いします……ふー君を一人にしないでください……そうしたら、戦場で死ぬのが見えるから……私にはお願いすることしか出来ませんが……どうか、お願いします……』

 

雪音が頭を下げた所で、映像は終わった

 

「……以上です」

 

夜叉はそう言うと、両手を下ろした

 

映像が終わったが、誰も喋らなかった

 

すると、はやてが冬也に近づいて

 

「冬也はん……一つ聞かせてもらうな……今の話は全部、本当か?」

 

と問い掛けた

 

問い掛けられた冬也はしばらく無言だったが、ゆっくりと目を開き

 

「ああ……本当だよ」

 

と肯定した

 

すると、はやては拳を握り締めて

 

「家族を殺させて……冬也はん達を操って人殺しをさせた……? とんだ外道やな、ロンドって男は……っ!」

 

と憤りを露わにした

 

そして気付けば、キャロやエリオは泣いており、ヴィータに至っては

 

「ふざけんなよ……そんな奴……すぐに捕まえてやる!」

 

と心の底から怒っていた

 

そんな中、フェイトは冬也にゆっくりと近づいて

 

「冬也さん……これでもまだ、一人で戦いますか?」

 

と問い掛けた

 

冬也はしばらく無言だったが、すると

 

「………ここで断ったら、雪音の思いを無駄にすることになるな……」

 

と言い、はやてに対して

 

「先の言葉、撤回する……共に戦ってくれるか?」

 

と問い掛けた

 

するとはやては、決意のこもった表情で

 

「当たり前や! あんな外道、ほっとける訳がない!」

 

と断言した

 

そして、はやてはメンバーを見渡して

 

「皆もええな? 絶対に、ロンドを捕まえて野望を阻止するんや!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

はやての号令を聞いて、その場の全員は力強く頷いた

 

はやては全員が頷いたのを確認すると、冬也に顔を向けて

 

「冬也はん……他の六人はどういう能力とバトルスタイルなんや?」

 

と問い掛けた

 

すると冬也は、表示されている写真を見ながら

 

「まず、王の能力は近接格闘特化型でな。肉体を鋼並の硬さに硬化出来る」

 

と説明を始めた

 

王というのは、冬也の隣に立っている長い黒髪が特徴の男だった

 

格闘家らしく、鍛え上げられた肉体が服の上からでもわかった

 

「サーシャは高機動特化型で、能力は風を操ることだ」

 

と次に指し示したのは、王の隣に立っている肩で切りそろえられた銀髪が特徴の女性だった

 

防具は最低限で、両手と両足に手甲と脚甲を付けているだけ

 

「アランは魔法戦特化型で、能力は影の操作」次に指し示したのは、王とは反対側に立っている男だった

 

如何にも魔法使い然としていて、長い杖を持っている

 

「ノエルとクレアは特殊能力型でな。ノエルは音。クレアは反射を使う」

 

と指し示したのは、右側に並んだ双子の女性だった

 

双子らしく顔つきはよく似ているが、髪の色が片や金髪でもう片方は茶髪だった

 

「カイトは遠距離戦闘を得意としていて、能力は魔力吸収だ」

 

と指し示したのは、金髪の男性だった

 

背丈や肉体的には普通だが、背中に背負っているライフル型の武器が特徴的だった

 

「以上が、俺以外の六人の能力だな」

 

冬也はそう言うと、全員を見回してから

 

「何か、質問はあるか?」

 

と問い掛けた

 

すると、なのはが右手を上げながら

 

「魔力吸収って、どういう能力?」

 

と問い掛けた

 

冬也は頷くと

 

「敵からの魔力砲撃や魔力弾なんかを直接吸収する能力でな、有効なのは直接打撃くらいだ」

 

と説明した

 

冬也の説明を聞いて、ほとんどのメンバーは驚愕した

 

なにせ、その能力は事実上の魔導師封じだからだ

 

だが、そんな中でネギ達は冷静だった

 

「ふむ……魔力は通じないアルか……」

 

「だったら、気は通じないんですか?」

 

古菲が唸っていると、刹那が右手を上げながら問い掛けた

 

「どうだろうな……気の使い手が居なかったから、わからんな」

 

刹那からの問い掛けに、冬也は首を捻った

 

「そこらへんは、実地でデータを得るしかないかと」

 

「ですね」

 

茶々丸の言葉にネギは頷いた

 

「とりあえず、俺から言えるのは、こいつらは並大抵の実力者では勝てないということだ……なにせ、俺達は全員がオーバーSランクだ」

 

と冬也が告げると、はやて達は息を呑んだ

 

七人全員がオーバーSランク

 

もはや、それだけで戦争すら可能とも言える戦力である

 

だが、全員は表情を改めて

 

「私達全員が揃えば」

 

「勝てない理由はありません!」

 

「全力全開で!」

 

「挑むだけです!」

「だって、俺達は」

 

「チームなのだから!」

 

フォワード陣の六人が続けて言うと、冬也以外の隊長陣も頷いた

 

「一応後で、俺が持っていり六人のデータを提出する」

 

冬也がそう言うと、はやては頷いてから

 

「お願いな……それじゃあ、今日はここまでや。解散!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

はやての宣言の後、メンバーは解散した

 

それから少しして、海が見える高台

 

そこに、冬也は居た

 

冬也の腕にも近くにも夜叉の姿は無く、冬也は一人だった

 

すると、靴音が近づいてきた

 

冬也は振り向くことなく

 

「フェイトか……どうした」

 

と言った

 

すると、近づいてきた人物

 

フェイトは冬也の隣に立ち

 

「冬也さん……正直に答えてください」

 

と言うと、少し間を置いてから

 

「あの人達……六人の人達を助けたいんですか?」

 

と問い掛けた

 

すると冬也は、フッと笑ってから

 

「あいつらは既に、死んだ存在だ……助けることは不可能だよ……だからせめて、眠らせてやりたいんだ……これ以上、戦う必要は……あいつらには無いんだ……」

 

「冬也さん……」

 

冬也の話を聞いて、フェイトは悲しそうな表情をした

 

恐らくだが、本来は助けたいだろう

 

だが、死んだ存在はどんな手を使おうとも蘇ることはない

 

だからせめてもの情けで、安らかに眠らせてやりたいのだ

 

それがせめてもの、同じ存在として出来る唯一の供養なのだから……


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