魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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難産でした
ユーノとなのはの会話だけで、三千字近くですよ


慟哭と告白、そして……

機動六課 指令室

 

そこでは、メインスクリーンに映っている映像を、はやて達が真剣な表情で見ていた

 

「ガジェットⅡ型とドールの混成部隊か」

 

「はい。ですが、その数がかなり多く、更には速度も以前に比べて約二割程上がってます」

 

冬也の呟きを聞いて、シャーリーが振り向きながら教えた

 

すると、茶々丸が

 

「数はガジェットⅡ型が十二機編成×五で六十、ドールが軽く二百は居ます」

 

と、淡々と教えた

 

それを聞いたネギは軽く考えると

 

「この数から考えて、恐らくは性能試験といった所ですね」

 

と言った

 

それを聞いて、はやては頷き

 

「せやな、その可能性が高そうや。現場は広大な海のど真ん中で、周囲からはレリックらしき反応もあらへん」

 

と言いながら、メインスクリーンを睨んだ

 

メインスクリーンには、一定の範囲を旋回しながら高速で飛んでいるガジェットとドールが映っている

 

すると、はやての近くに立っていたグリフィスが

 

「性能試験もあるでしょうが、偵察ということも考えられます」

 

と言ってきた

 

それを聞いた当麻が

 

「それだったら、あんまし戦力は出さないほうがいいんじゃねえか? スカリエッティにこっちのデータを渡すみたいなもんだろ」

 

と言った

 

はやてはそれを聞くと、机の上で両手を組んで唸りだした

 

「そうなると、なのはちゃんやフェイトちゃんは出せへんなぁ……恐らく、スカリエッティとしては二人が気になるはずや」

 

と言うと、頭を掻いた

 

すると、それを聞いた冬也が

 

「だったら、出撃するのは俺とネギ君だけにしよう」

 

と言い、それを聞いたはやて達は驚愕した

 

そんなはやて達を無視して、ネギが口を開いた

 

「スカリエッティの目標が機動六課の偵察なら、最低限の戦力で対処するべきです。しかも、今まで使っていた技で」

 

ネギの言葉を聞いたはやては、数秒間悩みため息を吐いて

 

「確かに、それが良さそうや……」

 

と呟いた

 

すると、それを聞いたフェイトが

 

「はやて! たった二人じゃ!」

 

と非難じみた声を上げながら、はやてに迫った

 

すると、はやては片手を上げてフェイトを制して

 

「ただし、二人だけというのは許可できへん。故に、予備戦力として、フェイトちゃんとヴィータも同伴や」

 

と言った

 

すると、なのはが首を傾げて自身を指差しながら

 

「はやてちゃん……私は?」

 

と問い掛けた

 

すると、はやてはキッとなのはを睨み

 

「ヴィータから聞いとるで、なのはちゃん。最近、夜遅くまで起きとるそうやないか」

 

と言うと、なのははスッと目を逸らして

 

「な、なんのことかな?」

 

と白を切るが、フェイトが首を振って

 

「なのは、最近、ずっと訓練メニューを考えてるよね? 一時過ぎまで」

 

と言うと、ネギが

 

「なのはさん……それで朝早く起きてるんですよね?」

 

と問い掛けた

 

「はい。だいたい、5時過ぎには訓練場に居ますね」

 

ネギの問い掛けに、茶々丸が淡々と答えた

 

その答えに、ほぼ全員の非難めいた視線がなのはに集中した

 

なのはは必死に視線を逸らしているが、体は震えている

 

すると

 

「いや、別に一日二日くらい寝なくても大丈夫だろ」

 

と冬也が言った

 

その冬也の言葉を聞いて、全員の驚愕した顔が向けられた

 

「冬也さん……まさか……」

 

フェイトが恐る恐るといった様子で聞くと、冬也は

 

「一週間寝ずに、連続で戦い続けたことなら、何回もあるな」

 

と、まるで何でもないように答えた

 

それを聞いた全員は、ビシリと固まった

 

「敵の数が多くてな、殲滅するのに手間取った」

 

と冬也は淡々と言うが、他のメンバーは固まったままだった

 

すると、いち早く回復したはやてが手を叩いて

 

「ま、まぁ……出撃するのは、ネギ君と冬也はん。それに、フェイトちゃんとヴィータで決まりや。なのはちゃんは絶対に、出撃したらあかん。ええな?」

 

と告げた

 

すると、なのはは不満そうにしながら

 

「了解……」

 

と返答した

 

その後、冬也以外の隊長陣が退出すると、冬也ははやてに近付いて

 

「はやて、ユーノを呼んでおいてくれ」

 

と言った

 

「ユーノくんを?」

 

はやてが首を傾げて聞くと、冬也は頷いて

 

「なのはとユーノは話し合うべきだよ、手遅れになる前にな」

 

と言うと、指令室から退出した

 

それを聞いたはやては、数秒間悩むと通信画面を開いた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

機動六課 ヘリポート

 

そこでは、機動六課の前線要員が全員集まっていた

 

そして、冬也が到着すると、冬也とネギ、フェイトとヴィータがヘリに乗り込んだ

 

ヴァイスは四人が乗り込んだのを確認すると、後部ハッチを閉鎖してヘリを飛び立たせた

 

ヘリが飛び立つと、新人達はなのはが乗っていないのを驚いていた

 

「今回、私は待機組の指揮でね。皆と一緒に残ることになったの」

 

全員の視線に気づいたなのはがそう言うと、新人達は納得した様子で頷いていた

 

すると、ドアが開く音がして

 

「ここに居た、なのは……」

 

という、若い男の声が聞こえてなのはは驚いた様子で振り向いた

 

そこに居たのは、金髪翠眼の男性だった

 

「ユーノくん……」

 

その人物は、無限書庫司書長のユーノ・スクライアだった

 

ただし、ユーノは少し腰をさすっていた

 

話は、冬也が退出した後まで遡る

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

はやては通信画面を開くと、口を開いた

 

「ユーノくん、()るか?」

 

はやてが呼びかけると、画面に逆さまになっているユーノが映り

 

『居るよ、どうしたの? はやてが通信をしてくるなんて、珍しいね』

 

ユーノはそう言いながら、手を動かしている

 

彼が居る無限書庫は、その名の通りに無限に広がっており、その空間内は無重力になっているのだ

 

そのために、空間に浮く形になるので時折、通信画面が開くと上下逆さまとかもあるのだ

 

「いやなぁ……ちょっと悪いんやけど、今すぐにこっちに来れないかな?」

 

はやてがそう言うと、ユーノは訝しむような目をして

 

『あのね、僕が無限書庫を離れるわけにはいかないのはわかってるでしょ? そんな無理を聞けるわけが』

 

とユーノが抗議気味に言っていると、画面下にオレンジ色の耳が映り

 

『OK、今からそっちに送るな』

 

という声が聞こえた

 

その声を聞いたはやては、少し驚いた様子で

 

「おろ、アルフ、()ったんか?」

 

と問い掛けた

 

すると、画面に少女形態のアルフが映り

 

『うん、今日はリンディ母さんに頼まれて、無限書庫の手伝いに来てたんだ』

 

と言うと、アルフはユーノに振り向いて

 

『ユーノ……あんたこの間から少し上の空だったじゃないか』

 

と言った

 

『いや、そうかもしれないけどね。僕がここを離れるわけには……』

 

とユーノが抗議していると、アルフはユーノの頭を両手で掴み

 

『問答無用』

 

と言ってから、顔をはやてに向けて

 

『それじゃあ、今から送るな』

 

と言った

 

すると、画面向こうからオレンジ色の光が溢れてきて

 

『ちょっとアルフ!? 僕はまだ!』

 

ユーノが慌てた様子で反論しようとするが、次の瞬間には消えて

 

「あ痛っ!?」

 

はやてから少し離れた地点に、ユーノが落ちてきた

 

『それじゃあな~。後は頼むな、はやて』

 

「ありがとうな、アルフ」

 

はやてが返答すると、通信画面が閉じた

 

通信画面が閉じたタイミングで、ユーノが立ち上がり

 

「あ痛たたた……アルフは乱暴なんだから」

 

と言いながら腰をさすると、視線をはやてに向けて

 

「で、呼んだ理由はなに?」

 

と問い掛けた

 

そして、はやては呼んだ理由を告げるとなのはの居場所を教えたのだ

 

場所は変わり、戦闘区域

 

そこでは、ヘリから冬也とネギが出撃した

 

「ネギ君。後衛は任せる」

 

「わかりました!」

 

冬也の言葉を聞いて、ネギは止まると右手を突き出して

 

「解放、魔法の射手、雷の1001矢!」

 

数えるのが馬鹿らしい程の矢を発射した

 

その矢は広範囲に広がり、複雑な軌道を描きながらガジェットやドールに殺到した

 

冬也はその矢の中を複雑な三次元機動をしながら、高速で切り込んでいった

 

それをヘリから見ていたフェイトとヴィータの二人は、固まっていた

 

「ねえ……ヴィータ。あの矢の中をあんな機動できる?」

 

フェイトが問いかけるとヴィータは首を振って

 

「無理だ……ある程度は操作出来るみたいだが、基本的には自動だから、下手に動いたら直撃を食らう」

 

と言うと、フェイトは頷いて

 

「だよね……しかも、ネギ君の魔法は非殺傷設定がないから……」

 

「一発食らうだけで、下手したら死ぬ」

 

そう話している二人の視線の先では、再びネギが魔法の射手を発射して、その弾幕の中を冬也が飛びながら刀を振るっていた

 

それはまさしく、圧倒的の一言だった

 

ガジェットやドールも反撃してくるが、二人はそれを難なく避けては撃破していった

 

その光景はもはや、一方的な蹂躙である

 

「てか、冬也の奴は後ろに目でもあるのか? なんで、あんな簡単に後方からの攻撃を避けられるんだ?」

 

「デバイスの警告だけじゃ、説明つかないね……」

 

そう言ってる二人の視線の先では、今まさに、冬也が後方からの狙撃を回避した所だった

 

更には、ネギが放った魔法の射手を体を捻って避けて、避けた矢は冬也の前に居たドールを吹き飛ばした

 

(これが、経験の差なのかな……)

 

フェイトは二人の無事を祈りながら、拳を握った

 

場所は変わり、機動六課敷地内の一角

 

そこでは、ユーノとなのはが二人並んで立っていた

 

どれほどの間、そうしていただろうか

 

なにか決意したのか、二人は同時に口を開いた

 

「「あの……」」

 

二人はそこで再び、黙ると互いの顔を見て

 

「なのはからどうぞ」

 

「ううん、ユーノ君から」

 

と二人して譲り合い、それが数回続くと

 

「「ぷっ……あははは……」」

 

と、揃って笑った

 

そして、少しの間笑い続けると

 

「こんなの……僕達らしくないね」

 

「そうだね……」

 

と二人は、互いに体を向けた

 

「それじゃあ、僕から話すね」

 

「うん……」

 

ユーノはなのはが頷いたのを確認すると、軽く深呼吸して

 

「なのは……十年前、なのはを巻き込んで……ごめん」

 

ユーノはそう言いながら、頭を下げた

 

「ユーノ君……」

 

「あの時、僕がなのはを魔導士にしたから、なのはに大怪我を負わせた……」

 

ユーノのその言葉を聞いて、なのはは首を振りながら

 

「違うよ! あれは、私が無茶をしたから!」

 

と言うが、ユーノはなのはの両肩に手を置いて

 

「僕が、きちんと攻撃魔法の練習をしていれば、解決できたかもしれないんだ!」

 

とユーノは涙を堪えながら、声を張り上げた

 

「そうすれば……なのはを巻き込まずに済んで……なのはが大怪我をせずに済んだんだ……」

 

それは、ユーノの心の慟哭だった

 

ユーノが俯いていると、なのはが

 

「あのね、ユーノ君……私ね……魔法に出会えて、良かったって思ってるんだ」

 

と優しく語った

 

「なのは……」

 

「ユーノ君に会えたから魔法に出会えて、フェイトちゃんやはやてちゃんと会えた……そして、今ここに居るの」

 

「なのは……」

 

そこでなのはは一旦口を閉じ、数秒間、間を置いた

 

「あのね、ユーノ君……私が無茶した理由はね……一人になりたくなかったからなんだ」

 

「一人になりたくなかったから……?」

 

ユーノがオウム返しに言うと、なのはは頷き、ポツリポツリと語り出した

 

それは、ユーノと出会うより更に前

 

なのはが六歳くらいの時だった

 

この時、父士郎が護衛の仕事で大怪我を負い意識不明になってしまった

 

しかも、その時期は折悪く、母の桃子が喫茶店を開業したばかりで、なのは以外の家族は忙しかった

 

その結果、なのはは一人になってしまった

 

しかもなのはは、幼いながらも家族が忙しいとわかっていた

 

だから、迷惑にならないようにと、わがままを言わず、周囲から見たら良い子の形で、一人で遊んでいた

 

それは、士郎が目覚めるまで続いた

 

その時になってようやく、高町家はなのはの異変に気づいた

 

わがままを言わず、明るい良い子のなのは

 

それに気づいた高町家は、それ以降は団欒を大切にするようにした

 

だがそれでも、なのはの中には孤独感が残っていた

 

誰かに必要とされたい。一人になりたくない

 

この思いが、なのはの中にくすぶっていた

 

そして、その思いが残ったままなのはは育ち、魔法に出会い、フェイトやはやて達に出会った

 

だがある意味、それがいけなかった

 

魔法があれば、誰かに必要とされる。一人にならなくって済む

 

そんな考えが、なのはの中に出来てしまった

 

だからなのはは、言われた指令を一切拒否せずにこなし続けた

 

この時なのはは気づいてなかったが、なのはの体は短期間で続いた激戦の疲労がたまっていた

 

そこにきて、度重なる任務により、更に疲労がたまり、その結果、あの事件が起きてしまった

 

そして、医師から告げられた残酷な宣告

 

その宣告を聞いたなのはは恐怖した

 

飛べなくなったら、必要とされなくなる、一人になってしまう

 

それが怖くて、なのはは必死にリハビリした

 

周囲の人達が止めるのを無視してまで、リハビリし続けた

 

その甲斐あり、なのはは再び飛べるようになった

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「そして、今に至るってわけ……」

 

短いようで長いなのはの独白を聞いて、ユーノは白くなる程に拳を握りしめていた

 

(なんで気付かなかったんだ、僕は……っ!)

 

この時、ユーノの中にあったのは、自分に対しての怒りだった

 

ユーノはなのはが強くなっていくにつれて、自分は必要ないんじゃないのか? と思っていった

 

それは事件を解決するたびに強くなり、更にはフェイトやはやての二人が近くに居たことが拍車をかけた

 

そして、事件がきっかけとなり、ユーノはなのはと距離を取ってしまった

 

二人が居るから、僕が居なくてもなのはなら大丈夫だ。と

 

そしてユーノは知らなかったが、フェイトとはやての二人もミスをしていたのだ

 

二人は確かに、なのはを心配した

 

だが、なのはならば大丈夫だろうと思い、そんなに近くに居なかったのだ

 

それが更に、なのはの孤独への恐怖を後押ししてしまったのだ

 

ユーノはそれを察して、どうすればいいのか、必死に考え始めた

 

(どうする! どうすればいい!? いや……そんなの、決まってるよね……)

 

ユーノは決心すると、なのはを見つめた

 

「酷いよね……みんなは心配してくれたのに、私は自分のことだけ……だからね、ユーノ君……ユーノ君は気にしな」

 

なのはがそう言いながら顔をユーノに向けた瞬間、ユーノはなのはを抱きしめた

 

「ゆ、ユーノ君……?」

 

いきなり抱きしめられたなのはは、呆然とした様子で声を掛けた

 

「ごめんね、なのは……気づいてあげられなくて……」

 

「ユーノ君……?」

 

なのはが再び問いかけると、ユーノは強く抱きしめながら

 

「今まで、そばに居なくてごめん……離れてごめん……これからは、そばに居るし、なのはを支える……だから、もういいんだ」

 

その言葉を聞いた瞬間、なのはの目から涙が零れた

 

「あ、あれ……なんで?」

 

なんで涙が出てくるのかわからないのか、なのはは困惑していた

 

「寂しかったよね……怖かったよね……今は、泣いていいんだ……」

 

ユーノがそう言うと、なのははクシャリと顔を歪めて、ユーノに抱きついた

 

「ユーノ君……うわぁぁぁ……!」

 

それは、なのはが人前で初めて見せた涙だった

 

ユーノはなのはが泣いてる間、ずっと優しく頭を撫でていた

 

しばらくして、なのはは泣き止んだ

 

そして落ち着いたのか、なのははユーノに視線を向けて

 

「いいの、ユーノ君……私、こうなったらとことん甘えちゃうよ?」

 

と問い掛けた

 

すると、ユーノは頷いて

 

「いいよ。今まで、寂しい思いをさせてたんだ」

 

そう言いながら、再びなのはを抱きしめた

 

「ユーノ君……ありがとう……大好き」

 

「僕も大好きだよ、なのは……」

 

二人はそう言うと、互いの顔を見つめてから、唇を重ねた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

数時間後、深夜

 

機動六課の駐車場にフェイトの車が止まった

 

「ふぅ……すっかり遅くなっちゃった……」

 

フェイトは車から降りるなり、そう零した

 

冬也とネギの二人が敵を殲滅すると、フェイトは回収班が回収した残骸の検証に立ち会っていたのだ

 

それが終わって、帰ってきたのが今だった

 

「食堂、まだ開いてるかな……さすがに、お腹が空いちゃった……」

 

フェイトがそう言いながら、隊舎に向かおうとした時

 

「あれ?」

 

視界の端に、人影が見えた

 

そちらに顔を向けると、冬也が隊舎から出てきたところだった

 

「冬也さん……?」

 

冬也はフェイトに気づくことなく、どこかへと歩き出した

 

「どこに行くんだろ……」

 

気になったフェイトは、後を追った

 

そして着いたのは、海が見える崖だった

 

冬也はそこで立ち尽くしていると、夜叉を腕から外して

 

「夜叉、人型形態」

 

と言いながら、空中にほうった

 

《了解》

 

夜叉が短く返答した直後、夜叉が光り輝いた

 

そして現れたのは、一人の少女だった

 

それを見たフェイトは、思わずまばたきをした

 

(あれ……? 冬也さんのデバイスは、インテリジェントの筈……ユニゾンじゃないよね?)

 

とフェイトが首を傾げていると、冬也が

 

「やはり、その姿なんだな」

 

と溜め息混じりに言い、少女が

 

「はい、マイスターが私の基ですから」

 

と言った

 

その少女の見た目は、大体十代前半で、軽くウェーブの掛かった茶髪にセルフレームのメガネを掛けている優しい雰囲気だった

 

(マイスターってことは、開発者? それが、あの姿の人?)

 

とフェイトが困惑していると、冬也が

 

「夜叉、アレを出してくれ」

 

「はい」

 

冬也の願いを聞いて、夜叉は両手を掲げた

 

すると、二人の前に一枚の写真が表示された

 

そこに写っているのは、七人の男女だった

 

(真ん中に居るのって、少し若いけど、冬也さんだ)

 

フェイトがそう思っていると、冬也が手を伸ばして

 

「クレア、ノエル、(ワン)、カイト、アラン、サーシャ……とうとう、俺だけになってしまったな……」

 

と冬也は呟いてから、空を見上げた

 

「死ぬ時は共に、同じ戦場で、と誓ったのにな……だが、すまん……まだそちらには行けそうにない。あの男を……ロンドを……殺すまではな……」

 

最後の言葉に純粋な殺意を感じて、フェイトの背筋に悪寒が走った

 

数秒後、冬也は唐突に振り返った

 

それを見たフェイトは、慌てて木陰に隠れた

 

「さて、そろそろ戻るか……夜叉」

 

「すいません、主。久しぶりにこの形態になったので、もう少し夜風に当たりたいと思います」

 

「そうか、わかった。きちんと戻ってこいよ?」

 

「わかっております」

 

というやり取りの後、冬也がフェイトの近くを通り過ぎた

 

(何時もだったら気づく距離なのに、気付かなかった……疲れてるのかな?)

 

と冬也の背中を見送りながら、フェイトが一人考えていると

 

「フェイトさん、いらっしゃるんでしょう? こちらへどうぞ」

 

と突然呼ばれて、フェイトは驚きながら振り向いた

 

すると、人型形態の夜叉が微笑みながら、おいでおいでとしていた

 

フェイトは数瞬悩むと、木陰から出て夜叉に近寄った

 

「この姿で会うのは、初めてですよね? 改めまして、夜叉です」

 

夜叉が自己紹介すると、フェイトは軽く会釈して

 

「人型になれたんだね……驚いたよ」

 

と言った

 

すると、夜叉はクスクスと笑いながら

 

「そうでしょうね……恐らくでしょうが、現在では私だけかと思います」

 

と言った

 

そんな夜叉を見ながら、フェイトは内心で首を傾げた

 

(まるで、本当の人間みたい……感情表現も豊かだし、声も機械音声じゃない……)

 

フェイトがそう考えながら見つめていると、夜叉が

 

「不思議ですか? まるで、人間みたいで」

 

フェイトの思考を読んだように、問い掛けた

 

するとフェイトは、慌てて

 

「あ、いやあの……姿もそうだけど、感情表現が豊かだし、声も機械音声じゃないから……」

 

と言うと、夜叉が

 

「それはそうです。私は、マイスターの姿や思考がベースになってます」

 

「マイスターってことは、開発者さんだよね? その開発者さんは?」

 

フェイトが問いかけると、夜叉は俯いて

 

「マイスターの雪音(ゆきね)様は……七年前に殺されました」

 

夜叉の言葉を聞いて、フェイトは固まった

 

「殺……された……?」

 

「はい……主の目の前で……」

 

「っ……!」

 

夜叉のその言葉を聞いて、フェイトは歯噛みした

 

そこから察するに、冬也は失う悲しみを知っている

 

それを思うと、フェイトは胸が締め付けられる思いがした

 

「主達を人間扱いしてくれた唯一の方だったのですが……」

 

呟くように言った夜叉の言葉を聞いて、フェイトは嫌な予感がした

 

「待って……それって、どういう意味?」

 

フェイトが問いかけると、夜叉は悲しそうに

 

「主達は……人間を基に作り上げられた……生態兵器です……」

 

という、衝撃的で悲しい事実を告げた


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