魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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書いてる最中、若干トラウマが発症しかけやした……
武……よく、頑張った


英雄の過去 S・T編

「なのはさんの……教導の意味?」

 

スバルがそう呟くと、なのはが頷いて、なのはの隣に座っていたシャーリーが投影式キーボードを叩き出した

 

そして、新人達の前にウィンドウが開き映っていたのはどこかの学校の教室だった

 

それを確認すると、なのははポツポツと語り出した

 

今から十年前に起きたジュエルシード事件

 

その映像で、幼いフェイトが映るとエリオとキャロが驚いていた

 

「そんな、フェイトさん!?」

 

「なんで!?」

 

エリオとキャロが驚愕の声を出すと、シャーリーが頷いて

 

「当時、フェイトさんの家庭環境は複雑でね……何回かなのはさんと敵対したんだって」

 

そして、新人達は続いて映像を見て息を呑んだ

 

「集束砲!? こんな大きな!?」

 

「そんな……集束砲はただでさえ、負担が大きいのに、こんな小さな子供が……」

 

その映像では、大人ですら余裕で包み込むほどの巨大な砲撃を放つなのはが映っていた

 

その映像を見て、ティアナも息を呑んでいた

 

そして映像は進み、ヴィータやシグナムが映った

 

「シグナム副隊長にヴィータ副隊長まで!?」

 

と武が驚いていると、なのはが頷いて

 

「うん、シグナムさんやヴィータちゃんが深く関わった通称、闇の書事件。その最初の戦いで、私はヴィータちゃんに負けたんだ」

 

なのはの言う通り、その映像でも、なのははヴィータの一撃でレイジングハートが壊れ、バリアジャケットも破られていた

 

「その理由が、今なのはさんも使っているベルカ式カートリッジシステムなんだ」

 

とシャーリーが説明して、ウィンドウにもそのカートリッジシステムが拡大された

 

「そして私とフェイトちゃんは、シグナムさん達に勝つために、当時はまだ安全性が確立されてなかったベルカ式カートリッジシステムを搭載したの」

 

なのはの言葉に同調して、映像でも新しくベルカ式カートリッジシステムを搭載したレイジングハートとバルディッシュが起動していた

 

「カートリッジシステムを搭載したことで、なのはさんはシグナムさん達と互角以上に戦えるようになって事件は解決……だけど、そんな無茶をやって体に負担が掛からないわけがなかった……」

 

シャーリーはそう言いながら、キーボードを叩いた

 

そして、全員の見ていた画面に映りだしたのは、一面雪の世界だった

 

「短い期間での激戦の数々、安全性の低かったシステムの使用……そんな無茶をし続けた結果、私の体には披露が蓄積してね……ある日の戦いで、私の体は動かなくなっちゃって……」

 

なのははそこまで言うと、辛い顔をして口をつぐんだ

 

それを見たシャーリーは、なのはの気持ちを思ったのか

 

「その結果が……これ」

 

となのはの代わりに、ある映像を見せた

 

そこに映っていたのは、体中を包帯に巻かれてベッドに横たわっているなのはの姿だった

 

その映像を見て、新人達は全員目を見開いて固まった

 

心中では、あのなのはが落とされるなんて……と

 

「この時のケガが原因で、魔導士の命と呼べるリンカーコアに傷がついて、二度と飛べないかもって、医師に言われて、なのはさんは必死にリハビリをしたの」

 

そう言いながらシャーリーが再び操作して、映像が変わった

 

そこに映っているのは、歯を食いしばってリハビリをしているなのはだった

 

倒れて看護士が駆け寄るが、なのははそれを手で制して立ち上がった

 

その姿はあまりにも悲壮感で満ち溢れており、止めたくなるのも仕方なかった

 

その光景を見て、新人達は何も言えなかった

 

それで映像は終わりだったのだろう

 

ウィンドウが閉じて、それをなのはは確認すると目を閉じて

 

「確かにね……時には守るために無茶をすることも必要かもしれないけど、ティアナ」

 

なのはがティアナを呼ぶと、ティアナの肩が震えた

 

「ホテルアグスタでの誤射はさ……スバルを危険にしてまでも、無茶する必要はあった?」

 

そうなのはが問い掛けると、ティアナは目を見張って固まった

 

そして、なのはからの問い掛けにティアナが答えられないまま、その時間は終了した

 

十数分後、ティアナは海の見える高台のへりに一人で座っていた

 

座っているティアナの手には、拳銃形態のクロスミラージュがあった

 

ティアナがクロスミラージュを見ながら歯噛みしていると、足音が聞こえて

 

「隣、座るね」

 

と、なのはが座った

 

「なのはさん……」

 

ティアナがなのはを見ると、なのはは微笑んだ

 

「ごめんね、私の教導が地味で」

 

となのはが謝ると、ティアナは慌てて

 

「違います! あれは私が勝手に!」

 

と言うと、なのははティアナの頭に手を置いて

 

「私みたいに無茶しないで頑張れるようにって、基礎を重視して訓練してたんだけど、それが仇になってたね」

 

と言うと、ティアナは俯いた

 

「それに、非才ってティアナは言うけどね、それ間違ってるよ?」

 

なのはの言葉を聞いたティアナが顔を向けると、なのはは人差し指を立てて

 

「ティアナの歳と階級で、あの視野の広さと幻術を使えるなんてそうないよ?」

 

となのはが言ったタイミングで、新たに足音が近づいてきて

 

「そうだぜ、ティアナ」

 

座っていた二人が視線を向けると、そこには武が居た

 

「武……」

 

「武くん……」

 

二人が名前を呼ぶと、武はなのはの反対側に座った

 

「お前の視野の広さからくる的確な指示に、幻術を使った支援。前線の俺達にとっては頼りあるんだよ」

 

と武が言うが、ティアナは辛そうに

 

「でも、私は武みたいには……」

 

と呟いた

 

すると、武は空を見上げて

 

「俺みたいにか……」

 

と呟いてから、二人に視線を向けて

 

「まず、二人に言うことがある。俺は見た目通りの年齢じゃない」

 

と言うと、二人は首を傾げた

 

「それって、どういう意味かな?」

 

となのはが聞くと、武は鼻頭を掻きながら

 

「俺は前の世界で、何回かループしたんです」

 

「ループした……?」

 

武の言った意味が分からないのか、ティアナが訝しんだ

 

「俺は軍人と言いましたが、更に元を言えば、普通の学生だったんです。それがある日、違う世界に、パラレルワールドに飛んだんです」

 

「パラレルワールド……」

 

なのはが呟くと、武は頷いて

 

「俺の住んでた横浜は廃墟になっていて、通っていた学校のあった場所は基地になってました。俺はそんな世界を認められなくて、偶然にも残ってた家に籠もってました。だけどある日、俺の家に軍人が押し掛けてきて、俺は捕まり、基地に連行されました」

 

「なんで、連行されたの?」

 

なのはが問い掛けると、武は表情を変えずに

 

「後になってわかったんですが、その世界の俺は死んでたんです」

 

「死んでた?」

 

武の言葉を聞いたティアナが驚いた様子で首を傾げると、武は頷いて

 

「ええ、これもまた後でわかったんですが、その世界の俺は幼なじみを守ろうと敵に素手で殴りかかって、噛み殺されたらしいです」

 

武の言葉を聞いたティアナはその光景を想像してしまったのか、顔を逸らした

 

すると、なのはが武を見つめて

 

「その敵っていうのは、前に武くんと冥夜ちゃんが言ってたBETAなの?」

 

と問い掛けた

 

すると武は、感情が入り乱れた複雑な表情を浮かべて

 

「ええ……その地球の人類はBETAと30年以上もの長きに渡って、絶望的な消耗戦を強いられてました。開戦直後は60億居た人類は30年の間に10億人にまで減少、ユーラシア大陸はそのほとんどをBETAに支配されました」

 

「たった30年で……」

 

「そんなに……」

 

武の話を聞いて、二人は絶句していた

 

以前出張で行った地球の並行世界では、そんなことになっているとは思わなかったらしい

 

「俺はその世界で生き残るために、国連軍横浜基地の訓練生になりました。そこで、冥夜達に出会いました。とは言っても、元の世界ではクラスメイトでしたが……訓練生になった俺は最初、全員の足を引っ張ってばかりでした。けどそれでも、全員で頑張って様々な事を乗り越えました。そして、訓練生になって約2ヶ月後の12月24日、基地司令から解散を言い渡されました」

 

「なんで?」

 

武の予想外の言葉を聞いて、なのはは問い掛けた

 

「詳しい話はわからなかったんですが、夕呼先生、あ、副司令に聞いたら、国連軍上層部がオルタネイティブ計画を日本が主導の第四計画からアメリカが主導の第五計画に移ったからでした」

 

「オルタネイティブ計画?」

 

ティアナが問い掛けると、武は指を立てて

 

「国連が提案した対BETA計画です。最初は初めて確認された地球外生命体に対してのコミュニケーションでしたが、BETAが侵攻してきたのに合わせて、第二計画に移行しました。しかし、第二も上手くいかずに第三へ移行。その第三計画で、ある事実が判明しました」

 

「ある事実?」

 

なのはが問い掛けると、武は視線を上に向けて

 

「BETAは……人類を生命体と見てなかったんです」

 

武の言葉を聞いて、なのはとティアナは目を見開いた

 

「人類を……生命体として見てない?」

 

「なんで!?」

 

ティアナは呆然として、なのはが詰め寄るように問い掛けた

 

「これは、間接的に俺が問い掛けたんですが、BETAにとって生命体と呼べるのは、ケイ素を自己生成、自己増殖させられる存在らしいです。俺達みたいに炭素を中心とした生命体は機械と同じみたいです」

 

「ケイ素って、シリコン?」

 

なのはが問い掛けると武は頷いて

 

「ええ、炭素は加工しやすいから、生命体になるのは有り得ない。と言われましたよ」

 

と言うと、なのはとティアナは唇を固く結んだ

 

すると武は、頭を掻いて

 

「まあ、そこは飛ばして……俺は何回もループして、ある時、つっても、感覚としては二回目だったんですが、俺は歴史を変えることが出来たんです」

 

「歴史を変えた……」

 

なのはの呟きに武は頷いて

 

「ええ、俺の知らない事件が起きて、俺は決断を迫らせられましたが、決断出来ず、味方を窮地に陥らせてしまい、最終的には、援軍として来てくれたアメリカ軍が全滅しました」

 

「アメリカ軍が全滅!?」

 

武の言葉を聞いて、なのはは驚愕していた

 

「なのはさん、アメリカ軍というのは?」

 

ティアナが問い掛けると、なのはは呆然としながらも

 

「アメリカ軍っていうのは、地球では世界最強と言われてる軍隊なの。人数、装備、練度、どれを取ってもトップの……」

 

と説明すると、武が頷いて

 

「それは俺の居た世界でも、ほとんど一緒です。しかも、そのアメリカ軍が運用していたのは、対人戦を重視して作られた世界最強の戦術機でした。ですが、それをクーデター軍は一対一で撃破。そのクーデター軍のリーダーは俺達に随伴していた帝国近衛軍が撃破。それにより、クーデターは終結しました」

 

そこで武は一呼吸置くと、再び口を開いた

 

「その事件の功績があって、俺達は訓練生を卒業。晴れて正規兵になれました。そして、俺達の最初の任務は新概念OSの有効性実証の模擬戦でした」

 

そこで武は一旦区切り、大きく深呼吸した

 

「その模擬戦で、俺達はベテランに対して圧倒的に勝ちつづけました。しかし、その模擬戦の最中、基地にBETAが現れました」

 

「BETAが!?」

 

「なんで!?」

 

なのはとティアナが声を張り上げると、武は無表情に

 

「これは後に聞いたんですが、副司令の夕呼先生がワザと放ったんです。最前線の日本なのに、後方気分で腑抜けている幕僚と兵士達の気を引き締めるために」

 

武は説明するとまた区切って、俯きながら

 

「その戦いで俺は後催眠暗示と薬物投与があったとはいえ、錯乱状態に陥り、自分達の装備が模擬戦使用なのを忘れてBETAと交戦。一瞬の隙を突かれて、俺は撃墜されました」

 

撃墜されたという言葉を聞いて、なのはとティアナは目を見張った

 

恐らくは、武が撃墜されるという光景が想像出来なかったのだろう

 

武はそんな二人を無視して、話を続けた

 

「その後、BETA群は体勢を立て直した先輩方によってほとんどが掃討されました。そして俺は、大破した機体の前でうずくまってました。何のために訓練してきたのかと……その時、恩師が俺を励ましてくれたんです。俺はそれに感謝して、間違えてあだ名で呼んだことを謝ろうと振り返りました。そこには……」

 

そこまで言うと武は、辛そうに顔を歪めて口を噤んだ

 

その顔を見ただけで、二人はなにか起きたことを悟った

 

数秒後、武は重そうに口を開いた

 

「恩師が……生き残っていた小型種のBETAに頭を噛み殺されてました……」

 

その言葉を聞いて、なのはは手で口元を覆い、ティアナは固く目を閉じて顔を逸らした

 

「事情聴取が終わった後、俺はその世界から夕呼先生が開発した装置を使って元の世界に逃げ出しました……」

 

「それは仕方ないと思うよ……そんな辛すぎることを経験したら……」

 

武の話を聞いたなのはが励ますように言うと、武は頷いて

 

「そうかもしれません。ですが、俺は自分のことをちゃんと分かってなかったんです」

 

「……どういうこと?」

 

まだ若干顔の青いティアナが問い掛けると、武は涙を堪えるように目を閉じて

 

「俺が持ってきてしまった因果によって、元の世界の恩師がストーカーに殺されて……幼なじみが瀕死の重傷を負いました」

 

「そんな……」

 

「……っ!」

 

武の話を聞いて、二人は言葉を失った

 

逃げた先でも、再び恩師を失い、あまつさえ、幼なじみが瀕死の重傷

 

そんな悲劇を、誰が予想出来ようか

 

「それだけの被害を出して、俺はようやく逃げることをやめました。俺を縛っている因果と戦う覚悟を持って、俺は再び世界を渡って戦場に立ちました」

 

武はそこまで言うと、深呼吸して二人に視線を向け

 

「俺の話はここまでにしましょう。ティアナ」

 

呼ばれたティアナは、ゆっくりと武に視線を向けた

 

「俺は一人で解決しようと焦った結果、こうなってしまった。だけど、お前はまだ戻れる。お前は一人じゃないんだ。仲間が居る。仲間を頼れ……一緒に強くなるんだ」

 

「武……」

 

武はティアナの頭に手を置くと、なのはを見て

 

「それに恐らくだが、お前のために準備はしてあると思うぞ? なのはさん?」

 

武が問い掛けると、なのはは頷いて

 

「うん……ティアナ、クロスミラージュを貸してくれるかな?」

 

「あ、はい……」

 

言われたティアナは、クロスミラージュをなのはに渡した

 

「テストモード、リリース」

 

<了解!>

 

なのはが命じると、クロスミラージュが一瞬光った

 

それを確認すると、ティアナに返して

 

「言ってみて、モード2って」

 

と促した

 

促されたティアナは、クロスミラージュを構えると

 

「モード2……」

 

と呟くように言った

 

<了解、モード2!>

 

ティアナがモード2と言うとクロスミラージュが変形して、魔力刃を形成した

 

「これって……」

 

ティアナがそれを見て固まっていると、なのはが優しく語りかけた

 

「ティアナは執務官志望だからね、近接戦闘のこともきちんと考えておいたんだ」

 

なのはのその言葉に、ティアナは涙を浮かべて

 

「ありがとうございます……」

 

と感謝すると、大声を上げて泣き出した

 

その数時間後、機動六課の隊舎内に警報が鳴り響いた

 




長くなりそうだったので、ユーノとの話は次回に持ち越しです

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