魔法少女リリカルなのは 集う英雄達    作:京勇樹

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ホテルアグスタ編 その2

静かな森の中、高台からホテル・アグスタを見つめている二人組が居た

 

一人は、長い紫色の髪が特徴の小柄少女で、もう一人は左手に大きな籠手を装備した大柄の男だった

 

「あそこか……だが、お前の探し物は無いんだろ? ルーテシア」

 

と男性は少女、ルーテシアに聞いた

 

そのタイミングで、ホテルの方向から小さな銀色の虫

 

ルーテシアの召喚獣のインゼクトが飛んできて、ルーテシアの指先に止まった

 

ルーテシアは数秒間そのインゼクトを見つめると、男性に視線を向けて

 

「ドクターのオモチャが、近づいてきてるって……」

 

と、静かに告げた

 

その時、ホテルの屋上に佇んでいたシャマルのデバイス〈クラールヴィント〉が反応を知らせた

 

「っ! クラールヴィントのセンサーに反応! シャーリー!」

 

シャマルはすぐさま、そのデータを機動六課のロングアーチに送った

 

場所は変わり、機動六課ロングアーチ

 

「来た来た! 来ましたよー! って、なにこの数!?」

 

シャーリーは表示された敵を示す光点(ブリップ)見て、驚愕した

 

「陸戦Ⅰ型48……陸戦Ⅲ型23……ドールは……け、計測不能!!」

 

「なんだこの数は! 攻城戦でもやるつもりかよ!」

 

「各員に通達します。今回は防衛戦です。敵がホテルに攻撃しないように守ってください」

 

ルキノと千雨は敵の数に驚き、茶々丸は展開しているフォワード部隊に指令を通達した

 

場所は変わり、ホテル地下駐車場

 

そこには、シグナムを始めとしてライトニング分隊と狼形態のザフィーラが居た

 

「エリオ、キャロ、刹那の三人は地上に出ろ! ティアナの指揮でホテル前に防衛線を構築する!」

 

「「「はい!」」」

 

シグナムの言葉を聞いて、三人は頷いた

 

それを確認したシグナムは、ザフィーラに顔を向けて

 

「ザフィーラは私と共に迎撃に出るぞ!」

 

「……心得た」

 

シグナムの言葉にザフィーラが応えると、エリオとキャロは目を見開いて固まった

 

しかし、それも仕方ないだろう

 

ザフィーラは元来、無口な性格であり、しかも機動六課隊舎に居る時は大抵、狼形態でいるのである

 

「ザフィーラって喋れたの!?」

 

「びっくり……」

 

刹那は顔には出していないだけで、同じように驚いているらしい

 

「守りの要はお前達だ……頼むぞ」

 

「う、うん!」

 

「……頑張る!」

 

「お任せを」

 

ザフィーラの激励に三人は、各々返した

 

三人の返事を聞くと、ザフィーラとシグナムはヴィータと合流するために駆け出した

 

場所は変わって屋上

 

そこでは、状況整理と把握を終えたシャマルが通信画面を開いていた

 

「前線各員へ、状況は広域防衛戦です。ロングアーチ1の統合管制と合わせて、私、シャマルが現場指揮を執ります」

 

『スターズ3、了解!』

 

シャマルからの通信を聞いて、スバルはホテル内部から出るために駆け出していた

 

『ライトニングF、了解!』

 

ライトニング分隊はエリオが一括して返した

 

『アサルトF、了解!』

 

アサルト分隊は武が一括して答えた

 

『スターズ4、了解!』

 

ホテル周囲を警備していたティアナは、通信に答えながら魔力アンカーをホテルの壁に発射して高い位置に着地して

 

『シャマル先生! 私も状況を知りたいんです! 前線のモニター、もらえませんか?』

 

そうティアナが聞くと、シャマルは頷いて

 

「わかったわ、クラールヴィントのセンサーをクロスミラージュと直結するわね」

 

と返答すると、クラールヴィントを見て

 

「お願いね、クラールヴィント」

 

〈了解!〉

 

クラールヴィントの返事を聞くと、シャマルは白衣から若草色を基調とした騎士甲冑を展開した

 

そしてシャマルは、合流しているだろうシグナム達に念話を開いて

 

(シグナム、ヴィータちゃん。お願い!)

 

二人に出撃を促した

 

促された二人は頷いて

 

(おう、スターズ2、ライトニング2。出るぞ!)

 

ロングアーチに出撃する旨を伝えた

 

すると、ロングアーチでシャーリーが

 

「レヴァンティン、グラーフアイゼン。レベル2承認!」

 

シグナムとヴィータのデバイスのリミッターを解除した

 

それを聞いた二人は、待機形態の愛機を掲げ

 

「レヴァンティン!」

 

「グラーフアイゼン!」

 

それぞれの愛機の名を呼んだ

 

〈〈起動!〉〉

 

二人が名前を呼ぶと、レヴァンティンとグラーフアイゼンは二人の騎士甲冑を展開した

 

騎士甲冑を纏うと二人は、吹き抜けから空へと飛んだ

 

「新人達の所には一機たりとも行かせねぇ、全部ぶっ潰す!」

 

ヴィータの言葉を聞いて、シグナムは笑みを浮かべ

 

「お前も案外、過保護だな」

 

と言うと、ヴィータは顔を赤くして

 

「うるせえよ!」

 

と、恥ずかしそうに反論した

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「ここは通さん! ゼオォリャアア!」

 

ホテル西側では、ザフィーラが接近してきたガジェットやドールを〈鋼のくびき〉で串刺しにして

 

「纏めて、ブチ抜けーー!」

 

森の上空からは、ヴィータが複数個の鉄球を打ち出し、ドールやガジェットを貫通させ

 

「紫電……一閃!」

 

森の中では、シグナムがヴィータの鉄球をすり抜けたドールを剣ごと切り捨てていた

 

そしてそれを、ティアナと共にモニターで見ていたスバルは

 

「副隊長達とザフィーラ、凄ーい!」

 

と、目を輝かせながら言い

 

ティアナは

 

「これで、能力リミッター付き……っ!」

 

そう言いながら向ける視線は、戦ってる味方に対して向けるものではなかった

 

嫉妬と焦り

 

この二つの感情がティアナの心中で渦巻き、ティアナは悔しそうに拳を握った

 

場所は変わり、ホテル内部

 

(フェイトちゃん。主催者んはなんだって?)

 

(外の状況は伝えたけど……お客の避難やオークションの中止は困るから、時間を遅らせて様子を見るって……)

 

オークション会場に居るなのはが念話で聞くと、通路を歩いていたフェイトは表情は変えてないが内心で頭を抱えていた

 

(そう……)

 

(少しは期待したんだがな……やれやれ)

 

フェイトの言葉に、なのはは心中で嘆息して冬也はホテルの対応に額に手を当てた

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

場所は変わり、森の高台

 

そこから男性とルーテシアは戦闘を見ていた

 

すると、二人の前に通信画面が開いた

 

そこに映っていたのは、六課が追っている男のドクター・スカリエッティだった

 

『ご機嫌よう、騎士ゼスト、ルーテシア』

 

騎士ゼストというのが、男性の名前なのだろう

 

「ごきげんよう……」

 

「……何の用だ」

 

ルーテシアはいつものように、感情乏しく返答したが、ゼストは不快そうに問い掛けた

 

『冷たいねぇ。近くで見てるんだろう? あのホテルにレリックは無さそうなんだが、実験材料として興味深い骨董品が一つあるんだ。少し協力してくれないかね? 君達なら、造作もない事の筈なんだが……』

 

「断る……レリックが絡まぬ限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ」

 

スカリエッティからの願いをゼストはすぐさま、拒否した

 

しかし、それを予想していたスカリエッティは視線をルーテシアに向けて

 

『ルーテシアはどうだい? 頼まれてくれないかな?』

 

「……いいよ」

 

スカリエッティが聞くと、ルーテシアは僅かに間を置いて頷いた

 

ゼストとしては、スカリエッティのそういう所が気にいらなかった

 

スカリエッティは自分に頼んでも拒否するのを知ってるから、ルーテシアに頼む

 

そして、ルーテシアが拒否しないのも知ってる

 

そう考えるとゼストは、まるで自分がスカリエッティの手に遊ばれているようで嫌だった

 

『嬉しいな……ありがとう。今度ぜひ、お茶とお菓子をご馳走させてくれ。君のデバイス……アスクレピオスに私が欲しい物のデータを送ったよ』

 

「……うん」

 

ルーテシアが頷くと、スカリエッティは満足げに笑い

 

『では、よろしく頼むよ』

 

と言って、通信を切った

 

「……よかったのか? ルーテシア」

 

ゼストは魔法を使うためか、マントを脱ぎだしたルーテシアを見ながら問い掛けた

 

「……うん。ゼストやアギトはドクターを嫌ってるけど、私はそんなに嫌いじゃないから」

 

「そうか……」

 

アギトと言うのは、もう一人の同行者の名前なのだろう

 

どうやら、そのもう一人の同行者もゼストと同じようにスカリエッティが嫌いらしい

 

マントを脱いだルーテシアは、マントをゼストに預けるとキャロと同種のデバイスのアスクレピオスを装着した両手を広げて

 

「我は乞う。小さき者、羽ばたく者、言の葉に応え、我が命を果たせ……召喚インゼクトツーク」

 

呪文を唱えると、足下に魔法陣が広がり数本の触手が現れた

 

数秒後、その触手が弾けて中から夥しい数の銀色の虫が出現した

 

ルーテシアはその銀色の虫に視線を向けると

 

「ミッション、オブジェクトコントロール……いってらっしゃい……気をつけてね」

 

指令を伝えてから、銀色の虫群を見送った

 

 

この一手により、戦局は大きく動くことになる

 

 


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