レイとヴィヴィオの命懸けの鍛練は、ヴィヴィオの目を開花させた。
ヴィヴィオは元々、目がかなり良かった。
後は、切っ掛けさえあれば、春光拳で言う神眼の域に入れた。それをレイは気付いていて、少々荒療治的にだが鍛練でヴィヴィオの目を進化させたのだ。
「……ところでヴィヴィオちゃんや。今回の事は内緒な? 怒られるから」
「お、オス!」
何とも、締まらない終わり方だった。
そして、ヴィヴィオが先に部屋へ戻っていき、少しして
「そこに居るんじゃろ、緋村くんや」
とレイが言葉を発した。
すると、ある柱の影からスッと剣士郎が姿を見せた。
実は、ヴィヴィオとレイが鍛練を始めた時から居て、レイもそれに気付いていたのだ。
「して、ワシを非難するかな?」
「いえ……確かに方法は過激でしたが、貴方は確かにヴィヴィオを導いた……なら、俺は何も言いません……」
レイの問い掛けに、剣士郎はそう答えて自身の部屋の方に戻っていくが、最後にレイは
「緋村くん……困った事があったら、何時でも頼りなさい……」
と剣士郎に言葉を投げ掛けた。
「……ありがとうございます」
剣士郎はそれだけ言って、姿を消した。
翌日は道場の見学と書庫で本を読ませてもらったりして、気付けば帰る時間になり、駅に向かった。
「本当に凄いね、この子達」
「うん。お土産で荷物増えたのに」
帰りも荷物を虎達の鞍に載せたのだが、二頭は軽快に歩いている。
「だから言ったでしょ? ウチの猫は力持ちだって」
ヴィヴィオとコロナの言葉を聞いて、一頭の背に乗っていたリオがその一頭の頭を撫でながら言う。上機嫌なのは、誉められたのが嬉しいからかもしれない。
そして、駅に到着して
「今回は、ありがとうございました!」
『ありがとうございました!』
一行は、レイやリンナ達に感謝の言葉を言いながら頭を下げた。すると、レイとリンナが
「いやいや。都会の若者に春光拳を知ってもらえる良い機会じゃったからの。構わんよ」
「うん。また来てね」
と朗らかに告げた。
その後、リンナが用意したお土産も含めて、荷物を預けてから次元船に乗ってミッドチルダに帰った。
帰りの船の中では、子供達は寝ていたので終始静かであったが、子供達の中では例外的に、剣士郎とアインハルトの二人が起きていて
「……どうやら、何か掴んだようだな」
「ええ……ノーヴェさんのおかげで、断空拳が一段強くなりました……」
小さな声で会話している。恐らく、ヴィヴィオ達が起きないように気を使っているのだろう。
「そちらは、どうでした?」
「ふむ……刀に頼り過ぎていた、と分かった……もう少し、徒手空拳も鍛えないとな」
「それは……貴方は、抜刀術使いですから……仕方ないのでは……」
剣士郎の言葉に、アインハルトは思わずという感じで返した。確かに、剣士郎は抜刀術師だから、刀に頼るのは仕方ない事である。
「だが、緒王戦乱期もだが、今も武器を失ったら徒手空拳は当たり前だろ?」
「……その通りですね……」
二人共、緒王戦乱期の記憶を有している為に、緒王戦乱期の頃から武器を失ったら、素手で戦っていた事を知っている。
それを考えたら、やはり刀だけに頼り過ぎるのもどうかと思ったのだ。
「……少し、ノーヴェさんと話すかな……」
剣士郎はそう呟くと、目を閉じた。
そうして、一行が乗った船はミッドに帰還し、全員は無事に帰宅。
したのだが
「あらま……」
剣士郎の家たる小屋が、火事で燃えてしまったらしい。
「さて、どうしよう……作業小屋の方は無事だから、今日はそっちで寝るか……」
因みに、教科書等は学校のロッカーに全部仕舞ってあるので無事だった。
これからどうするか考えながら、剣士郎は作業小屋の中に入って就寝した。