春光拳道場から出て、十数分後。切り立った岩山。三岩窟の前に到着した。
「はい、ここが三岩窟です!」
『おー』
三岩窟の名前の通り、全員の前には三つの洞窟があった。それぞれ上に、心、技、力と彫られてある。
ノーヴェとリンナの二人は、その前に立ち
「それじゃあ、チーム別けするぞ!」
「よく聞いてな」
と今来ているメンバーを分けた。
力、リオ、アインハルト、ユミナ(非戦闘要員)
技、ミウラ、ヴィヴィオ、ミカヤ、シュエ
心、コロナ、タオ、イェン、オットー
となったのだが、ヴィヴィオが
「あれ、緋村先輩は……」
と剣士郎を見た。チーム別けに含まれていないからだ。すると、ノーヴェが
「緋村に関しては、技と心はこのチームの中では突出してる。そして力は……緋村はむしろ邪魔になる」
と剣士郎を見た。
確かに、剣士郎はチームの中ではかなり突出した技能と精神力を持っている。ならば、入る理由は無いだろう。
「それに、緋村には別にやってほしい事があるからな」
「分かりました」
洞窟に入っていくヴィヴィオ達を見送った剣士郎は、ノーヴェとリンナを見て
「つまりこれは、二人が用意した試練……って訳ですね?」
と確信した様子で、問い掛けた。
すると、ノーヴェとリンナが良い笑みを浮かべて
「やっぱり、緋村は気付くよな」
「だから、こっちに居てもらったんだしね」
と言って、それを聞いた剣士郎は嘆息した。
つまり、今回の三岩窟は最初からノーヴェとリンナの計画だという事である。
そして二人は、自分達の前にウィンドウを開いて
「さあ、どう頑張るか」
「お手並み拝見といこうか♪」
と黒い笑みを浮かべた。
「仲良いですね、ノーヴェさんとリンナさん」
「今日初めて会った筈なんですがね……」
剣士郎の言葉に、虎達の世話をしていたディードも首を傾げた。
最初は順調にそれぞれの道を行くヴィヴィオ達。
その中で、リンナが注目したのはミウラだった。
「あの子、間合いの取り方が極端だね」
「まあ今まで、遠いか近いかでしか戦った事なかったからね」
リンナの言葉に、ノーヴェは同意した。
確かに、大会でもミウラは近いか遠い距離から肉薄して戦ってきた為に、どうも間合いの取り方が極端になってしまったようだ。
その時
「ごきげんよう、皆様」
と声がして、振り向いた先には二人の少女。
アイリン・ハーディンとクレア・ラグレイトが居た。そんな二人を見て、リンナが
「ごめんね、アイリン。あのバカ共が呼んだみたいで」
とアイリンに謝罪した。だが、アイリンは笑みを浮かべ
「いえ、私も興味が有りましたし……それに」
と、一つのウィンドウを見た。そこには、少し怯えた様子のタオが映っている。
「タオに、謝りたいって思っていたので……」
その顔には、後悔が見える。どうやら、タオとアイリンの間で過去に何かあったようだ。
「さてと……そろそろ、アタシらが介入しようと思ってるけど……アイリンは誰に興味ある?」
リンナが問い掛けると、アイリンは一通り見てから
「私、この子達に興味が有ります」
とヴィヴィオとミウラを指差した。
「だろうと思った……さて、ノーヴェちゃん。変装しようか」
リンナはそう言いながら、何処からか化粧道具を取り出した。
「は? いやいや、変装位自分で」
「ノーヴェちゃん。素材は良いのに、化粧とか全然しないから勿体ないって思ってたんだよねぇ」
「趣旨変わってない!?」
リンナは何やら期待が籠った目をしながらノーヴェを捕まえ、ノーヴェは逃げようとするが
「はいはい、リンナさんにお任せー♪」
「あーれー!?」
リンナはノーヴェを難なく捕まえて、連行していった。
「随分と仲が良いですね……以前からのお知り合いですか?」
「いえ、今日初めて会ったのですが……」
アイリンからの問い掛けに、デジャブを感じるながらディードは返答した。そして、十数分後
「よし、出来上がり」
何処か満足そうなリンナに引っ張られて、化粧と服を着替えたノーヴェが現れた。普段のノーヴェが活発な印象を感じるが、今のノーヴェは少々ミステリアスな雰囲気だった。
「化粧と服で、大きく印象変わりますね」
「そうですね。ノーヴェ姉さま、普段から化粧をされたらどうですか?」
剣士郎は素直に感想を述べて、ディードは化粧をするように進めるが
「いや、鏡ないから今の自分が分からないし、救助隊やってると邪魔になるというか……」
と言いながら、靴の調子を確かめている。そして、三岩窟の力の洞窟の前に立ち
「んじゃ、アタシは先に行くけど、リンナちゃんも早く変装しなよ」
と言って、入っていった。
それを見送ったリンナは
「さて、アタシも変装しますかね」
と化粧を始めた。するとアイリンが、剣士郎に近づき
「緋村剣士郎さん、でしたわね」
「そうですが……」
「改めまして、アイリン・ハーディンです。貴方、中々強いですね。もし良ければ、後程手合わせしてほしいです」
「俺で良ければ」
剣士郎の返答に満足したのか、アイリンは技の洞窟にクレアと一緒に入っていき、僅かに遅れてリンナは心の洞窟に入っていった。