書庫で見つけた地図を持って、タオはリンナ達がお茶会をしている場所までやって来た。
「師範代!」
「ん? タオか、どうした?」
タオに呼ばれたリンナは、体をリンナの方に向けた。そしてタオは、リンナに見つけた地図を手渡した。
「ん? この地図は、三岩窟か? ……お……おおぉ!?」
その地図を見たリンナは、何やら驚きの声を洩らした。すると、タオに
「タオ、子供達に門の所に集まるように伝えてくれるか?」
「分かりました!」
リンナの指示を聞いてタオは、ヴィヴィオ達の居る場所に走っていった。それを見送ったリンナとノーヴェが、ニヤリと笑みを浮かべて
「ノーヴェちゃん……計画の通りに」
「おうよ……」
と呟き、それを聞いたオットーとディードは
(ああ、何やら悪巧みしてる)
と思った。
それから十数分後、正門付近にヴィヴィオ達が集まっていて、その前にリンナ達が居た。
「急に集まってもらって、ごめんね。実は、タオが興味深い地図を見つけてね」
リンナがそこまで言うと、タオがその地図を見えるように掲げた。それを見て、リオが
「ん? それ……三岩窟の地図?」
と首を傾げた。
「三岩窟?」
「うん。春光拳の古くからある練習場」
コロナが呟くと、リオは簡単に答えた。
三岩窟
これは、春光拳がこの地に道場を構える前からあったという三つの古い洞窟を、技、力、心の部門に別けて改装し、訓練した場所だ。
「んで、この地図はどうやら家に伝わる地図の中でも最も古い地図みたいでな。タオ」
「はい! 裏面に、こう書かれています。三岩窟の最奥に、宝あり、と」
『宝!?』
タオの言葉を聞いて、ヴィヴィオ達は驚きの声を挙げた。宝と聞いて、子供心に触れたようだ。
「という訳で、三岩窟に行くよ!」
『はーい!』
リンナの言葉に、ヴィヴィオ達は楽しみという様子で手を挙げた。すると、イェンとシュエの二人が
「あ、そうだ。あいつにメールしよう」
「あ、いいね」
と少々悪巧みな顔をしながら、ヴィヴィオ達を集めて写真を撮影し、それをメールに添付して送信した。
すると、ヴィヴィオが
「写真、誰に送ったの?」
流石に知らない相手に送られるから気になったらしく、イェンとシュエに問い掛けた。
「ん? アタシ達の友達」
「アイリン・ハーディン」
場所は変わり、同じルーフェンではあるが少し離れた華凰拳道場。
「お嬢様、お茶が入りました」
「ありがとう、クレア」
その庭先に、二人の少女が居た。
一人は華凰拳道場の跡継ぎ候補、アイリン・ハーディンだ。そしてもう一人は、その執事のクレア・ラグレイト。彼女は、ヴィクトーリアの執事のエドガー・ラグレイトの妹に当たる。
クレアはアイリンの前に、カップを置いてから
「それと先ほど、ご友人からメールが届きました」
「友人? 誰から?」
アイリンからの問い掛けに、クレアはメールを見えるように表示させながら
「イェン様からになります」
とアイリンに教えた。するとアイリンは、苦い表情を浮かべて
「クレア……イェン達は私の友人ではありません!」
とクレアに反論した。だが、クレアはどこ吹く風という様子で
「おや、これは失礼しました……こちらになります」
と言って、アイリンにそのメールと写真を見せた。
「あら、リオが居るわね。帰省してるの?」
「そのようです。イェン様とシュエ様。タオ様以外の方々は、リオ様のご友人のようです。どうやら、三岩窟に向かわれるようです」
「三岩窟に?」
クレアの説明を聞いて、アイリンは少し考え始めた。
すると
「興味が湧きました……三岩窟に行きましょうか」
「それは構いませんが、お嬢様……今日はこれから、お客様が来られることを覚えてらっしゃいますか?」
クレアの指摘に、アイリンは体を震わせた。どうやら、忘れていたようだ。それに気付きながら、クレアは
「お相手はそろそろ、駅に到着する頃でしょうが……」
と何処か楽しそうな表情で、呟いた。
クレア、中々の性格のようである。
するとアイリンは
「そんなの、あっという間に終わらせればいいんです!」
と告げた。
一方その頃、駅には
「んー……ようやっと着いたなぁ」
とジークが背伸びしていた。傍らには、ヴィクターの執事のエドガーとイクスを連れたシャンテの姿がある。
何故ジーク達が居るのかと言うと、ジークはエドガーの仲介でアイリンと模擬戦をする為に来て、シャンテとシュエはヴィヴィオ達に合流する為にやって来て、たまたま同じ便で会った、ということである。
するとエドガーが
「ジーク様。どうやらお相手の方は、今は春光拳のある場所に向かったようです。我々もそちらに直接参りましょう」
「お、そうなんや。ほな、行こうか」
「げっ……結局一緒かよ……」
実はシャンテは、少々ジークに苦手意識があった。駅で別れられると思っていたのだが、エドガーの話を聞いて思わずしかめ面を浮かべた。
「そんな事言わんといてぇな。なぁ、イクス様」
ジークとしたら仲良くしたいらしく、イクスの頭を優しく撫でた。
シャンテはイクスが楽しそうだからいいか、と思いながら空を見上げて、雨雲が広がり始めている事に気付いた。
「げっ……雨かな? 幸先悪いな……」
シャンテはそう言いながら、先導を始めたエドガーの後に続いた。