「という訳で……これからは、私達が案内しまーす! 私がイェン・ランカイ!」
「私は、シュエ・ローゼンです!」
『よろしくお願いします!』
イェンとシュエの二人が自己紹介すると、リオ以外が頭を下げた。ミカヤはタオに案内されて書庫に向かった。
リオはリンナから二人の監視を頼まれたので、二人の背後に居る。
「一応所属と使う武術は、春光拳」
「年齢は大差無いから、気にしないでね」
イェンとシュエはそう言うと、一同に胴着を渡して着替えるように促した。郷に入りては郷に従え、に従って着替える事にし、着替え部屋に案内された。
それから数分後、最初に出てきたのは唯一の男の剣士郎だった。
春光拳の胴着は、地球でいう中華服に非常に酷似した物になっており、随所に動きやすいようにと切り込みがある。
「これ、かなり動きやすいな……」
剣士郎は軽く肩や足を動かして、調子を確認している。やはり、着慣れない服だから気になっているようだ。
剣士郎が出てきて少しすると
「着替えましたー!」
「この服、動きやすい!」
とヴィヴィオ達が、次々と着替えて出てきた。
最後に、ユミナが恐る恐るといった様子で
「あの……なんで、私はこういうやつなのかな……?」
と恥ずかしそうに、姿を見せた。ユミナが着ているのは、動きやすさより《見せる》事に比重が置かれたものだった。
『ユミナさん、セクシー!』
「恥ずかしいよー!」
ヴィヴィオ達は素直に称賛し、ユミナは顔を赤くしていた。すると、イェンとシュエが
「見学者なんだから、こんな動きはしないでしょ?」
「一応、見学者も着替える決まりだから」
とユミナに説明し、ユミナは不承不承という表情を浮かべた。そして再び場所を移し、簡易的な訓練所に来た。
恐らくは、体験者用なのだろう。
「それじゃあ、簡単に説明するね」
「私達が使う春光拳は、現代格闘技。ストライクアーツとは、理が違います。最も違うのは、勁と呼ばれる技術」
イェンとシュエは説明文しながら、木に吊るされたサンドバッグに近づいた。そのサンドバッグはかなり大きく、かなり重そうである。
「勁は魔法ではなく、技術……」
「この勁を使う事で、例え非力な一撃でも相手に大きなダメージを与える事が出来ます」
最初に普通に拳を入れるが、サンドバッグは大して動かなかった。しかし、二撃目はかなり動いた。
どうやら、二撃目はその勁を使っていたようだ。
「この勁を使えるか否かが、私達春光拳拳士の分かれ道になります」
「リオお嬢も使えるしな」
「あはー」
シュエの言葉に、リオは少し恥ずかしそうにしながらサンドバッグに歩み寄ると、拳を密着させた。
次の瞬間、サンドバッグが大きく揺れた。
密着状態から衝撃だけで、サンドバッグを動かしたようだ。
「おぉ……」
「リオの一撃、重いとは大きくたけど……」
コロナとヴィヴィオが驚き、アインハルトはサンドバッグを止めた。
(このサンドバッグ、30kgはありそうですね……)
とアインハルトが考えていると、シュエが
「まあ、緋村さんには必要無い技術になるね」
と剣士郎を見た。確かに、使うのはヴィヴィオ達であり、剣士たる剣士郎は使わないだろう。
「確かに……だが、見といて損は無いな」
剣士郎はそう言うと、壁に背中を預けた。
恐らくだが、これからやる事を察したのだろう。それを肯定するように
「じゃあこれから、一人ずつ一撃入れてみてね」
「これ頑丈だから、本気でやっても大丈夫だからね」
とヴィヴィオ達に促した。
その頃、ミカヤはタオに案内されて書庫に来ていた。
小屋位の広さの部屋の中に、所狭しと本棚が並び、さらにぎっしりと本が詰められている。
「これは……凄いな……」
「はい。先史ベルカ……緒王戦乱期の頃から書かれてはこの書庫に入れられてきてまして、この書庫の管理と本の維持とデータ化を私がしています」
ミカヤが感心していると、タオはそう説明して脚立を持ってきた。そして、一つの本棚の前に置くと
「剣術の本となりますと……これとこれと……あ、これもですね」
とヒョイヒョイと本を取り出し始めた。
「ああ、そんなに急がなくても」
「いえ、大丈夫ですよ。あ、これもですね!」
ミカヤに返答したタオは、取った本を近くの机に置いてからまた一冊の本を引っ張り出そうとした。しかし、予想外に詰まっていたからか、他の本も引っ張り出されてしまい、それが崩れてタオの方に倒れてきた。
「わ、わあぁぁぁ!?」
「た、タオちゃん!?」
ミカヤは受け止めようと一歩踏み出したが間に合わず、大きな音を立てながら本と一緒にタオが落ちた。
「タオちゃん、大丈夫かい!?」
「は、はい……私は大丈夫です……ああ、本が……」
何冊かはタオが受け止めていたが、他に何冊か落ちていて、タオは拾い始めた。
「本も大事かもしれないが、タオちゃん。怪我は無いかい?」
「はい、大丈夫です……はぇ?」
怪我の有無を確認していた時、タオの頭の上に一枚の紙が乗った。かなり茶色くなっているので、古そうである。
「ん、地図かい……?」
「みたいです……んん? この場所は……三岩窟?」
その紙を見ていたタオとミカヤは、その紙が地図だと気付いた。しかもタオには、その場所に見覚えがあるようであった。