道場正門付近
「皆のことは、リオからよく聞いとるよ。リオの事を、よく鍛えてもらっとると」
レイ・タンドラの言葉に、ノーヴェ達が姿勢を正し
「いまだ未熟の身ではありますが……」
「少しだけ、お手伝いを」
ノーヴェとディードの言葉に、レイは頷き
「有り難い事じゃよ。ミッドには春光拳どころか、ルーフェン武術の道場も滅多にないからの~……基礎や技はここで教えられても、日々の鍛練まで独学という訳にもいかん。リオは良き仲間と良き師範を得られたようじゃと、思っておるよ」
それは、嘘偽りなきレイの気持ちであった。
高度にシステム化がなされ、それに伴って様々な現代文化が中心の首都たるミッドチルダ。しかしそれに伴い、ルーフェンもだが一部の独自文化に関する施設は中々無いのだ。
そうなれば、基礎を教えておいても徐々に歪みが出てしまい、下手すれば体を壊してしまう。
しかし、その面ではリオは、春光拳の師範代の資格を有するノーヴェと、流派は違うが同じ格闘技仲間のヴィヴィオ達が居た。
それにより、リオは歪みが出る事なく鍛練を続けられたのだ。
「で……ミカヤお嬢ちゃんは、春光拳の武術書や剣術書がご所望だったかの?」
ノーヴェ達が頷いたのを確認したレイは、そう言いながらミカヤを見た。
「はい……! そうなんです!」
ミカヤは天瞳流抜刀術の使い手であり、師範代の地位に就いている。しかし、未だに納得しておらず、その為に様々な剣術に関する書物を読んでいる。
ルーフェンに来たのも、春光拳の剣術に関する書物が読めるかもしれないからだ。
「入門書や教練書でよければ、書庫に山ほど積んであるゆえな。好きなだけ見ていったらええよ」
「ありがとうございます!」
最悪は読めないかも、と思っていただけに、レイの言葉にミカヤは嬉しそうに頭を下げた。するとレイは、継いでと言わんばかりに
「道場の方にも、出向いてみたらよかろうな。
「そ……それは、是非とも胸をお借りさせていただければと!」
と会話していると、足音が聞こえてきた。そして
「総師範。歓談中に失礼します」
と一人の小柄な少女が声を掛けてきた。
その服装から関係者で、雑用を請け負ってるのが分かる。
「えっと、ミカヤ・シェペルさんという方は……」
「あ、私です。どうしました?」
ミカヤが問い掛けると、少女は手元のメモ帳を見ながら
「ミカヤさん宛に、お荷物が届いています」
と伝え、それを聞いただけでミカヤは理由を察した。
「あ、私の刀ですね」
「ん? どういう事じゃ?」
ミカヤの言葉を聞いて、レイは首を傾げた。
するとミカヤが、説明した。
次元船では刀剣の持ち込みは制限されており、旅先に持っていきたいならば、先に配達するように頼むしかないのだ。
ミカヤの説明を聞いたレイは、察したように頷きながら
「大変じゃのぉ」
と呟いた。
「あの、お持ちしましょうか?」
「あ、いえ。取りに行きます。それに、緋村くんも居るようですし」
少女の問い掛けにミカヤは返答しながら、通路の方に視線を向けて、剣士郎を見た。
剣士郎もミカヤと同じく、刀を発送していたのだ。
すると、レイは
「ふむ……タオ、二人を案内してあげなさい」
と少女。
タオ・ライカクに指示した。
「ついでに、ミカヤ嬢ちゃんを剣術教室に案内しておやり」
「はい! 分かりました!」
レイの指示にタオは頷き、それを確認したレイはノーヴェを見て
「ノーヴェ師範たちは、子供らに合流してやると良いじゃろ」
「はいっ! じゃあ、ミカヤちゃん。荷物は部屋に運んどくな」
「うん、ありがとう」
ノーヴェは刀を取りに行くミカヤの代わりに、ミカヤの荷物を部屋に運ぶ為に、キャリーバッグの取っ手を掴み
「では、総師範。失礼します!」
「おー。怪我せんようにの」
ノーヴェ達を見送ったレイは、門下生達の様子を見に行こうとしたのか、歩こうとしたが
「……む、そういえば……注意を伝え忘れとったな……ま、ええか。あの嬢ちゃんもだが、坊主も大分強いしの」
と何やら思い出した様子だが、気楽な様子で再度歩き始めたのだった。
それから数十秒後、道場全体に一人の少女の悲鳴が響き渡った。