再開します
ヴィヴィオとアインハルトの決闘が終わり、ノーヴェからの説教が終わった後、剣士郎はセインに頼んでイクスヴェリアの病室に向かっていた。
「すいません、セインさん。いきなり頼んでしまって……」
「いいよいいよ、気にしないで。イクスも、新しい人が来たら喜ぶだろうしね」
剣士郎が頭を下げると、セインは手をヒラヒラとさせながら答えた。
「確か、先にチャンピオンと雷のお嬢様が行ってる筈だよ」
どうやら、既にジークとヴィクターの二人がイクスヴェリアの病室に向かったらしい。因みに、ヴィヴィオはファビアに教会全体を案内している。
そして、病室に到着すると
「入るよー? 大丈夫?」
『大丈夫だよー』
セインがノックすると、中からシャンテの声が聞こえた。セインがドアを開けると、中には確かにシャンテの他にジークとヴィクターの姿があった。
ベッドには、幼さが感じられる少女。イクスヴェリアが眠っている。
「お、飛天御剣流の……」
「ああ、大会に出てたシスターさんですか。初めまして。緋村剣士郎です」
「アタシは聖王教会シスターのシャンテ・アピニオン。よろしく」
剣士郎とシャンテは挨拶すると、握手した。そして剣士郎は、イクスヴェリアを見て
「彼女が、古代ベルカの王の……」
「そ。冥府の炎王。イクスヴェリア本人……」
「今は、長い眠りに就いてるけどね」
剣士郎はイクスヴェリアの傍に寄ると
「初めまして、イクスヴェリア陛下。俺は飛天御剣流の流浪人。緋村剣士郎です」
と自己紹介した。勿論だが、イクスヴェリア本人は眠っている為に、返事は無い。そして剣士郎は、軽く周囲を見回して
「……護衛が、最低でも10人位居ますね……全員が手練れですか……」
と呟いた。
「へぇ……気付いたんだ。一応、全員が騎士の称号を貰った聖王教会の修道騎士達だよ」
剣士郎の呟きに、セインが感心した様子で告げた。
聖王教会では独自に修道騎士による部隊が編成されており、全員が近代か古代ベルカ式の使い手になる。
しかし、その修道騎士になるには厳しい訓練と管理局とは違う査定があり、年に多くて10人程しか修道騎士には選ばれないとされている。
しかし、近接戦闘では比類なき戦闘力を有している為に、時折管理局局員に指導に赴いたり、何らかの作戦で協力する事もある。
その修道騎士達が常に10人の班を編成し、イクスヴェリアの病室の周りに配置されている。
よほどの相手でなければ、突破・侵入し、眠っているイクスヴェリアに害成す事は出来ないだろう。
「ああ、居るのは分かっていましたが……」
「そんなに居たんやね。気配の消し方、凄いんやね」
どうやら、ヴィクターとジークの二人も居ることには気付いていたらしい。しかし、人数は分からなかったようだ。
「……そんなに居たの?」
「シャンテ……シスターシャッハに聞かれたら、怒られるよ?」
シャンテが困惑していると、セインが呆れた様子で苦言を呈した。シャンテとセインはイクスヴェリアの世話役兼護衛であるので、護衛班の人数は事前に知らされている筈だが、シャンテは聞いていなかったのかもしれない。そしてシスターシャッハは、シャンテの師匠でもあり、恩人だ。
シャンテは昔、裏路地で過ごしていたストリートチルドレンの一人でグレていたのだが、それを見つけて保護、修道騎士として鍛え始めたのがシスターシャッハなのだ。
そのシスターシャッハは、只今ミッドチルダに出張中である。
「それにしても、結構離れてる筈なのに気付くなんてね……流石、飛天御剣流の使い手だね」
「……飛天御剣流って、もしかして緒王戦乱期に居たっていう人斬り抜刀斉……?」
「それは、ご先祖ですね」
シャンテが首を傾げると、剣士郎が軽く説明した。
人斬り抜刀斉は、戦争で苦しんだ一人の人間でしか無かったと。
「そっか……戦争でか……」
「もしかして、無限書庫で調べたってやつ?」
「はい。偶然にも、見つけました」
セインの問い掛けに、剣士郎は頷き、同意するようにヴィクターとジークも頷いた。
すると、剣士郎はゆっくりとイクスヴェリアに近付いて
「まさか、冥府の炎王本人とは……記憶を継承してる、とかではなく?」
「間違いなく本人だよ」
「彼女は、長い間眠って過ごしてきたみたい。それに、成長が止まってるみたいでね……」
「なるほど……」
どうやら剣士郎は、イクスヴェリアが自分と同じ記憶継承タイプかと考えたようだ。確かに、まさか本人が現代まで生きているとは思わないだろう。
「今眠っているのは……」
「どうも、イクスに組み込まれてるシステムが異常を起こしてるみたいでね……一応、時々診察してるんだけど……」
「何時目覚めるかは、分からないんだって……」
剣士郎からの問い掛けに、セインとシャンテが答えた。その後、一同は帰宅し
「いやぁ。今日は賑やかだったね」
「だね。お嬢様からお菓子貰ったから、イクスに挙げよう」
とセインとシャンテが、会話しながらイクスヴェリアの病室に入った。すると、そのイクスヴェリアの胸元に、光輝く花のような物があった。
「なにあれ!?」
「わかんない!」
それを見た二人が警戒態勢に入ると、その花がゆっくりと開いて、中から小さなイクスヴェリアが現れて、ニッコリと笑みを浮かべた。
「え……」
「もしかして……イクス?」
まさかという思いで、二人は小さなイクスヴェリアを見つめた。